要注意?
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
俺は今、黒い門の前にいる。
恐らく、人種プレイヤーの初期スポーン地点だ。
大きな広場の中央に黒い門。
待ち合わせ場所としては良いところだな。
その証拠に、八瀬もここを集合場所にしている。
ちなみに、あと30分後に集合だ。
それにしても。
俺と同じような目的のプレイヤーも多いようだな。
初期装備に身を包み、そわそわした様子のプレイヤーが多い。
この装備のダサさに驚いていることだろう。
そういう俺も初期装備だがな。
まあ、俺は100万Gという莫大な金を持っている。
そこらのプレイヤーとは桁が違うのだ。
もちろん存在値の桁も、な。
俺は少しだけ優越感に浸る。
これこそがランキング1位に許された特権だろ?
そう思いながらも、あまり優越感は感じられない。
ついさっき、自分の駄目駄目さを自覚したばかりだからだ。
ノウズに軽々しく丸め込まれ、" 試練の鏡 " は大敗。
続く二回の敗北に、俺の心はもう……。
しかし。
自分より弱いプレイヤーを見て、心が軽くなったのも確かだった。
人としてどうかと思うが……こういう性格なので割り切る。
そして、新発見がある。
興味本位で発動した《鑑定》が使えたのだ。
EOFを始めたばかりで、まだレベル1のプレイヤーならいけるのでは? と考えて発動したら、まさかの結果。
久しぶりに、《鑑定》の結果画面が目に入ったのだ。
思わず声を出して驚いてしまった。
若干不審がられたけど気にしない。
レベル、存在値、名前、職業、パラメータ、スキル。
称号を除いたステータスが観覧できた。
《鑑定》で見れるステータスの範囲は、メンテナンス後でも変わっていないようだ。
てっきり、《鑑定》は死にスキルになってしまったと思っていたが。
相手次第では、まだまだ現役なのかもしれない。
メンテナンスで弱体化された筈だが、存在値が離れすぎていると《鑑定》が成功するのか?
あくまで仮説だが、何となくそんな気がする。
これは要検証だ。
レイクさんにも相談する事にした。
また《鑑定》ぶっ壊れ時代が到来する可能性があるのだ。
この時代に乗り遅れるわけにはいかない。
と言っても、プレイヤーに《鑑定》を無闇に使うつもりは無い。
魔物相手なら遠慮なく使えるのだが、プレイヤー相手になると、俺の良心が相手のプライバシーなどの事を考えてしまう。
レイクさんやマカには使ったが、アレは緊急時だった。
その後、レイクさんから承諾を貰って《鑑定》したし、仕方ない事だろう。
マカは火結晶を食べたからな。
俺も無断で《鑑定》をした事は悪いが……マカも大概だ。
マーナさんに使ったのは、あの時点ではNPCだと思い込んでいたからであって、今は使おうとは思えない。
マーナさんも不思議な存在だよな。
EOFが始まった初期から存在していたのに、その知能はバラザにも劣る事はないのだ。
やはり。
エリアボスは特別なのか?
……おっと、思考が脱線しだした。
が、思考を戻してもやる事がもうない。
《鑑定》の考察をこれ以上続けても、大した閃めきは出そうにないし、レイクさんと話したほうが何倍も有意義な話題だろう。
一言で表すと、暇。
今までの俺からしたら、一番遠い単語だな。これ。
EOFを始めて一か月ずっとハードコア。
そんな状況からは考えられない現状だ。
……感傷に浸るのはまだ早いな。
まだ一か月。
このゲームはこれからなのだ。
そうだ。
この際、インベントリで眠っている気心の書でも読むか。
色々な事が重なりすぎて、読むのを忘れていたのだ。
俺って、重要なことほど忘れてないか?
例えば。
自分がプレイヤーランキング1位だってことを、存在値の詳細を見るのを忘れていたせいで気付いてなかったり。
他にも忘れてる事ありそうだなぁ。
俺が気付いてないだけで沢山ありそうだな、そういうの。
又もや脱線しそうになる思考。
それを引き戻すようにインベントリを開く。
気心の書は……あった。
だが、こうして見ると。
インベントリの大きさとアイテムの数が、明らかに合っていないな。
気心の書以外のアイテムと言ったら。
封印の指輪、封印の仮面、気魔の書、世界の門鍵、金。
これくらいだ。
たったの5つ。
しかも、金はアイテムなのか微妙だから4つかもしれない。
300仕舞える中に、たったの4つ。
無駄が過ぎる。
これではSPを無駄にしただけじゃないか。
いや。
いつか使う日が来る。
根拠は無いが、俺はそう信じる事にした。
さて。
気心の書を出そうかな。
俺はインベントリから気心の書を出……そうとした瞬間に気付いた。
ここで読むのは不味くない? と。
明らかに初心者のプレイヤーがいかにも高ランクそうな見た目の分厚い本を読んでいる、この絵面は不自然すぎるだろう。
もし、《鑑定》や《識別》でもされたら終わり。
高ランクの本を読む謎の初心者プレイヤーの出来上がりだ。
流石に軽率すぎたな。
俺はインベントリを閉じる。
読書も駄目、考察も意味なし。
さて、何しようか。
ぼんやりしてるのも良いが、時間を無駄にしている気がしてしまい、暇つぶしにはならない。
メニューから時間を確認。
あと、20分かぁ。
ジッとしてても暇つぶしにはならないと思い、移動する。
俺が目を付けたのは、中央にある黒い門。
何故こんなとこに門が?
そう思ったが、この門は街の中央にある建造物。
特別な意味がないわけがない。
俺は興味本位で近づいた。
何か出来るわけじゃないと思うが、触るだけ触ってみたい。
プレイヤー達の間を歩く。
……しかし、こうして歩くと自分の身長が逆に目立つ。
なんかおかしな感覚になるなー。
あと、もう少しで門に辿り着く。
そう思った。
俺が門の全体を見ると同時に、何者かに手を引かれた。
驚きと戸惑いから、振り返る。
うわ、背が高い。……いや俺が小さいのか。
そのプレイヤーは女性だった。
またか。
失礼だがそう思ってしまった。
髪は優しい桃色。
顔立ちも優しい美人系だ。
眼も髪と同じ桃色。
わあ可愛らしい。
「ちょっと僕、迷子?」
かけられた第一声。
それは迷子かどうか、とても心配した声音だった。
いやさ。
こんな身長だから仕方ないけど。
仕方ないが、かなり心に刺さる。
高校生にもなって迷子の心配をされる俺の気持ち。
それが分かるのか、と言いたい。
俺もそんな気持ち知りたくなかったよ。出来れば。
怒りというか、もう悲しくなってしまう。
「大丈夫? 友達とはぐれたの?」
俺の心情が顔にまで出ていたのか、さらに心配した様子で声をかける女性プレイヤー。
良い人なんだろうけど……心が痛い。
これ以上、精神的ダメージを喰らわないように。
俺は言葉を発する。
「こんななりでも中身は高校生なんで。あと、待ち合わせ中です」
「え!? 同い年なの!? 間違えちゃってごめんね」
本当に驚いた様子だな。
俺が高校生だと悪いか? あ?
しかし、このプレイヤーも良い人だな。
この人は何も悪くないのに謝ってきた。
果たして俺も同じ事ができるか……。
いや、出来ないだろうな。
「そっか、待ち合わせ中だったんだね。実は、私も友達と待ち合わせ中なの。あ、じゃあ一緒に待ってない? どう?」
どうやら、この人も待ち合わせ中らしい。
しかも、一緒に待たない? という訳が分からない提案をしてきた。
何が目的なんだ?
自分でもこのプレイヤーは良い人だと思うが、ノウズの件があったせいで、どうしても疑ってしまう。
それに。
こんなに目的が見えない提案は尚更だろう。
そして、このプレイヤーは初心者ではない。
装備がローブと杖なのだ。
初心者装備から変えたばかり、という可能性もあるが、あくまで憶測。
確実なことは分からない。
なので、この人が。
俺みたいに無知そうなプレイヤーを狙う悪い奴という可能性も有り得るのだ。
……いや流石にないか。
「ああ、いいよ」
そんな思考を頭の中でしながら、俺は答えた。
門に触るのはいつでも出来るので、今はこのプレイヤーの厚意に甘えておくことにした。
まあ、本当に厚意的なのか否かはまだ分からないが。
「じゃあ、人も多いしあっちの方行こう?」
確かに人が多い。
その意見には賛成だ。
俺の反応を見るように視線を向けてきたので、無言で頷く。
すると、プレイヤーは安心したように歩き出す。
向かっているのは広場の端。
あまり人が居なくて、見通しの良いところだ。
俺もさっきまであそこにいた。
人波を避けながら歩く。
目の前に、とても目立つ桃色の髪があると楽だな。
身長が低い俺にとって、人混みを進むには目印が必須だ。
……全く不便な体に人化してしまった。
もう何度思ったか分からない事を、再度考えながら歩いていると、視界が開けた。どうやら人混みを抜けたようだ。
……だが、それにしても人が少ないな。
まるで、この空間だけ人が居ないみたいだ。
謎のスペースに少し困惑しながらも、桃色の髪に続く。
「偉いよラティ! よく待ってたね!」
次に瞬間。
俺が見たのは犬だった。
……訂正。ウルフだ。
よく見ればウルフ。
しかし、パッと見だと犬にしか見えない。
まず、威厳溢れているはずの凛々しい顔がだらしなく緩んでいる。
そして、ウルフらしい威風堂々とした佇まいは疎か、大人しくお座りしているのだ。
誰がどう見ても犬。それも忠犬の部類。
このゲームのウルフを知らない人が見たら、十人のうち八人はこのウルフを犬だと間違えるだろう。
同じウルフとして……なんか複雑だ。
「このウルフはどうしたんだ?」
「んー…………ま、いっか。このウルフはね、私がテイムしたの。ラティって名前だよ」
……テイムか。
それは良さそうなスキルだな。
だが、それと同時に。
俺にとって天敵となるスキルかもしれない。
魔物を従えることができるテイム。
それすなわち、俺のような魔物プレイヤーもテイムできる可能性が高いのだ。
邪狼のときも懸念したことだが、プレイヤーが他のプレイヤーの自由を奪い拘束するなんてスキルがあるとは思えない。
しかし、同時にあってもおかしくはないスキルなのだ。
このプレイヤーがそんな非人道的なことはしないと思うが、人が関わる以上、事故というものは付き纏う。
だが事故であっても。
許される行為にはならない。
そこがネック。
一度生まれた溝は簡単には埋まらない。
要注意人物だな。
俺の中に、このプレイヤーの存在が刻まれる。
後でレイクさんとマカにも注意しとかないとな。
俺はラティと呼ばれるウルフに近寄った。




