パーティ結成
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
結論から言おう。
手加減なんてスキルは無かった。
草原エリアに向かう途中。
ルカが回復薬を買ってくる、と言って店に入った。
その数分間で確認したが。
無い。似たようなスキルすら無かった。
さて、どうするか。
俺はすぐに次の思考にシフトした。
いつまでも意味のない思考をグダグダ続ける、そんな俺はもういない。
……さて、どうするか。
道中、俺はずっと考えていた。
が、何も考えは浮かばない。
考え込みすぎて、ルカとの会話に支障が出たくらいだ。
その時にラティに睨まれたのは置いておく。
今の状況で考えられるベスト。
それは、魔法を使うことだ。
俺の魔法はスキルレベルがかなり低い。
他のスキルと比べたら、その差は瞭然。
初心者が使うには若干高いが、使ったとしてもちょっと不審がられるだけだろう。
それに対して。
最悪なのは近接だ。
知っての通り、俺の筋力はおかしい。
そんな筋力で低レベルのボアを殴ってみるんだ……一撃で倒せない方がおかしい。
すると。
クウヤ君って嘘つくの初心者? という状況になってしまう。
俺の精神的にもそれは御免だ。
加藤を超える唯の最低野郎になるだろう。
まあ、ルカも人のこと言えない気がしなくもないが。
これが今の状況。
そして、だ。
突然だが、ここで問おう。
俺の背中にかかっている物は何でしょうか?
答えは直剣ですね。
魔法使う気が完全にゼロ。
どう見てもバリバリの前衛だ。
乃ち、俺は自分で自分の首を絞めていたのだ。
数分前、俺がいかに浅慮だったかが分かるな。
何故、剣で頼む、なんて事を……。
見通しが甘いにも程がある。
少し考えれば分かることなのに……。
もしかしなくても詰んでいるこの状況で、俺は一体何をすれば良いんだ?
見えない誰かに聞いてみる。
当然ながら返事はない。
「やっと門に着いたね!」
そんな事を考えながら歩いていると、草原エリアの門に着いてしまった。
俺の内心はパニックだ。
「ああ、先導よろしくな」
しかし、そんな内情は表に出さない。
悟らせもしない。
こういうのは昔から得意だった。
ポーカーフェイスというか、そういう類のことだ。
まあ。ノウズに完全看破された今では、説得力や自信なんて欠けらもないがな。
「う、うん! こっちだよ!」
元気だなルカは。
余程、EOFが楽しいのだろう。
ラティも、そんなルカに付いて行っている。
暫くは歩くことになりそうだな。
人気なエリアなだけあって、門付近はプレイヤーが多い。
日本のとある首都並みだ。
このエリアにプレイヤーが集中しているので仕方ないこと。
そして。その原因は何より、森エリアが不人気すぎるという点だろう。
さらに辿っていくと、俺が原因ってなりそうだけど。
いや訂正、俺達だな。
やはり、1週間前に十何人ものプレイヤーを倒したのも不味かったな。
森エリアの不人気さが加速しているかもしれない。
俺はどうでもいい思考を重ねながら、前を歩くルカに付いていく。
ペースはかなり速い。
ルカにとっては早歩き程度なのだろう。
しかし、足の幅を考えて欲しい。
俺はもう走っている。
そして……ルカは気付かないな。
だが、ここでわざわざペースを遅くするように言うのも憚れる。
なので、俺はそのまま走ることにした。
速力の値からして追いつけないことは絶対にないし。
ちなみにラティはこの事に気づいている。
さっきから、チラチラ見てくるからな。
ラティがさり気なくペースを落としてくれる、そう思った。
が、それは楽観的な妄想だった。
ラティがペースを落とすことは無かった。
剰え、速くしてきた……。
それもルカに気づかれない巧妙なペースアップ。
チラチラ見てくる。
あからさまにチラチラ見てくる。
またペースを上げた。
こっちを見る。
煽ってんのか?
そう心の中で思うほどには、俺も苛ついていた。
速度的には問題ないが、ラティの仕草がウザい。
単純に俺の心の大きさの問題かもしれないが、ラティにも問題はあると思う。
てか、ラティに何かしたっけ、俺。
心当たりなど何もないが、ついそう思うほどラティの俺に対する態度は酷い。
もう嫌われてるを超えていそうだ。
悲観的な考えをしながら走る。
ペース的には変わらず余裕。
しかし、周りのプレイヤーも少なくなってきたな。
少なくともプレイヤー同士の会話が聞こえてこないくらいには距離が空いた。
ボアを狩るのに時間がかかるなぁ。
こんなに面倒くさいなら、意外と森エリアにも人が集まりそうだが……そんなことも無いのか?
そう疑問を浮かべる。
だが、プレイヤーについての知識が欠如し過ぎている俺が、いくら考えても良い考察は出来なさそうだな。
俺はそう早々と思考を切り上げる。
そろそろ、ボアを狩る頃合いかと思ったのも理由だ。
先程から更に距離が離れ、周りのプレイヤーもいない。
これ以上、移動する理由はないのだ。
その事にルカも気付いているはずなので、ボアを発見しだい狩ると思った。
「ここら辺でいいんじゃないか?」
「うん! そうだね。ラティ!」
「ウォン!!」
俺の考えに賛同すると同時に、ルカはラティに声をかけた。
ラティにも意見を求めたのか。
俺はそう思ったが、違う。
ラティが周りを警戒するような仕草を見せたのだ。
恐らく、ボアを探しているのだろう。
ウルフなら、低レベルだとしても必ず《嗅覚強化》を持っているはず。
それを活用した索敵だ。
今までウルフを散々《鑑定》してきたので、俺は直ぐにそう見当をつけた。
「ウォン!!」
360度回ると、ラティは吠えた。
そして、俺達を導くようにある方向に歩いていく。
「こっちだって!」
ルカは俺にそう言うと、ラティに付いて行った。
その足取りに不安や疑問はない。
この方法でずっと魔物を探していたのか?
ラティすげぇな。
やはり《嗅覚強化》は有能だったらしい。
俺もこのスキルが欲しかったなぁ。
効果が未だにいまいち分からない《視覚強化》より、目に見えて有能な《嗅覚強化》が良かった。
そんな風に思ってしまうのは仕方ない。だろ?
ウルフの種族スキルに《視覚強化》を設定したであろうGMに語りかけながら、俺もルカに続く。
歩くのではなく走って、だが。
「こんな事できるなんて、ラティ凄いな」
「でしょ? 可愛いし強いし最高!」
「ウォン!」
ルカの褒めちぎりに、ラティは嬉しそうに吠えた。
言葉の意味が分かっているのか?
だが。考えてみればラティが周りを見てボアを探したのも、ラティ自身の判断だとは思えない。
ルカが命令するといった事が必要なはずなのだ。
見た感じ、ラティのAIはかなり高い。
俺に対する行動や仕草、ルカに対する態度を見ていると、現実の犬以上に賢いのではと思える。
しかし。ラティが賢いウルフだとしても、ルカとの関係は絶対的に変わらない。
プレイヤーと魔物。テイムした者とされた者、だ。
そして。この関係が覆せない以上、ラティが自らの判断で行動できるとは考えにくい。
それがテイマーというものだろうからな。
で、肝心の疑問は。
何故、ラティは突然ボアを探し始めたのか。
何故、その行動の意味をルカは把握していたのか。
というところだ。
まあ、ルカに直接聞きはしない。
ここで変な質問をして気まずくさせたくないし、俺だってルカに言ってないこと言えないことがある。寧ろ俺の方が酷いくらい。
「ウォン!」
「あ! ボアいるね。それも沢山!」
「ありがとね! ラティ」
俺が長い思考から戻ってくると、目に入ってきたのはボアの群れだった。
約三十頭ものボアが集団となって移動しているのを確認。
草原という視界の良さが幸いしたな。
森エリアだとこうはいかない。
あそこのウルフ共は奇襲と隠密が常套だからなぁ。
最初の頃は俺もよくやられたもんだ。
「あの数を狩るのか?」
頭の中で過去を振り返っていた俺は、素直に思ったことを質問した。
俺はともかく、ルカにあの数を狩れるとは思えなかったのだ。
「うん! 大丈夫。私とラティ、意外と強いの!」
自分でそう言ってるのを見ると不安になるが……信用しておく。
どっち道、俺にどうこう出来ることじゃない。
自分の正体を隠してるのに、ここでボア相手に暴れるなんて論外。
ルカが狩ろうが倒されようが、それが結果となるだけだ。
「とりあえず、まだだったからパーティ申請する」
「あ! 忘れてた。そういえばそうだったね」
俺はレイクさんから聞いていた手順通りにウィンドウを操作する。
あった。ここをポチッと。
パーティ申請中です、という表示が出た。
これで大丈夫なはず。
「クウヤ君からのパーティ申請を……承認」
ルカがそう呟いた瞬間、俺の視界に表示されていたHPMPバーの下に、もう一つのバーが追加された。
名前付きで " ルカ " と書かれている。
へぇー……と感心していると、申請中だった表示が申請承認という表示に変わっている事に気付く。
ちゃんとパーティを組むことが出来たみたいだな。
このゲームを始めてから、ちゃんとしたパーティを組んだのは初めてだ。
これは、とてもとても記念すべきこと!
森エリアで戦ったとき、俺達はパーティを組んでいない。
焦ってたこともあり思い浮かばなかったのだ。
なので、ちゃんとパーティを組んだのはこれが初めて。
だが、実を言うといま俺とルカが組んだパーティ。
これは普通のパーティじゃない。
既に気付いている人もいると思うが、パーティ申請という行為。これは俺がやるにはかなりリスクが高いことだ。
俺は《偽装》を使ってステータスをクウヤにしている。
それは良い。
だが。パーティ申請の際、相手側に表示されるウィンドウ。
これに表示されるのはクウヤなのかサクヤなのか。
そこは不確定だった。
もし、ステータスを元にしているなら問題ない。表示されるのはクウヤだろう。
しかし違ったら、その瞬間に嘘がバレて終了だ。
この部分が分からなければ、パーティが組めない。
だが、リア友とプレイするからにはパーティでやらないなんて事は有り得ない。
なので、俺はレイクさんに協力を頼んだ。
俺がレイクさんにパーティ申請をしたのだ。
森エリアの洞窟で試したところ、レイクさんのウィンドウにはクウヤの名前が表示されていたらしい。そして、HPMPバーの方にも " クウヤ " と表示されていたと確認した。
《偽装》強ぇ。
俺がそう思ったのも間違いじゃないだろう。
現にこうして助けられたし、今後《偽造》になったらもっと助けられると思う。
まあ、何が言いたいかと言うと。
パーティ申請っていう普通のことをするのに、こんな手間と思考をしなきゃいけないのはおかしいってことだ。
" 自由 " がコンセプトのゲームなのに、どんどん " 自由 " が失われていくのは気のせいか……?




