終戦
【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日)
side:???
パラメータとスキル。
確かに両方ともプレイヤーにとって、生命線と言っても過言ではない要素。
それはどのゲームにおいてもそうだ。
完全スキル制、完全レベル制のゲームは少なくない。
今では最も慣れ親しむシステムの一つだろう。
そんな数多くの優れたゲームシステムの中から、このゲームの運営……則ちEOF運営が採用したシステムは、パラメータ、スキル、レベルが全て存在するもの。
プレイヤーの人としての個性を表すには、レベルやスキルといったシステム単体では足りなかったのだ。
よって、全部乗せというシステムを組んだ。
しかしそうなると、どこに重きを置くかが重要になる。
そこでEOF運営はそれぞれのシステムに、現実世界の人間に倣った役割を与えた。
レベルは経験。パラメータは身体能力。スキルは才能。
そして、称号は経歴。
こう分類することで、一つの値が突出してもバランスが保たれる……筈だった。
それは、EOF運営が " 存在値 " というプレイヤー個人の、世界に与える総合影響力の目安を実装することで明らかになる。
存在値77。
このゲームが始まって3週間弱経つが、この数値に行き着くのはほぼ不可能。
ほぼ、という表現をした理由は簡単。
サクヤというプレイヤーの存在値が77だから。
なんと、ランキング2位との差は30。
明らかに突出した強さだ。
何故、ここまで強いのか。その理由は簡単。
偶然か必然か。数々のレア称号を自力で獲得しパラメータの大幅上昇補正を受け、高難易度クエストをソロクリア。
その結果、更にスキルやパラメータが強化されたのだ。
EOF運営の意図とは真逆の成長を見せるサクヤ。
当然、EOF運営もその存在に気付いた。
しかし、EOF運営は何も出来ない。
下っ端にはその権限がないからだ。
" 自由 " をコンセプトにしたゲーム。
そう簡単にプレイヤーの個人情報と言ってもいいステータスは、EOF運営だとしても観覧する権限はない。
増してや、個人の弱体化などは持っての他だ。
余程、上位の権限がないと許されないこと。
それ程までにEOF運営上層は " 自由 " に拘っていた。
だが、その他にも理由はある。
余りにも少ない魔物プレイヤーの人口増加という思惑だ。
その為にも、サクヤには目立ってもらわなくてはならない。仮に、ゲームバランスを崩壊させる可能性があるとしても。
そういう意味でも、今回の魔物vsプレイヤーの戦いはEOF運営にとって好都合だった。
どちらが勝っても、魔物プレイヤーの強さを宣伝出来る上に、人種プレイヤーの意識改善にも繋がる。
EOF運営は運営としての最大の権限を使って、この戦いを見ていたのだ。
レイクの奮闘からロイの武技。
ブランの指揮やノウズの支援。
そして、サクヤの参戦でEOF運営の興奮は最高潮だった。
……だが、EOF運営はこの戦いの結果を既に分かっていた。それ程までにサクヤというプレイヤーは異質で最強。
サクヤ本人は気づいていないが、パラメータの差というのは本来、大差つかないように調整されているのだ。
レベルが1上がるごとに、各パラメータが1上がる。
これが一般的な上昇の仕方。
ここに《筋力強化》などのスキルがあれば、筋力のパラメータ値が一定レベルごとに1の上昇補正を受ける。
どう頑張っても、同レベルのプレイヤーのパラメータ差が二倍などになる事はない、筈なのだ。
パラメータとは身体能力。
最も単純で簡単で分かりやすく強力なものだ。
速力が相手の倍あるならば、まず全ての攻撃を避けられる。
そして、全ての攻撃が当たるだろう。
いくら優秀なスキルを持っていようが、発動しなければ意味はない。
もし。当たれば即死のスキルが有ろうと、当てられなければ意味はない。
筋力を超強化するスキルを使っても、倍以上の筋力を持つ相手には敵わないのだ。
シンプル故に凶悪。
サクヤはロイのパラメータの数倍。
戦力差は絶望的。
如何に固有スキルを持っていようと勝目は無い。
もし、今のEOF運営にサクヤのパラメータを操作出来たなら。直ぐに全ての値を今の十分の一にするだろう。
だが、それは叶わない。
そんな権限があったとしても、もう遅いのだから。
サクヤは警戒している。
ロイの使った武技を気にしているのだ。
確かに厄介なスキルである≪双剣乱舞≫。
しかし、サクヤの力からしてみれば雑作もない。
圧倒的な速力で接近し、圧倒的な筋力で粉砕すれば終わる。
いらない警戒だ。
これも、サクヤが自分自身の強さを認識していない証拠。
サクヤが走った。
速力368が駆ける。
サクヤは圧倒的に対人戦の経験が少ない。
なので、レイクを圧倒したロイのことを警戒している。
よって、速力368を全力で活用したのだ。
そしてその結果、サクヤ以外のプレイヤーからはサクヤが消えたようにしか見えなかっただろう。
しかし、当の本人はその事にも気付かない。
更にサクヤは筋力365を容赦なく振りかざす。
ロイに直撃。
流石の【超感覚】も認識すら出来ない攻撃を避けることは出来ない。
ロイのHPを200ほど削った。
ロイの残りHPは約100。
あと一撃で街に戻ることとなる。
そして、それは案外早い。
サクヤが追撃を仕掛けた。
避けられない。
次の瞬間、ロイはポリゴンとなって散る。
プレイヤーランキング4位が脱落。
残るプレイヤーは13人。
この内、サクヤに対抗し得るスキルを持つ者はいない。
よって、この時点でサクヤの勝ちは確定したようなもの。
過程がどうであれ、結果は変わらないだろう。
『全員、総攻撃だ!』
《念話》を持つブランが指示を出す。
人数が減らない内に、少しでもダメージを与える作戦だ。
しかし、もう遅い。
その作戦を実行するのに、プレイヤーの人数が減りすぎている。
ブランの敗因を挙げるとしたら、それは慎重になり過ぎてスキルの使いどころを誤ったこと。
早い段階でレイクを仕留めるべきだったのだ。
森エリアのエリアボスに固執し過ぎた結果、本来なら倒せたレイクに十数人のプレイヤーが倒された。
レイクの思惑に上手いこと乗せられたのだ。
ブランの指示を受け、プレイヤー達は各々の切り札……からはワンランク下がる攻撃を繰り出す。
勝てないと分かった時点で、自分の切り札を晒す真似はしない。
ここには、ランキング上位のプレイヤーが揃っているから尚更だ。
対するサクヤは、どの順に攻撃するか迷っていた。
魔法使いを狙うか、前衛を狙うか。
長考の結果、選んだのは魔法使い。
サクヤは速力を駆使し、魔法使いの裏を取る。
プレイヤー達が放った攻撃は見事に空振った。
《爪撃》。
元々、HPが低めの魔法使いは一撃でポリゴンと化す。
一人倒したらもう一人。
一人倒したらもう一人。
仲間を巻き込む恐れがあるため、強力な範囲系魔法を使えない魔法使い達。前衛のフォローも遅れた。
ほぼ一撃。
一桁単位のHPで生き残ったプレイヤーも、次の攻撃でポリゴンと化す。
あれほど落ち着いていた空気が一転、混沌となる。
もはや、ブランの指示も意味を為さない。
魔法使いが駆逐され、遂にサクヤの手は前衛プレイヤーにも伸ばされる。
身体が大きく攻撃が当たりやすい筈のサクヤに、全く当たらない前衛プレイヤーの攻撃。
武技、スキル、魔法、全ての手段が通じない理不尽。
全滅はもう時間の問題。
一人、また一人とポリゴンに変わる。
プレイヤーランキング2位のエリカも、弓の射程を活かせない近距離に近付かれれば、その武器も邪魔な長物にしかならない。
プレイヤーランキング3位のブランも、魔法が通じずスキルが意味を為さなければ、どうという事はない。
リリもメルも成長したが、まだまだ。
一矢報いることなど、夢のまた夢。
こうして、後に " 白騎士戦 " と呼ばれることになる戦いは、" サクヤ " というプレイヤーの圧倒的な力を認知させられる形で幕を下ろした。
" 黒狼 " と " 白騎士 " と " 歪渦 " 。
この三人が、こう呼ばれる日も遠くない。
そして。
その正体が露見するのも、そう遠くない。
しかし、今はまだ介入しないでおく。
いつか接触する機会があれば、その時。
さて。スキルを解除しようか。
満足するものは見れた。
データも沢山取れたので、このゲームの改善に活かすとする。
唯一の誤算は、あのエリアボスくらいだ。
だが、ネタバラシはまだ早い。
俺は外へ出た。
そして、俺が存在した履歴を全て削除。
これで叱られる事はない。
俺の存在がバレる事はないのだから。




