話し合い
【ログイン26日目】※ゲーム内換算時間(19日)
あの後、二倍になった速力の最大速度で《念動力》を発動させた。
草原エリアを直ぐに抜けて、森エリアまであっという間。
その代償に、マカとレイクさんは気分が悪くなったようだ。
まぁ、現実なら間違いなく世界最恐のジェットコースターになるくらいの速さだ。仕方ないだろう。
マカはトラウマになったみたいだし。
なんか、ごめん。
でも、森エリアに行くって言ったのは君だから責任は取らないよー。
俺達がいるのは、あの洞窟の前。
エリアボスのところだ。
間違いなくここが一番安全だろう。
プレイヤーは来れない。
そして、今からここに来ようとするプレイヤーの対策を考えるのだ。俺はなんでこんな忙しいの?
ここにレイクさんとマカを案内する。
安心してほしいが、マーナさんの許可は取った。
が、それと同時に恐ろしいことを言われたのだ。
『ん? サクヤに任せるから何しても良いよ』
と、言われた。
全責任は俺にあるらしいです。
プレッシャーが半端じゃない。
本当に失敗できなくなってしまった。
そのために、レイクさんとマカには協力してもらう。
俺は二人を引き連れて洞窟に入る。
ここも最初は怖かった。
洞窟を抜けて開けた空間に出る。
ここでレイクさんと話す予定だ。
二人は未だに戸惑った様子だった。
しかし、意外にも最初に立ち直ったのはマカだ。
「ねえねえ! ここ探検してもいい? いいでしょサクヤ?」
あ、そういう感じか。
まあ、いいんじゃないかな、探検。
この子が何歳かは知らないが、ちょっと不安になってしまった。
「いいよ。でも、地下の坑道には入らないでね。迷ったら出られなくなるから。あと、物は絶対に壊すなよ」
絶対の部分を強調させ言う。
壊されたら洒落にならんからな。
もしランク10のアイテムを紛失とかしたら、マーナさんに激怒されそうで怖い。
「あと私、お腹空いたんだけど。何かある?」
「倉庫のを適当に食べていい」
なんだこの子。
いや、なんだこのスライム。
どうやら、遠慮という概念がないらしい。
単純に俺が舐められてるだけかもしれないけど。
まぁ、いいか。
今はそれよりもやる事がある。
マカはいつの間にか消えていた。
行動が早いな。
レイクさんを見ると、何故か微笑んでいた。
……なんか恥ずかしい。
「あ、すいません。マカさんが楽しそうでしたので」
俺の微妙な表情に気づいたのか、レイクさんが言う。
この人、俺より確実に年上だな。
何となくそう思う。
雰囲気というか、物事を見る観点というか。
そんな所が達観しているように思えた。
不思議な人だ。
俺はそう思ったが、直接口にはしない。
する必要がないからだ。
まあ、それより優勢順位が高い用件があるからなんだが。
俺はレイクさんに話す。
森エリアに来るプレイヤーについて。
そして、その対策が必要ということも。
「……なるほど、だから急いでいたのですか。私達に協力できる事があるなら協力しますが、私からも話すことがあります」
話すこと、か。
レイクさんは何を言うのか。
俺は全く想像できなかった。
だが、それもそのはず。
予想外すぎる言葉がレイクさんから聞こえたのだ。
「サクヤさん。あなたはプレイヤーランキング1位のサクヤさん本人ですよね?」
思考停止した。
え、何それ、人違いでは?
そう思ったが、レイクさんがこんな間違いをする筈がない。
そして、名前も一致していたのだ。
サクヤっていう名前がな。
これは致命的だった。
だが、心当たりが本当にない。
まさか俺、運営に嵌められたか?
「あの存在値と、あのサクヤさんの強さは一致します。誤魔化しは効きませんよ」
俺は神速でステータスを開く。
そして、存在値の項目をタップ。
はい。出てきましたランキング。
1位はサクヤさんです! 凄いねー。
俺の完全な自業自得でした。
そういえば、存在値の詳細を確認するの忘れてたね。
いやー、我ながら呆れる。
でも、1位は素直に嬉しいな。
しかも。存在値を見る限りぶっちぎりだ。
存在値77とか化けもんかよ。
「……俺、気づいてませんでした。なんかすいません!」
正直に言った。
いまさら取り繕っても無駄だと思ったからだ。
レイクさんは一瞬、驚いた様子を見せたが直ぐに表情が元に戻る。凄いな、ポーカーフェイスってやつ?
俺が全く違うことを考えていると、レイクさんが言う。
「では、ゲームの情報などはどうやって?」
ゲームの情報?
攻略情報とかのことだろうか。
勿論、俺はそんなものは見たことない。
ネタバレみたいで嫌だからな。
しかし。そういう方法もあるのか。
俺は今更ながら気づく。
現実で情報を交換するっていう方法は思いもしなかった。
精々、ゲーム内の掲示板止まりの発想力だったのだ。
まあ、俺はそういう手段があっても使わないけどな。
いや、掲示板は使えないんだった。
「いや、全くの初見だけど……」
「そ、そうですか。まあ、いいです」
「私は現実世界で情報を少し調べたんです。サクヤさんについての情報はありませんでしたが、考察は山のようにありました」
「へ、考察って何の?」
「ゲームが始まって十日目でしょうか。あなたが草原エリアを開放したとアナウンスが流れたんです。街の広場に来てください、とサクヤさんがアナウンスに呼ばれましたが……」
「すいません、寝てましたね」
「ですよね。今も、街の広場には黒い門があるらしいです。プレイヤーの間では有名な話題です」
は、恥ずかしい。
俺の知らないところでそんな事が。
俺が寝てしまったのも悪いと思うが、俺がいないときにアナウンスをする運営もどうなのか、と思うけどな。
恐らく、プレイヤーの間では俺って有名なのか……。
まぁ、悪い方で有名なのだろうが。
悪目立ちってやつだ。
全く嬉しくない。
「なので、サクヤさんがプレイヤーと接触するのは良くないと思います」
「え、どうゆうこと?」
まて、話が分からない。
なんで俺がプレイヤーに接触しちゃいけないんだ?
戦闘力的に考えると、俺が一番適任だと思うのだが。
負けることはないと思うし、もし負けるとしてもそれなら俺以外でも同じだ。
「草原エリアでサクヤさんの狼姿は、もうプレイヤーに認知されています。それが掲示板を通して、ここに来るプレイヤーの耳にも入っている可能性が高いです」
「ああ、なるほど?」
「そしてこれ以上、その狼にヘイトを集めるのは不味いのです。狼がサクヤさんだとバレた時、プレイヤー達が不正を疑う可能性もあります」
「ああ! なるほど」
この人めっちゃ頭いい。
この限られた時間で、ここまで思考してるって凄いな。
俺には出来ない。
辛うじて理解するのが精一杯だ。
これで、レイクさんの考えと懸念は分かった。
そして、俺が何をすればいいのかも分かった。
「狼じゃなければ良いんだよね?」
「いえ。出来れば魔物プレイヤー全体のイメージのためにも、人の姿が良いんですが……」
《変化》で猫になろうとした、俺の考えが一瞬で論破された。
ドヤ顔で言ったこともあり、かなり恥ずかしい。
幸いなことにレイクさんは気付かなかったようだ。
俺のドヤ顔に。
しかし、人にはなれないのだ。
MPは足りるかもしれないが、イメージする物がない。
キャットオブナイトのような実物もなければ、写真や絵もない。
流石に、現実の俺に《変化》するのは不味いだろう。
レイクさんの案は良い。
が、俺の力不足だ。
申し訳ない。
「まだ人にはなれないんだ……。だから……」
「そうですか。なら、もう一つ考えがあります」
「な、何?」
あっさりと次案を提案するレイクさん。
その予想外の反応に戸惑ってしまう。
この人の優秀さが怖い。
と同時に頼もしさもある。
「相手に私達を視認する暇も与えずに殲滅します」
おぉ、なかなか過激なことを言う。
そういうの嫌いじゃないよ。
でも、いけるか?
俺の竜巻を使えば大丈夫そうだが、危うい。
三十人なら相応の規模が必要だ。
しかし、俺は半径100メートル範囲でしか竜巻の発動も維持も出来ない。
その範囲まで近づく必要かあるのだ。
それも気付かれずに。
いくら《潜伏》があるからと言っても厳しくないか?
ちなみにHPはもう回復したので《耐久》の効果はない。
《隠密》に頼ることは出来ない。
なかなか厳しい戦いになる。
「レイクさん、もし俺が気付かれたらどうするんだ?」
「その時は仕方ありません。全力で私達も戦います」
そうなるのか。
うーん。どっちも確実性に欠けるなぁ。
せめて、レイクさん達がもう少し強かったら安心なんだが。
こればかりは仕方ない。
割り切るとする。
それはそうと、レイクさんとフレンド登録した。
今まで忘れていたからな。
初のフレンドだ。
ちょっと、いやかなり嬉しい。
すると。
倉庫の扉が勢いよく開かれた。
「ただいま! ふぅー、美味しかったわぁ」
お、良いところで帰ってきた。
マカがぽよぽよ跳ねながら来る。
ん? マカ?
俺は気づいた。
明らかな違いに。
「「なんか色濃くなってないか(ませんか)?」」




