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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
82/106

反則


 【ログイン36日目】※ゲーム内時間換算(28日)



 「《原子分裂》!」


 

 霧の体積が広がる。

 


 「《分身操作》!」


 

 そして、またも霧は木に向かって直進。

 迎撃されることもなく、木の幹までたどり着く。


 ちなみに、俺の最高記録はとっくに越されている。

 マカに負けたとは思わない。だって、あれ霧だし。


 俺が謎の張り合いをしていると、霧は木の幹に纏わりつくように形を変える。

 すると。木も何かしら危機を感じたのか、数本の枝が鎌と化し霧に振り下ろされた。


 だが、その結果は先程と同じ。

 鎌は霧を捕らえることができない。 

 


 「《次元吸収》!」


 

 マカが叫ぶ。

 すると、霧が纏わり付いていた部分。


 木の幹と鎌が消滅した。

 


 「《原子分裂》!」



 霧の体積が増える。

 さっきの約2倍になった。


 いまいち仕組みが分からず、俺は混乱する。

 先ほどからマカは同じスキルを発動させているが、どういう理屈で木の幹が消滅したり、霧が膨張したりしているのかが分からない。


 考えていても仕方ないので、素直に聞いてみるか。

 レイクさんに。



 「レイクさん」



 「何でしょうか?」



 「マカのアレはなんなんだ? 消えたり増えたり、意味が分からない」



 「……ああ、サクヤさんは居ませんでしたね」



 え? ハブられた?

 一瞬、そう邪推しそうになるが、冷静に考えれば俺が街に行った時に、レイクさんとマカで何かやっていたのだと分かる。


 だがその、何か、が重要なところだ。

 どんなことがあったらマカにこんな芸当ができるようになるのか……。

 


 「何をしてたんだ?」



 俺がそう聞くと、レイクさんは数秒間考えるように沈黙した。

 そして、何か納得したように口を開く。


 

 「マカさんの断り無しに言っていいか分かりませんが……まあ良いでしょう」



 うん。断り無しでもまあいいと思うよ。

 マカだし、気にする必要は全くない。



 「マカさんは《原子分裂》の使い方に四苦八苦していました。そこで私は、水をイメージしてみましょう、と助言したんです。すると、あのような霧ができてしまった……というわけです」



 ん? どういう訳でしょうか?

 全くわからないんだけど。レイクさん、説明を色々と端折りすぎじゃないか?


 まあいいや。だが《原子分裂》を使ったということは、だ。あの霧はマカが分裂したやつってことだろう。


 俺は確認の意味も込めてレイクさんに聞く。

 


 「つまり、あの霧はマカなのか?」



 「そうです。分裂したマカさんです」


 

 「……でも、分裂した個体は自我を持つ、とか説明にあった気がするんだが……あんなに統率が取れるものなのか?」



 俺が《鑑定》で見た時は、確かにそう説明されていたはず。

 しかし、目の前にいる霧はまるで一つの生物のような動きをしている。


 俺の《鑑定》が間違っていることはないと思うので、マカが何かしらのスキルで操っているんだろうか?

 俺はふと疑問に思ったが、さっきマカが叫んだスキルを思い出す。

 

 そういえば……《分身操作》と《眷属命令》って言ってたな。

 

 ……なるほど。スキル名からして理屈はなんとなく分かった。

 だが、どうやってそんなスキルを取得したんだ?


 明らかに普通のスキルではないし、取得すること自体が難しいと思うのだが……。



 「いえ。最初は言うことも聞きませんでした。ですが、マカさんの持っていた《並列意思》というスキルを、分裂した個体に捻じ込んだんです。その結果、複数の称号を獲得し、あの霧型スライムを操作するスキルを取得できました」



 ああ! そういえばあったな《並列意思》。

 《無限吸収》と《細胞分裂》の印象が強すぎて忘れていた。


 ……というか、マカのスキルって四字熟語多すぎないか。

 いま聞いたスキルだけでも4つあるぞ。


 俺ももっと欲しい。

 レイクさんも武技スキルの殆どは四字熟語だったし、俺だけ少ない気がするのは間違いないだろ。


 

 「サクヤさん?」



 脱線していた俺の思考は、レイクさんの声によって現実へと戻された。

 どうやら、すっかり自分の世界にトリップしていたようだ。


 これからは気をつけなれば。

 バラザみたいには絶対になりたくないからな。

 


 「ああ、ごめん。もう一つ聞きたいんだけど、霧が増えたのは《原子分裂》したからなのか?」



 脱線した思考が戻ると同時に、俺は気になっていたことを聞いた。

 《原子分裂》を使えば際限なく増え続けられるのかを知りたかったのだ。

 

 もしそれが出来れば、遠くにいる敵でも何でも大規模な霧を遠隔操作し《次元吸収》すれば終わってしまう話になる。

 まさしく、チートぶっ壊れスライムの誕生だ。


 

 「いえ、際限なく分裂することは出来ないようです」



 良かった。

 俺はついホッと息を吐いてしまう。

 それくらい安心したんだよ、本当に。


 ただでさえ最近は敗北続きで、ランキング1位という順位に自分でも疑問符を浮かべ始めていたのだ。

 そこから更にマカのぶっ壊れスキルコンボを喰らえば、俺の心はどうなっていたことか……。


 よかったよかった、と安堵した俺。

 だが次の瞬間、レイクさんから無慈悲な言葉が聞こえる。


 

 「しかし。《原子分裂》は個体のエネルギーを消費することで発動するスキルのようで、《次元吸収》によって蓄積したエネルギーを使えば、ほぼ無限に分裂可能なんです」



 「……え?」



 「つまり。あの霧がマカさんの支配下にある限り、その規模は2倍ずつ増え続けるのです」



 2倍ずつ?

 嘘だろ?


 俺が忌避したマカのぶっ壊れスキルコンボ。

 どうやら、それは実現しているらしい。


 俺はマカの方に目を向けた。

 実際に見てみないと納得できないという気持ちが少しあったのだ。


 もしかしたら、俺の解釈が間違っているだけかも……。



 「………………」



 俺の望みは儚く散った。

 文字通り、一目瞭然だった。


 マカの霧の規模。

 それは先程と比べようもないくらいの大きさに成長していた。


 例えるとするなら、雲だろうか。

 標高の高い山に掛かっている小さめの雲、それと同じくらいの大きさだろう。


 霧、いや雲はそれぞれの木に分断して纏わりついている。

 木の形に沿って綺麗に纏わりついているので、まるで木が霞がかっているようにも見えるな。

 

 そんな木が俺の見える範囲で、約半分いるのだ。

 魔の大森林ではなく、霞の大森林とかに改名するのも良さそうじゃないか?


 思考を脱線させながらも霧の様子を見ていると、霧が移動しながら木を判別しているのが分かった。


 恐らく、木に擬態した魔物が振り下ろす鎌。

 その攻撃範囲に霧自ら入ることで、普通の木か魔物かを判別しているのだと思う。


 その結果、普通の木だったら何もせず通り過ぎ、魔物だった場合は纏わりつくといった行動を取るのだろう。


 まあ、マカのやりたいことは何となく分かるが……。


 俺が2週間も苦労した道を反則みたい……いや反則スキルコンボで突破されるのは複雑だ。

 え、マジ? って感じ。


 確かに、数少ない魔物プレイヤーの一人であるマカが強くなるというのは良い事でもある。

 だが、ここまでデタラメなのは違うと思うのだ。


 破壊力や攻撃範囲は俺やレイクさんと比べて明らかに突出しているし、あの霧なんて初見じゃまず防げないぞ。

 

 ん? なんだこの霧は? と、困惑した次の瞬間には《次元吸収》によっておしまい。

 もし分かっていても、霧相手にどんな対策が有効なのか見当もつかない。

 

 そんな強さを持つにも関わらず、マカは能動的な進化をまだ一度もしていないのだ。

 ステータスの伸び代は俺以上。

 

 PSにおいてなら俺といい勝負かもしれないが、どんぐりの背比べ状態だろう。

 張り合っても悲しいだけだ。

 

 あれ、俺ってほんとにランキング1位だっけ?



 「《次元吸収》!」



 マカのスキルが発動した。

 霞がかっていた木の全てが、綺麗に消滅する。

 

 かなり見晴らしが良くなったな。

 これって自然破壊になるのか?


 俺の場合は完全に荒らしていたが、マカの霧もだいぶグレーゾーンだと思う。

 だって、かなり広範囲の木が消えたんだぞ。


 俺は《魔力操作》と《気力操作》を発動する。 

 さて、木に擬態した魔物は…………いないな。


 マカに《次元吸収》されずに残っている木は、全て普通の木だった。

 これで安心して移動できるわけだな。


 まあ、ここら辺一帯を纏めて《次元吸収》する必要はなかった気もするが、マカの溜飲が下がったのだから良しとしよう。


 とばっちりで《次元吸収》されるのは勘弁してほしいからなぁ。

 


 「ほら! さっさと行くわよ!」



 さっきと比べ幾らか元気になった様子のマカは、大きめの声量で俺とレイクさんにそう呼びかける。

 怒りは収まったようだな。


 短気というか子供っぽいというか……扱いはかなり難しそうだ。

 

 幸い、レイクさんの言うことは多少聞いているので今は何とかなると思うが、もし俺と二人きりになったらと思うと全く安心できない。


 俺は思わず、はあ、と溜息を吐いてしまう。

  

 

 「サクヤさん。とりあえず、マカさんについていきましょうか……」


 

 隣からレイクさんの声が聞こえる。

 多分レイクさんも俺と同じような心情だろうなぁ、と思いながらそちらを見る。


 だが、その雰囲気は俺の思っていたものとは違い、どこか微笑んでいるような様子だった。

 どういう心情だろう?


 レイクさんはマカに続いて歩き出した。


 俺は疑問に思ったが、とりあえずレイクさんとマカに続くように森の中へと足を進めた。


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