蹂躙
【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日)
それは草原エリアに入った時だった。
俺は《念力》で街を飛び越え、外壁を廻ろうとしていた。
掲示板にはレイクさんからの救援要請もあり、急いでいたのだ。
そんな緊急時だった。
マーナさんから驚くべき内容の《念話》が届いたのは。
『森エリアに多くのプレイヤーが来るようなのだが、私はいま手が離せない。サクヤに対処を任せるからよろしく頼む。ちなみに数は三十人くらいだろう』
あなた、エリアボスの仕事サボりすぎじゃない?
つい、《念話》で言いそうになる。
……危ねぇ。
マーナさんにも事情があるのだろう、と思うことにする。
それよりも対処がどうこうの話だ。
森エリアに三十人のプレイヤーが来る、らしい。
そして。なぜ俺がやらなければいけないのか分からないが、対処をしなければいけない。
こんな時に……。
しかも、まだ修行が終わって何十分も経っていないのだ。
もう少し休憩がほしい。
せめて、1日くらいは自由にさせて。
俺はそう思った。しかし、直接言えないのが悲しい。
そう思っていると、《気力操作》と《魔力操作》に反応があった。
もう直ぐで到着するようだ。
レイクさんともう一人の魔物プレイヤーの安全を確保しなければ。
助けてほしい、と書いていたことから緊急なのが伺える。
なので、俺は常時《魔力操作》《気力操作》を発動させていた。
それぞれの周囲を感知することで、人がいるかいないか判別していたのだ。
いくら俺の速力が高くなったと言っても、草原エリアは広い。
こういう方法じゃないと見つけること自体が難しいのだ。
俺は速力を全力にしている。
まだ、自分の身体で走るには慣れが必要だが、《念力》を使っての浮遊ならば問題ない。
例えるなら、乗り物に乗っているみたいな感じだ。
ハンドルを切るだけで操作ができるのに似ている。
目的の場所に着いた。
しかし、そこにはプレイヤーがいた。
なんと、スライムが攻撃されようとしている。
俺はすぐに、プレイヤーとスライムの間に入った。
速度調整をミスって、凄い音が出たのは許して。
俺もかなり焦っていたのだ。仕方ないだろ。
しかし、そのおかげでプレイヤー達の動きが完全に止まったので結果オーライだ。
俺の後ろには魔物プレイヤーが二人いる。
一人はスライムで、もう一人が……なんだこれ。
それは色が付いた霧みたいだった。
しかし、何故か魔物だと確信させられる何かがある。
……幽霊の類か?
それを確かめるためにも軽く《鑑定》する。
結果は予想通り。
種族はゴースト。中々、癖のある種族だ。
ちなみに名前はレイク。
まぁ、それは知っている。
もう一人の種族はスライム。
名前は、マカというようだ。
ネームセンス的に女の人だな。
男でこの名前はいないだろう、多分。
予想をつけた俺は、二人に話しかける。
コミュニケーションは大切だ。
「大丈夫ですか? 俺はサクヤって名前です」
「私がレイクです。サクヤさん、言葉遣いは普段のにしてください。スライムの子はマカという名前です」
「さ、サクヤ……さん?」
「サクヤ、でいいよ。で、レイクさん。この状況は……」
「私達が襲われる寸前でした。助けてもらい感謝です。この6人は倒してもらって構いませんよ」
なるほど、把握した。
このプレイヤー達は敵らしい。
レイクさんに言われた通り、言葉遣いは直した。
何となく、そっちの方がいいと思ったからだ。
マカち……さんは未だに混乱している。
まあ、逆に冷静なレイクさんがちょっとおかしいくらいだ。
その証拠に、目の前のプレイヤーは完全にパニックだ。
会話を聞くだけでわかる。
これが演技だったら凄いけど。
そんなことする意味もない。
「お、おい! どーすんだよ! ヤバいぞ!」
「と、とにかくやるしかない! 魔法をかけ直してくれ!」
「き、聞いてねぇよこんなの!」
「早く魔法をかけろ! 俺たちで仕留めるんだ!」
リーダーらしき男が声をかけ、パーティが機能してきた。
やっぱり、こういう役割の人がいないとなぁ。
うん、素晴らしいパーティだな。
どこ目線で評価してんだ、というツッコミはいらない。
だって、素晴らしいパーティであることに変わりはないからだ。
今も、後衛の魔法使いが前衛の剣士に魔法をかけている。
見た感じ、俺も使っている《付与魔法》だ。
それがあるだけでもう優秀だろ?
剣士も、持っている剣はなんかカッコいいし。
パーティ全体の装備はかなり良いな。
《鑑定》でステータスを見た。
まあ、レベル23、24、25が並んでいる。
パラメータはそうでもなかった。
一番高いのでも、俺のパラメータの10分の1だ。
正直、俺が負ける要素はない。
6人相手だが圧勝だろう。
ここで、このプレイヤー達を粉砕するのは簡単だ。
だが、そんな事はしない。
何故なら。この後、森エリアのプレイヤー達の対処があるからだ。
そして、俺は良いことを思いついた。
レイクさんとマカさんを森エリアに連れて行く。
そこで、試したいことを試す。
……危ないことはしないので安心して欲しい。
これが上手くいけば戦力として、俺の助けになるかもしれない。
そうなれば、俺の負担も減る。
最悪、俺より強いプレイヤーがいる可能性もある。
保険というか……仲間がいるだけで心強いのだ。
そのために、だ。
俺はわざと攻撃を受けて、HPを減らす。
HPの3割を下回れば《耐久》が発動する。
そうすれば《念力》が《念動力》になり、複数の操作が可能になる。
なんで《念力操作》じゃないのか不思議なんだけどな。
まあ、それは気にしない。
《念動力》でレイクさんマカさんを、森エリアの洞窟まで運ぶ。
これがやりたいことの一つ。
プレイヤー達には茶番に付き合ってもらう。
悪く思わないでね!
俺は《鑑定》があるし、気をつけていれば死にはしない。
もし間違って死んでしまうと、カッコ悪すぎて精神的にも死ぬと思う。
それは万が一でも避けなければ。
流石に起きないと思うけどね……。
「はあっ!」
前衛のプレイヤーが斬りかかってくる。
プレイヤーと正面から戦うのは初めてなので、緊張していたが……遅い。
走りが歩きに見えるほどに遅い。
本人は真面目なのが哀れに感じるな。
しかし、これを敢えて受けるのだ。
剣の刃が向かってくる。普通に怖い。
だが、俺は動かない。
キンッッ!!
剣は俺の毛とぶつかり、金属音を鳴らした。
なんで金属音なの?
斬りかかってきたプレイヤーは一瞬目を見開いたものの、直ぐにまた斬りかかる。
頑張れー。
「ファイヤアロー。ファイヤウェーブ」
お、魔法使いが魔法を打ってきた。
俺の知らない魔法もあるな。
少しワクワクしながら、魔法の発動を見る。
まず、ファイヤアローが俺に当たる。
速度が速いこの魔法は使いやすいのだろう。
斬りかかっていた剣士はいつのまにか引いている。
良い連携だなぁ。
もちろん、ファイヤアローが当たっても直ぐに霧散した。
ダメージは……ちょっと入ったな。
少なくとも剣より良いぞ。
HP354まで、あと824だよ!
頑張ってー!
俺の煽りとも捉えられる応援が届いたのか否か。
ファイヤアローに遅れて、ファイヤウェーブがきた。
範囲はわりと大きい。
俺が入るくらいの大きさだな。
ちなみに俺はプレイヤーが二人分か三人分くらいだ。
速度は遅いが、まぁまぁ使えそうな魔法だな。
俺は火の波に呑まれる。
後ろのマカさんにも当たりそうだったので、《念力》で横にズラす。
俺のHPは……結構減ったな。
あと814だ。
「はあ!? 俺の現状最大魔法くらって焦げ跡すらないの?」
「いや待て、何故かあいつ動かないぞ。俺らが時間を稼ぐから " アレ " をやってくれ」
お、作戦会議は終了ですかねー。
HPの自動回復が始まる前に攻撃してほしいんだが。
今度は三人できた。
それぞれの武器は、剣、槍、盾だ。
盾が武器なのか怪しいが、まあ武器だろう。
鈍器としての性能は高そうだし。
後ろの方では魔法使い達が、何やら準備をしている。
一体何をするのか気になる。
《魔力操作》で魔法の発動を邪魔できるか試したかったがやめた。ここは我慢が必要だ。純粋に楽しみたい。
前衛の三人は、俺が動かない方に賭けたのか?
連携なんて関係なしに攻撃している。
微量だがHPが減ってきた。
効率が全く良くない。
まあ、自分のHP減らすのに効率もないか、と思い直す。
「な、何よあいつ!? カッコ良く登場してあの様なの? レイク、本当にあのサクヤって強いの?」
え、マカさん??
今のは幻聴だと思いたい。
えげつないコメントを頂いた。
彼女には " ちゃん " 付けは勿体ないな。マカ、で良いや。
見た目は可愛いスライムなのに、言葉は辛辣。
これにはレイクさんも苦笑いだ。
「ええ、強いです。その証拠に、火の波を受けても全く倒れないでしょう? ここは私を信じてください」
その言葉に、マカも渋々ながら頷いた。
レイクさん様々である。
しかし、これでプレッシャーが余計に加わった。
レイクさんのフォローを無駄には出来ない!
と、息巻いてはいても、する事がない。
あるとしたら、動かないでいる事くらいだ。
仕事をください。
高校生らしからぬ願望が出てしまう。
大人しくジッとしていよう。
……同じことを二回言った気がするけど俺は知らない。
そうだ、歌でも歌うか。
もちろん心の中でだ。
残りHPは……799か。
前衛の三人は頑張ったみたいだな。
じゃあ、あと800くらい頑張ろうか。
なーに……直ぐ終わるさ。
何処ぞのブラック企業の上司みたいなことを思う。
将来俺はこんなこと言われたくないなぁ。
「よし、準備できた! 離れていろよぉ!」
おお!
どんな魔法を見せてくれるのか。
せめて、100くらいのダメージが欲しい。
このままじゃあ、時間がかかりすぎるからな。
範囲が広いかもしれないので。
一応、《念力》《気力操作》をレイクさんとマカに発動する準備をしておく。
俺はどうなっても良い。
死にそうだったら、《魔力操作》で逃げるしな。
「「合体魔法!! ラーヴァウォール!!」」
名前、カッコよ。
恥ずかしげもなく叫べるとこもポイントが高い。
さて。
肝心の魔法はどうだろうか?
俺の目の前に岩の壁が迫り上がる。
横6メートル、縦3メートルくらいだな。
ま、まさか……これ単体じゃないよね?
これでは唯のウォールだ。
カッコいいラーヴァの部分は何だよ。
そう思うが……それは杞憂だった。
壁が壊れたのだ。
しかも、俺の方向目掛けて。
壊したのは……盾を装備したプレイヤー。
確かに、物を壊すの得意そうな武器だな。
……別に馬鹿にしたわけじゃないぞ。
だが、これは何をしたかったんだ?
ブロック状に分解された岩が俺に当たる。
しかし、ダメージになりうる攻撃力は皆無だ。
と、思った。
その瞬間。
ファイヤウェーブが俺を襲った。
レイクさんとマカを退避させる。
範囲が大きい火は、地面の岩や俺に付いた細かい岩を溶かす。
すなわち溶岩になった。
赤々と液体状になった岩は、俺のHPを容赦なく削った。
手始めに100持っていった。
全体の3割のHPまで、あと699。
だが、ここで終わりではなかった。
火属性は厄介。
持続ダメージが存在するのだ。
毎秒50のペースでHPが減る。
649……599……549……499……449。
「う、嘘だろ……? あれに耐えてやがるのか……」
399……349……299……249……199。
「これは驚きました。いや、流石というべきでしょうか」
149……99……49……0。
残りHPは353。
3割を下回った。
《耐久》が発動している。
ステータスが二倍になっている。
よし、達成した。
もう、このプレイヤーに用は無い。
《魔力操作》で、溶岩に籠もっている " 魔 " を無理やり引き剥がす。
すると。魔法は崩壊し、溶岩が消滅した。
魔法で生み出された壁から出来た溶岩なのだ。
《魔力操作》できると思っていたが、本当にできたな。
では、見せてやろう。
俺の編み出した魔法をな。
まあ、魔法ではないような気もする魔法だが。
まず、《気力操作》だ。
竜巻を意識して " 気 " を廻す。
以前と同じ範囲だと、レイクさんとマカを巻き込んでしまうので、プレイヤー達だけが受ける範囲に調節する。
《気力操作》のレベルが上がったのか、様々なことが出来る。
こういうのって楽しい。
次に。
竜巻として、廻り始めた " 気 " に《付加魔法》だ。
《付与魔法》が《付加魔法》になった。
そして。この " 気 " は明らかに物質としての特性を持っている。
ならば、魔法をかけることは出来るはずだ。
《耐久》のおかげで重複付与ができるので、竜巻に全属性を付与する。
オーバーキルになりそうだが、実験だから仕方ない。
よし。出来てしまった。
これで、凶悪な竜巻の完成。
回転速度を増して、プレイヤーを巻き込む。
周囲の " 魔 " を感知したが、反応がない。
一瞬で消し飛んだようだな。
やはりオーバーキルだ。
「「…………」」
「あの。時間ないんで、聞くだけ聞きます」
「……あっ、はい。何でしょうか?」
「今から森エリアに行くんですけど、一緒に来ますか?」
「行くわよ!! 連れてって頂戴!!」
意外な喰いつきを見せたマカ。
そんなに行きたいのか。
森が大好きなのかな?
いや、自分で考えたが有り得ないと気づく。
それより、レイクさんだ。
「はい。私も同行させていただきます」
俺の視線で意図を読んだのか、そう言う。
なるほど。
それは良かった。
俺は《念動力》を発動させた。
本当に大変なのはここからだ。




