受け取り
【ログイン39日目】※ゲーム内時間換算(30日)
ついにこの時が来た。
俺は今とてもワクワクしている。
……と言ってみたものの、不安な気持ちは消えなかった。
俺はバラザの家の前にいる。
そう。武器を受け取りに来たのだ。
俺の記憶が正しければ、バラザが武器を取りに来いと言ったのは5日後。すなわち、今日いま現在だ。
マカとレイクさんと一緒にレベリングをしているときも、リアルで風呂に入っているときも、俺はずっと考えていたのだ。
どんな武器なんだろう? と。
どう考えても普通の武器は出来ない。
なぜなら、あのバラザが作るんだぞ?
文字通り目の色を変え、半狂乱で素材を持っていった変態。
たとえ俺がそう認識していたとしても、悪いのは俺じゃない。バラザだ。
そして、持っていった素材も素材なのだ。
ランクは殆どが9。なかには10も入っている。
混ぜるな危険。
俺の頭にその二文字が浮かんだのも、俺自身の防衛本能がやめとけと訴えているに違いない。
……俺はなぜ、ここに来てしまったんだ。
いや、ネガティブになるのは止めよう。
こういう時は楽観的にだ。
良い素材を使ったのだから、良いものが出来る。
至極当然のことじゃないか。なあ?
俺は目の前の扉をノックした。
コンコンコンコン。
しっかり4回。
意味は無い可能性が高い。
扉から一歩下がる。
いつでも逃げ出せるよう、《念動力》と《隠密》をスタンバイ。
物凄い緊張。
下手したら面接以上だ。
1秒が長く感じる刹那。
扉が開いた。30度だけ。
バラザ?
俺は隙間を覗き込もうと、扉に近づく。
その瞬間。
何かが飛び出してきた。
反射的に背中の剣を抜き振り下ろ――
「にゃー」
――《念動力》!
……危ない。
俺は自分で自分の身体を強制的に止めた。
つまり、俺はいま猫の真上に剣を添えた状態。そこから微動だにもしていないだろう。
咄嗟に《念動力》を発動させたが、恐らく普通に止めることも出来た。
まあ結果オーライというか、とりあえず止められて良かったということでOKだろう。
自分で《変化》できる分、同族殺しみたいで罪悪感が半端じゃないのだ。
というか、何故こんなところに猫が?
明らかにバラザの家から出てきたよな。
5日前に入った時は絶対にいなかった。
ビビった俺が《気力操作》と《魔力操作》で確認していたので、隠れていたという可能性もない。
一体こいつは何処から?
「おいおい。勝手に出ていっちゃダ――」
――《回避》!
バラザの声が途切れた瞬間、俺は《念動力》を解除し、大きく後ろへ飛び退いた。
地面から足が離れる直前、バラザの拳が髪を掠る音が聞こえた。
危なすぎる。
あともう少し遅かったら、俺の顔面は崩壊していただろう。
今の打撃、アサルトエイプの右ストレートより鋭かったぞ?
四日間も戦いっぱなしだった俺が言うのだ。間違いないだろう。
「おいサクヤ! おめぇ何してんだよ」
バラザは拳を収めたようだ。
追撃がこないようで安心。
だが、聞くべきことは沢山ある。
「にゃー」
そう、コイツだ。
……猫なのか? 毛は白い。が、瞳の色が左右で違うのだ。
オッドアイといったか。右が水色で左が青。
片目だけ見えてないのかな?
そうも思えるが、何となく目は見えているような雰囲気が感じられるから不思議だ。
「これは猫?」
「見りゃわかるだろ」
猫らしい。
だが、本当に猫なのか。
バラザへの信頼がないので、本当なのか判断ができない。
見ればわかる。という言葉も、バラザの見えているものと俺の見えているものが違う場合、意味をなさないからな。
「バラザさん、それより武器をお願いします」
「お、おう。もう出来てるぞ」
家へ戻るバラザに続き、俺も扉を開けて入る。
すると、後ろから猫も入ってきた。
意外と賢いのか?
いや、ラティのことを考えるとこれが普通なのか。
ラティも、ルカの命令が無くとも独断で行動していた。
俺はてっきり、テイムされた魔物だから特殊なのかと思っていた。
しかし、どうやら。
このゲームでは基本的に魔物や動物は賢いらしい。
下手すると現実以上に。
あ、待て。その前に聞くことがある。
「バラザさん、この猫ってテイムしたんですか?」
テイムしたかどうかを聞いていなかったのだ。
勝手に俺の中だけで、野生の猫だと思い込んでいた。
「ちげぇよ。勝手に懐いてるだけだ」
懐いているらしい。
ほんとか?
あれか。人には嫌われるけど動物には好かれるってタイプ。
「それより、ほら。コイツがお前の相棒だぜ」
ボーッと猫を見ながら考えていた俺だが、バラザの言葉を聞き、顔を上げる。
すると、ニヤニヤしたバラザがそこにいた。
そして、その手には刀が握られている。
小さい。いや、バラザの体に合っていないだけだ。
だって俺、小さいし。
「それが?」
確認のため、問い返す。
バラザは俺の目の前に刀を差し出した。
「そうだ。とりあえず《鑑定》してみな」
俺は刀を《鑑定》した。
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名称 龍劉璽脇差 ランク9
伝説級アイテムの数々を使い、" バラザ " が創り出したユニーク装備。その能力は数多く、使いこなすのは至難。単純な切味も鋭く、同ランクかつ同レベルの装備でさえ、完全に防御することは難しい。
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……漢字が読めない。
なんて読むんだこれ。
仕方ない。
バラザに聞くとしよう。
「なんていう刀なんですか?」
「龍劉璽じゃねぇのか?」
「りゅうりゅうじ、か」
説明を読んでいく。
やはり、ランクは9と高い。
説明にもある通り、数々の伝説級アイテムを使ったのだから当然か。
だが、具体的なことが説明されていない。
唯一、分かるのは切味が鋭いということだけだ。
肝心の能力に関しては何も分からないのだ。
一番知りたいのがそこなのに……。
《鑑定》よ! もう少し頑張ってくれ!
「おい。あとこっちもだ」
バラザは、もう一つ刀を持っていた。
俺は、龍劉璽に気を取られすぎていたため、全く見えていなかったらしい。
バラザの握っている刀。それは木刀だった。
龍劉璽よりも一回り大きい刀で、俺が取り扱うには少し大きい気がする。
ていうか、木刀だぞ?
普通に龍劉璽一本だけだと思っていたし、木刀って使えるのか?
「バラザさん、これは木刀?」
「そうだ。とりあえず《鑑定》しろ」
「はい」
木刀っているんですか? と聞こうとしたが、命令形で言われたので聞けなくなった。
まあ、とりあえず《鑑定》。
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名称 木刀・世界樹 ランク9
世界樹の素材を組み合わせ、" バラザ " が創り出したユニーク装備。その耐久度と防御力は凄まじく、並の攻撃で傷をつけられることはない。しかし、攻撃力は低く、斬撃ではなく殴打攻撃を繰り出す。
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いや、名前がそのまんますぎ。
木刀・世界樹……とか流石に俺でも、もう少し考える。
まあランクは9だし説明を見た感じ、使い勝手も良さそうだから許すけど。
正直、強ければ名前なんてどうでもいいのだ。
「そいつは、世界樹の素材のみを使った特別製だ。攻撃力は低いが、その分の頑丈さは折り紙付き。物理攻撃はもちろん、魔法や酸なんかも防ぐ優れもんだぞ?」
バラザは得意げにそう言う。
まあ……凄いな。
「凄い……けど、なんで龍劉璽と同じ大きさじゃないんですか?」
何かメリットがあるんだろうか。
俺という素人には何も分からないため、バラザの返答を待つ。
「ああ、重さの問題だな。龍劉璽脇差と同じ大きさにすると……どうしても軽くなっちまう」
木刀を上下に振りながらバラザは言った。
なるほど。重さか。
俺はバラザから刀を受け取る。
龍劉璽と世界樹の二つともだ。
すると、驚いたことに両方とも同じ重さだった。
試しに軽く振ってみる。
すると、黒鉄の直剣では感じなかった重力を感じた。
手に馴染むような、程よい重さだ。
「どうだ? 丁度いいだろ?」
バラザがドヤ顔で言うが、これは認めねばならないな。
さすが超一流だ。完璧な仕事をしてくれた。
俺の表情を見て納得がいったのか、バラザは満足気に頷く。
あれ、そういえば……。
俺は一つのことに気づく。
「あの、聞いてなかったんですけど」
「なんだ?」
「お金って……」
恐る恐る聞いてみる。
材料は俺の負担なので値段も少しは安くなっていると思うが、何せこの出来だ。
どれだけ高額でも、それで納得してしまいそうな自分がいる。
というか、寧ろ払いたい。
「本当だったら、それなりに貰う。だが……」
バラザはそこで言葉を切った。
随分と歯切れが悪い。
バラザにしては珍しい。
俺は次の言葉を聞く。
「この猫で立て替えってことで、今回は持ってけ」
持ってけ? 何を?
まさか……。
「この刀を……無料で?」
「ああ。くれてやる」
本当か!?
やったぁ!!
なぜ猫で立て替えれるのかはこの際置いておくとして、金を払わずに刀をゲットしたのだ。
これ以上は無いだろう。
これからはコイツらが俺の相棒か……。
龍劉璽と世界樹に、よろしく、と挨拶する。
同時に。ルカと黒鉄の直剣にも、ありがとう、と感謝した。
「ありがとうございます! バラザさん!」
「早速、使いこなせるよう試し切りに行ってきます!」
俺は意気揚々と振り返る。
そして、扉に向けてレッツゴー!
「いやまて。まだ装備はあるぞ?」
俺は回れ右をした。




