開戦②
【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日)
それは降り注いだ。
白銀の鎧を、黒焦げに変えようと。
草原エリアで俺が食らった、あのファイヤウェーブだ。
それが合計5個、レイクさんに降り注ぐ。
範囲は広い。
回避はもう厳しいだろう。
流石にHPが500あっても、100は持ってかれそうな勢い。
思わず顔を蹙める。
レイクさんは斧を両手で持つ。
もう合図なのか?
レイクさんは柄の中心を持った。
何をするつもりなのか分からない。
すると。
斧が回転した。
速い。残像が見えるほど速い。
高速回転させた斧を、ファイヤウェーブに向ける。
ま、まさか。
次の瞬間、ファイヤウェーブと斧が衝突する。
そして、その炎が一瞬にして掻き消される。
五重になったファイヤウェーブが、まるで風前の灯だった。
レイクさんが斧の回転を止め、片手に持ち直す。
その動作も、さっきと比べて華やかに見える。
レイクさん、本当に何者なの?
今すぐ《念話》で聞きたい。
そんな事を思った束の間。
間髪入れずに、二人のプレイヤーが斬りかかる。
剣と槍を使う二人だ。
それぞれが同じタイミングで武器を振り下ろす。
レイクさんはその攻撃を二つ纏めて難なく受け流した。
その流れに沿うように、がら空きとなった二人の身体に斧を三閃。
二人のプレイヤーは一瞬硬直し、ポリゴンとなって爆散する。
これで残りは30人。
その30人も、レイクさんの動きを見て完全に動きを止めている。
呆気なく二人が倒されたのが、信じられない気持ちなのだろう。
俺もそうだ。
正直、俺よりレイクさんのが強いんじゃないか?
数値的なステータスは確かに俺の方が上だが、プレイヤースキルという面では圧倒的にレイクさんが上だろう。
それに比べたら俺はゴリ押しだ。
レイクさん、マジで何者?
今の日本で斧を容易く振り回せる人なんているのか?
ちょっと、聞いてみよ。
俺が5秒ほどくだらない思考をしていると、プレイヤー達が動いた。
見た感じ、会話をしているようには見えなかったが《念話》などのスキルを誰かが持っているのかもしれない。
レイクさんに向かっていくのは盾を持ったプレイヤー。
中途半端な前衛だと、人数を減らされるだけだと判断したのだろう。
まぁ、その盾も純魔銀製の斧にかかれば、一撃で粉砕されそうだが。
そんな俺の予想とは反対に、盾はレイクさんの攻撃を防いだ。
だが、あまりの衝撃に盾を持ったプレイヤーは次の動きに移れない。衝撃までは防げなかったようだな。
その間に、レイクさんは次の攻撃を繰り出す。
斧を、盾の守りが届いていない横腹へ水平に振る。
また一人減ったかな、と思った。
しかし、盾持ちプレイヤーの横から矢が飛来する。
レイクさんから見えない方向から撃たれた。
既に斧を振っているレイクさんに回避は出来ない。
そう思っだが、レイクさんは攻撃をやめて身体を捻る。
側を通過しようとする矢を、斧を持っていない左手で掴んだ。
身体の捻りを利用して矢を投げる。
その方向には身長が低めの女の子がいる。
まさかの不意打ちに驚いた様子だったが、矢を躱した。
「ファイヤボム!」
「ウォーターカッター!」
「パラライズ!」
「ロックハンド!」
「エアカッター!」
体勢を元に戻したレイクさんだが、その前にはもう盾を持ったプレイヤーはいない。
そして、待ってましたとばかりに魔法が降り注ぐ。
これは回避できない。
斧を回そうとしても遅いし手遅れ。
確実に当たるかと思えた。
だが、こういう時のためにマカがいるのだ。
レイクさんの鎧の隙間、本当に少しの隙間から液体が外に出る。
そして、レイクさんを覆うほどに肥大化した。
魔法が激突。
それは全て飲み込まれる。
直ぐに鎧の中に戻り、何事もなかったかのように居なくなる。
白銀の鎧にはまだ傷一つ付いていない。
結構大規模な魔法だったのに気の毒だ。
やはりマカも壊れてるな。
でも、レイクさんの方がヤバイ。
明らかに見えてない位置から飛んできた矢を、かなりスピードも出ていたのに片手で掴むのはどう考えても人間業じゃない。
これは本物の魔物だな。
ステータスは魔物以上でPSも人外。
一体誰がこんな化け物に勝てるのでしょうか。
30人のプレイヤーも再び唖然としている。
『マカ、大丈夫か?』
俺はその隙に《念話》でマカに連絡する。
念のため、マカのHPが減っていたりしたら良くないからな。
それに、《念話》でしかマカの状態が分からない。
レイクさんの鎧に阻まれて《鑑定》が出来ないのだ。
『大丈夫よ。1もHPは削れてないわ』
《無限吸収》は伊達じゃない。
文字通り全て吸収したようだ。
マカと同様に、レイクさんもHPは減っていない。
30人に突っ込まずに、一人一人と戦っていれば消耗は少ない。
勝ちの目は全然あるのだ。
これは予め決めていたことなので、レイクさんは動かない。
プレイヤー達が唖然と固まっていても、だ。
レイクさんは斧を構える。
斧を片手で持って、もう片方の手は空けている。
かなり大きい斧だが、片手で持つのか。
やはり300の筋力は凄まじい。
「作戦は伝えた通り! 決して深追いするな!」
漸くプレイヤー達が動き出す。
再び魔法を発動。
「「ファイヤアロー!」」
「「ウォーターアロー」」
「「ブリーズアロー!」」
「「ソイルアロー!」」
それぞれの属性の同魔法がレイクさんに向かう。
その後ろから、魔法を追いかけるように武器を持ったプレイヤーが続く。
盾、剣、槍、短剣、鎚などを持っている。
盾が先頭だ。
レイクさんは自分に向かってくるプレイヤーを一瞥すると、意識を魔法に向ける。
先程のファイヤウェーブなどの魔法と比べると、やはり速度が速い。また吸収されないように、マカが肥大化する前にレイクさんに当てようとしているのだろう。
だが、マカを使わずともレイクさんは軽々しく避けた。
器用に身体を傾けて、全ての魔法を躱しているのだ。
これまた人間の体捌きじゃない。
その重そうな鎧でも、よく動けるものだな。
速力300も伊達じゃないようだ。
俺がそう思考している間に、レイクさんは一度も魔法に当たることなく避けきった。
しかし、まだ終わりではない。
魔法の次は物理攻撃。
盾を持ったプレイヤーがレイクさんに近づく。
さっきと同じプレイヤーだ。
きっともうHPは回復しているのだろう。
僧侶っぽい女の子に回復してもらっているところを見たからな。
レイクさんは斧を突き出す。
盾の正面を突く攻撃だ。本格的な武器破壊が狙いなのだろう。
恐らく、プレイヤーが正面から斧を受け止めれば盾は壊れる。
だが、プレイヤーもそんなに甘くない。
レイクさんが突いた斧を受け流した。
本来、盾は攻撃を受けるもの。そういう認識を覆してきたのだ。
予想外の流しに一瞬動きが止まるレイクさん。
その隙を逃さずに、盾を持ったプレイヤーが動く。
レイクさんの頭目掛けて上段回し蹴り。
重そうな盾を持っているのに綺麗なフォームだ。
素人が出来る域じゃない。
リアルで何かやっていたのだろうか。
だが恐らく、レイクさんも素人ではなく玄人。
斧を受け流され体勢を崩してもおかしくないが、レイクさんは冷静に対応する。
自分の頭に向かってくる脚を、斧を持っていない左手でガードする。
頭はクリティカル判定がありそうで怖いからかな?
このゲームに急所とかあるのか分からないが、もしあるなら頭は不味いだろう。
HPが減るのは確実。しかし、レイクさんは腕で受けたのでそれ程減っていない筈だ。
だが、プレイヤー達の攻撃は止まっていない。
レイクさんは斧を受け流され、左手もガードしている。
そんな状態で。
盾を持ったプレイヤーの後ろから現れた、槍を持ったプレイヤーと剣を持ったプレイヤーの攻撃を避けれるはずが無かった。
それぞれの攻撃がレイクさんの胴に命中した。
それだけでは止まらず、続けて攻撃が当たる。
だが、その攻撃はここまで。
レイクさんは左手でガードしていた脚を掴み、その筋力にものを言わせるように盾プレイヤーを、槍と剣を持ったプレイヤーの方向に投げ飛ばす。
その結果、空中で身動きが取れない盾プレイヤーと衝突した二人のプレイヤーは木にぶつかる。
かなりの勢いだったので、HPが減ったのは確実。
漸く両手が自由になったレイクさん。
だが、そこに余裕は無い。三本の矢が迫る。
さっきの矢より速度が速い。
これを掴むのは無理だろう。
レイクさんもそう判断したのか、矢を斧で受けた。
一本、二本と危なげなく弾く。
そして三本目を受け――
――た瞬間、矢が爆発した。
爆発はレイクさんの鎧を巻き込む。
そこへ追い討ちをかけるように、二本の短剣が投げられる。
しかし、爆発でレイクさんの姿は見えない。
あまり効果的とは言えない攻撃だが、何が狙いなのか。
二本の短剣は、おおよそレイクさんが居るであろう位置に飛んでいく。
次の瞬間、更なる爆発がレイクさんを襲った。
あの短剣が爆弾のような役割を果たしたのか?
だが、爆発効果のある短剣なんか作れるのだろうか。
俺の《錬金術》で火薬を作れない事は無さそうだが、それを短剣に合成して爆発する短剣を作るのは難しそうだ。
まず、短剣が作れないし。
火薬の素材も分からない。
本当に何処から入手したのか。
爆発する短剣に爆発する矢。
なかなか一筋縄ではいかないな。
爆発が収まると同時にレイクさんを《鑑定》する。
現在のHPは140。
あの爆発でHPを150近く削られた。
不味いな。また爆発を食らったらその瞬間に終わり。
白銀の鎧にも傷が付いており、状況が悪いのは一目瞭然。
もう、斧で攻撃を受けるのはやめた方が良いだろう。
というか出来ない。
あの矢と短剣は危険すぎる。
『レイクさん、大丈夫ですか?』
一応、助けがいるかどうか聞く。
レイクさんが倒されてしまっては元も子もないからな。
『大丈夫です。ようやく身体の使い方に慣れてきました。もうあのような攻撃は受けません』
何とも頼もしい返事が来た。
あんな動きが出来たのに、まだ身体の使い方に慣れてなかったらしい。
レイクさんがパラメータを完全に使えるようになったら、どんな動きが出来るようになるのか。
もはや想像がつかない。
だが、この戦いがまだ終わっていないことは確かだ。
いや、レイクさんが漸く自分のパラメータに慣れたのだ。
本当の戦闘はここからかもしれない。




