出会い
【ログイン9日目】
「はぁ〜。なんか面白いこと起きないかなぁ〜」
「もう、そんな事ばっか言ってないで早くレベル上げいくよ!」
幼い頃からの親友である鈴木理奈こと、リリが溜息を吐きながら呟く。かれこれこの台詞も6度目でいい加減に聞き飽きていた。
「いいじゃん! そんなに急がなくてもさ。ミッちゃんももうちょっと付き合ってって」
「こら! 本名をここで言わないの!」
「分かったよ〜メルちゃん〜」
リリは調子良くそんなことを言う。
現実でもこんな感じなのだから本当に困ったもんだよ。
私のプレイヤーネームはメル。
特に考えたわけではなく、パッと頭に浮かんだからこれにしたの。別にいいでしょ?
現在のレベルは8。
リリも同じくらいだと思う。
だけど、他のプレイヤーと比べるとかなり低い方だ。
ただでさえレベルが足りてないのに、こんなところで遊んでるなんて……。まあ、ゲームは遊ぶものなんだけどさぁ。
元はと言えば、リリがこのゲームに誘ったのに、本人がこの調子ではやる気があるのかと疑ってしまう。
しかも、「トップを目指すぞ!!」なんて事も言ってた。あの時の勢いは何処へやら……。
私とリリはパーティを組んでいる。
リリが剣士で前衛、私が魔法使いで後衛、といった感じ。
二人だけなんだから、前衛も後衛もあんまり関係ないんだけどね。
レベル8といっても、草原のボア相手ならそれなりに戦えている。森は掲示板で行かない方が良いと注意書きされているので、まだ入った事がない。
その時のリリを宥めるのは凄く大変だった。森に行きたい行きたい、と子供みたいに駄々を捏ねるんだもん。
この前だって、学校の帰りに理奈がスマホで偶然に見つけたケーキ屋さんに行こう! って言い出して、家に帰るのがいつもより3時間遅くなったし。
ケーキが美味しかったからそれは許したんだけどね。
それはそうとしても、私はリリに振り回されすぎる。
なんとかなんないかなぁ……。
「はぁ……」
「何よ! そのため息は!」
ついつい溜息が溢れてしまった。
そして、リリがなんか文句を言っている。
私はそれに対して、皮肉を込めて返す。
「誰かさんのせいでレベルが上がんないからさぁ」
「ぐっ……分かったよ〜!」
ふふ。効果は抜群だったらしい。
せめてもの仕返しは成功だ。
「ほらほら、早く草原に行くよ」
リリに声を掛ける。
そして私は北門に向かって歩きだ――
――そうとすると目の前に何かが映った。
…………猫?
いや、猫よね。
それによく見ると。
その猫は足に怪我をしている。
「ちょっとメル! この猫怪我してるよ!?」
私が認識すると同時にリリが言う。
その言葉に私はハッとした。
「まって! 今治す!」
幸いにも私は光魔法と水魔法を取得している。
レベルはまだまだ低いが、これくらいの怪我を治すくらいお手のものだ。
私はすぐさま、光魔法のヒールを発動。
若干の違和感はあったが、猫の足は無事に治った。
少しMPの消費が多い気がしたが気のせいだと思う。
「にゃーー」
猫が嬉しそうに鳴いた。
鳴き声に違和感があったが気にしない。
たぶんゲームが再現できてないのだ。
「わぁー! 可愛い黒猫!」
リリが嬉しそうに猫を撫でている。
私も撫でたい!
なんて事を思っていると。
「でも珍しいね。猫なんて初めて見たよ」
リリが珍しくまともな事を言った。
もう一度言う。大変に珍しいことなのだから。
だが、いまは突っ込まない。
何故ならリリの言うことが確かにそうだからだ。
私も猫なんて見たことないし、聞いたこともない。
仮にいたとしても、サモナーが放っておくはずがないし、掲示板にも情報が出回るはずなのだ。
しかし、そんなのも無い。
実際、掲示板にそんな情報は出ていないからだ。
リアルタイムで確認したから、間違いない。
そうすると、この猫は何なのだろうか?
超低確率で出現するレアモブ?
それでも条件がよく分からない。
んんんー。
考えれば考えるほど分からない。
実は重要なイベントだったりするのかな?
でも、こんな猫が? ……ないよね。
あっ!
私、そういえば《鑑定》持ってたじゃん!
一瞬だけ憧れて取っちゃったやつ。
定番の《鑑定》を取らない人なんていないよね。
それなりに使えるし良いんだけど、あんまり人には言いづらいかな。恥ずかしいし。
でもこの際、気になるしちょっと《鑑定》してみよ。
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レベル17
種族 黒猫
パラメータ
HP20
MP6
速力12 筋力12 防力12
器力 15 精力 15
スキル
〔種族スキル〕《爪撃》LV3《噛撃》LV3
〔通常スキル〕《風魔法》LV5
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え!?
レベル17!?
なんでそんなに高いの!?
私達の2倍じゃん!!
この猫強すぎ!!
「ちょっと! リリちゃん!」
「何よ、そんなに興奮しちゃって。メルって猫好きだったっけ?」
「この黒猫、レベル17だよ!?」
その瞬間、リリの顔が驚きに変わる。
そして黒猫を撫でていた手を引っ込め、素早く距離をとった。
「はっ! 嘘でしょ!?」
「本当だって! 《鑑定》で見たんだから!」
「レベル17ってトップランカーでも無理よ!?」
リリの言ってることは正しい。
現在のプレイヤーの最高到達レベルは21。
このレベルのプレイヤーでも、レベル10のボア相手に複数人で戦わなければ、勝つのは厳しいらしい。
それなのに、レベル17?
私達なんか瞬殺だ。
だがしかし、この黒猫は。
レベルは高いがパラメータはそんなに高くない。
もちろん私よりは高いが、レベル的にそこまでの高さでは無い。とても不思議なことにね。
私は動揺しまくってるリリにその事を伝える。
「リリ安心して。パラメータはそんなに高くない」
「え、本当? 全パラメータ30くらい行ってそうだけど?」
「うん。15くらいだよ」
「あ、なーんだ。ビックリ損だったね」
リリは安心したのか、再び黒猫を撫で始める。
黒猫は撫でられるのを嫌がってそうだけど……。
「にゃあ!」
あ、リリの手を引っ掻いた。
やっぱり嫌だったみたい。
「この猫ぉ! HPちょっと削れたじゃない!」
そんな事を言いながらも、リリは黒猫を撫でようと手を伸ばす。
あ、また引っ掻かれた。
「あ、また! こいつめ!」
あはは。これを見ると、ただの人懐っこい猫だね。
色々と考すぎだったみたい……。
リリと戯れる黒猫をみていると、心が癒されていく気がする。
可愛いなぁー。
欲しいなあ。
この猫を一緒に持ってけないかな?
餌でもあげれば懐くかな。ここは無難に魚?
でも魚って何処に売ってるのかな?
いま持ってるのは杖とお金と換金カード。あとはその他諸々。
お金もそんなに無いし、マタタビとか都合のいい物もない。
力づくってのはステータス的に無理だし。
「なんとか持ってけないかなぁ」
「本当にそれ!」
でも、良い手段がないんだよね。
何かいい方法はないだろうか?
もう一度よく考えてみよう。
と、私が思った瞬間。
何やらこっちに近付いてくる二人組が見えた。
きっと、私とリリの様子を見て話しかけてきたのだろう。迷惑極まりない。
「やぁ。何かお困りの様子、って猫じゃん!」
「本当だ! 初めて見たぜ!」
どうやら男性プレイヤーのようだ。
猫目当てなのか私達目当てなのか判断できない。
容姿はイケメンだが、このゲームの外見は信用できない。いくらでも整形し放題だからね。
「ちょっと触ってみよ!」
男は黒猫に手を伸ばす。
もちろん黒猫は嫌がっている。
「なんだよ! ちょっとくらいいいじゃん」
だが男は強引に黒猫に触れようとした。
私は咄嗟に手を伸ばす。
「「あっ」」
しかし。
私もリリも止めようとしたが、遅かった。
その瞬間。黒猫は男の手を避け、素早く建物の隙間に逃げてしまった。
「あっ、その……すまん」
男は一応、悪いと思っているらしく、謝ってきた。
だが、許せるはずがない。
だって、だって…………。
(私! まだ撫でてなかったのに!)
撫でたかった。凄く撫でたかった!
あんなに可愛い黒猫を……。
リリだけズルい!
良いとこばっかり持ってって……。
「あの、お詫びと言ってはなんだけど……」
え? もしかして何か奢ってくれたりする?
アクセサリーとか防具とか買ってくれたり?
私は期待した。
そういう所は良い人なんじゃ、と。
「「俺たちとパーティ組みませんか!」」
「「……お断りします!!」」
即答した。
そんなの当たり前。
黒猫を逃した罪は重い。
男達はしょんぼりしながら離れていった。
それにしても。
「「また黒猫に会えないかなぁー」」
私とリリはそんな気持ちのまま、今日一日ずっと草原へとレベルを上げに行ったのだった。
あの黒猫とまた出会えるかは運次第……。
いや。
黒猫次第と言えるかもしれない。
☆☆☆
あぶねぇーーー!
猫の演技がバレないか、ずっとヒヤヒヤしてた。
《偽装》で足の傷を作って、少女の前まで行ったのは良かった。
そして、女の子の魔法とタイミングを合わせて《偽装》を解き、傷が治ったかのようにするのも上手くいった。我ながら流石だとあの時は思ったぐらいだ。
しかし。いざ、猫の声真似をする時になって。
それが物凄く難易度の高いものなのかを実感した。
あれ、これヤバくね? ってね。
正直なところ、かなり焦ったよ。
そのおかげで、ヤケクソになってやったら意外と上手くいく。
俺って演技の才能あるのでは?
そう思った事で、自分の猫真似に自信が付いたらしい。
そこからはトントン拍子。
活発な女子が撫でようとするから、それを嫌がる猫の仕草を演技した。クオリティは中々。実は演技のボロが出るかもしれないから触られたくなかっただけなのだが。
加えて、魔法使いの子へのアピールも忘れずに行う。
そんな配慮もして順調にいっていたのだ。
そんな中で一つだけ計算外だったのは、男共が乱入してきたことだった。
二人の女の子が意外と目立ってたらしく、声をかけてきたと思われたが。男って、ゲームの中でもこんなことするのか……。
まあ、分からなくもない。
と思ってしまう、俺も俺だよな。
俺は流石にこれ以上、目立ってしまうのは不味いと思った。
なので、男達に驚いたというふうの演技をし、建物の隙間に逃げ込んだ……というわけだ。
よく考えてみると男達に救われたな。
どうやって女の子達から離れようか考えていなかったし、あのままだと収集がつかなかったからな。
良いタイミングに来てくれた男達には、一応だが感謝しておこう。ありがとな。
俺を助けた代償に女の子達からの印象は悪くなったかもしれないが、責任は取らないので悪しからず。
おっと。
思考がどうでもいい方に流れてしまったが、やる事はきちんとやった。そこは安心して欲しい。
しっかりと、《鑑定》してきた。
念のため、二人とも《鑑定》した。
だが、流石に男達を鑑定する余裕は無かった。
これはしょうがないだろう。
しかし。この二人だけでも成果は十分に得られた。
何故なら。
俺は《鑑定》したステータスを見た瞬間。
こう思ったからだ。
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ステータス
レベル 8
名前 リリ
種族 人
職業 戦士
パラメータ
HP24
MP8
速力16 筋力19 防力10
器力12 精力9
スキル
〔種族スキル〕《万器の才》LV1
〔職業スキル〕《筋力強化》LV4《HP強化》LV4
〔通常スキル〕《剣撃》LV6《洞察》LV3
《十力》LV1《手撃》LV4
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ステータス
レベル 8
名前 メル
種族 人
職業 魔法使い
パラメータ
HP15
MP24
速力10 筋力8 防力8
器力17 精力17
スキル
〔種族スキル〕《万器の才》LV1
〔職業スキル〕《精力強化》LV4《MP強化》LV4
〔通常スキル〕《光魔法》LV5《水魔法》LV5
《器力強化》LV4《集中》LV6
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(え、なんか弱くない?)




