二人目
【ログイン??日目】※ゲーム内時間換算(??日)
side:レイク
私は世間一般的に運が悪いと思います。
いや、運が悪い人間に分類されるべきなのでしょう。
今日もそうでした。
せっかく買った、世界初のVRMMO。
これをプレイするのが楽しみで楽しみで仕方がありませんでした。
しかし、それを許してくれません。
本当なら休みだったのです。
それも虚しく。
私はこのタイミングで出張に行くことになったのです。
言い渡された時は溜息が出そうでしたが、抑えました。
そして、仕方ないと受け入れました。
出張先に持っていくことも考えましたが、やめました。
仕事中にゲームをするな、と言われるのが目に見えたからです。
ですが、幸いな事に出張は一週間程度のものでした。
スタートは出遅れたものの、巻き返しは効きます。
私は救われたと思いました。
出張が終わり、やっとゲームを堪能できます。
VRMMOを起動させ、EOFを始めました。
勿論、自宅です。
水分補給をして、自分のベッドに寝転がっています。
ネットで情報収集は怠っていません。
キャラメイクでは噂通り沢山の職業、種族、スキルがありました。
私はもう決めていた種族がありました。
ネット上ではネタ、または不遇種族と言われている魔物です。
やるからには楽しくやりたかったのです。
魔物になってアカウントを作り直した人から聞いた話だと、初期リスポーンが森エリアになると詰むようです。
なんと、レベル1で倒せる魔物がいないという状況に陥るようで、やってられないそうです。
反対に草原エリアですが、こちらも厳しいことに変わりはないようです。
草原に湧くボアを倒せない事はないようですが、プレイヤースキルが多く求められるようで、最適解の動きをしないと厳しいのです。
しかし、私はそれを聞いた後でも魔物にしようと思います。何故なら、そっちの方が面白そうだからです。
ゲームをやる上でこれ以上の理由はないでしょう?
そういう理由で、私は魔物を選択しました。
メリットは確かにあるようですし、悪い選択ではないように思えてきました。
私は運は悪いですが、人を見る目と勘は鋭い自信があります。
運が悪いので台無しだと思いますが。
しかし。運営さんも少しは私を哀れだと思ったのか、森エリアではなく草原エリアに初期スポーンしました。
こうして、何とか詰む事は避けられました。
運営さんには感謝です。
スポーンした場所は壁、では無く山の外壁の側でした。
かなり高い山です。少なくとも標高2000メートルはあるでしょう。
それも山脈となって連なっています。
頂上からの眺めはさぞ綺麗でしょう。
機会があったら登ってみるのも良いかもしれません。
ですが、現状やるべきことでも無いので諦めます。
私は草原を外壁に沿って移動しました。
暫く移動していると、ボアと初遭遇しました。
そして、初戦闘となりました。
初戦闘はすぐに終わりました。
私がリスポーンしたのです。
私の種族が戦闘向きでは無いのも敗因の一つでしょうが、やはり厳しいようです。
出来れば一人で攻略したかったのですが仕方ありません。
協力を仰ぐとしましょう。
駄目で元々だったのです。これは当然のことでした。
掲示板という機能を使い、同じ魔物プレイヤーに協力をお願いしようと思いました。
しかし、魔物プレイヤーは想像以上に過疎でした。
私が始めた時点ですら、もう一人しかいなかったのです。
私は協力を要請するスレを立てました。
これで反応があると良いのですが、暫く待ちます。
待っている間、外周を廻りながらボアと戦いました。
何度か戦闘を重ねた結果、ボアのパターンが分かってきました。
基本的に攻撃は遅く、最速の突進にさえ気をつけれていれば大丈夫だと考えました。
……直ぐに甘かったと思い直しました。
攻撃パターンが変わるのです。
従来のAIでは有り得ないような思考能力です。
型にハマったパターンでは対応できません。
本当の意味でのプレイヤースキル、臨機応変さが必要です。
そのような才能は私にはありません。
スキルレベルを上げる事で戦力の上昇を期待するしかありませんでした。
そして、結局その日に掲示板から反応はありませんでした。
私はログアウトしました。
次の日、ログインしようとしました。
しかし、どうやらメンテナンスのようです。
少し調べた結果、ログイン自体は出来るようですが基本的にスキルレベル上げかアイテムの確認くらいしかする事がないようです。
私も一度ログインしましたが、その通りでした。
掲示板からの反応はありませんでした。
なので、少し内容を変えました。
文が固かった気がしたのです。
もう少しフレンドリーに書き換えてみました。
これで反応があると良いのですが。
その日は、直ぐログアウトしました。
仕事を片付けるためです。
それから一週間もの時間、ボアと戦っていました。
現実では約四日です。
スキルレベルが上がってきたのか、ボアを倒せる回数が多くなってきました。
しかし、負けてしまう事もあります。
勝率は五分五分くらいでした。
レベル1より上のボアには勝てません。
悔しいですが、仕方ないでしょう。
現状を改善するためにも、早く仲間と呼べる方が欲しいです。
掲示板に反応がないのが悲しいです。
レベルは上がっているので、このまま頑張ってみます。
掲示板はもう殆ど諦めていました。
しかし、珍しく運が良かったようです。
私が掲示板を確認している最中に、新しい魔物プレイヤーがログインしてきたのです。
とても嬉しかったです。
さらに、掲示板に反応がありました。
文を見る限り女性のようでした。
スライムという種族らしいです。
外周に向かうと言っていたので、私も移動しました。
その方とは直ぐに合流できました。
やはり、この日はとても運が良いようです。
彼女は最初、私の種族に戸惑っていましたが、次第に打ち解けることができたので楽しくゲームが出来ました。
フレンド登録もしました。
そこで、お互いの名前を知りました。
彼女のプレイヤーネームは " マカ " というようです。
口調から、まだ学生のように思えました。
活発で元気な子です。
魔物同士で会話が出来るようになって良かったと心底思いました。運営さんには感謝です。
マカさんは戦闘において優秀でした。
スライムの特色をよく活かしています。
彼女のおかげで、レベル1のボアには勝てるようになりました。勝率は、彼女が加わってから百戦百勝です。
驚いた事に、レベル3のボアにさえ良い勝負をしました。
やはり連携というのは大事です。
私はそれを知っていた筈ですが、改めて実感しました。
付随してレベルも上がっていき、私とマカさんはゲームを始めた時とは比べられないほど強くなりました。
レベル5、6のボアとも渡り合えます。
マカさんはこのゲームに自信があるようです。
学校で自分が一番強い、と自慢していました。
とても微笑ましいです。
会社の同僚が、いつも子供自慢をする気持ちが少し分かった気がしました。
しかし。
調子が良いのもここまででした。
恐らく、他のプレイヤーに広まっていたのでしょう。
草原エリアにボア以外の魔物がいるということが、です。
最初に出会ったのは、強そうな弓を持った女性でした。
私とマカさんは打ち合わせ通り、攻撃を仕掛けませんでした。
戦意がない、普通の魔物ではない、もしかしたら魔物プレイヤーではないか、という考えが生まれる切っ掛けを作りたかったのです。
しかし、そう上手くは行きませんでした。
私達は倒されました。
強かったです。
文字通り、何も出来ずに倒されました。
それだけなら、私もマカさんも気にしませんでした。
ですが、状況は不味い方向に動いてしまいました。
何人目でしょうか?
私達を倒しにきたプレイヤーが、私達を見つけるとこう言ったのです。
「経験値が美味しいレアモンスターじゃないか!」
私は納得しました。
連日、プレイヤーと遭遇した理由が分かったからです。
魔物プレイヤーは経験値が高い。
この情報が説明されないのは、あんまりだと思いました。
この時だけは運営さんに感謝が出来ませんでした。
マカさんも同様でした。
怒ったマカさんはGMコールをしましたが、反応はありませんでした。それはそうです。運営さんは直接的に関与はしません。
これが改善されるとしたら、メンテナンス後でしょう。
それまで、合法PKを受け続けるのは苦ですが耐えるしかないです。
それも承知で魔物になったのですから。
私は、心がまだ折れてはいませんでした。
しかし、マカさんは違かったようです。
学校の友達と一緒に遊べなかったり、自分の種族がスライムだと堂々と言えなかったのが悔しかったり、ストレスが溜まっていたようでした。
このままでは、アカウントを作り直してしまうかもしれません。
それは駄目だと思いました。
少ない時間ですが、マカさんは強気な態度であることが多いです。しかし、それは弱い心の裏返しでしかありません。
メンタルは強くないのです。この子は。
ですが、決して弱いわけではありません。ただ、少しばかり打たれ弱いのです。
何か、やれる事があるのでしょうか。
現状を改善する力が私にはありません。
それが悲しかったです。
しかし。
悩んでいた時に光明が差されました。
掲示板に、一人目の魔物プレイヤーから返事があったのです。直ぐこちらに来ると言っていました。
正直なところ、この人が頼りです。
かなりの強さがないと、普通の魔物プレイヤーはここで終わってしまいます。
期待はあります。
ここまで一人で魔物をやっているのです。
相当な強さがないと、PKされまくりで萎えてしまい、もうとっくに辞めているはずです。
それにしてはネットで話題になっていないのが気がかりですが、もう賭けるしかないです。
でなければ、マカさんは魔物をやめてしまう。
アカウントを作り直すと、一ヶ月ログインできません。
ゲーム内の時間が二倍に伸びている現状では、もう取り返しがつかない差が出来てしまうでしょう。
それは避けなければなりません。
マカさんを元気付けながら、私は移動しています。
少しでも、プレイヤーと遭遇する確率を下げるためです。
今日だけで、もう六度もPKされました。
これ以上はマカさんの心が折れるかもしれません。
接触は最大限、避けなければなりません。
「お、レアモンスター発見〜」
「いいね〜」
「探した甲斐があるのか、楽しみだな」
「マジでスライムじゃん!」
「あれ、お前そんなスライム好きだったけ」
「ま、早くやろうぜ」
現れたのは6人のプレイヤーです。
このゲームのフルパーティである6人組です。
持っている装備からしても、レベルは20前半くらいでしょう。
正直なところ、最悪です。
プレイヤーの一人はスライムに興味を示していますし、マカさんが弄ばれかねないです。
そうなると、ほぼ確実にマカさんの心は折れてしまうでしょう。
本当に運が悪いです。




