頭脳戦(笑)
【ログイン9日目】
……お前が誰だよ!?
というツッコミは置いておく。
こいつには冗談が通じそうにないし無意味だろう。
格好は街にいたプレイヤーやNPCと変わりない。
街にいたとしても違和感がないな。
しかし、凄いのは男の体格だ。
爪先から頭まで、全身が鎧のような筋肉で覆われている。
手足は丸太のように太く、胸筋が大きく盛り上がっているのが服の上からでも分かる。両手斧を片手で振り回してそうだ。
物理攻撃無効、と言われても信じられるほどの身体をしている。顔も厳つく、正直怖い。
しかし、その風貌からくるイメージ通りの人格では無さそうだ。
とりあえずぶん殴る! ではなく、ちゃんとコミュニケーションをとって情報を引き出そうとしてるからな。
個人的には有難い。
俺も、このオッサンが何者なのか気になるし。
「おい、だんまりかよ」
ちょっと考えていたら、男が痺れを切らした。
意外と我慢強い性格ではなかったらしい。
だが、このまま無視するのも得策ではないので、何かしら答えなければならない。
が。
ここは敢えて、素直に答えないことにする。
俺はテンプレを挟みながら男に答える。
「人に名前を尋ねる時は、自分からだぞ?」
俺は笑いながら言った。
調子に乗って言ってみたものの、内心では男が怒らないかとビクビクしていたのだ。
いきなり殴って来そうで怖い。
「む。確かにそれもそうだ」
何故か納得してくれた。
テンプレに理解があるプレイヤーなのか、そう設定されているNPCなのか。可能性は両方ある。
とにかく、自分の発言に気をつけて慎重に言葉を選ばないといけない。
「俺の名は、ヒルディス! ヒルとでも呼べ」
ヒルディスか……。
これもまた、プレイヤーなのかNPCなのか判断できないな。
もう少し情報が欲しい。
「ヒルディスさん、あなたは「ヒルと呼べ」
ヒルディスと呼ばれるのが嫌なのか?
俺がヒルディスと言った瞬間に訂正してきた。
「……ヒルさん」
俺は素直に呼ぶことにした。
ここに拘る理由もないし、無駄に怒らせるのも意味がない。
一応、年上なので敬称を付けた。
「あなたは何故、俺にそんな質問を?」
一番聞きたかったことをきいた。
この様子のヒルが答えてくれるかは別としても、反応が見れれば良いと考えての質問をした。
俺の質問を受けて、ヒルは何か考えている。
やはり最初の、俺に対しての質問は興味本位の質問ではなかったようだ。
「ふん、何で俺から話さなきゃならないんだか」
ヒルは言う。
そして、諦めたような調子で再び口を開いた。
「いいか? ここはもともと、街の広さの割には人が少ない平和な場所だった。魔物もそれほど多くはなかったんだ」
ヒルはそう言うと、確実に怒りを含んだ表情で俺の方を見てきた。
「だがな。ある日……ちょうど一週間ほど前だ。街の中央にいきなり人が現れはじめた。それも何万と。そして、時間が経つと何故かそいつらは、現れては消え現れては消え、を繰り返していた」
「おかしな話だろ? 俺も最初は何が起きてるか分からなかった。だから聞いてみたんだ、いきなり現れたやつにな。お前たちは何者だ? って」
「そしたらな。" 俺はプレイヤーでここはゲーム。お前は多分NPCだろう " って答えやがったんだ」
「プレイヤー、ゲーム、NPC、聞いたことのない単語を話して、そいつはどっか行ったよ。他のやつにも聞いたが同じことばかり言う。だから、俺は様子を見ることにした」
「その次の日、急に魔物の数が増えはじめた。何万と。今までにない規模で増えはじめたんだ」
「そして、その次の日。今度は俺に変化が起きた」
「まず種族が " エンシェントボア " なんてのに変わり、ステータスが大きく下がった。スキルの数も制限され、思考さえも制限されている節があった」
「俺は怖くなったさ。いずれ、お前らに違和感も覚えず今の俺はどこかに消えるんじゃないかってな」
「だが、運はまだ俺を見放してなかった。今日、お前を街で見たとき確信した。お前は他と比べて異質だ。何か俺の知らない情報をもってるだろ?」
長々と語っていると思ったら、急に話を振ってきた。
しかも慎重に答えないといけない類の質問。
ここで誤った返答をすれば、こいつは容赦なく攻撃するだろう。俺を動けないようにしてから確実に情報を得ようとしてくるに違いない。
それを回避するためにも情報を一旦、整理する必要がある。
まず、このヒルという男。
十中八九……エリアボスだと予想できる。
話を聞いたかぎり、" エンシェントボア " ということは…………マーナさんと同じエンシェント種。すなわち、エリアボスである可能性が高いのだ。
だが、この男。
自分がエリアボスで、プレイヤーに狙われる立場にいるという事を知らないようだ。
マーナさんはその事を知っていたのだが、同じエンシェント種でエリアボスのヒルがその事を知らない……。
不可解だ。
《鑑定》を使えば何か分かるかもしれないが、リスクが高い。
ヒルが何を根拠に、俺を異質だと判断したのか。
これが分からない状態で《鑑定》をするのは危険すぎる。
まあ、マーナさんとヒルの情報量の差異については置いておこう。いま考えても仕方のないことだし、マーナさんに直接……聞けたら聞いておこうと思う。
とりあえず。
ヒルは何の情報が知りたいのかを聞いてみるとしよう。
「目当ての情報は何?」
「チッ」
「欲しい情報が分からないと、俺も情報を渡すことが出来ないのですが?」
「……分かってるよ! いいか、俺の知りたい事は二つ。俺のステータスを戻す方法と、お前らの正体についてだ!」
はあ。生憎、二つとも答えられる。
だが二つ目の質問は、いま答えるわけにはいかない。
ヒルは信じないだろうからな。
まあ、ぶっちゃけ俺も信じられない。
この答えに関しては上手く躱そう。
ヒルの頭は……そんなに良くないようだし。
「知らないとは言わせないぞ? お前が何か知ってるのは分かってるんだ! さっさと答えろ!」
おうおう。
慌てなさんなって。
これ以上は本当に実力行使となりそうなので、ヒルに俺の知っている事を丁寧に教えてあげようと思う。
「分かりました、情報を教えます。が、あなたのステータスを戻す方法しか俺は答えられません。それで良いですか?」
「……ああ」
若干の間が気になっだが、無視して話を続ける。
ここからは俺の話術も必要になってくるので、自分の発言に注意しながら話すことになる。
「あなたのステータスが変わった原因は分かりませんが、元に戻すことは可能です。まず、あなたの任意で弟子を取ってください。そして、その弟子に修行をつけ試練を与えます。弟子がその試練をクリアすれば、あなたのステータスは元に戻るでしょう。この方法は信用できる知人に聞いたものですので、やってみる価値はあると思いますよ」
出来るだけ、違和感のないように話を纏めた。
詳しい事は言わず、やり方だけを説明したのだが……。
ヒルは納得しただろうか。
「その弟子は……誰でもいいのか?」
「はい、恐らく」
誰でもいいのか? か。
一体、誰を弟子にするつもりなのか。
少し気になるところではあるが、俺には関係ないので聞くのは辞めておく。
「ふっふふ。俺は決めたぞ」
(?)
「俺は……お前を " 弟子 " にする!」
「はぁ!?」
いきなり笑ったと思ったら、とんでもない事を言い出した。
思わず素で驚いてしまった。
ともかく、こいつは何を言ってるんだ?
俺を弟子にする? 意味がわからない。
どんな思考回路を巡ったらそんな結論に至るのか、こいつの頭の中を本気で見てみたいと思ってしまった。
「何で俺を弟子にする!?」
俺は問いただすようにヒルに向かって言った。
だがヒルは、慌てた俺がそんなに面白かったのか、笑いを堪えるように……いや、面白がりながら言った。
「さっきも言った通り、お前は異質だ」
「そして、そんな奴を好き勝手に放って置けない。お前を監視しながら俺のステータスも元に戻せるなんて、まさに一石二鳥じゃないか! ふっふふふっふっふ!」
まあ…………理屈は分かった。
だが、大事なところが抜けている気がする。
俺は早速そこを指摘してみる。
「俺を強くしてもいいのか? そんなの本末転倒じゃないか?」
「大丈夫だ。お前がいくら強くなろうと、ステータスを戻した俺には勝てないからな。絶対に」
…………なんかムカつくな。
それが当然のように言ってくるのは少し腹が立つ。
なんかこいつをぶっ倒したくなってきた。
が、まだ問題がある。
それはマーナさんについて。
現在、俺はマーナさんの弟子となっている。
そこからさらに、誰かの弟子になることが可能なのだろうか?
システム的にも、マーナさん的にも。
だが、この問題は俺一人で考えても意味がない。
システムの事もマーナさんの考えも俺は分からないからな。
という事で、さっさと聞いてしまうことにする。
マーナさんに直接だ。
方法はというと……《念話》を使おうと思う。
恐らくマーナさんと話せるだろう。
『あーあー、えーと……マーナさん聞こえてます?』
『ああ。どうしたサクヤ?』
おおっ。
本当に話せた。
それも結構すぐに。
少しは時間がかかると思っていたが、嬉しい誤算というやつか。
『あの、いま草原のエリアボスの前なんですが……その……彼に………… " 弟子 " にならないかと誘われてまして。どうでしょうか?』
『ふむ。まあ、サクヤのやりたいようにやれば良い。私は少し用事があってね、もう《念話》も切らないとならないんだ。だが、もし弟子になるなら……2日に1回は顔を見せにきてくれ』
『分かりました! ありがとうございます』
マーナさん、良い人すぎる。
普通に考えてもうちょっと、他の人の弟子になるのに渋ってもいいと思うのだが、俺のためを思ってなのか、すぐに了承を得ることが出来た。
俺も弟子になること自体が嫌なわけではない。
むしろ、強くしてくれるなら感謝もする。
なので、マーナさんからの了承も得れたので、ヒルの弟子になれ、という言葉を否定する理由はない。
二日に一回はマーナさんのいる森エリアに戻れば良いとのことだし、そんなに気負わなくてもいいのだ。
「……何だ急に、間の抜けた顔しやがって」
おおう、そんな顔だったの俺。
ヒルに指摘されてしまったので、意識的に表情を真面目に戻す。
ちょっと、気恥ずかしさもあるから、無理矢理にでも話題を変えることにする。
まあ、話題を変えるというより、ただ返事を返すだけなので、話題自体は変わっていないのだが。
「分かった。俺はヒルさんの弟子になります」
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ワールドクエスト
《黒の試練 》を開始します。
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俺が言った瞬間、マーナさんの時と同様にクエストが開始された。マーナさんの時と違うのが白が黒になっただけなので、やはり同系統のクエストなのだろう。
相変わらず、ワールドなんていうスケールの大きいクエストだが、受けれるものは受けといて損は無いと思う。
「おお! 分かってるじゃないか」
「だけど、二日に一回は森の方に帰らないといけないです」
「それはいいんだけどよ。その話し方は気持ち悪いから、さっきのに戻せ」
「え、は、うん。これでいい?」
「おう、それだ」
よく分からないところで細かいやつだな。
一応、マーナさんと同じ師匠だから敬語の方が良いと思ったんだが。どうやら、ヒルのお気には召さなかったらしい。
俺としてはどっちでも良いので、ヒルのご意向のままに。
「よし! こっちに来い、修行するぞ」
そう言うと、ヒルは俺の手をいきなり掴み取って走った。
どのくらい急かと言うと、俺が反応もできないくらいの速さだ。
ちょっと……いや、かなり急ぎすぎ。
少なくとも、即断即決なんてレベルではないな。
「いきなりどうしたんだ?」
俺はヒルに質問する。
しかし、その質問にヒルは答えようとしない。
完全に無視してるな。
むしろ、さっきよりスピードが上がった。
そして、俺がそう感じた後も、ヒルはどんどんスピードを上げていく。
さっきまでは地面に引きずられていたのだが、今はもう地面に足が着いていない。俺は横向きで宙に浮いているのである。
当然、ヒルに掴まれている手には相当な負荷が掛かっていると思うのだが、何故か全く痛まない。
魔物の体ってすげぇ。
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警告!
この先、草原の最深部になっています。
そのため危険度が高く設定されております。
本当に進みますか?
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なんか見たことあるやつが表示された。
少し既視感を覚えていると、俺の足に何かが触れた。
出来るだけ首を下方向に向ける。
すると、草の背丈がさっきまでの倍ほどに成長していた。
いや、成長というより最深部に近づくにつれて長くなっている、と言った方が適切だろう。
これでは草原というより草むらだ。
……なんてことを思った。
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警告!!
この先を進むと、エリアボス戦が開始されます。エリアボスは通常の魔物と異なり、高い知能を有しており魔法やスキルを多数使います。エリアボス戦の人数制限はありません。なお、エリアボス戦が開始した場合の途中退場は可能です。その場合、経験値、ドロップアイテム、ロストアイテムなどは、持ち帰ることが出来ません。充分に注意してお進み下さい。
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あ、森エリアと同じような警告が表示された。
警告と警告の間が短い。
だが、この警告がされたということは。
今からエリアボス戦の広場みたいなところに連れてかれるのだろう。マーナさんの時もそんな感じだったし、恐らく草原エリアも変わらないと思う。
そして、俺はそこで戦わさせられるな。
修行だ! なんて言ってたし。
実戦形式で修行が行われるのが簡単に予想できる。
バチッッ!!
痛っ…………くは無い。
ゲームなので痛みは感じないはず。
どうやら、俺の顔に何かぶつかったようだ。
俺は首を横に傾ける。
目の前には草が生えていた。
俺はずっと上空を眺めていたので、いつ間にか草が大きくなっていることに気づかなかったらしい。
だが、所詮は草なのでHPは1も減っていない。
今も顔に草が当たり続けているが……気にしないことにする。痛くないし、HPも減らないからな。
「よし、着いたぞ」
俺がどうでもいいことを思っていると、ヒルがそう言った。
着いたぞ、と言っても一体どこに着いたのだろうか。
というか、早過ぎる。
ヒルが俺を放っておいたままなので、自分で体を起こした。
勝手に連れ出したあげくに放置とは、俺への扱いが酷い。
師匠が弟子にする事とは思えないな。
ヒルの頭には体罰やパワハラといった単語がないのだろうか? まあ、あったらこんな事はしないか。
……いや訂正。平然とやりそうだ。
「今からここで " 修行 " だ」
ヒルは薄く笑いを浮かばせながら言った。
絶対良くないこと考えてるだろ。
ポーカーフェイスって知ってる?




