魔法修行
【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日目)
自分の全力を制御できるようになってからは、森エリアまであっという間だった。
街を《念力》で戦闘機みたいに通って行き、そのまま森エリアに入った。
そのあともマーナさんの洞窟まで直ぐに着いた。
俺は今、洞窟に入ったところ。
暗いと前は思ったが、今はそうでもない。
と言っても、今の速力で走るとまた前のようにマーナさんに激突してしまう恐れがある。
なので、大人しく歩くことにした。
しかし。本当に、レベルが上がったおかげで視力も良くなったのかもしれない。つくづく思うが魔物って便利だな。
人とは根本から造りが違うのだろう。
そもそも魔物って身体の構造どうなってるんだか。
臓器とかあるのだろうか?
掲示板で3人目の魔物プレイヤーが、種族はスライム、と言ってたが、そうだとしたら臓器なんて無いよな。
まぁ、俺は魔物というか魔獣って方が適切かも。
だって獣だもの。
そんな、どうでもいい思考をしながら洞窟を歩く。
随分長く感じるが、前はここを走って抜けたのだから当然だ。
視界が完全に暗いわけじゃないので、今の俺にとってこの洞窟を歩くことなんて余裕だ。
これっぽっちも怖さは無い!
己の心を奮い立たせながら歩く。
決して怖いわけじゃないぞ。
暫く歩くと、広い空間に出た。
俺の目の前には大きな狼が伏せている。
紛れもなくマーナさんだ。
目を閉じているので、寝ているようだ。
起こすのは吝だが、時間がないので仕方ない。
俺は《念話》を使う。
マーナさんも起きるだろう。
『マーナさん、遅くなりました』
『…………おお、サクヤか。二週間に渡る修行、お疲れ様。では、私も本格的な修行を始めるとしようか。アイテムをそこに置いて、洞窟の前に来なさい』
え、いや、待って…………。
俺がそう言う前にマーナさんは洞窟を出ている。
修行を回避することは手遅れ。
今更やめるとも言いづらいし、ヒルの修行は受けてマーナさんの修行は受けないと思われるのも良くない。
ここは修行を受けるしかないのか……。
でも時間が…………。
うーん。
可能性は低いが、マーナさんの修行を速攻で終わらせて、レイクさんの元に行く。
この作戦でやろう。
これぐらいしか解決方法はない。
俺は覚悟を決めた。
持ってきたアイテム達を置き、森へと走る。
洞窟も駆け抜けてきた。
歩くよりずっとずっと速かった。
俺が森エリアの洞窟前に来ると、当然のことながらマーナさんが待機していた。
一体何をするのか。
疑問には思うが、ヒルほどスパルタでないのは確かだろう。
唐突に修行が始まるという点は共通するが。
マーナさんは思慮深い。
ヒルみたいな奴とは比べるまでもないな。
マーナさんは俺が来たのを確認すると、《念話》を使った。
『草原のエリアボスのところで基礎の要素については教わったか?』
あぁ、ヒルも言ってた基礎のことだな。
空気中の割合だとか、なんとか。
細かいところはうろ覚えなのだが、大事なところは覚えていた。三つの要素があったのだ。
「はい。" 気 " 、" 魔 " 、" 念 " ですね」
『そうだ。そして、その中で私が教えるのは " 魔 " だ。魔法にも通ずる要素だから重要だぞ』
『まずは自分の " 魔 " を感じ取ることからだ』
……あれ? なんか既視感があるなぁ。
二週間前にも同じこと言われた気がするなぁ。
また、あの無茶振りをされるのか……?
マーナさんならもっと良い方法を教えてくれると思っていたのだが。
……他に良い方法はないというのか。
あの地獄はもう嫌だぞ俺。
" 気 " を感知するのに何時間かかったと思う?
少なくても三時間だ。
その間はずっと瞑想みたいなことをやらされる。
文句の一つくらい言っても怒られないだろ。
『ん? どうした? やらないのか?』
え、何ですかその圧力。
まさかこの人、元々こんな感じなのか?
だとしたら俺は……いや、これ以上は辞めておこう。
こんな事を考えていた俺だが。
マーナさんの圧力と言うべきものを感じた瞬間、大人しく修行を開始した。
いや怖すぎ。
冗談抜きで怖い。
ていうか、この人やっぱエリアボスなんだね。
ボスの風格というか威厳のようなものが確かにあった。
エリアボスとしてだとヒルより強いのか?
ヒルも確かに、今の俺では到底及ばない強さだが、マーナさんの圧力は恐怖しかない。
まぁ、ヒルの圧力を受けてないから言える事かもしれないけど。
あれ、そう考えると。
修行においてはマーナさんよりヒルの方が優しかったのか?
ゾワッ。
身体の体温が下がった……気がした。
俺は目を閉じているが、この目を絶対に開けてはならないと魔物としての本能が言っている……気がした。
しかし。謎の悪寒も束の間、もう何も感じなくなった。
どうやら、何かしらの危機が過ぎ去ったようだ。
でもまさか。
俺の思考を読まれたりしてたのか?
タイミングが良すぎるよな。
……い、いや。
今は修行中だ。" 魔 " の感知に集中しよう。
『感覚は " 気 " に似ている。強いて言えば " 魔 " の方が熱を含んでいる。純粋な熱だ』
お、おぅ。
マーナさんがアドバイスをくれた。
なるほど。
" 気 " に似ているのか。
そして、熱を含んでいると。
確かに " 気 " は熱というより、ただ流れている印象がある。
熱というところに集中すれば、そんなに難しくなさそうだ。
比べるまでもなく、ヒルより的確なアドバイス。
参考にさせていただこう。
感覚は " 気 " 。
異なるのは熱という点。
まずは、身体に流れる " 魔 " をイメージする。
" 気 " と感覚が似ているなら同じイメージでいい。
熱という一点を気にしていれば、問題はないだろう。
流れる " 魔 " を意識……意識…………。
駄目だ。" 魔 " を意識しているつもりが " 気 "を動かしてしまう。
二つを操作するのは難しいことなのか。
それでも、俺は諦めずに試行錯誤する。
が、いくらやっても感覚を掴めない。
やはり自力で出来る奴は天才だけなのか。
『ふむ。ならば、私がサクヤの " 魔 " を操作する。それを感じて覚えるんだ。" 気 " を習得したなら出来るはずだよ』
その言葉を待ってました! とばかりに俺は意識を集中させる。
自分では動かさない。
無理に動かそうとしても " 気 " が動くだけだからだ。
ここはマーナさんに頼る。
すると。
不意に身体全体が熱くなる。
体温が上がってるのか何なのか分からないが、とにかく熱い。
それも頭、上半身、下半身、腕、足と全てが。
熱、とはこういう事か。
マーナさんのアドバイスに納得した。
確かにこれは熱だ。
そして確かに感覚は " 気 " に近い。
熱の流れが限りなく近いのだ。
ほぼ同じと言ってもいい。
試しに《気力操作》を介して " 気 " を操作してみた。
まぁ、操作というか流れを見ただけだ。
その結果は予想通り。
" 気 " と " 魔 " が同じ速度で流れていた。
これは感知しづらいわけだ。
" 魔 " を感知しようとしても、同じ速度で廻る " 気 " に隠れてしまう。
" 気 " を操作できるのなら尚更だ。
二つ同時に操作とか難易度鬼だぞこれ。
今は " 魔 " の方をマーナさんに操作して貰ってるから《気力操作》出来ているが、一人で両方は出来る気がしない。
俺は " 魔 " の感知に集中するため《気力操作》をやめる。
せっかくマーナさんが操作してくれてるのだから、無駄には出来ない。
熱の流れを意識していたら、さらに気づいた事があった。
" 気 " の流れというのは漠然としているが、それに対して " 魔 " は明確な法則がある。
詳しく言うと、血液の流れに沿っているのだ。
それも僅かなズレもなく。
面白いな。
どうやら、" 魔 " というのは血液中に含まれるもののようだ。
そう考えると、" 気 " より簡単だな。
漠然とした感覚じゃなくて明確な法則がある。
じゃあ、それに沿うだけで操作出来るんじゃないか?
思い立ったが吉日、俺は早速やってみる。
血脈と血管を意識して、そこに " 魔 " を流す感覚。
熱を感じる。
と同時に熱が流れる。
" 気 " と同じように全身に廻っている。
しかし " 気 " とは違い、操作しやすい。
暫く身体に循環させていた。
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称号、〈魔を修めし者〉を獲得。
消費SP 0で《魔力》スキルを取得可能。
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よし。
称号を無事に獲得できた。
俺は安堵し、そのまま " 魔 " の操作をやめ――
『まだやめるな。そのまま続けて』
――ようとしたが、続ける。
我ながら良い反射神経だったと思う。
あと少しで操作を止めていたからな。危ない危ない。
だが一体、マーナさんは何をさせる気なのだろうか。
俺は称号を獲得出来たからもう満足なのだが。
俺が指示待ちしているのを察したのか、マーナさんから《念話》で言葉が届く。
『次は周りの " 魔 " を感知すること。やり方は簡単。まずは何でも良いから魔法を発動しなさい』
言われた通り魔法を発動させる。
発動したのは《火魔法》のファイヤボールだ。
発動したファイヤボールは直線上に進んだ後、消滅した。
正直、何をしたかったのか分からない。
『 ……" 魔 " を感知しながら発動させなさい』
あ、あぁ。なるほど。
呆れた様子でマーナさんに言われた。
恥ずかしい……。
俺は羞恥を覚えながら魔法を発動させる。
今度は " 魔 " を感知しながらだ。
すると、面白いことが起きていた。
身体を廻る熱が、魔法を発動させると。
その魔法に熱が吸い寄せられるのだ。
そして、吸い寄せられた熱がボールの形を作る。
すなわち。これがファイヤボールのいや――魔法の正体なのだ。
『これが魔法を発動させるという事だ。そして、これを応用すればこんな事も出来る』
マーナさんはそう言うと魔法を発動させた。
俺と同じファイヤボールだ。
だが、全く俺とは違うファイヤボールだった。
俺のファイヤボールは直線上にしか進まなかった。
それに対して、このファイヤボールはまるで生きているかのように空中を自在に飛び回っている。
マーナさんは更にファイヤボールを増やした。
二つ、三つ、四つ、五つと。
まだまだ増える。
が、どのファイヤボールも単調な動きをしていない。
それぞれに自我が宿ってるような、綺麗な動きだ。
俺は完全に魅入られていた。
ファイヤボールの華麗な舞に。
そして、そのダンスはファイヤボールの花火のような爆破で幕を下ろした。
フィニッシュも美しいのは言うまでもない。
俺は暫く余韻に浸っていたが、ハッと我を取り戻す。
すげぇ、魔法すげぇよ。
あんな事ができるなんて。
俺は魔法の真理を知ってしまったようだな。
やはり、魔法がファンタジーだ!
ハハッハハハハ!
俺は今、このゲームを始めて一番興奮してるかもしれない。
いや断言しよう、一番興奮している!
何だこのテンション。




