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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
1.出会いと成長
39/106

習得


 【ログイン26日目】※ゲーム内時間換算(19日目)



 あれから二週間が経った。

 ゲーム内での二週間なので実際に経った時間は一週間だ。


 メンテナンス後の初日には、本当に時間が二倍になっていて驚いたものだが……もう慣れた。


 現在は、1日修行して1日休む。といった感じで修行をしている。

 ちなみに森の往復はまだまだ終わっていない。


 初日の死亡地点から数メートル進んだところが今の最高地点だ。一応、成長はしているので許してほしい。


 言い訳だが、この修行……とんでもなく難しい。

 いや、この森の難易度がおかしいのだ。


 目の前の木、一見して普通の木に見えるが。

 その中身は凶悪な魔物だ。


 それも恐ろしく強い。


 どのくらい強いかというと、俺の知覚できないスピードで即死の攻撃をしてくるくらいに強い。

 いや、鬼すぎだろ。


 推定レベル50じゃなくて100だろ。

 思わず運営に文句を言うくらいには、俺のストレスも溜まっている。


 しかし、そんな俺を見かねてか。

 ヒルもアドバイスをくれている。

 問題は、そのアドバイスが全く参考になっていないことだ。


 まあ、これは多分俺が悪い。

 俺の察しの良さや勘、才能といったものが欠如しているのだろう。


 ヒルの言っていることは分かるのだが、それをいざやろうとすると詰む。

 結果、死亡する数が急激に増えていくだけだった。


 そして昨日、遂にこんな称号まで獲得してしまった。

 その名も〈死に急ぐ者〉。

 

 獲得条件は、5分以内に100回連続で死亡すること。

 三秒に一回死亡すれば、獲得できるよ?

 結構簡単だねー。


 ちなみに取得できるスキルは《根性》ってやつ。


 効果は、即死攻撃を受けた時にHPを1だけ残す。

 以外と有能だったので逆に困ったスキルだ。


 今の修行にはもってこいだし、これからも頼りになるスキルだ。

 もしもの命綱的な役割になる。


 まあ、それがあっても進まないのがこの修行。

 

 実は木に擬態している魔物の攻撃……持続ダメージが入るのだ。

 《根性》が発動しても、次の瞬間には死亡。


 いやぁ、本当に萎えそうだったよ。


 ヒルに励まされなきゃログインしてなかったかもしれない。ヒルに感謝。なんだかんだヒルって優しいからね。

 これも最近学んだことの一つ。


 そして、この現状を打破すべく。

 ヒルのアドバイスを思い出す。

 最初と比べて、かなり具体的にアドバイスをくれている。



 『空気の流れを掴め。それも出来るだけ広く深くだ。要領は自分の " 気 " を掴む時と一緒だ』



 理屈は分かる。

 空気の流れ、すなわち空気中にある " 気 " を感知するということ。


 これをやれ、とヒルは言っているのだろう。

 だけど難しすぎる。


 何故かというと、イメージを置換しづらいからだ。


 自分の " 気 " を感知するときは血液をイメージすることによって、" 気 " の流れを鮮明に感知できた。


 しかしだ。

 空気中の " 気 " は何ともイメージ出来ない。

 

 一度、風をイメージしてやってみたのだが。

 知識として風が吹く仕組みを知っているので、上手くいかなかった。

 

 こういう形で現代知識が邪魔になるとは……。

 学校の勉強が役に立たないのは本当だったらしい。


 まあ、現代知識を活用するっていうアイディアは自分でも良いんじゃないかとは思う。

 自分の知っていることはイメージしやすいし、現象としての安定性も違うだろう。


 一概に現代知識が役に立たないとは言い切れないのだ。

 風の場合は役に立たなかったがな。


 そこで。

 俺はイメージの方法を変えてみた。


 風のイメージから、空気中に含まれる気体のイメージへと。


 何日か前、あることをヒルに質問してみた。


 

 『空気中に含まれる " 気 " の割合はどのくらいなのか?』



 と。

 この質問に大した意図はなく、ただ気になったから聞いただけだ。

 今まで俺は、体内での割合が一対一なのだから空気中の割合も一対一だと思っていた。しかし、返ってきた答えは違った。



 『空気中の " 気 " と " 魔 " の割合は九対一だ。 " 気 " が九で " 魔 " が一だな』



 そう。圧倒的に " 気 " の方が多かったのだ。

 分かりやすくすると、空気中の90%が " 気 " 、10%が " 魔 "といった具合だ。


 そして、これらの事から。

 " 気 " を空気と置き換え、その内の酸素を " 魔 " とイメージする。ちょっと酸素は多いが気にしないことにする。


 " 気 " という原子をイメージして、それが俺の " 気 " と繋がっている感覚を掴む。深く広い範囲で " 気 " の流れを意識する。


 すると、どうだろうか。

 空気と置き換えた " 気 " をだんだん感知できるようになった。


 まだ漠然としてはいるが、確かに " 気 " としての感覚はある。 

 ……やっと出来た。


 少し前からもこのイメージで修行していたが、そのときはイメージの置き換えが不十分だった。

 

 少しずつイメージが鮮明になっていたのか、今日やっと成功だ。

 ……長かった。本当に、長かった。


 

 「お、結構早かったな。周りの " 気 " を感知できたなら、それを自分の " 気 " とリンクさせて、同心円状に広げろ。そうすれば、この森を歩けるようになるぞ」


 

 俺が周りの " 気 " を感知できた事をどこから知ったのか分からないが、ヒルが更なるアドバイスをしてきた。


 今度は俺の " 気 " と周りの " 気 " をリンクさせるらしい。

 ……また難しそうなことを言う。

 " 気 " を同心円状に広げるってのも難しそうだし。


 というか、 " 気 " の扱いもまだまだ未熟で、自分の " 気 " も満足に操作できない。

 そんな状態で、" 気 " をリンクするなんていう如何にも高等技術っぽいものをやれ、というのは酷ではないか。


 まあ、この森を往復するっていう修行を終えるには必要不可欠なんだろうけど。

 やっぱ、時間をかけて習得するしかないか。


 自分の " 気 " と周りの " 気 " 。

 感知することは両方ともできている。


 問題はこれを繋げること。


 自分の " 気 " を感知するときにイメージした血液と同じ要領でいく。

 自分の " 気 " と周りの " 気 " を神経で繋ぐイメージ。


 両方とも自分の身体の一部。

 あとは繋げるだけ。連動させるとも捉えられるな。


 俺の身体から、周りの " 気 " へと血管と神経が伸びる。

 それは網状で宛ら毛細血管のようだ。


 脳から神経が通り、血管へ、それを全身に張り巡らせる。


 自分の " 気 " と空気中の " 気 " を調和させる。

 神経が通り、血管が通り、俺の脳へと届く。


 ……繋がった。


 直感で " 気 " を操作できると思った俺は、周りの " 気 " を自分の身体の一部だと思って動かす。


 まずは時計周りに、そして反時計周り、八の字を描いたり、星を描いたり。

 気づけばかなり自由に操作出来ていた。


 今ではもう、 " 気 " で鳥や犬を作って遊ぶことが出来る。

 流石に、絵を描いたりといった繊細な操作はできないが、ちょっとした形を作ることは出来る。


 俺は周りの " 気 " をもっと操作するため、広い範囲へ神経を伸ばす。ヒルの言っていた同心円状を意識しながら。


 俺を中心とした円を広げていく。

 流れを意識しながら、出来るだけ綺麗な円を造る。


 伸ばす、もっと伸ばす。


 洞窟を呑み込み、森を呑み込み、街にも届く勢いで広げる。

 

 途中までは順調だった。

 自分の " 気 " と周りの " 気 " を融合させ、操作出来ていた。


 しかし。

 ある程度の距離から……激しい頭痛がしてくるようになった。


 このゲームで初めての痛み。

 いや、現実でもこんな痛みはなかった気がする。


 頭の芯が疼くような、割れるような痛み。

 " 気 " の操作などしてられなかった。


 頭痛のしない範囲は、俺を中心とした半径100メートルくらい。それを超えると、激しい頭痛に襲われる。


 まあ、改めて考えると。 

 半径100メートルって相当遠いよな。


 恐らく、脳の処理が追いつかないとか、そういう理由なのだろう。俺は専門家でも何でもないので、はっきりした事は分からない。


 改善できるところがあるなら改善するが、はたして。

 

 

 「ふん、ざっと100メートルか。上出来っちゃ上出来だ。あとは、その範囲で " 気 " を流せ。平面じゃなくて空間を意識しろよ」



 何故ヒルが範囲100メートルの事を知っているのかは分からないが、またアドバイスを貰った。

 今度は簡単そうだな。


 " 気 " を流す事は出来ている。


 今度は円ではなく球を意識して動かせばいいのだ。

 出来るだけ広い範囲、ざっと100メートルくらいの空間の " 気 " を動かす。


 イメージは台風。


 俺を台風の目として考える。

 " 気 " が俺を中心として、俺と繋がりながら廻る。


 深く広く、粒子の位置を把握しながら。 

 暫く集中しながら " 気 " を操作していた。


 初めは、大きな " 気 " の流れしか分からなかったが、だんだんと、廻している " 気 " に引っかかるものを感知した。


 漠然とした形だけが分かるが、恐らくこれは木だ。

 未だに明確な感覚はないが、そこにあることは分かる。


 不思議な感覚だ。

 俺は触っていないのに、 " 気 " が触れると俺が触ったかのように感じる。


 " 気 " に触覚でもあるのだろうか。

 そう思うほど、この感覚は不思議だった。


 

 「そのまま続けろ。あと、出来るだけ " 気 " の回転を早く……集中して、少しでも正確に " 気 " を感じられるようにしろ。深く広く、潜り込め」


 

 ヒルの言葉に従うように、俺は意識を集中させた。

 周囲の " 気 " を、まるで台風のように回転させる。


 半径100メートルのドームをイメージし、その中は渦巻く雲より早く、竜巻のように回転する。


 俺のイメージに呼応するように、周囲の " 気 " が速く周りだした。しかし、まだ足りない。


 俺の理想は竜巻だ。


 風の回転だけで物を吹き飛ばし、多大な被害を与える。

 その回転力をイメージする。


 ……もう、ドームや球なんて関係ない。

 竜巻そのものをイメージしよう。


 実際の竜巻は、竜巻の大きさが細ければ細くなるほど回転が速くなるらしい。

 すなわち、俺の " 気 " の操作限界である半径100メートルは、竜巻の大きさとしては丁度いい。


 とてもイメージしやすい。

 実際に竜巻という自然現象を見たこともある。

 それを再現すれば良いだけ。


 ……" 気 " の回転が速くなった。

 やはり大事なのはイメージ。


 さらに集中。


 " 気 " の回転がさらに速くなる。

 もっともっと。


 大きく速く。

 

 速く速く、速く速く。


 俺の限界まで速くする。

 

 " 気 " の流れを知覚できるか出来ないかのギリギリまで。

 

 

 ……さ…………を……ろ……………き……


 

 ……何か聞こえた気がした。

 しかし、いま俺は回転に集中している。

 空耳だと思い、さらに集中する。


 

 お…………と……も…………ゃ…………な……



 また、だ。

 断片的な言葉だけ聞こえるが、意味が全く分からない。

 ヒルが何か言ってるのだろうか。


 

 も……い…………ょ……い…………め……



 何か伝えたいのなら、もっとはっきり喋ってほしい。

 それに今は良いところなんだよ。" 気 " も速く廻ってる。

 あまり邪魔はしないでほしい。


 俺はさらに集中し、" 気 " を速く廻そうとした。


 が、気づいた。


 ……" 気 " の回転が遅くなっている?

 確実に少しずつではあるが、だんだん遅くなっている。


 な、なんで……?

 焦りながらも " 気 " を速く廻そうと集中する。

 

 しかし、遅くなるばかりで。

 全く速くはならない。


 少しずつ緩やかになり、遂に " 気 " の流れが止まる。


 

 「おい、目を開けろ」



 ヒルの声が聞こえる。

 

 流れが止まったことを疑問に思いながらも、俺は渋々ながら目を開けた。


 次の瞬間。


 俺の眼に映った光景を、俺は理解し難かった。



 「………………え?」



 森、いや森の一部。

 俺から100メートル離れたところ。


 そこまで木が生い茂っていた。


 しかし、今はどうだろうか。


 その範囲の木々が綺麗に無くなっている。


 地面の緑も剥がれており、茶色い地肌が露わに。

 

 まるで、その部分だけ消滅してしまったような。

 そんな表現が相応しい惨状だった。


 

 「お前がやったんだぜ、これ。俺が止めなきゃ、この洞窟もどうなってたことか。この有様じゃ今日、明日、明後日の修行は休みだな。ほれ、もう終わりだ」


 

 未だにフリーズした頭に、ヒルの声が響く。

 その言葉も辛うじて、俺がこの惨状を引き起こしたという部分を理解しただけだ。


 一体、何がどうなったのか……。


 こんなの、まるで竜巻が通り過ぎたあとみた……い。


 ……。


 …………そうか。


 ……竜巻か。


 ……なるほどな…………うん。


 認めたくはないが、ヒルの言った意味を理解した。


 どうやら、本当に俺がやってしまったらしい。

 完全にやらかしたな。


 俺の心が慙愧の念で満たされる。

 

 後悔先に立たず、とはこの事。

 

 なんとか気持ちを切り替えようと頑張りたいが、厳しい。


 こういう時は人に頼るのが良いと、何かの本で読んだ気がする。曖昧な記憶だが、藁にも縋る思いで試してみる。

 

 

 「しかし……俺のイメージが現実になるなんてなぁ」



 自分でも言い訳だと思うが仕方ない。

 ヒルとの会話のきっかけになれば充分なのだから。


 うっかり零した風の言葉に反応を求めていたが、いつまで経っても反応がない。無視かよ。


 いや待て。

 俺はもう一つの可能性に気づく。


 普通なら有り得ないが、ヒルなら有り得ること。

 ……いやな予感がする。

 

 俺はまさか、とは思いつつも。

 後ろを振り返る。



 ヒルの姿がなかった。



 やはり、もう何処かへ行ったらしい。

 相変わらずの行動力だ。いや、単にジッとしていられないだけかもしれない。……いや、そうだ。


 いきなり修行を始めて、いきなり修行を終わりにする。

 俺からしたら迷惑極まりないな。


 もう少し、相手を重んじたり配慮したりといった気遣いが出来ないのか? 今度会ったら言ってやる。


 

 こうして。


 俺の二週間にわたる修行は終わりを迎えた。


 不本意だが……森の破壊という理由で。


 自然破壊、本当にすいません。


 俺は心から謝った、と思う。

 


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