進攻する者達
【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日)
side:とあるプレイヤー
「壮絶なメンツだなぁ」
俺はもう何回目か分からない台詞を吐く。
無意識かどうかも分からない。
あの森エリアを進んでいるのに、こんなに無警戒でいいのかと思うが、他のプレイヤーが周りを警戒しているので問題ない。
人任せだと思うかもしれないが、こういうのはその分野が得意なやつに任せたほうが良い。
役割分担、適材適所というやつだ。
事前に打ち合わせもしてある。
それに逆らうのも駄目なのだ。
「何言ってんだ。お前もその一人だろ?」
俺のパーティメンバーであり、リア友でもあるカムイが笑いながら言う。随分こいつも余裕あるな。
ふと周りを見るが、俺達以外に談笑してるプレイヤーはいない。雰囲気が引き締まっているのは良いが、緊張し過ぎなのも良くないだろ。
そう思ったが、俺が気にすることでもないと思い直す。
俺は楽しめれば良い。
「だってよー、あのエリカやブランと歩いてるんだぜ? 一人のプレイヤーとして感動しないわけないだろ」
「よく言うよ。プレイヤーランキング4位のロイさん?」
うるさいぞ、プレイヤーランキング14位のカムイさん。
俺の方が上なんだから敬えよ。
俺は自分より上を敬ってるぞ?
例えば……サクヤさんとエリカさんとブランさんとノウズさんとか。
有名プレイヤーは好きだ。
しかも、その内の3人がこの場にいる。
嬉しすぎて、フレンド登録をお願いしたくらいだ。
エリカさんには断られたけど。
この時点で俺はすでに満足。
これから森エリアのエリアボス討伐をするけど、あんま興味ないかも。
「そこ、うるさい」
ムッとして、声がした方向を見ると弓を持った女性がこちらを向いていた。
エリカさんだ。
「いや、すいません」
プレイヤーランキング2位には媚びとかないと。
後が怖いし、仲良くしたい。
現在、レイドを組んでいる人数は32。
パーティが6のソロが4人だ。
6人パーティが二つ、5人パーティが二つ、4人パーティと2人パーティが一つずつ。
ソロは、エリカさんノウズさんブランさん。
あと、よく分かんないやつ。
ソロで攻略が出来るのは、皆レベルが高い証。
そうでもなきゃ、ハイリスクハイリターンなソロなんてやっていないだろう。
やはり凄い。
これが俺とランキング上位者の違いか。
「いやー、森エリアなんて初めて来たけど……思ったより鬱蒼なところだねー」
「ちょっとリリ! 他の人が静かにって注意されてたでしょ?」
元気のいい子達だな。
見た感じ、中学生くらいの子達だ。
確かこのゲームって中学生はやって良いはずだったよな。
ギリギリの年齢だった気がする。
だが、あまり見かけたことはない。
このゲームをやるために必要なVR本体が、結構いい値段するのだ。
一般的な中学生のお財布では賄えないだろう。
余程お金に余裕があるのか?
まぁ、俺が気にすることでも気にかけていい事でもない。
しかし、この状況で話をするとは肝が座っているな。
俺がエリカさんに怒られたばかりだというのに。
「おーい、君たち中学生?」
俺は声をかけてみた。
決して、出会い目的に声をかけたわけじゃない。
単純に気になったのだ。
よく見るとこの子達、装備がやたら高価だ。
ランキング上位プレイヤーしか呼ばれないこの場にいる時点でかなり強いのは確かだが、戦士っぽい方の女の子が持っている剣、下手したら俺よりも良い装備かもしれない。
魔法使いっぽい子も見たことない装備を着ているようだし。
俺が知らないだけで、かなり有名なプレイヤーなのか?
それを確かめるためにも、俺は声を掛けたのだ。
歩きながら、その子達の方へ近寄る。
かなり端の方だ。
戦士っぽい子が、察知スキルを持っているというのを今更ながら思い出す。だから端にいるのか。
「はーい、中学生ですー」
「お兄さんは高校生くらいですかー?」
「そうだよ。良かったらフレンド登録しない?」
「いいですよー。はい、メルも」
驚くほどスムーズに話が進む。
初対面とは思えないほどのフランクさだ。
コミュ力が高いのか、こういうのに慣れているのか。
いずれにせよ好都合だ。
「ち、ちょっとリリ!? そんな簡単にフレンド登録とかしていいの!?」
しかし、もう一方の子はそうでもなかった。
相対的にガードが固そうだな。
ま、これが普通の反応だろ。
この、リリって子の反応が少しおかしいのだ。
「あのね、メル。私達ってフレンド全然いないんだよ? この機会に強いプレイヤーのフレンドになっといた方がいいって思わない?」
「そ、それは……そう……だけど」
「じゃ、決まりねー。ほら早くー」
リリがコソコソとメルに耳打ちしていたが、全て聞こえている。これでも基礎パラメータは高いのだ。
リリとメルの二人ともとフレンド登録する。
ついでにカムイにも申請させといた。
あいつも何だかんだ人見知りだからな。
俺らのパーティ以外のプレイヤーでフレンドがいるのか怪しい。
「それにしても凄いね君達。二人パーティでここまで強いのは珍しいよ」
「いえいえ、ロイさんの方が強いじゃないですか」
「俺らの場合は四人パーティだからなぁ。効率っていう面だと悪いんだよ」
このゲームのパーティは、メンバーの数だけ経験値が割られる。二人なら二等分、三人なら三等分だ。
はっきり言って、ソロが最も経験値的には美味しい。
しかし、その分のリスクがある。
単純に魔物が強いのだ。
パーティで挑んでも普通に勝てない時があるほどに。
六人のフルパでも、ボコされる。
そんな中にソロで挑むような馬鹿は少ない。
人数を掛けて確実に倒した方がいいのだ。
一部の強者を除いて。
それが、プレイヤーランキング上位の中でも更に上位のプレイヤー達。サクヤさんやエリカさんだな。
ソロでも戦えるって純粋に凄い。
そして、それと同時に二人パーティでこの場にいる二人も凄いのだ。
「ねぇ、リリちゃん。察知の方は大丈夫なの?」
メルの言ったことに同意する。
察知スキルはかなり神経を使うと聞いたが……。
こんなに話していて大丈夫なのだろうか。
「うん、大丈夫だよー。私のスキルは常時発動型のスキルだからねー」
なんと。
それは羨ましいな。
常時発動型スキルは珍しい。
このゲーム内で、分かっている所持者も二桁いないのだ。
レアスキル。
本当に羨ましいな。
「それは便利だな。俺はそっち系のスキルは持ってないからなぁ」
「あははー。そうでもないよ? だっ――」
――そう言葉を発しようとした瞬間。
リリが勢いよく後ろを振り向く。
かなり切羽詰まった様子だ。
咄嗟に、腰に刺さった剣を抜こうとする。
が、遅かった。
俺が手を伸ばし始めたと同時に。
リリが向いた方向の茂みから、ウルフが現れる。
体長はかなり大きい。
恐らくレベル5はある大きさだ。
ウルフは速い。
俺との距離を一秒も経たずに詰める。
狙われたのはリリ。
一番近くにいたのだから当然だ。
リリの方を見る。
不幸なことに、リリも武器を抜くのが遅れていた。
俺より早くウルフに反応していたから、武器を抜くことができたと思ったのだが……遅かったみたいだ。
ウルフはリリに接近する。
その凶悪な爪を振り下ろす。
誰しもがリリの大ダメージを予視し、動きが止まる。
しかし。
その瞬間にリリは動いた。
今にも、爪を振り下ろさんとしているウルフに。
正面から一歩近づく。
間合いが崩れたため、ウルフの爪は当たらない。
身体の大きさが災いしたのだ。
文字通り、懐に入り込んだリリ。
だが、その手には何も無い。
……と思った。
リリが右手の拳を強く握りしめると同時に、リリの手が淡く光った、気がする。
それを認識した瞬間、リリの右手が真上に閃く。
それは見事にウルフの顎を捉えていた。
リリを超える身体を持つウルフを宙に浮かせる。
その光景だけでも、今の威力がわかってしまう。
ウルフは無防備に地面に横たわる。
が、ポリゴンとなって消滅しない。
{気絶}だ。
頭や顎などに強い衝撃を与えると、低確率で発生する状態異常。
効果時間は10秒だ。
強力な状態異常な故、これを出すのは難しい。
今みたいな正確無比な攻撃が必要となるからだ。
リリは落ち着いた様子で、腰に刺さった短剣を抜く。
そして、ウルフの胸部に刺す。首を落とす。
ウルフはポリゴンとなり消えた。
「お見事」
「ありがとー」
今のスキルが何なのか、それを聞きたい衝動を我慢して。
とりあえず、賛辞の言葉をかける。
「おい、今のスキルは何だ?」
横から知らない男が入ってきたな。
誰だこいつ。
本人のスキルを聞くってマナー違反だろ。
誰でも自分のステータスは隠したいはずだからな。
それが上位プレイヤーなら尚更だ。
今回のレイドに参加したなら、そこら辺を理解してほしい。
そうは思いながらも、いつの間にか隣にいるカムイに聞く。
「おい、あいつ誰だ? 知ってるか?」
「確か、ランキング20位前後の……オニギリムスビって名前のやつだった。名前が凄いから覚えてる」
見るからにヤバそうな名前だな。
何だよ、オニギリムスビって。
「え? えー、あのー」
ほら、リリも困ってる。
答えたく無いが、答えないのも不味いと思ったんだろう。
「お、おっと。すいませんな。余りに凄かったものですから、つい。私、オニギリムスビと申します」
「お嬢さん方のお名前は?」
咳払いしながら、そう言い直す。
さっきの雰囲気とは一転して良い人そうな感じだ。
稀に見る、頭のおかしい奴とは違うようだな。
大丈夫そうで安心した。
「私がリリで、こっちがメルって言いますー」
「おお、そうですか。良ければフレ登しませんかな?」
「フレ登? まぁー、いいですよ」
会話は進む。
リリは友達多そうだな。
何となくそう思ってしまった。
ちょっと羨ましい気もする。
メルの方は大人しい。
カムイと気が合いそうだな。
ちなみにフレ登というのは、フレンド登録の略だったりする。
誰が最初に言い始めたのか分からないが、略す意味があまり感じられないな。
「あ、オニギリムスビさん。俺ともフレ登いいかな?」
「ムスビだけで良いですよ、ロイさん。もちろんフレ登しましょうか」
俺はムスビさんともフレンド登録した。
ついでにカムイのもしといた。これは忘れない。
「しかし、リリさんは凄いですねぇ。私は身体を動かすのが苦手で苦手で。気づいたら遠距離からのネチネチタイプになってましたよ」
ムスビさんは苦笑しながら言う。
身体を動かすのが苦手というのはリアルでだろうか。
リリにマナー違反ともなる事を聞いた詫びなのか。
だが、遠回しに伝えようとしても伝わらないと思うがな。
「メルさんも魔法タイプですよね、見た感じから。語れることが多そうです」
「い、いえ。そんなことはないです、よ?」
苦笑いしながら言うメル。
初対面だし仕方ないな。
逆にこれに対応できるリリがおかしい。
繰り返す。リリがおかしいのだ。
「……!? 前から何か来る」
リリが前を見ながらそう言う。
前、とは俺らが歩いている方向だ。
「前方から何かがこちらに向かっています!」
リリと同時に、別のプレイヤーが叫ぶ。
そんなに慌てることなのか?
「そんなに大変なの?」
俺と同じ疑問を口にしたのはエリカさんだ。
叫んだプレイヤーに聞いている。
そのプレイヤーは一瞬驚いたのか言葉に詰まっていたが、はっきりとした口調で告げた。
「妙なんです。魔物の気配には思えないし、プレイヤーがこんなところにいる訳もありませんから」
そうなのか?
というか、魔物の気配とそうではない気配の区別とかつくのが凄いな。
俺はリリの方を見る。
その視線を感じたのか、リリと目が合った。
「確かに変だねー。魔物ってよりはプレイヤーに近いかな?」
俺の意を汲み取ってくれたようだ。
なかなか聡い子だな。
しかし、魔物よりプレイヤーに近いのか。
まさか本当にプレイヤーってことはないよな。
まあ、ないか。
ここは森エリア。それもかなり深いところだ。
ここに来れるプレイヤーはごく僅か。
それもここにいるメンバーでも一握りしか無理だろう。
そうなると、本当に何が近づいてきているのか分からない。
魔物ではない何か。
イベントでも始まるのか?
少し期待してもいいかもしれない。
「全員止まれ。武器を構えるんだ」
先頭にいたブランさんが指示する。
全員が完全に戦闘態勢に入る。
そして、それは現れた。
太陽の光も遮られるような深い森。
その林の隙間から姿を現す。
白銀の全身鎧を纏った騎士。
僅かな光さえ反射しているように見える。
その佇まいは宛ら歴戦の戦士だ。
俺の身長ほどある、またも白銀の戦斧。
長い柄に片刃の戦斧。
その大きさは明らかに人が扱えるものではない。
それを片手で持つ白銀鎧の膂力は人知を越えているだろう。
その証拠に、鎧の下に人がいる気配がない。
現環境では全身鎧も珍しいのに、如何にもレアそうな白銀の鎧に白銀の斧とは冗談ではない。
32人の息を飲む音が聞こえた気がした。
得も言われぬ緊張感が辺りを包んでいる。
そして。
その沈黙は。
予想だにしない言葉で破られた。
『――我の語が聞こえぬか、この雑種共』




