誘い
リアル回です。
区切りがいいか微妙ですが、ここから新章です!
【ログイン27日目】※ゲーム内時間換算(20日)
ログインしました。
昨日は本当に大変だったなー。
草原エリアでレイクさん達を助けたあと、森エリアでプレイヤー達との連戦。
その時に、レイクさんが瀕死に追い込まれてしまった。
しかし、俺が颯爽と登場してプレイヤー達を一蹴……見事に森エリアを守ることに成功した。
それは良いんだが。
目の前に表示されたのは、メンテナンス中の文字。
そして、俺のいる場所は森エリアの洞窟……ではなく、あの白い空間だ。
メンテナンスの詳細を詳しく見る。
……なんと、1週間もメンテナンスが入るらしい。
更に今日以降、《鑑定》などの全スキルを発動すること自体も叶わなくなり、貴重な夏休みを活用できなくなってしまった。
えー、何だよー。
ログインしたら《鑑定》でレベルがどのくらい上がったか見ようと思ったに、すっかり気が失せてしまった。
昨日、プレイヤー達を撃退した後。
俺らも夜が遅いので、直ぐに解散してしまったのだ。
だから、自分のステータスを見るのを楽しみにしてたのに。
……この楽しみはメンテナンス後にお預けだな。
とにかく俺はやる事がない。
いや。
よく考えたらあったわ。
☆☆☆☆☆
ログアウトしました。
俺は残った宿題を片付けるためにログアウトした。
現在の時刻は午前8時。
まだ残っているが、1週間もあれば終わるだろう。
逆に言えば、この期間に終わらせなければならない。
俺は机に座る。
ペンを手に取り、ノートを開く。
さて、チャチャッと終わら――
――ブブッブブッー。
携帯が鳴った。
恐らく着信だが、誰からだ?
俺は携帯を見る。
……加藤か。
ちょっと予想してたけど、どんな用件なんだか。
流石に切るわけにもいかない。
仕方なく俺は応答ボタンを押した。
「もしもし? 加藤?」
『おお! ちゃんと出たな、えらいぞ陽紀』
「で、用件はなんだ?」
『いや、EOFがメンテナンスだからよぉ……今から遊ばね?』
こいつ……。
宿題は終わってるのか?
だが、それを抜きにしても行動が早いな。
遊びへの情熱はよくわかった。
「おい、宿題は?」
『は? 何それおいしいの?』
宿題への現実逃避もよく分かった。
恐らく、山積みになった課題を見て心が折れたんだろう。
「俺は宿題を終わらせたいんだが……」
『……んー、じゃ。勉強会ってのはどう?』
それ絶対に勉強しないやつだな。
お喋り会になって終わるだけ。
『EOFの情報交換もしようぜ?』
ふむ。それなら悪くない。
単純に興味あるし、俺についてそれとなく聞きたいこともある。
「その話、乗った」
『じゃあ、9時集合で昼飯は各自な』
「どこ集合なんだよ」
『……図書館でいいよな?』
「別にいいぞ」
『じゃ、決定。俺はあと何人か声を掛けるから、遅れんなよ』
「了解」
俺は電話を切ろうとした。
が、加藤からストップが入る。
『あ、待て!』
「……何だよ」
『集まった奴は全員ステータス吐いてもらうから。その時になって忘れた、は無しだからな?』
「…………」
『おいおい陽紀ぃ? 情報交換って言ったよなぁ?」
「…………」
『お前だけEOFの集まりも参加してないよなぁ?』
……これが虐めか。
本人が望んでない事を、圧力を掛けて押し切る。
恐らく、加藤は俺が何か誤魔化していることに気付いている。
それを分かった上で、やっているのだ。
タチが悪いな、全く。
「……分かったよ」
『HAHAHA! 楽しみにしてるぞぉ?』
そう言い残すと、電話は切れた。
ふざけた奴だ。
その気になれば、お前の事をどうだって出来るんだぞ?
って言ってやりたい。
例えば。
加藤の好きな人が、同じクラスの櫛奈宇海って事をバラしたり。
中学生の暗黒時代の痛〜い思い出を暴露したり。
こっちだって脅しは出来る。
まぁ、やらないけど。
とにかく。
9時から図書館に行かなくては。
その為にも、色々と支度しないとな。
朝ごはんだってまだなのだ。
ていうか、久しぶりに外に出るな……。
☆☆☆☆☆
現在の時刻は8時55分。
俺は図書館の前にいる。
あれから色々あり、無事に図書館に行き着いた。
俺の家から微妙に遠いので、自転車を利用した。
それにしても暑い。
自転車を駐輪場に置く。
早く涼しい図書館に入りたい……。
少し早歩きで図書館の自動ドアをくぐる。
その瞬間に感じる冷気。
最高だ。
その余韻に浸りながらも、辺りを見回す。
……加藤達は何処にいるのか。
ふと、入り口付近に置いてある新刊コーナーに目をやる。
上から下に目を通す。
おっ!
前から読みたかった本を発見した。
さらに気になっていた本も一緒に置いてある。
新刊だから、最近有名になった本が多く入荷したのだろうか。
何にせよ、幸運だ。
早速この本を借りたい。
ん?
おおっ! あの漫画の新刊があるじゃないか。
うっ、今すぐ立ち読みしたい。
が、この本も借りたい……。
手に持った本と、棚に並ぶ漫画の間を視線が交互する。
よし、立ち読みしてから借りよう。
念の為この二冊は、バックに入れておく。
決して万引きなどではないので安心して欲しい。
ふふふ。
こんなところで巡り合えるとは、図書館も捨てたもんじゃないな。
俺は記念すべき第1ページ目を開く。
懐かしい。
この漫画は少し癖のある画風だったな。
だが、今はそれが心地いい。
「あ、おーい! 陽紀ー! 遅刻だぞぉー!」
チッ。
加藤が図書館に入ってきた。
お前も遅刻だろ。
目に付きやすい入り口付近だから発見できた漫画だが、今度はそれが弊害となった。
良いところで邪魔をするな。
時計を確認する。
午前9時4分。普通に遅刻だ。
「俺は9時前に着いてたから遅刻じゃないぞ。ちょっと寄り道しそうになったけど」
「あ、そう。みんな何処にいるんだ?」
「知らん」
「は? 陽紀は遅刻してないんじゃないのかよ」
「そうなんだけどさ。気になってた本があって……ね?」
俺がそう言うと、加藤は俺の手にある本を見た。
そして、冷めた表情になる。
俺の本好きは加藤も知ってるからな。
納得したと同時に呆れたんだろう。
「……そうか。とにかく行くぞ」
「ああ」
割と大きい図書館を加藤と二人で歩く。
なんで結局こいつと一緒なんだか。
図書館に人はあまり多くない。
外が暑くて、人は外に出たがらないし、殆どの若者がEOFに夢中になっている筈だからな。
そんなEOFがメンテナンス中の今。
全国の学生は宿題を終わらせようと、机と向き合っている事だろう。
そんな中、わざわざ図書館まで来る物好きはいない。
友達と勉強会をするやつら以外はな。
「それにしても、誰を誘ったんだ?」
「ああ? 櫛奈と八瀬と末貫だよ」
「え、はぁ?」
この三人は女子。
こいつ、女子だけを誘いやがった……。
前のEOFの集まりには、もっと男が居たはずなのに。
狙いは絶対に櫛奈だろう。
こいつ、俺を利用したな?
適当に呼び出して来るのが、俺くらいしかいないというのが本当の理由だろうが。
「男ばっかじゃ、意味ねーだろ?」
加藤は誇らしげに言う。
ふざけんな。
俺はこの三人と殆ど面識ないんだぞ。
何を話せと?
EOFの話題だって言えないことの方が多い。
何だってランキング1位だからな。
「いや、俺に何を話せと?」
「そこら辺は俺がフォローするから、ね」
信用するしかない、か。
ていうか、なんであの三人が来たんだろうか。
加藤も面識はそこまで無かったと思うが。
「どうやって誘ったんだ?」
「いやー、ダメ元で末貫誘ったらさ。なんか八瀬と櫛奈も来るってなっちゃって。もうホクホクだよね」
「俺を誘ってなかったら一人で行ったんだろ?」
「あったり前じゃーん、って言いたい所だけど。流石の俺でも三対一は厳しいかな?」
どっち道、利用はされてたんだな。
まあ、俺もEOFの情報を得るという目的で来たのでお互い様だ。
一階を周っても、櫛奈達を発見できなかった。
なので、俺たちは二階に上がる。
一階に比べて二階はあまり広くはない。
しかし、机と仕切りが多いため見通しが良くない。
なので、見つけるのは大変そうだ。
「あ、あれ。櫛奈達じゃない?」
「え、どれだ?」
そう思った矢先、加藤が難なく発見した。
階段を登って右手のテーブル。
しかし、そこに櫛奈達はいなかった。
代わりに大学生くらいのお姉さんがいた。
「……おい。わざとだろ」
「見間違え〜」
絶対わざとだ。
何が楽しくてこんな事をするのか、理解できない。
だが、こいつの意味不明な言動は今日に始まった事じゃない。ここはクールに受け流そう。
若干ムカついたが、自分の感情を制御することに成功した。
引き続き、階段を登って左手から櫛奈達を探す。
右手は何か嫌だ。
「あれ。加藤君と…………咲良君、かな?」
明らかに加藤ではない声。
まぁ、加藤が声真似してる可能性もあるが、声がした方向に振り向いた。
「お、末貫じゃーん!」
末貫京。
俺と加藤と同じクラスの女子。
高校生にしてはかなり低い身長と、凛とした顔立ちが特徴の人物。
ショートカットで眼鏡をかけており、その容姿から男子の人気は高い。
性格は至って温厚とは程遠く、思った事はズバズバ言ってしまうタイプ。
裏表がないので、良い人っちゃ良い人なのだが。
しかし、そんな性格も男子の一部から人気が高い。
あとは……めっちゃ強い。
小柄な体格に似合わず、鋭い蹴りと重い拳を放つ。
そして。その強さの秘密は誰も知らない、らしい。
「おはよう、末貫さん」
「咲良君と加藤君、おはよう」
「おはよう! 末貫」
名前をしっかり思い出してくれたな。
忘れられてたのは悲しかった。
しかし、末貫さんと会えたのは幸運だ。
これで、櫛奈達のいる所に案内してもらえる。
歩き回るのはもう疲れた。
早く座りたいのが、今の正直な気持ちだ。
「末貫さん。櫛奈さん達は何処?」
「あっちの方。あと咲良君、" さん " はいらない。陽芽も宇海も付けなくていい」
「そうだぞ陽紀。そもそも、お前そんな感じじゃないだろーが」
「分かったよ。末貫さn……末貫、これでいいよな」
「ふふっ……うん、いいよ。」
なんだ。この恥ずかしさは。
とりあえず加藤はムカついたから軽く殴っとく。
末貫は歩き出す。
櫛奈達のところに行くんだろう。
その小さい背中についていく。
あー、俺のステータスどう言い訳しようか。
実はまだ考えてない。
EOFの話題にはどうやっても必ずなる。
その時に、加藤から俺のステータスについて聞かれるのも確実。
上手い言い訳はないかな?
知らんぷりして勉強するのも手だが、末貫や櫛奈から聞かれたら答えざるを得ない。
得策では無いだろう。
まぁ、だからと言って良い方法があるわけじゃないのだが。
なるようになる。
この精神でいくか。
深く考えないでノリで乗り切る。
男子だけよりは女子もいた方が、加藤からの口撃も減るので良い。
……出来るだけ勉強してよ。




