依頼
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
「な、なるほど……。お前の言ってた意味はよぉく分かった。確かに前衛、中衛、後衛全てに対応できる」
動揺した様子のバラザだが、直ぐに冷静さを取り戻し、俺に向かってそう言う。
「はい。で、どんな武器が良いんですか」
どんなポジションも務まるからこそ、どのような武器を使うのが良いのか分からない。
なかなか贅沢な悩みだと自分でも思うが、実際そうなので相談は必要だ。
そして。その相談相手に最も相応しいのは、超一流の鍛治師であるバラザしかいないだろう。
だからこそ、俺はこの質問をしたのだ。
しかし。
対するバラザは、視線を床に固定したまま動かない。
考え込んでいるのだろうか。
超一流をもってしても難しい判断なら、俺は一体どうすれば……。
ヒルやマーナさんにも聞いてみようかな?
意外と良い答えが返ってくるかもしれない。
「刀……いや短刀の方がいいか? 普通の太刀はコイツには大きすぎる。だが、刀身が短すぎるのも問題か? これだけ良い素材なら、耐久性と抜群の切れ味を兼ね備えたのが打てるんだが……」
ぶつぶつと一人で何か言っている。
完全に自分の世界に入ってるみたいだ。
ここはそっとしておくのが良いだろう。
刀とか是非とも使ってみたいし。
俺はその間に、バラザによって中断されていた素材を机に置く作業を進めることにした。
ここら辺から竜シリーズだ。
爪や牙や皮を順に出し、臓物類も出す。
出来るだけ直視しないように工夫した。
そこまでグロくは感じないが抵抗はかなりある。
野球ボールより一回り大きい目玉を見て、誰が喜ぶというのか。
しかし。そういえばこういうスーパーボールってあったな、などと思っていると、俺はあることに気づく。
鍛治で臓物とか使わなくないか? ということに、だ。
冷静に考えれば当たり前のこと。
鍛治で主に使うのは金属だろうし、それ以外でも使うのは魔物の爪や牙といった部位だけだろう。
心臓とか目玉とか……使わない。
用途としても使うのは《錬金術》の方で、怪しい鍋でぐつぐつ煮込んだり、大体が毒々しい見た目になるヤツで間違いない。
鍋に目玉が浮いている様を想像しながら、素材をホイホイと机に置いていると突然、バラザが興奮した様子で近づいてきた。
さっきの熟考していたバラザを見た身としては、迷いなく近づいてくるバラザは少し怖い。
初めて会った時といい、俺の予想を軽々と超えてきそうだからだ。
そして、それは的中する。
「り、竜の血!? この臓器といい本物か!?」
心臓の入った瓶を持ち上げ、それとキスするんじゃないかという距離で凝視しているバラザ。
完全に狂人だ。やはり百十番は必要かもしれない。
「《鑑定》…………ほ、本物……」
《鑑定》と呟いた数秒後、バラザの驚愕がより深くなる。
ランクや説明を見て、紛れもなく本物の竜の心臓だと確信したからだろう。
「ば、バラザさん? その心臓とかって鍛治に使えるんですか?」
「いや、鍛治には使えない。……が、錬金術師にとっては夢みたいな代物だろうな」
バラザは一瞬遠い目をした様子だったが、気を取り直したように竜の血が入った瓶を高く持ち上げる。
「だが! この竜の血なら鍛治にも応用できるぞ!」
「……竜の力を完全に引き出すなら、ある程度は魔法もできる武器にしなきゃならねぇが……刀に組み込めるか? 魔鋼の比率をイジれば問題なさそうだが、それだと耐久性がなぁ。やっぱここは無難に直剣にした方が良いのか? だが……」
またもぶつぶつと始まった独り言。
気にせずに作業を再開しようか。
まともに会話も出来ないバラザを見て、はあ、と内心で溜息を吐いた俺だが、取り出そうとしたアイテムを見て硬直する。
周りから見れば、明らかに不自然というか動揺しているように見えると思うが、バラザは今だに自分の世界なので助かった。
俺が取り出そうとしたアイテム。
それは古龍の血だ。
恐らく、この世界の竜には階位がある。
それは古龍と竜のランクを見比べれば一目瞭然で、同じ血でも古龍は10で竜は8なのだ。
つまり、古龍の方が格上。
バラザが嬉々として掲げている竜の血の格上。
ど、どうするか。
実は俺のインベントリの中には、まだまだランク9とか10のアイテムが幾つか入っている。
封印を解くのに必要だったアイテムの一部は、バラザ用にも持ってきていたからだ。
種類は少ないとは言え今のバラザを見る限り、この場でアイテムを出すのは……少し、いやかなり怖い。
狂喜で発狂とか平気でありそうだ。
もはやそんなバラザを想像すらできない。
そして、それが尚更恐ろしい。
だが。
武器を作るなら、より良い素材で作ったほうが強くなるのは道理。
よって、竜より古龍の血を使った方が良いのは明白なんだが……嫌なジレンマだ。
俺は渋々、インベントリから古龍の血を取り出す。
そして机に置き、古龍の皮、牙、爪などを順に出した。
これも俺の刀のため。そう思えば気が楽になる。
俺はランク9や10といったアイテムを次々に出す。
バラザに一々驚かれるのも鬱陶しいし、自分の世界に入られるのも面倒なのだ。
不死鳥の羽や、神の血、ハイミミックの核、デビルスライムの核などを出しながら、俺はバラザの方を確認してみる。
するも案の定、バラザはまだトリップ中だった。
もうそろそろ素材も出し終わるので、声を掛けようか迷う。
正直に言えば嫌なんだが……そうもいかない、か。
このままでは永遠に独り言を詠唱していそうなので、意を決して発言する。
「もう素材、出し終えましたよ?」
少し声が震えたかもしれないが、こればかりは許してほしい。
内心は不安で一杯なのだから、噛まなかっただけで上々だ。
自分で自分を褒めながら、バラザの反応を待つ。
が、数秒経っても返事はない。
どうやら聞こえていないようだ。
どんだけ集中してるんだろうか。
これが超一流なのか?
凄いところなのか呆れるところなのか分からない。
「素材出し終えましたよー」
さっきより大きめの声で言ってみる。
果たして意味は…………無さそうだな。
バラザは相変わらずだ。
「素材出し終えました!」
「……あ? なんだ?」
ようやく反応があった。
今度から、トリップしたバラザと話す時はこの音量だな。
俺は一つ学習した、と心に刻む。
「素材を出し終えたので、使うのを選んでください!」
「あー、わかったわかった。声うるせぇ」
耳を押さえ、顔を顰めながら言うバラザ。
誰のためだと思ってるんだ?
と、言いたいが堪える。
一々こんなことで反論していては埒があかない。
俺はそれを知っているのだ。
「とりあえず、今ある素材の種類だけ机に出したので、使うの選んでください」
「……あ? 種類だけって何だ? 魔銀とか魔鋼とかまだあるのか?」
「あります」
「どんぐらいだ?」
「数百個は持ってきました」
「…………ぇあ?」
バラザのものとは思えない呻き声を上げた。
それほど驚いたらしい。
「ち、ちょっと待て。何個だと?」
「数百個は、あります」
何を言ってるんだコイツは? みたいな目でバラザから見られた。
事実なのに悲しい。
しかし。百聞は一見に如かず。
実際に見せた方が早いだろう。
俺はインベントリから純魔銀を取り出す。
そして、10個ほど纏めて机に置いた。
「ほら、まだまだあります」
ね? 嘘じゃないでしょ? と内心思いつつ、バラザの顔を見る。
すると、その表情はまたも驚愕に染まっていた。と思われる。
何故、思われる、という表現なのかというと。
次の瞬間のバラザの反応が、俺にとって理解できないものだったからだ。
「……ハハ、ガッハッハッハッハッハ!!!」
そう。笑い始めた。
純粋に恐怖でしかない。
今の状況のどこに笑うところがあるんだ?
人は人が理解できない事象が起きると恐怖する、と何かで見た気がするが……どうやら本当らしい。
完全にヤバい奴だ。
関わっちゃいけない。
「ハッハッハ…………ふぅ、興奮しすぎたな」
思わず逃げたくなった俺だが、バラザに冷静さが戻ったようで安心した。
まあ、まだ恐怖心はあるのだが。
「そうだなぁ。とりあえず、魔銀と魔鋼と魔白銅を50個ずつ。不死鳥の羽を10。エンペラーグリズリーの毛皮を30ほど。大きめの世界樹の枝を3つ、世界樹の雫を5つ。アラクネの糸を3軸ほど。各属性の結晶を5つずつ。古龍の血、皮を1匹分。神の血を2つ。あとは――」
「一度に言われても……」
分かんないんですけど。
そんな俺の言葉は、続くバラザの言葉によって掻き消される。
バラザの口が止まる気配は一切ない。
はぁ……今日は溜息が止まらないなぁ。
あと最低一度は、またここに来なくてはいけないのか。
と、憂鬱な気持ちにもなるというもの。
ただ救われるのは、今度来る時は出来た武器を受け取る時ということくらいだ。その時だけは楽しみ。
唯一、鍛治の腕だけは信用できるバラザなら、俺では活用しきれない素材で素晴らしい物を作ってくれる。と思う……と願う。
「あー、バラザさん。もう一回いいですか?」
俺はインベントリを開きながらそう考えると。
バラザに向かって聞き返した。




