パートナー
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
side:八瀬陽芽
リスポーンした。
ほんの数十分前にいた場所、大きな広場に戻る。
あれほど気を抜いてはいけないと警戒していたのに、少し油断しただけで死亡した。
森エリア……。
その恐ろしさの片鱗を理解した。
早くも折れそうになる心を立て直す。
もう一度、挑戦だ。
私は再度、森エリアに向けて歩き出す。
その足取りは心なしか遅い。
☆☆☆☆☆
着いた。
私がやられた所。
その場所に今いる。
周りを見るが誰もいない。
プレイヤーはおろか魔物もだ。
今度は気を引き締めて。
常に杖を構えておく。
《杖撃》の効果で、杖の扱いに少し補正がある。
今はそれに頼るしかない。
ウルフは何処にでもいることを学習した私は、決して気を緩めることはない。
だから気付けた。
こちらに近付いてくる足音に。
規則的なリズムのそれは、私に向かっている。
振り向く。
と同時に、杖を振った。
「ファイヤボール!」
私の予想通り、ウルフは私に向かって来た。
しかし、私のファイヤボールが命中。
怯んだ。
だが、怯んだだけで攻撃を止めようとはしない。
爪が私目掛けて飛んできた。
咄嗟に、持っている杖でガード。
鈍い音を響かせて、杖と爪が拮抗する。
……重い。
筋力3の私に耐えられる攻撃じゃなかった。
私は徐々に押し込まれる。
このままでは不味い。
そう判断した私は、杖を逸らした。
ウルフの爪を滑らせるように杖で払う。
よし、できた。
京直伝の受け流し、だ。
力の拮抗が崩れ、バランスを崩したウルフ。
その顎下に、杖を下から上へ打ち上げる。
綺麗に顎を捉えた。
身体が一瞬だけ宙に浮いたウルフ。
次の瞬間、ウルフは崩れ落ちた。
{気絶}だ。
数秒間、身動きが取れなくなる状態異常。
私はこれを狙っていた。
この状態異常の存在と、発生させる方法は京から聞かされていた。
ありがとう、京。
友人の情報に感謝する。
眠ったように動かないウルフ。
とどめを差すには絶好だが、違う目的がある。
《魔物調教》。
このスキルを試したい。
ウルフがこの状態なら成功するかも。
逆にこれで駄目なら、今の私は為す術がない。
《魔物調教》が成功するかどうかは確率じゃない。
どれだけテイムする対象が弱っているか、なの。
あと、存在値が離れすぎている場合も成功しにくい。
ということは。
今の状態なら、レベル1の私でも可能性はある。
ほぼ無抵抗のウルフ。
この子をもテイムできないのなら、レベル1で《魔物調教》を使うのは諦めた方が良い。
私はそのつもりで試す。
「《魔物調教》」
ウルフの頭に手を乗せて呟く。
これでスキルは発動したはず。
次の瞬間。
変化が起こった。
私の手が淡く光る。
その光はウルフを包み込んでいった。
光がウルフを覆う。
すると、光はウルフに入っていくように消えた。
静寂。
成功したのかどうか……分からない。
ウルフの{気絶}はとっくに切れてる筈。
なのに、ウルフはまだ眠っている。
状況が把握できない。
私はまだウルフの頭に手を乗せている。
テイムできたか分からないから動けない。
だが、もし失敗だったら。
ウルフが目覚めた時、私は死亡するだろう。
かなり分が悪い賭け。
だけど、諦めたくない。
何故なら。
初めて触ったウルフ……意外ともふもふしてた。
よく見たら可愛いし。
狼としては失礼かもしれないが、寝ている姿はもはや犬と変わらない。
お願いだからテイムさせて!
私は心の中でそう願う。
そして。
その願いが届いたのか否か。
私の右手が上がる。
ウルフが起きた。
自分の息を呑む音が聞こえる。
ウルフを見た。
その瞳と目が合う。
少し暗い瞳だが、そこには確かな知性が感じられる気がした。
……成功?
そう思った。
しかし。
ウルフは私に飛びかかった。
「あ……」
私は自分に振り下ろされる爪を幻視した。
テイムに失敗してしまった。
その事実がショックだった。
=========================================
《魔物調教》成功。
……名前を与えてください。
ステータスを観覧しますか?
=========================================
はえ?
成功したの?
未だに信じられない。
しかし。
このウィンドウが表示されてるという事は、本当だと思う。
じゃあ、何で。
このウルフは私に飛びかかって来たの?
今、私はウルフの下敷きとなっている。
倒れた時の痛みはないが……重い。
私を襲ったわけじゃないなら……?
「ウォン」
うわっ。
私の頬を舐めてきた!
手足を自由に動かせないので、為すがままに舐められる。
ウルフに涎はない。
あくまで感触だけ。
不愉快じゃないけど、慣れない感触。
早く離して欲しいなぁ。
暫く舐めると気が済んだのか、ウルフは私の上から退いた。
やっと自由だよ。
文句の一つも言いたいが、それよりもやる事がある。
名前をつけなきゃいけない。
これは事前に考えてた。
私は、まだ表示されたままのウィンドウ。
その名前欄に入力する。
" ラティ " と。
深い意図はない。
ただ何となく良いな、って思ったから付けた。
女の子か男の子か分かんないけど、この名前ならどっちでも大丈夫だよね?
私は確認のために、ラティのステータスを観覧する。
さっき表示されたウィンドウから見れた。
_________________________________________
ステータス
レベル 3
存在値 4
名前 ラティ
種族 ウルフ
状態 従属 (ルカ)
パラメータ
HP8
MP2
速力 6 筋力 4 防力 2
器力 2 精力 4
スキル
〔種族スキル〕《爪撃》LV.2《噛撃》LV.2
〔通常スキル〕《嗅覚強化》LV1
SP3
称号
〈従う者〉
_________________________________________
あれ、私と同じくらいの強さだ。
レベルは3だけど、パラメータはあんまり変わらない。
というか、MP、器力、精力は私の方が高い。
このウルフ……そんなに強くないのかな?
私が苦戦したことには変わりないけど、それは私が弱いだけ。
ウルフ……いやラティがいれば戦闘も楽になる。
もう少し、この森エリアで頑張ってみよう。
その前に。
もう一つ試したい事がある。
《魔物調教》が成功したら、使ってみようと思っていたスキルがあるのだ。
《念話》。
この為に取得したといっても良いスキル。
ここで使わなければいつ使うのか。
私は《念話》を使ってみた。
『ら、ラティ? 聞こえる?』
とりあえずスキルを発動させた。
これで、ラティに私の声が届いてると良いけど。
ラティは驚いた様子で周りを見ている。
届いてはいるようだね。
でも、言葉を理解できてるのかな?
少し不安だ。
もう一度。
話しかけてみる。
『ラティ、わたしだよ。ルカだよ』
すると。
ラティはこっちを向いた。
わあ!
通じた!
まるで、幼いときに見た夢みたいだ。
そう思うと。ついつい、私は興奮してしまう。
動物と話すのって楽しい。
ラティが本当に理解できてるのか、もう一度試してみる。
『ラティ、座ってみて』
具体的な指示。
これが出来れば、ラティは私の声を理解していることになる。
ラティは案の定、その場に座った。
やったね!
私の夢が一つ叶った。
正直、これだけでもEOFをやった甲斐がある。
私も立派なテイマー。又はサモナーになった。
この場合はテイマーが適切かな?
嬉しくなってラティに抱きつく。
毛並みが綺麗で良い感触。
こんな森の中ですることじゃないけど、今だけ良いよね。
現実みたいに体温は感じられないが、それ以外は現実と同じ。
……何時間も抱きついていれる。
この幸せを誰かにも共感してほしいな。
ラティの大きさも、私の下半身ほどで抱きつきやすい。
うん、好き。
ラティのこと、咲良君に自慢しよ。
私は暫く。
その場でラティをモフっていた。




