さらなる出会い
【ログイン9日目】
ん? 異常なまでに弱いぞ?
この子達が初心者なだけか?
いや。
まだ、このゲーム自体が始まって一週間とちょっとしか経過していない。
俺だって、立派な初心者だ。
それなのに、このステータス。
正直、俺のステータスと比べると天と地の差だ。
まあ、マーナさんと比べると俺が地なんだけど。
しかし、プレイヤーのパラメータってこんなに差が開くものなのか。
それとも、俺の方が特殊なのか?
魔物……。
うん?
そういえば……キャラメイクの時に。
GMが、魔物はパラメータの上昇に補正があるなんて話をさらりとしていたような気がする。
もしかしたら、それが関わっているのかもしれない。
いや、間違いなく関わってるだろう。
あのGMのことだ。
まだまだ、重要な情報を黙っていたりしてそうなものだ。
あと、可能性があるのは称号だな。
〈変わり者〉の効果で、パラメータ補正があったのを覚えている。かなり驚いたので記憶に残っていたのだ。
それも関わっているのだろう。
称号と魔物補正だけで、パラメータにこれだけの差が生まれてしまうっていうのもおかしな話だが。
それも、称号を複数もっている俺だから起きたことなのかもな。
称号のおかげって事か。
そう考えると。やっぱり称号って凄いものなんだなぁ。
スキルをSP0で取得できるようになるし。
パラメータの補正まで。
そんなのを、いくつも獲得してる俺がおかしいんだよな。うん、そんな気がしてきた。
だってあの二人、称号が………………あれ?
よく見ると。
称号が表示されてないぞ!?
それにSPも!
……。
俺のレベルと二人のレベルは、かけ離れている。
なので、必ず《鑑定》は成功すると思われる。
事実、それ以外のステータスは鑑定できている。
考えられる可能性としては……。
《鑑定》も完璧ではないってことか。
流石に、他人の称号とSPまでは見れないという仕様なのだろう。
確かに考えてみれば、見える方がおかしいよな。
発動するときに消費がなく、発動時間も一瞬の《鑑定》。
パラメータが見えるだけでも、かなり壊れた性能だ。
これで、ステータス全て見れるとしたら。
《鑑定》を持っていないプレイヤーに対して、《鑑定》を持っているプレイヤーが圧倒的優位になってしまう。
相手のHPを見ながら戦うことが出来るし、MPを見ることで魔法が使えなくなるタイミングを知ることも出来る。
恐らく何らかの制限はまだあると思うが、正直なところ強すぎる気もしてくる。
SP10なんて安いと思えるくらいには強い。
まあ、便利だから……。
それはそれで、俺は良いと思うけどな。
……あっ、ヤバイ。
《変化》がそろそろ解けそうだ。
俺の現在位置は、街内の南東側。
さっきまでは北東側にいたのだが、二人のステータスと《鑑定》について歩きながら考えていたら、いつの間にか離れた所に来ていた。
えっと、ここから近いのは草原か。
東側の城壁に走って、《念力》で越えれば間に合うだろう。
万が一、誰かに見られるのは困るから《潜伏》を発動しておく。こういうのは大事だ。
おお!
何故かは分からないが、大勢のプレイヤーが北側に走っていく。何かのイベントでもあるのか?
まあ、俺には関係ないことだろうな。
だって魔物だし、イベントだとしても参加することなんて出来やしない。
しかし都合が良い。
このまま草原まで行くとしよう。
黒猫は小さな脚で駆け出す。
その存在は希薄。
建物の陰へ溶け込むように消える。
黄土色の城壁を飛ぶように駆け、越える。
本来ならそれを認識できた者はいない。
……しかし。
黒猫を完全に目で捉えていた者が。
一人だけ、存在していた。
☆☆☆☆☆
いやぁー。
やっぱり、狼の方がスピードは速いなぁ。
俺は今、黒猫から狼の姿に戻って草原を走っていた。
草原の真ん中ではなく、少し周りながらだが。
流石に、真ん中を走ってプレイヤーと鉢合わせ、なんてことが起こったら不味いだろう。
《潜伏》を発動させているので、もしかしたら認識されないかもしれないが、大人しく周るのが一番安全だと思った。
そんな周り道が全く苦じゃないのは、ウルフ自慢の高い速力のおかげだ。こうしてみると、ウルフで良かったと思う。
まあ、猫も猫で楽だったのは確かなのだけど。
建物の狭い隙間に入れたり、伸縮性のある身体。
何より、猫のことを嫌いな人がいないというのが良い。
猫とは万人に受け入れられる動物なのだ。
猫すげぇ。
しかし。こんなに素晴らしい生物である猫も、魔物の一種というのが悲しい。魔物なら当然、討伐されてしまうのが現実だからな。
ここはゲームなんだけどさ。
……いや。
よく考えてみれば、このEOFはゲームというコンテンツの領域を軽く越えてないか?
だって。
俺が違和感なく自然に話しているマーナさんが、単なるAIなんて信じられるか?
正直なところ、信じられないだろう。
話し方や微細な表情が、人間と変わりないのだ。
仮に、中身が人だと言われても納得するくらいに。
それにマーナさんの弟子になると決める前、話を聞いた俺はマーナさんに同情していた。
マーナさんが、その時に見せた悲しげな顔もAIが表現していただけなのか?
確かにマーナさんは、エリアボスには高い知能を与えられる、と言っていた。
だが、それにも限度というものがある。
いくら高い知能と言っても、人間と変わらないほどの知能があるのはおかしい。
そういう分野に疎い俺でも分かる。
問題は、だ。
そんな高性能AIなんかが初めから存在していない場合だ。
すると、マーナさんの正体が全く分からなくなる。
外見は狼型の魔物だが、その中身が一体なんなのか。
GMが入っている可能性もあるが、考えにくい。
このゲームは基本的にGMの介入がない、というのはGM本人達が言っているルールだからだ。
ならば。
新型人工生物の開発と研究、その実験だったり?
突拍子もない話だが、これくらいありそうな気もする。
が、冷静に考えてみると……。
……ないな。
自分で考えといて恥ずかしくなった。
どうやら、この非現実的な世界に俺の精神も幼い方向へ引っ張られているようだ。
まあ、普通に考えてみれば。
こんな世界を造れるほどの技術を持っている運営なら、俺みたいな一般人の常識の一つや二つなんて簡単に超えてくるのだろう。
結論。
俺が予想もできない、何かしらの最先端技術が使われている。
まあ。そういうことだろ。
無理やり納得したようなものだが、これ以上考えても馬鹿な思考しか浮かばない。
この疑問は置いておくとしよう。
で、そんなことよりも。
早く草原エリアの《地図》を終わらせて、草原エリアの魔物を見てみたいというのが本音でもある。
こんな所でうだうだ考えてる時間が惜しい。
そんな訳で速く走る。
最近気づいた事だが速く走るにはコツがいる。
具体的に言うと、脚の筋肉に意識を集中するのが良い。
脚が地面を離れている時に、筋肉を収縮させる。
そして、地面を踏み切るタイミングで溜めた力を一気に解放するような感じだ。
これを連続してやる事で走りが加速する。
効率も段違いに良くなるのだ。
ちなみに、気づいたのは城壁を登っている時。
もちろん《念力》で飛んでいたが、前足で引っ掛けて後ろ足で蹴って進むイメージで、城壁を楽々と越えることが出来た。
空を走ってるみたいで楽しい。
もう一回はやりたいな。
そう思ってしまったのは内緒である。
……ん!?
前方に茶色い物体を発見!
……いや。
物体ではなく生物だった。
遠くからでは見えなかったが……。
これは猪か?
丸っこい体に、口から生えた二本の牙。
ちなみに足が短い。
確認のため、《鑑定》してみるが。
これなら見なくても魔物の名前は分かりそうだな。
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レベル4
種族 ボア
パラメータ
HP10
MP0
速力6 筋力6 防力15
器力1 精力1
スキル
〔種族スキル〕《突進》LV2《噛撃》LV1
〔通常スキル〕
__________________________________________
おおう……。
いかにも序盤の雑魚敵って感じだな。
攻撃は避けやすくて軽いが無駄に硬いモンスター。
時間をちょっとかければ簡単に倒せる良い奴なんだよな。
特に序盤のレベル上げには大きく貢献してくれる。
まさに初心者のための魔物と言える。
そのボアが多くいるのが草原エリアなのか。
そりゃあ、人も集まるよ。
考えれば考えるほど、俺って完全にスタートするエリアを間違えたよなー。
森エリアじゃなくて草原だったらどんなに楽だったか。
はぁ。自分の運勢を咎める。
おっ。
向こうのボアも俺に気づいたようだ。
こちらを向くと同時に突進してくる。
悲しいほどに直線的な突進だ。
俺は横へ避ける。
ボアはそのまま通り過ぎて、暫くしてから止まった。
振り返り、再び突進。
俺はまた横へ避ける。
そして、ボアが通り過ぎるタイミングで《爪撃》。
ボアは一撃でHPを全損させ、消える。
レベル4なのだからこんなもんか。
こうして戦ってみると、ウルフがどれだけ強くて厄介なのかが分かってしまう。
恐らく、ボアは同レベルのウルフにだってボコられるだろう。
ボアのHPと防力がいくらウルフを上回っていようと、ウルフには絶対に勝てない。
高い速力で攻撃を躱され、高い筋力でHPを削られる。
ボアの攻撃も当たらなければ意味は無い。
おまけに《嗅覚強化》がウルフにはあり、感知能力にも大きな差があるのだ。
ボアが勝てる訳ない。
なんかこいつ、可哀想に思えてきたな。
俺は、死体となって消えかかっているボアに少しだけ同情した。
「そうだよな。いくら何でも弱すぎるよなぁ」
本当にその通りだ。
森エリアのウルフまでとは言わないが、もう少し強くしてやって欲しいものだ。
こんなの、戦っていると言うより無慈悲な殺戮じゃないか。
そもそも運営の――
「――バランス調整が良くないよなぁ」
そうそう。全く…………え?
自然と聞き流していたがこれは俺の声ではない。
もちろん心の声でもない。
そして。
声は俺の後ろから聞こえていた?
現在進行形で走っている俺の後ろから?
ま、まさかなぁ。
後ろを振り向きたくないので、別の方法で後ろを確認することにした。
今!
俺は急停止した。
もし、後ろに誰かついて来ているなら、止まりきれずに俺と衝突するはず。という考えから行ったが……。
俺が止まっても背中に衝撃は来ない。
ふぅ。
どうやら俺の思い過ごしだったらしい。
多分、あの声はゲームの不具合だったのだろう。
良かった良かった。
俺は安心しながら後ろを振り向く。
すると――
「おい、何で急に立ち止まったんだよ」
――やたら威圧的な中年の男と。
「まあいい。お前たち、何者だ?」
目が合ってしまった。




