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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
56/106

約束


 

 少し歩くと、櫛奈と八瀬の姿が見えた。

 俺たちがいた所から、そんなに遠くないテーブルにいたようだ。


 櫛奈と八瀬が何か夢中に喋っている。

 俺たちに気づく気配はない。


 末貫は特に気にした素振りも見せず、櫛奈と八瀬の前に歩く。

 そこで漸く気付いたようだ。


 

 「く、櫛奈、お、おはよ」



 「櫛奈、おはよう」



 「階段の前で合流したから連れて来た」


 

 加藤は緊張したのか、噛み噛みだ。

 何が3対1は厳しい、だよ。もし、俺がいなかったら絶命してるぞお前。


 俺は挨拶だけきちんとする。


 状況説明は末貫がやってくれた。

 少し言葉足らずな気がしなくもないが、問題はないと思う。


 

 「おはよ〜加藤君、咲良君。今日は誘ってくれてありがとね!」



 そう返事をしてくれたのは、櫛奈宇海(くしなうみ)

 高身長で整った顔立ちの女子。


 容姿端麗、成績優秀、頭脳明晰、運動抜群、明朗闊達。

 この人物を表すにはこの熟語以上が必要なほど。


 常にクラスの中心に位置し、学校で知らない人はいない有名人。

 男女共に人気は絶大で、告白された回数は3桁を上回ると聞く。


 早い話、完璧超人。

 完全に漫画の世界の人物なのだ。


 そんな有名人が何故こんな所へ?

 という疑問は解決しそうにないが、櫛奈と俺に接点がない理由は納得してくれたと思う。

 

 加藤もこんな相手を好きになってしまうのは辛いなぁ。

 その部分だけは同情する。


 だって、少なくとも競争人数は数百人。

 その中には、加藤より顔も性格も良い奴がたくさんいる。


 もう頑張れとしか言いようがない。

 同じクラスになったのは幸運だが、加藤の悲願が叶うのかどうか。


 まあ、こうして誘いに乗ってくれたし可能性が0では無いんだろう。多分。

 


 「お、おはよ〜。加藤君、咲良君!」



 櫛奈に続いて発言したのは、八瀬陽芽(やせはるか)

 こちらもクラスの中心人物。


 櫛奈の幼なじみで親友。

 いつも、櫛奈と一緒にいることから必然的に注目されている女子だ。


 身長は平均くらい。

 容姿もかなり整った方だろう。


 競争率も櫛奈と互角以上だ。

 

 性格は優しく気遣いが出来る、とても良い奴だ。

 櫛奈がサッパリとした明るい感じなら、八瀬は縁の下の力持ち的な感じ。


 分かりやすく言うと、理想の女の子ってイメージだな。

 ちなみに、勉強はあまり得意じゃないらしい。


 運動も平均くらい。

 それがまた男の庇護欲を唆る、と加藤から聞いた。


 末貫とは真逆と言ってもいい性格。

 

 しかし、意外にもこの三人は仲がいい。

 ほぼずっと、学校でもプライベートでも一緒にいるんだとか。


 事実、今日も3人組だ。

 普段ならお目にかかる事もないメンツだが……上手く話せるだろうか。


 何度か話したことのある八瀬がいるから大丈夫だと思いたいが、末貫には名前さえ覚えられていなかったからな。

 

 正直なところ不安でしかない。

 ……何で勉強会でこんな緊張しなくちゃいけないんだよ。


 加藤め。

 よりにもよって、こんな有名人を呼ぶとは。


 多分、加藤はEOFでの自分のステータスを自慢したいだけだろうがな。本当にいい性格してる。



 「いやー、こっちこそ驚いたよ。まさか来てくれるとは。予定とかなかった?」



 「うん! 大丈夫だよ、それにEOFの話に興味あるし!」



 「やっぱそうだよなー! 櫛奈達もEOFやってるのか?」



 「もちろん! 京と一緒にやって、もうレベル12だもんねー!」


 

 流れるようにEOFの話題に入った。

 やばい。開始早々ピンチだ。


 

 「へぇー。かなりやってんだな。ちなみに職業とか何にしたんだよ?」



 「えー、加藤君たちのも教えてくれる?」



 「おう! いいぜ!」



 おい。俺の意思はどうなってんだよ。

 せめて確認しろよ。


 即断即決にも程があるぞ。

 しかし今更、やめろ、とは言い辛い。


 ここは……飲み物買ってくるって言って逃げよう。

 ついでに櫛奈達のも買ってきて、合法化する狙いだ。


 

 「あー、飲み物買ってくるけど、櫛奈達も何か飲むか? 希望があれば買ってくるけど」



 「あ! 咲良君、私はお茶が良いかな?」


 

 「あ、あの。私もお茶お願いします……」



 「何でも良い」



 末貫の、何でも良い、が一番良くないんだが。

 とは言わずに財布を持つ。


 ジュース何本かくらい金銭的に余裕。

 加藤が呼び出した迷惑料として考えてくれれば良いと思った。



 「俺も行くぜ、陽紀」



 何が狙いだ、加藤?

 こいつが女子を放ったらかして付いてくるなんて……。


 まさか、ステータスを言いたくないのがバレたか?

 でも、加藤はそんなに鋭い方じゃないはず。


 加藤の行動が読めないなんて久しぶりだ。

 だが、それを口にすることも出来ず、俺は席を立つ。


 一階に置いてある自動販売機に向かう。

 そして、そんな俺に付いてくる加藤。


 階段を降りた。


 そのタイミングで加藤が口を開いた。



 「陽紀」



 「何だ」



 「お前レベルいくつ?」



 「…………」



 思いがけない質問に頭がフリーズする。

 ど、どうする?


 素直に答えるなら、レベル50だが。

 しかし、それは論外。恐らく冗談だと笑われるだろう。


 だからといって、中途半端にレベル9とか言ったら。 

 後日、EOFで会ったときに破綻してしまう。


 ど、どうする?


 

 「おい、陽紀。何で答えないんだよ?」



 「……」



 仮に、嘘のレベルを言ったとして。

 この場はそれで収まるが職業やスキル構成の話になれば、また嘘をつかざるを得なくなる。


 すると。

 嘘で塗り固められた、嘘のステータスの完成だ。


 だが、詳細なスキルなどの嘘は破綻しやすい。

 俺の知らないところで矛盾が生じる可能性があるのだ。


 ただでさえ、俺は魔物なのだから人種プレイヤーの情報に疎い。まぁ、だからここに来たんだし。


 なので、何処かで破綻する可能性は高い。

 特に、そういうのに詳しい加藤の前だとな。


 

 「陽紀、お前まさか…………」



 クソ、頭で考えすぎた。

 加藤にバレたかもしれない。


 万事休す、か。

 もし、加藤が(サクヤ)を当てたら。


 その時は素直に認めてやろう。

 


 「まだEOF始めてなかったのか?」



 「…………ああ、実はそうなんだ」



 セーフ。

 加藤が鋭い奴じゃなくて良かった。


 だが、EOFを始めてないっていうのは良いな。採用だ。

 これなら、知らぬ存ぜぬで突き通せる。


 あとは適当に理由をでっちあげれば良い。

 親の事情とか言えば、深く詮索してこないだろう。



 「んだよ。そうなら早く言えば良いのに」



 「すまんな。言い辛くて言い出せなかった」



 「けど、陽紀もEOFやりたがってたよな? こういうの、1秒も遅れずにやるタイプだし」



 「……親の事情で色々と忙しかったんだ。今日やっと出来るようになったかと思えば、メンテナンス中だしな」



 「それはドンマイ。だけど、俺がキャラメイクの参考を教えてやるから安心しな?」



 「それは頼もしい」



 図書館の一階にある自動販売機まで来た。

 いろいろな飲み物があるが、メジャーなお茶を購入した。


 問題は末貫だが、こちらもお茶。

 みんなと一緒なら、多少好みじゃなかったとしても大丈夫だろうと思ったからだ。


 まぁ、そんな事を気にしないのが末貫なんだが。

 末貫の好物が茶であることを願う。


 ちなみに俺もお茶。

 加藤もお茶だ。


 日本人たる者、茶を嗜むべきなのだ。

 というのは勿論冗談。

 コーラって凄く美味しいよねー。


 加藤と大した会話もなく二階に上がる。

 沈黙が気にならない友人って良いよね。気が楽で。


 そのままテーブルに帰ってきた。



 「ご苦労ー! あ、お金はちゃんと返すから」



 「いや、いいよ。これくらい」



 「い、いや。そんな悪いです……」



 櫛奈に続いて八瀬が遠慮がちに言う。

 しかし、俺に譲る気はない。


 何故なら、ここで飲み物を奢ることによって、俺がEOFの話題に参加しなくても許される可能性があるからだ。



 「大丈夫。暑い中ここまで来てくれたお礼とお詫びだから」



 「おい! 俺が悪いみたいな言い方すんなよ!」



 「あはは。そういう事なら咲良君に甘えようかな?」



 「ああ。お茶くらい本当にいいから」



 「私、紅茶が良かった……」



 末貫……茶だから許して。

 あと、よくこの流れでそんな発言できたな。

 どんだけ紅茶が良かったんだよ。


 しかし、末貫の発言のおかげで場が和んだ。

 ……みんな苦笑いだけど。


 まぁ、こういうところが末貫の良さでもあるんだし、気にしないのが一番だろう。

 

 さて、大人しく宿題をやるか。

 広げてあったテキストを見る。


 

 「しかしよー。陽紀がまだEOFやってなかったのには驚いたなぁ」



 うるさいぞ。加藤。

 お前は嘘でも勉強するために来たんだろ。


 

 「え!? そうなんだー。咲良君、こういうの強いイメージあるから意外だなー」



 おい櫛奈。食いつくな。

 さっきから開いてるページが変わってないぞ。


 

 「でも陽紀、PvPっていうか戦う系のは強いよな。ホラゲーは免疫0だけど」



 やめろ。ホラゲーには触れるな。

 然もなくば、お前が好きなアニメを全部バラすぞ。


  

 「咲良君ってホラゲー無理なの!? 意外だけど可愛い〜」


 

 だから食いつくな。

 ……もう駄目だ。

 

 加藤と櫛奈、このままだと永遠に俺の話題から離れない。

 


 「あれ、加藤ってレベルいくつなんだ?」



 こいつの自慢に協力するのは癪だが、仕方ない。

 一旦、俺の話題から離れて欲しいからな。


 よくぞ聞いた陽紀! という加藤の心の声が聞こえた気がしたが空耳だと思う。


 

 「今はレベル18だな。パーティ組んで頑張ったけど、そんなに上がんなかったよー」


 

 わざとか? ってくらいの棒読みだ。

 櫛奈も突っ込んだ方がいいのか迷っている。


 だが、これは突っ込んじゃダメだ。

 加藤のこういうのは素なのだ。


 ここは俺が助け舟を出してやろう。

 俺が振った話題なのだし、ちょっと申し訳なくなった。



 「凄いな加藤。レベル18って相当じゃないか?」



 「うん! 私の倍って凄いね加藤君!」



 「なんか悔しい」



 「私も悔しい! 京、一緒に頑張ろ!」



 「そうだ! EOFのメンテナンス終わったら一緒にパーティ組もうぜ!」



 「いいねそれ! 京もやろ!」



 「楽しそう」



 「あれ、八瀬はEOFやってるのか?」



 加藤、それは俺も気になった。

 八瀬もやっていると思うのだが、話に入っていない。


 いや、八瀬だけは真面目に宿題に取り組んでいた。

 こっちの話が聞こえてないっぽいな。


 高等なスルースキル。

 櫛奈と四六時中いたら自然と身に付くものなのかも。


 

 「あのね……陽芽もEOFはあったんだけど、従兄弟の子がどうしても欲しがってたからあげちゃったの」



 「優しいんだな」



 つい、呟いてしまった。

 EOFを " 売る " じゃなくて " あげた " のか。


 決して安くはないEOFを。

 中々出来ることじゃない。

 素直に尊敬というか凄いと思ってしまった。


 

 「でも、メンテナンス終わったら出来るから安心してね!」

 


 櫛奈はそう言った後、何かを閃いたようだ。

 あっ! と口に出していたしな。


 

 「そうだ! 初心者同士、咲良君と陽芽の二人でEOFやればいいんじゃないかな? レベルの差もあるし、私達に寄生するみたいなのも嫌じゃない?」



 「でも、初心者二人はキツくないか?」



 咄嗟に反論。

 流石に二人だけはハードル高いぞ。


 というか、俺はどういう形で会えばいいんだよ。

 猫も不味いし、狼なんて以ての外だろ。



 「んー、咲良君こういうの得意そうだし、加藤君がキャラメイクとかのアドバイスすれば大丈夫じゃないかな?」


 「陽芽もそれがいいよね?」



 「うん。出来れば、同じくらいのレベルの人が良いかな……」


 「さ、咲良君が嫌なら遠慮するよ!」



 八瀬……それは断れないやつ。

 だが、話はしっかりと聞いてたらしいな。

 櫛奈達の話にちゃんと付いて来ている。


 それにしても、今も末貫がこっちを見てきて怖い。


 ここで断った瞬間、俺に飛んでくる拳が見えるな。

 まあ、そんな事がなくても承諾はしてるけど。



 「ああ、よろしく八瀬」



 「うん、また連絡するから!」



 そのまま忘れて欲しいが、そんなことは無さそうだ。

 一難去ってまた一難……。


 俺のステータス公開を上手く避けられたが、それ以上に厄介な約束をしてしまった。


 だが、してしまった約束は仕方がないのも事実。

 残りの数日、頑張って知恵を絞ることにした。

 

 

 「じゃあ、俺が役立つ情報を教えよう!」



 ……今日ここに来た意味がやっと果たされる。

 加藤も櫛奈も、俺の話題に寄り道し過ぎなんだよ。


 

 「最初の種族は好みで決めていいかな。後衛やりたいならエルフで、近接とかやりたいなら獣人で、生産ならドワーフ、幾つか掛け持ちでやりたいなら人が良いかな」


 「職業も好みで問題ないんだけど、出来るだけ種族と相性の良い職業がいい。例えば、種族が獣人なのに職業は魔法使い、とかになるのはあんま意味が無いからさ」


 「スキルは10SPと5SPと3SPの3種類あるけど、理想は左から1つ、2つ、3つ取るのが良い。10SPを3つだと序盤で詰む可能性あるし、3SPを10つは火力不足とかになりがちだから。あと、スキル同士の相性も考えて取得した方が良いな。そうすると安定した強さになるから」


 

 詳しいとは思ってたが、想像以上だ。

 初心者に優しいアドバイスをくれた。


 しかし悲しいのは、加藤の情報から見ると俺の初期ステータスは一番ダメな部類に入るということだ。


 ……でも、結果的に強くなれたから良いや。

 八瀬は俺みたいな間違いをして欲しくないな。


 

 「あ! あと、絶対にキャラの外見はリアルと同じにすんなよ!」



 確かに。

 それは顔バレの危険性もあるし、普通に駄目なやつだな。


 だが、八瀬も馬鹿じゃないから大丈夫だと思う。

 自ら個人情報を振りまくような真似はしないだろう。


 

 「なるほどな。参考になった」



 「うん。凄く分かりやすかったよ。加藤君、ありがとう」


 

 八瀬が丁寧にお礼をした。

 加藤は照れている。


 ふぅ。何とかなったな。

 これで(サクヤ)がバレる事はないと思う。


 ……あとは勉強に集中するだけだな。


 




 ☆☆☆☆☆






 こうして、突如に開催された勉強会は無事終わった。

  

 櫛奈と加藤は終始ずっと話していた気がしたが、櫛奈の方は多分問題ないと思う。

 加藤は……夏休み最終日に泣くことになりそうだな。


 俺は大体終わった。 

 かなり真面目にやったし、前のメンテナンスでも宿題を進めていたからな。


 八瀬も末貫も真面目に取り組んでいたので、勉強会としては良かったんじゃないだろうか。


 だが、問題も残っている。 

 八瀬からメンテナンス終わった日の午後にEOFやろう。

 という連絡がきた。


 俺は断るわけにもいかず、承諾した。

 さて、どう誤魔化すか。


 残りの数日も、俺はこの問題に頭を悩ます事になるのは明確だった。



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