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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
1.出会いと成長
34/106

格の違い2


 【ログイン9日目】



 「いくら修行でも早過ぎないか?」



 「善は急げ、って言うだろ? 早いに越したことはない」



 いやいや、俺にとっては全く善じゃないのだが。

 と言いたいのを我慢。


 まだ、弟子になったばかりなのだから大目に見てやろう。

 うん。そう思ってないとやってられない。


 俺はそう納得すると、周りを見渡す。

 目の前の男のせいで、今だに場所の把握ができてなかったからな。草まみれってこと以外は。


 俺が立っているのは草原。

 しかし、その草の背丈は俺の頭を軽々と超えている。


 なので、いくら周りを見てもすぐ近くに草があるだけ。

 近くにいるヒルの身体も見え辛い。


 だが、《地図》で確認したところ。

 

 思った通り、ここはマーナさんと最初に会った森エリアの奥地、洞窟のある場所に似ている。

 似ているというか、丸っぽい扇型に広がる草原に洞窟に沿って続く山脈といった地形が、森エリアと瓜二つだ。


 恐らく、元となるデザインは同じなのだろう。 

 《地図》で森エリアの洞窟と見比べてみたら一目瞭然だ。


 ヒルに引っ張られる形で連れてこられても、《地図》でちゃんとマッピングされていて良かった。


 これなら、帰り道も迷わない。


 もし《地図》のマッピングがされていなかったら、何時間もかけて草原エリアを右往左往するのを覚悟しなければならなかった。


 《地図》の便利さに感謝。

 これからも活躍するだろう《地図》は大事にしないとな。


 

 「おい、そういえば名前は何だ?」


 

 「サクヤだ」



 「サクヤ、今から修行を始める。修行の内容は単純だ。俺のHPを1減らすこと。これだけだ」


 

 「減らすだけか?」



 「そうだ。それが出来たら次のステップに行こうじゃないか。ちなみに次のステップは " 技 " だ。」


 

 おお、その技ってのは結構面白そうだな。

 ファンタジーっぽくて良いと思う。


 次のステップに早く進みたいが、まずはヒルのHPを1減らすことが課題だ。


 そして、俺の経験からしてこの課題は難しいだろう。 

 なぜなら、エリアボスとタイマン張らなくてはならないから。


 マーナさんとも一回、一対一の状態で戦ったが。

 その時は、明らかに手加減された上でHPを1も減らす事は出来なかったと思う。


 しかし。

 その時はその時。


 今の俺はその時よりも成長している。


_______________________________________

 ステータス


 レベル 2

 名前  サクヤ

 種族  大狼

 職業  探偵


 パラメータ


  HP220+20

  MP180+20


  速力128+5 筋力125+5 防力125+5

  器力 165+10 精力 165+10


 スキル

 〔種族スキル〕《爪撃》LV24+1《噛撃》LV8

  《変化》LV16+12


 〔職業スキル〕《鑑定》LV35+6《閃めき》LV10+2

  《視覚強化》15+5


 〔通常スキル〕《錬金術》LV1+0《念話》LV--

  《念力》LV32+5《潜伏》LV41+6

  《地図》LV32+12《耐久》LV3《火魔法》LV5

  《水魔法》LV5《風魔法》LV5《土魔法》LV5

  《光魔法》LV5《影魔法》LV20+0

  《付与魔法》LV17《偽装》LV24+15《不意打》LV1


 SP13 +3

 EP0 



 称号

 〈変わり者〉〈念じる者〉〈潜む者〉〈耐える者〉

 〈PK〉〈暗殺者〉

__________________________________________



 この短時間でスキルレベルがとんでもないことになっている。

 特に、ずっと使っていた《変化》と《偽装》の二つの上がりが半端ない。


 おっと、《地図》も上がってるな。

 マッピングによって経験値が多く蓄積されたんだろう。

 

 レベルは何故か1だけ上がっている。


 ヒルに会う道中に倒したボア……経験値が高いのだろうか?

 全く強くないのに。


 まあ、いい。

 パラメータの上がりが良いので気にしないことにする。


 それにしても、明らかに進化前よりもパラメータの上がり幅が高いぞ。

 レベル1でこれなら、数十レベルになれば……どんな化け物になるのやら。


 ……深く考えないようにしよう。

 


 「よし。始めるぞ!」


 「俺が手を叩いたらスタートだ。出来るだけ俺は動かないようにするから、好きに攻撃してこい。遠慮はいらんぞ?」


 

 俺の脱線しかけた思考を、ヒルが戻した。

 はあ、ヒルは本当に急いでやりたいらしい。

 

 だが、ヒルに言われなくとも、遠慮なんてものは最初からしない。 

 というか、どちらかというと遠慮するのはヒルの方だと思う。


 まあ、いいか。

 ここで何を言ってもどうにもならない。


 とにかく、警戒だけはしておく。

 初見なのだから対策も何もないのだ。


 俺はヒルから距離を取る。

 草に隠れてヒルの姿が見えない。

 同時に、向こうからも俺のことは見えないはずだ。


 

 パァン!!!!



 開始の合図がされた。

 手を叩いただけでそんな音が出るのには驚いた。

 

 俺は開始と同時に、定石である《潜伏》を発動……させない。



 なぜなら、ヒルには多少の効果はあるだろうが《潜伏》が通用しないと思われるからだ。


 ついさっき、気づいたのだが。

 ヒルは、街で俺を見て異質だと判断したと言った。


 だが、俺は少女と接触したとき以外に《潜伏》を解いていない。そして、草原に出た後も《潜伏》を発動させ続けていた。


 にも関わらず、ヒルは俺を追いかけていた。


 恐らく、ヒルには何か察知系のスキルがある。

 それも相当高レベルの。


 まあ、エリアボスなら当然か。

 マーナさんにも効果なかったし、これはしょうがない。


 

 《潜伏》は少し効いたらラッキー程度に考えた方が良いだろう。少なくとも切り札として期待はしない。


 ヒルは出来るだけ動かない、と言っていたし、しばらくは魔法系スキルで遠距離から攻撃して様子を見ることにする。


 俺は手始めに《火魔法》のファイヤアローを発動させ…………ようとしたところで気づく。


 草が邪魔で狙いをつけられない上に、障害物にもなって当てること自体が至難だという現実に。


 ……ふう。


 八方塞がりだ。


 どうしよう?


 

 「早く殴りかかってこい!」



 あー、やっぱりそれしか無いのか。

 

 遠距離ダメ、隠密ダメ。

 と来たら後は近距離戦しかない。


 が、近距離で勝てるか?

 

 ステータス的に絶望的な差があるだろうし。

 ヒルは人だし…………ってあれ?


 何でヒルは人なの?


 エリアボスなのに人?


 俺みたいに《変化》を持っている?


 でも人になるメリットは?


 そもそも魔物の定義は?

 

 エリアボスの定義は?


 意味わからん。

 よくよく考えてみると不可解なことが多くある。


 エリアボスが自分のエリアを離れて何処か行ったり、エリアボスが人になっていたり、街の中に入っている。


 普通のゲームじゃあり得ないよな。

 でも、このゲーム自体が普通じゃないか。

 じゃあ、これが普通か。


 ……なんてはならない。


 エリアボスがいない間にプレイヤーが来たらどうするんだ、エリアボスが人だとプレイヤーと見分けつかない、プレイヤーが《鑑定》で見たら明らかに人外。


 等々の問題が発生する。

 ちなみに最初の問題はもう起きた。

 俺が被害者だ。


 前も考えたことだが、このゲーム自体がおかしい。

 こんなシステムあってはいけないだろ。


 俺がそんなことを考えていると。

 視界が揺れた。


 遅れて衝撃がやってくる。

 もちろん痛みはない。


 どうやら、数十メートル吹っ飛ばされたようだ。

 凶器は拳。


 そして犯人は。

 

 

 「早く! 攻撃してこい!」



 短気なエリアボスだ。

 我慢できなかったらしい。


 動かないと死ぬ病気にでもかかっているのか?

 ほんと勘弁してくれよ。

 今のでHPが160削れたぞ。残り60でどうしろと言うのか。


 

 「動かないってのはどうした?」


 

 「お前が動かないのを許した覚えはない」



 いや、俺の話じゃなくてあなたの話なんだけど。

 会話が成り立たない……。


 

 「早くしろ。考えるより大事なことがある」


 

 「……分かった」


 

 ヒルの真面目な物言いに何故か納得してしまった俺は、ヒルから再び距離を取る。今度はさっきよりヒルとの距離を短くした。


 と同時に。


 間髪入れずにヒルへと殴りかかる。


 開始の合図はされたのだから今はもう修行中だよね、という考えを抱きながら。しかし、少しの仕返しという意味も含めての攻撃だ。


 そんな思考が伝わったのか否か、ヒルは目を見開いている。

 俺の急突進に驚いているようだ。


 心の中で笑いながら、これは当たると確信した。

 俺の爪がヒルに当たる瞬間。


 俺の爪は宙を空振った。

 それと同時に聞こえる声。



 「今の不意打ちはよかった。だが、その次が無いのが勿体ない。近接戦において手数は重要だ。もっと身体全体を連動させて手数を増やせ。そしたら俺に当たるかもな」


 

 偉そうな言い方にイラッときたが、言ってることは間違っていないので何とも言えないのがまたイラッとくる。


 なので、もう全力でやることにした。

 MPが心配だったがもう関係ない。全力だ。



 《付与魔法》を発動。

 俺の身体全体に《火魔法》《水魔法》《風魔法》《土魔法》《影魔法》《光魔法》を付与する。


 よし。無事に付与できた。

 目論見通り、自分の身体になら重ねて付与が出来るようだ。


 なぜ付与出来たかというと、《耐久》の効果だ。

 今気づいたが《耐久》が発動し、全ステータスが強化された。もちろん《付与魔法》も強化されており、スキルレベルが34になっていたのだ。


 その瞬間、新しい使える魔法の効果などが頭に入ってきた。そこに重複付与という《付与魔法》の強化版魔法があったという訳なのだ。


 察しの通り俺のステータスが2倍になった。

 パラメータもスキルレベルも倍だ。 


 なので、MPを80消費したが気にしない。

 《光魔法》《水魔法》の自動回復のおかげで回復速度は今までの倍だし、MPの余力も大きい。


 3秒で2MP回復するのだ。あと2分後には全回復。

 《火魔法》でHPが削れているがこっちも回復している。


 《付与魔法》での能力強化は成功。

 だが、俺の全力はここからだ。


 《耐久》の効果で《影魔法》が《闇魔法》に進化しており、新しく影操作とダークドームという魔法を使えるようだ。


 影操作は少し特殊。既存する影を操作する魔法。消費MPは0だった。魔法というより技術に近い。


 ダークドームは半径5メートルの半円内の光を遮断する。すなわち何も見えない闇を生み出す魔法だ。攻撃力はないが消費MPは50でコストは高い。持続時間は10秒だ。


 俺は《闇魔法》ダークドームをヒルのいるところに発動。

 それと同時に影操作をする。


 ダークドームの闇をヒルの身体、特に目の辺りに圧縮して纏わせる。これでヒルの視界は閉ざされただろう。


 続けて《潜伏》の進化スキル《隠密》を発動。

 さらに、《偽装》の進化スキル《偽造》で偽物の俺を配置する。


 動きはしないが、ステータスや外見は俺と全く一緒。

 同じ姿勢で並んだらどっちが本物か分からないだろう。

 

 そして、便利なことに《偽造》で造り出したものには質量がある。生命がないだけでそれ以外は本物らしいのだ。ちなみに、俺の任意ですぐに消せる。全く便利なスキルだ。

 

 俺は自分の爪だけを《偽造》する。

 数十個ほど《偽造》した。


 これをどうするかというと。

 《念力》が進化したスキル《念動力》を使うのだ。


 《念力》では複数のものに使うことは出来なかったが、《念動力》に進化したことで複数のものに使う事が出来るようになっている。


 この爪を尖っている方を先にして《念動力》を使い、ヒルにぶつける。

 まるでマシンガンのように飛んでいった爪は、見事にヒルに命中。


 俺は素早くヒルの背後に回る。

 《隠密》のおかげかヒルが気付く気配はない。


 《爪撃》《不意打ち》のスキルを発動。

 そして《念動力》を自分にかけ速度をブースト。


 ヒルの首部分を狙い、腕を振る。


 直撃だ。


 俺は《念動力》で素早くその場を離れる。

 

 と同時にダークドームの持続時間が切れた。


 ヒルの視界に自由が戻る。

 


 「ハッハッハッハ! 俺のHPを10も減らすとは中々やる! 見直したぞサクヤ!」


 「これは使わないつもりだったが……それはつまらん!! サクヤよ生き残ってみろ!」


 

 いきなり何を叫び出したのかと思ったら、だいぶ興奮してるようだ。

 ちょっと呆れたな。


 ん? ヒルの身体から薄く白い膜みたいなのが……。


 その瞬間。


 俺にかかる重力が増した。


 まるで目に見えない何かに押さえ込まれているような。

 まるで身体の熱が奪われていくような。


 体が思うように動かない。


 

 「≪天衝波≫!!」



 ヒルが手を突き出しながら何かを叫ぶ。

 と同時に、気団のようなものが俺へ向かってくる。


 俺は咄嗟に《偽造》を発動し、俺の偽造を《念動力》で気団のようなものに衝突させる。

 しかし、気団は呆気なく俺の偽造の胸を貫通する。

 減速した気配すらない。


 慌てて《念動力》を自分にかけ、逃れようとした。


 が……完全に避けることは出来ず。


 俺の右後ろ足に当たってしまった。


 俺は気団のようなものの衝撃波で吹っ飛ぶ。

 

 気団のようなものは俺の足すら貫通して、何処かへ飛んでいった。


 

 「ほお。良く生き残った。まずの修行はこれで終わりだ」


 

 おい……終わりだ、じゃないよ。

 俺の足を見てみろ。


 右後ろ足がほぼ消し飛んでるぞ?


 で、面白いことにステータスを見ると表示が変わってたの。



_______________________________________

 ステータス


 レベル 2

 名前  サクヤ

 種族  大狼

 職業  探偵

 状態  部位欠損(足)


 パラメータ


  HP116

  MP142


  速力128 筋力125 防力125

  器力165 精力165


 スキル

 〔種族スキル〕《爪撃》LV26+2《噛撃》LV8

  《変化》LV16


 〔職業スキル〕《鑑定》LV35《閃めき》LV13+3

  《視覚強化》17+2


 〔通常スキル〕《錬金術》LV1《念話》LV--

  《念力》LV39+7《潜伏》LV46+5

  《地図》LV32《耐久》LV10+7《火魔法》LV8+3

  《水魔法》LV8+3《風魔法》LV8+3《土魔法》LV8+3

  《光魔法》LV8+3《影魔法》LV28+8

  《付与魔法》LV25+8《偽装》LV30+6

  《不意打》LV5+4


 SP13 

 EP0 



 称号

 〈変わり者〉〈念じる者〉〈潜む者〉〈耐える者〉

 〈PK〉〈暗殺者〉

__________________________________________


 

 ステータスに新しく状態の欄が登場しており、部位欠損(足)だって。

 

 幸い、切断面は白く滑らかになっていてグロさは無い。

 

 が、俺は自分の足が消し飛んだという事実を受け止め切れず、まだ立てないでいた。

 

 

 「ふん、今回だけ特別だ」


 

 ヒルはいつのまにか俺に近づいていた。

 

 手を出し、俺の足に触る。


 ヒルの手には、あの薄く白い膜がある。


 俺は身体が一瞬浮くような感覚を覚えた。


 すると次の瞬間。


 足の切断面から足が生えてきた。


 ものの数秒で足は元どおり。

 

 俺は声も出せずに驚いていた。

 

 

 「よし立て。今からお前に教えてやる」


 

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