蒼と影
【ログイン??日目】
side:ブラン
ほぼ全てのプレイヤーが活動するための拠点である街。
その一角に存在する真新しい建物の中には、十数人のプレイヤーが集まっていた。
全員が手首に同一のデザインが施された指輪を装備しており、一目でその集団がただの集まりではないことが分かる。
プレイヤー全員が人数分用意されている椅子に座っており、誰一人として口を開いているものはいない。
しかし。静寂だが、場の空気が重いわけでもなかった。
寧ろ。その空気は熱されており、気温が高くすら感じる。
皆、自らの興奮を抑えきれていない様子。
今にも、街全体に響き渡りそうな雄叫びを上げそうである。
その中心で皆の様子を見ていた男――ブランは満を持したというように、勢いよく椅子から立ち上がる。
視線が集まる。
その目は期待と好奇心で溢れていた。
そしてブランは、息を吸い込み言葉を発する。
「ありがとう。皆んなのおかげで、このクラン " 蒼影の麒麟 " を結成できた。クランマスターは俺がやらせてもらい、サブマスターはルイズにお願いした。そして恐らく、俺たちがこのEOF最初のクランだ。この指輪と共に、トップへ昇り詰めよう!」
一拍、そして喝采の叫びが広がった。
クランメンバー達は、異口同音の喜びを表し祝い合った。
クラン。
それはEOF内において、そう易々と結成されるものではない。
なぜなら、クランを創るためにはクラン創設権というものを所持していることが前提であり、それがなければ創ろうとすら出来ないからだ。
そしてもしクラン創設権を有していても、クランを創るためには莫大な資金が必要となる。
その数はなんと10万。
ブランもこの額を目にした時は驚愕したが、今日に至るまで仲間たちと頑張って稼いだのだ。
10人を超える人数総出で集めたが、この金額に届くまで何日かかったことか。
その光景を想像すれば、プレイヤー達の喝采も理解できるだろう。
それ程までに、10万という数字は茨なのだ。
中には、自分の指に装備されている指輪を見て、感動のあまり言葉を失っているプレイヤーすらいる。
この指輪。アイテム名を " 蒼影の指輪 " と設定されており、ランクは表示されない特別なアイテムとなっている。
効果は一つだけで、装備時に《伝言》というスキルが常時発動可能というものだ。
クランの名を冠していることから当然、この指輪はクランメンバー以外装備することが出来ず、効果も発動しない。
クラン専用装備と呼ばれるアイテムだ。
そして、これにも莫大な手間がかかっており、金額はもちろんレアアイテムも使われている。
効果は複数の中から選ぶことが出来るが、クランマスターであるブランが選んだのは《伝言》。
簡単に言えば《念話》の下位互換だ。
一方的に言葉を伝えることしか出来ず、複数に同時に伝えることも出来ない。が、有効範囲は《念話》よりも広いというメールのようなスキルだ。
しかし、《念話》の有用性を自身で理解しているブランは迷わずこれを選んだ。
下位互換となっても、それぞれと連絡手段が取れるという利便性は高い。
だが実際、多くのクランメンバーはデザインがカッコよければ効果なんて何でも良かったりしていた。
彼らもやはり男であった。
「静かにー。今日はお祝いだけじゃないんだぞ」
纏まりが取れなくなる寸前といったところで、大きくはないがよく通る声が響いた。
声の主は、サブマスターであるルイズ。
レベルはクラン平均と比べて少し低いが、資金管理やクラン運営などに秀でているため、サブマスターに抜擢されたプレイヤーだ。
「分かってるって。イベントについてだろ?」
「……でも、クラン補正とこの人数なら楽勝じゃね?」
「確かに!」
「そうだそうだ! だったら、新しいクラン装備早く作ろーぜー」
緊張感など一縷もないというような雰囲気。
気の良いムードメーカーも今だけは控えて欲しかった。
脳内でそう思ったブランは、他人に気づかれないほどのため息を小さく吐いた。
そして顔を上げる。
「いや。恐らく、そう簡単にはいかないだろう」
ハッキリと発言したブランに、流石の軽口も飛んでこない。
弛緩していた空気が一転し張り詰める。
「そうだ。エリカやロイ……ノウズは分からんが、ランキング上位のプレイヤーも多数参加するんだ。苦戦はしても簡単に、とはいかないだろうよ」
エリカやロイという誰でも知っている有名プレイヤーの名を出されれば、簡単に勝てるとは言えない。
全員がそう思った。
「だが、それでどうすんだ?」
メンバーの一人が発言した内容は、他のメンバーの気持ちを見事に表していた。
無意識なのか頷いている者もいる。
対して、発言を受けたブランは用意していた台詞を答える。
これは容易に予想できた質問だった。
「俺たちの人数を利用する。簡単なことだ。元から、今回のイベントで全員が上位に入る必要はない。メダルを一人に集中させればいいだけの話だ」
おお〜、と感嘆の声が広がる。
少し考えれば分かるだろうに、とルイズは少し呆れてたりするが声には出さない。
ブランはそんなメンバー達を気にせず、さらに言葉を続ける。
「そして、そのための指輪でもある。《伝言》で連絡し合えば、メダル集めの効率も上がるだろう。誰か一人……いや二人が、イベント最後で1位と2位を取れば済む話だ。俺たちはこの作戦で行く」
ブランの話を静聴していたクランメンバー達。
その表情には深い納得の意が伺えた。
ブランは一拍おいて、最後の確認をとる。
「何か質問はあるか?」
メンバー達は互いの顔を見るように周りを見回す。
どうやら質問はないようだ、とブランは思う。
が、その瞬間。
静かに手を挙げた者がいた。
「何だ――ルイズ」
皆、必然的にブランの横に座るルイズを注目する。
ルイズはその視線に萎縮した様子もなく、言葉を発した。
「最も警戒すべきプレイヤー…………サクヤについてはどう考えてるんだ?」
サクヤ。
その者は数多のプレイヤーにとって、とても曖昧な存在だった。
プレイヤーランキング1位を、存在値という項目が追加されたときから独占してきたプレイヤー。そのような認識はあるが、その容姿や能力を見た者は誰一人いない。
ランキング2位のエリカやブラン、ロイは掲示板などで画像が出回っているが、サクヤに至ってはそれすらない。
性別すら不明という、文字通りの異端だ。
一部のプレイヤーでは、サクヤはGMなのでは、という噂もあるほどだ。
「おいおい。エリアボス討伐にも参加しなかった奴だぜ? 今回のイベントにも参加しないんじゃないのか?」
戯けた笑いを浮かべながら、クランメンバーの一人が発言する。
同意するような笑いが他にも聞こえるが、ブランに反応はない。
「確かに、サクヤがイベントに参加しない可能性も考えられる。が、もし参加すればそれだけで全てを覆しかねない。その危険性が分からないわけじゃあないだろ?」
ルイズが諭すように口を開く。
その言葉にブランも頷いた。
そんな仕草を見て、更に何か言うプレイヤーはいない。
「ルイズ……確かにその通りだ」
ルイズの問いに対するブランの答えは肯定。
サクヤの危険性を認めるものだった。
だが、ブランの言葉は続く。
「しかし、それは考えても仕方がないこと。もしサクヤがイベントに参加したとしても、情報が欠如していては対策もなにも取れない」
「え、じゃあどうすんだよ」
「どうしようもない、というのが答えだが。……敢えていうなら、もしサクヤが参加したら出来るだけその情報を調べるのが最善だろう」
ブランらしくもない弱気の発言。
普段の姿を知るクランメンバーからしてみれば、今のブランには違和感を覚える。
「そんなにヤベェ奴なのかよ」
「もちろんだ。奴の存在値はランキング4位のエリカの約2倍。一人でエリカ二人分の戦力……いや、確実にそれ以上の力を持っているだろう」
淡々とした口調で話すブラン。
その言葉に嘘はない、と分かっているはずのクランメンバー達だが、反射的にプレイヤーランキングを確認してしまう。
そして、絶句した。
1位がサクヤ、という情報は知っていたがその値まで見ている者は少なかったのだ。
憖、ブランに認められるだけのステータスを持っている者達だからというのもあるのだろうが。
「……しかし、だ」
ブランが零した言葉。
それはクランメンバー達の耳によく響いた。
「先程言ったサクヤの情報を集めるプラン……今後を考慮した最善は間違いなくそれだが、つまらない」
ゆっくりと話すブラン。
対照的に、クランメンバー達の鼓動は速い。
「戦おう。今回のイベント、" 蒼影の麒麟 " の敵となるだろう存在…………不動の1位であるサクヤと」
ブランが " 蒼 " と呼ばれ、プレイヤーランキング3位である理由。
〈蒼の先駆者〉
この称号こそが。
ブランを " 蒼 " と呼ばせ、一目置かせている所以である。




