初めて
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【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
side:八瀬陽芽
「【EOF】オープン」
私が起動コマンドを呟くと、視界が黒く染まった。
突然の事だけど、あまり驚かない。
身体が不思議な感覚に包まれたかと思うと、直ぐに元に戻る。なんだったんだろう。
目を開ける。
そこは、海だった。
正確には海の中。
私は海底に足を付けている。
水の中にいる筈なのに、呼吸はできている。
……呼吸?
ここはゲームの中なのに、どうして?
湧き上がった疑問に首を傾げる。
私はEOFを装着して起動コマンドを呟いた。
ということは此処はゲームの中。
しかし、それにしては現実感がありすぎる。
水の質感、光、体温。
その全てが現実と変わらない。
[キャラメイクを行ってください]
頭に声が響いた。
これには驚き、身体がビクッと固まる。
周りを見渡す。
すると、イルカがいた。
可愛い。
思わず手を伸ばす。
その手はイルカに触れることが出来ず、擦り抜けてしまう。
期待外れ……。
何度も触ろうとするが、全て空振る。
諦めた。
ふと、周りを見る。
すると、さっきまでは居なかった魚達が泳いでいた。
大小様々でカラフルな魚達。
とても綺麗……。
[キャラメイクを行ってください]
急かされた。
大人しくキャラメイクをしよう。
図書館での加藤君のアドバイスを参考に決める。
同じ系統でスキルを揃えた方が良いんだよね。
そのつもりだった。
途中で楽しそうな職業に寄り道したら、色々とスキルを発見した。
説明を見れば見るほど面白そう。
これは取得するしかないよね。
私の心はすでに決まっていた。
☆☆☆☆☆
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ステータス
名前 ルカ
種族 人
職業 占い士
パラメータ
HP 3
MP 6
速力 3 筋力 3 防力 1
器力 7 精力 7
スキル
〔種族スキル〕《万器の才》
〔職業スキル〕《霊術》《直感》《MP強化》
〔通常スキル〕《魔物調教》《念話》《火魔法》
《杖撃》
_________________________________________
[ステータスを決定しますか?]
私は迷いなくYESを選択した。
瞬間。
視界が黒く染まる。
一瞬だけ、身体が溶けたように感じる。
だが、その感覚はほんとに一瞬だった。
目を開けた。
光が差し込んでくる。
突然の眩しさに目を伏せてしまう。
何度か瞬きを繰り返す。
そのうち目が慣れてきた。
周りを見渡すと、自分の立っている場所が大きな広場であることに気づいた。
私の近くには、私と同じように訝しみながら周りを見るプレイヤーが何人かいる。
みんなとても美人。
思わず自分の体を見た。
性別は女になっている筈だけど……。
自分の手を見てみると、驚くほどに白い。
足も白く、細い。
ストレートに伸びた髪を触る。
サラサラだ。色は桃。
キャラの容姿はランダムにしたけど、悪くはない。
事前にキャラ容姿をランダムにしてもある程度の美人になることは、宇海から聞いていた。
自分の容姿に拘る性格でもないので、普通くらいを保てればランダムの方が楽だと思ったのだ。
自分の体を見るついでに、目に入った初期装備。
ほんとにダッサい。
今すぐ着替えたいくらいだよ。
この事も宇海から聞いてたけど、想像以上だ。
AR状態の視点。
その左上のメニューを開く。
=========================================
チュートリアルを開始しますか?
=========================================
すると、こんな表示がされた。
チュートリアルか。
普通はやるんだろうけど、私はやらない。
表示を閉じた。
……そんな事より時間を確認。
咲良君との約束まで、あと3時間ある。
ふっふん。
私だけ強くなって咲良君に良いところ見せるんだ!
咲良君はEOF初心者。
そして、それは私も同じこと。
しかし。
私は、宇海と京からEOF情報を聞き込んだ。
知識だけなら、その辺の初心者には絶対負けない。
だから、チュートリアルなんて必要ないの。
私は、とりあえずプレイヤー経営の店を探した。
このダサい初心者装備を売り払うためだ。
この装備。
性能や外見は最低だが、分解した時に得られる素材がとても多いらしい。
なので、この素材集めにはもってこいの初心者装備を求める生産プレイヤーは少なくない。というか、多い。
私は第二陣プレイヤーに属される。
ゲーム開始から一ヶ月経っているこの時期に、EOFを始めたのだから当然だ。
普通のゲームなら、第一陣に追いつくのは厳しい。
絶対に追いつけなくはないけど、それ相応の時間がいる。
だが、このEOFはゲーム内時間が現実の2倍。
よって、普通のゲームより2倍追いつきやすい。
それに、まだ不確定要素が多いこのゲーム。
未発見の強力なスキルに巡り合えれば、一気に追い抜くことも可能だと思う。
そういう考えから、初期ステータスを " 占い士 " という見たことも聞いたこともない職業にしたのだ。
スキルも見た事がないものを取得したし、これからだってそのつもり。
そして。
そのために必要なのは効率。
効率よくレベルを上げて、未発見スキルを取得する。
宇海達が思っているより、私はこのゲームに真剣だ。
プレイヤーランキングに載るくらいには強くなりたいと思っている。
この街で一番大きい道。
その道を南へ進む。
草原エリアに近い方が人が多い。
なので、必然的にプレイヤー経営の店も多くなる。
私は暫く歩く。
見つけた。
一見NPC経営の店に見えるけど、ここはプレイヤー経営。
宇海の紹介で、ここが良いって言われていた。
確かに外観は綺麗。
人も多く入っている。
しかも、入っていったプレイヤーの殆どが高レベルと思われる装備に身を固めている。
初心者装備の私が入るには躊躇うけど。
私は気にせずに入る。
「「いらっしゃいませ」」
恐らく、プレイヤーに雇われているNPCから言われる。
こんな事も出来るんだ。
少し驚いたが、店内に目を向ける。
ポーション、武器、アクセサリー、防具。
このゲームに必要なものが揃っている。
これは繁盛するわけだね。
草原エリアの門のすぐ近くにあるのも便利。
私はその辺の商品が目当てではない。
端のスペースにいた会計係と思われるNPCに近づく。
プレイヤーに交渉した方が良いのかもしれないが、プレイヤーが不在らしいので仕方ない。
「すいません。この装備と違う装備を交換って出来ますか?」
「はい。初心者装備でしたら対応しています」
「その場合。取り替え出来る装備はこの二つとなりますが、どちらにしますか?」
そう言って取り出したのは、魔法使いっぽいローブと戦士っぽい戦闘服だ。
二つの選択肢を提示してくれているが、実質一択みたいなもの。
私はローブを選択した。
「はい。ありがとうございます。ただいま、初心者装備を交換してくれたプレイヤー限定に武器のサービスもしています」
今度をそう言って、様々な武器を取り出した。
剣、槍、斧、盾、杖、拳鍔、弓。
私は魔法使いなので、杖を選択。
「では、こちらで着替えてください」
案内されたのは、店の奥にある試着室のような場所。
一つ一つにちゃんと仕切りがある。
そういう面にも配慮された良い店。
私の中での評価は、とても高くなっていた。
インベントリに入れたローブと杖。
それを初心者装備と交換。
すると、ほぼ一瞬で装備を入れ替えれる。
ほぼ、と言ったのは若干のタイムラグがあるからだ。
たった2秒程と言っても、女性からしたら問題。
男の中には全く気にしないという人もいるらしい。
現実だったら公然猥褻かもね。
着替え終わった私は、インベントリ内の初心者装備を手に持つ。
試着室から出た。
側で待っていたらしいNPCに渡す。
「ありがとうございます。安全を祈っております」
これで、ここに来た目的は達成した。
交換した装備も悪くはない。
早速、レベル上げに行こう。
私は店から出て、草原エリアの方に行かない。
私は来た方向と逆。
北へと歩く。
そう。私がレベル上げに行くのは森エリア。
プレイヤーが寄り付かない過疎エリアだ。
このエリアに巣食うウルフの強さ。
それは、上位のプレイヤーでも手を焼くほどらしい。
宇海と京も、倒せなくはないけど効率を考えるなら草原エリアの方がずっと良い、って言っていた。
そんな危険地帯に今から行く。
私なら大丈夫と自惚れているわけでも都合よく考えているわけでもない。
その目的は、ウルフだ。
私が取得した《魔物調教》というスキル。
これは一定の確率で魔物をテイムできるスキルだ。
テイムした魔物は仲間となり、一緒に戦ってくれる。
簡単に言えば、信用できる仲間を作ることが出来るスキルだ。
強い魔物をテイムすれば、自分の戦闘力も上がる。
上手く使えば、かなり強力なスキルになると思う。
しかし、デメリットもある。
魔物を倒した時の経験値が等分されること。
テイムした魔物が2匹なら三等分。
テイムした魔物が3匹なら四等分。
こんな風に、得られる経験値が激減してしまう。
だが、私は取得した。
それは、そのデメリットを呑んでも余りあるメリットが生まれる可能性があったから。
それがウルフ。
多くのプレイヤーから恐れられた魔物だ。
これをテイムしたい。
その思いで取得を決意した。
かなり危ない賭けではあるけど、こうでもしなきゃ追いつけないよね。
森エリアに着いた。
草原エリアとは違い、視界がかなり限られてしまうらしい。
その状態からの不意打ち。
これに気をつけろ、と宇海から助言を貰った。
残念ながら察知系スキルは取得してない。
だけど、持ち前の聴覚などで察知できないわけじゃない。
これは京から聞いた。
このゲームのキャラは、自分の考えた行動がすぐ肉体に反映されるらしい。京曰く、脳を経由する必要がないから信号がダイレクトに届く……だって。
専門的なことは分かんない。
しかし、何となくで結構どうにかなるって二人とも言ってた。
信じていいのか分からないけどね。
森エリアに足を踏み入れる。
一見、魔物なんていない普通の森だが気を抜いてはいけない。
寧ろ引き締めないと。
あまり死にたくないので、門から離れたところには行かない。
迷うのは最悪だ。
本当は、《地図》や《鑑定》などのネットで高い評価だったスキルも取得したかった。
だが、それは初期から持ってても大した得にはならない。
後から取得すれば問題ないと判断したのだ。
ないものねだりしても状況は変わらない。
私は暫くウロウロしていた。
門と森の間を何往復したか。
そんな時にそれは起こった。
私は何度も通った道を通っていた。
だから、少し油断していたのだ。
茂みがガサッと動いた音に気づいた頃には、もう遅い。
咄嗟に振り返る。
私が最後に見たのは、目の前まで迫る爪だった。
そして。
視界が黒く染まる。
私は呆気なく死亡した。




