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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
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苦労は続くよ、どこまでも


 【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日) 

  side:とある苦労人



 「あら? 聞き間違いよね?」



 『いいや、君の耳は正しいよ。あのサクヤという異常に強いプレイヤー……彼がそうなった原因に君があげた称号が大きく関わってるらしいじゃないか。違うかい?』


 

 「……そうね。確かに、否定は出来ないわね」



 『なら、その責任を取るべきじゃないか。っていう話がこっちで出てしまったんだよ。私も止めたのだがね、満場一致で決まってしまったよ。いやぁ、気の毒に』



 白々しい。

 私は心の中で大きく舌打ちした。


 満場一致なら、この男は止める努力おろか賛成してるじゃないか。

 それを飄々と、私も止めたのだがね、だと?


 ふざけるのも大概にしろ!

 私を嵌めただけじゃない!


 思いっきり叫びたかったが、それをどうにか堪えて胸の奥に仕舞う。

 この男に苛つくのは初めてじゃない。


 寧ろ、これがこの男の平常運転だ。

 そう、これが普通よ。落ち着いて私。


 

 「……で、何をすれば良いのかしら?」



 『とりあえず、第一回イベントで彼が1位を取らなければ良い。だから、その妨害をよろしく』



 「私が直接妨害していいの?」


 

 『ああ……駄目だね。まぁ上手くやってよ。君の責任だし』



 ブチッ……ツーツーツー。


 不愉快な一言を残して、電話を切られた。

 本当に煽りにきたとしか思えない。


 メンテナンスに次ぐメンテナンスで、バクの確認やバランス修正に忙しかったのに……その仕打ちがこれ?


 私かなり頑張ってると思うんだけど?


 駄目だ。ストレスしか溜まらない。

 さっさとこの面倒で人任せな仕事を終わらせよう。


 私はEOF内にログインするために、机の上に置いてある専用機器を頭に取り付けた。

 

 

 「【EOF】・オープン」



 視界が暗く染まる。

 が、一瞬で視界は開ける。


 目を開けると、モード選択画面になっている。


 ここで一般プレイヤーか、高度NPCか、GMとしてログインするかを選ぶことができる。

 今回はGMとしてログインだ。


 私は手早くウィンドウを操作し、決定を選択。

 すると、またも視界が暗く染まる。


 数秒後、視界が開けるとそこは森エリアだった。


 半径数メートルにプレイヤーがいない場所に自動スポーンする仕組みになっているはず。

 周りにプレイヤーは居ない。


 念のため専用ウィンドウを開き、不可視状態にする。

 

 これでプレイヤーや魔物、NPCからも私の姿は見えない。

 普段はこの状態で、プレイヤーや街の様子を観察している。


 さて、妨害役のプレイヤーを探そう。

 まずは思考で絞り込む。


 GMというのは文字通りのゲームマスターなので、心を読む、ということも造作もなく行える。


 そしてそれを利用し、" サクヤ " と " 黒狼 " を心で結び付けているプレイヤーを探す。


 簡単に言っているが、これを出来るようになるまでGMの能力にかなり慣れておく必要がある。

 少なくとも、今の第一陣プレイヤーと同じくらいゲームに居なくてはならないほどだ。


 私がどれだけ多忙かが分かるわよね?


 憎たらしい上司と人任せな部下に文句を言いつつ、私はしばらくの間、プレイヤーを探す。



 「……居た」



 反応は二つ。

 一つは草原エリアだ。

 もう一つは……街か。


 私が直接話をするので、人目につきやすい街で接触するのは出来るだけ避けたいところ。

 

 なので、私は草原エリアに向かうことにした。


 向かう。と言っても、移動時間は0だ。

 なぜなら、GMには好きな場所にいつでも転移できる能力があるから。


 私は草原エリアにいるプレイヤーの座標を割り出す。

 ……どうやら、草原エリアのちょっと奥の方にいるらしい。


 座標が分かれば、あとは転移したいところを強く意識しながら呟くだけだ。

 


 「転移」


 

 私の周りの景色が一瞬で入れ替わる。

 かなり不思議な感覚。慣れない内は目を閉じて置くのをオススメする。


 鬱蒼とした森から見渡しのいい草原に様変わりした周囲を、見渡す。

 すぐ近くにプレイヤーがいる。


 恐らく、あのプレイヤーが私の絞り込みに該当したプレイヤーだろう。

 念のため、ステータスを閲覧する。


 普段はプレイヤーの個人情報ということで禁止されている行為だが、いまは上司からの仕事中なので問題ないと思われる。


 もし何かしらの問題になったら、この仕事を命じた忌まわしい上司に責任転嫁するだけだ。

 私は仕事中。何も悪くない。


 プレイヤーの名前はルカ。

 その隣にいるのはテイムした魔物らしく、ルカにとても懐いている。


 あら? ウルフ?

 ……ということは森エリアからテイムしたの?


 見てみれば、ルカのステータスには《魔物調教》というスキルがある。

 取得しているプレイヤー自体が少ない珍しいスキルだ。


 おまけに職業は占い士。

 こちらも初期に就ける職業のなかではトップクラスに珍しい。


 あれ? このプレイヤー、かなり適任じゃない?


 これから育っていけばかなりの強さを見込めるであろうスキル構成、そして既にテイムした魔物もウルフという強力なものだ。


 私が幾つか称号をあげればパラメータ補正も申し分ない。

 対サクヤとなりえる強力な戦力になるだろう。


 この子に決めた!


 心の中でそう叫んだ私は、ルカというプレイヤーに近づく。

 そして、いくつかの称号を獲得させた。


 対サクヤ用の称号だけにするつもりだったが、獲得間近の称号が幾つかあったので、サービスでそれらも獲得させた。

 


 「えっ!?」



 すると、ルカは素っ頓狂な声をあげる。

 どうやら日本人のようだ。


 割合的には日本人とその他では、同じくらいのはずなのだが……正直なところまたかという感想だ。


 

 「あれ? また日本人? やっぱり日本人って絶対に勘が良いわよね?」

 

 

 確認の意味でもそう発言したが、言い終えた後からこの台詞がサクヤに対してのものとほぼ同一ということに気づく。


 フッ、と笑ってしまうが、ルカには目の前で起きた出来事が衝撃的すぎるのか全く気づく様子はない。

 5秒ほど放心状態だったが、テイムしたウルフを見た後、こちらを向く。



 「えーと……どちら様でしょうか……」



 「GMといった方が分かりやすいわよね?」



 「GM!? ……そ、それは何故ですか? いま獲得した沢山の称号と関係しつるのでしょうか?」



 緊張からか言葉を噛んでしまっているルカ。

 本人は気づいていないのか、訂正する気はないらしい。


 気にせず話を続ける。



 「そうね。端的に言うと、あなたには第一回イベントで " サクヤ " が1位を取らないように妨害してほしいの」


  

 私がそう言い切ると、ルカは又もやぽかんと放心した。

 意外と不測の事態に弱いらしい。


 今度は3秒で持ち直した。

 


 「ぐ、具体的に!?」



 パニック状態ではあるらしい。

 隣のウルフが、やれやれ、と言う風に頭を振った……ように見えた。恐らく気のせいだろう。


 

 「いま貴女()()に渡した称号、特に〈執行者〉と〈追随者〉を上手く使えば大丈夫だと思うわよ。ちなみに他の称号はサービスね。いつか必ず獲得してた称号だから、それも貴女の力よ」

 

 

 「わ、分かりました!」



 断るという選択肢を検討もせずに即答したルカ。

 どうやら、損得などを考えるのはあまり得意ではないらしい。


 〈審理に辿りつく者〉をほぼ自力獲得していたのに不思議ね、と思いながら話を進める。


 

 「口約束じゃ不十分だから、クエストっていう形で発注するわね。報酬は……何が良いかしら?」



 「えーっと、例えばどういうものを貰えるんですか?」



 「クラン創設権とか武器、あとはスキルと称号ね。新しい魔物をテイムしたいならそれも用意するわよ」



 実際のところ、クラン創設権を用意できるかどうかはかなり危うい。

 現状でクラン創設権を得ているのは、二名のみ。


 うち一人は自分がクラン創設権を持っていることに気づいていないので、実質一人になっている。

 

 そこを突いて上司と掛け合えば、不可能ではない。

 しかし、却下される可能性も充分にあるだろう。


 成功率は五分五分といったところ。

 どうかルカがクラン創設権を選択しないことを祈る。


 

 「じゃあ、その中から選びます。クエストって時間制限とかあるんですか?」



 「いまからクエスト始めるわよ。時間制限は第一回イベント結果発表まで」


 

 ウィンドウを手早く操作し、GM権限でクエストを作成。

 対象を目の前のルカに設定し、スタートした。


 

 「わっ!」


 

 ルカが声をあげた。

 かなり驚いたようだ。


 恐らく、いま彼女の目の前は、こう表示されているだろう。



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 ユニーククエスト

  《桜灰の処刑人》を開始します。


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