苦労性な人達
【ゲーム8日目】
side:???
「す、すいません!」
ん? 何事?
ようやく仕事が終わったので、コーヒーでも飲もうかなと思った直後に、部下が慌てた様子で報告しに来た。
「ほ、報告します!」
いや、慌てすぎだって。
落ち着いてもらわないと、話も出来ないじゃない。
「ちょっと落ち着いて。それで、要件は何なの?」
「例の、魔物プレイヤーについてなのですが……」
ああ。彼についてなのね。
また何かやらかしたのかしら?
魔物プレイヤー。
そのプレイヤーネームは、サクヤ。
現在、このゲームのプレイヤー数は40万人を超えている。
その中で最初に、魔物になることを選んだプレイヤーだ。
そして。
私はそのプレイヤーと、会話した事もある。
はあ……。
あの時は本当に面倒だった。
何度も何度も、同じ説明をして。
何度も何度も、プレイヤーの質問にも答えて。
とても疲れた記憶はまだ新しい。
だが、そんな疲弊しきった中で彼と会話した。
なかなかに面白い人だった。
普通のプレイヤーはアカウントの作り直しが基本的にできない事を知ると、慎重にステータスを決める。
すると、人間の心理的に魔物は選ばない。
これが普通のはず。
しかし、彼は魔物を選んだ。
それに加えて職業はランダムで、などと言った。
普通じゃあないよね。
だが。
普通じゃないけど、問題を起こすような人間には見えなかった。
一体、何をやらかしたのか……。
今まで、こんな報告は無かった。
まあ、このゲームが基本的に自由って設定になってるしね。
どんな報告なのか。
少し気になってしまった。
「えーっと……ついさっき、進化しました」
……えっ? 聞き間違いかしら?
進化って聞こえた気がしたけど……。
いくらなんでも早すぎるわよ。
まだゲームが始まって1週間しか経ってないじゃない。
「それは本当なの? 何かの間違いじゃない?」
「はい。僕も疑いましたが本当みたいです。今から約3分前に進化を開始したみたいです」
はあ。
まだ良かった。
これくらいなら、上に報告しなくても良い。
私達で対処できる問題だ。
「……いや……あの……とても言いづらいのですが……」
「ん? 何?」
「進化先が変異種らしいです……」
マジ!?
よりによって変異種に進化なの……。
おかしい。
本当に早過ぎるわね。
ここまでとはね……。
私達で対処できる範囲を超えている。
これは上司に連絡しなきゃ。
流石に無理。
私は、自分の机に置いてある携帯に手を伸ばす。
では連絡……しようとしたが、もう上司から連絡が来ていた。
例のプレイヤーについてはこっちで対処しとくよ、というメールが既に来ていたのだ。
……何だ、大丈夫だったのか。
焦って損した。
ただでさえ今は忙しいのに。
面倒な事が増えるのは勘弁してほしい所だった。
……だが。
本当に、変異種に進化するのだろうか。
変異種というのは名前の通り、普通の魔物ではない。
ある条件を満たした個体だけが進化できるのだ。
そのある条件というのは、高いパラメータと複数の称号を持っている事。それだけだ。
しかし。
それだけと言っても簡単なことでは無い。
パラメータというのは、レベルの上昇に伴って上昇する。だが、それ以外でパラメータを上げる方法が1つだけある。
それは、鍛錬だ。
鍛錬。簡単に言うと、重いものを持ち上げれば筋力が、全力疾走を繰り返して速力が、攻撃を受け続ければ防力が、細かい作業をして器力が、魔法を使い続けて精力が、という風にそれぞれの鍛錬方法がある。
そうする事によって、パラメータが上がる。
しかし、その上昇は微量なもの。
レベルアップの方が圧倒的に上がるのだ。
そのため、効率はかなり悪い。
レベルを上げた方がよっぽど良いという事だ。
だが、変異種に進化するためにはレベルアップだけではパラメータが足りない。
鍛錬をしないと絶対に足りないのだ。
しかし、そんな時間は無かった。
レベルアップで上昇するパラメータ数は、良くて10。
それが、それぞれの値に振り分けられるのだ。
最初の種族は上限レベルが30なので、良くて全パラメータが60、悪くて50になる筈。
変異種の進化には、全パラメータが100必要。
あと、全部で200もパラメータを上げなければいけない筈。
これには、最低でも1か月かかる。
そして、それに加えてもう一つの課題がある。
EPの存在だ。
レベル上限に達すると、EPという項目が現れる。
訳はエボリューションポイント。
進化の点、だ。
システム的には、これの値によって進化先を選択できる。
できるのだけど……。
変異種への進化に必要なEPは100だ。
単純に考えて、100回レベルアップしなければいけない。
考えただけで嫌になるわ。
私なら絶対に出来ない。いや、やらないわね。
でも、それをやったって事なのね……。
それも数日で……。
狂気的ね。
それにしても、本当に面倒事が重なるわねー。
処理が大変なのよ。
これから先が思いやられる。
出来るだけ問題を起こらない事を祈るわ。
はあ。
今日は溜息が止まらないわね。
☆☆☆☆☆
【ログイン6日目】
side:とあるプレイヤー
突然だが俺は、トッププレイヤーの一員だ。
もちろん自称ではなくてな。
現在、ゲームが始まってから1週間弱。
この時点でプレイヤーの総数は23万5千。
そのうち、トッププレイヤーと呼ばれる者達は100。
その1人に俺が入っているのだ。
なかなかだろ? ちなみに順位は14だ。
この順位は、それぞれのプレイヤーのレベルとパラメータとスキルのレベル、の総合で決めているらしい。
まあ、詳しいことは良く分からん。
そんなトッププレイヤーの一角である俺には、一緒にレベリングを手伝ってくれる仲間が2人いる。
ゲームで知り合ったんじゃなくて、現実でだ。
俺たちのレベルは全員が一緒。
仲良く、レベル19だ。
順位も、13、14、15と上位にいる。
俺たちはかなり有力なパーティなのだ。
だが。
そんな俺たちでも相手にならないモンスターがいる。
南に広がる、森エリアのウルフどもだ。
俺たちのレベルが8になった時、草原エリアよりも圧倒的に難易度が高いと言われていた森エリアに試しに行ってみた。
結果は惨敗。
レベル3のウルフにボコボコにされた。
掲示板の情報を見てみると、ウルフは速力と筋力が高いので攻撃の対処が難しいらしい。
森エリアに比べると草原エリアの方がレベリングしやすいのは知っていたが、ここまでウルフが強いとは思わなかった。
そして、しばらくは森エリアには行かない、と俺の仲間たちと一緒に決めたのだった。
しかし。
今、俺たちは森エリアに向かおうとしている。
なぜかというと俺たちのパーティの中心的な存在である一人が、リベンジしに行こう、と俺たちに向かって言ってきたからだ。
現在のレベルは19。
ボコボコにされた時から、かなり頑張ったのだ。
今ではレベル15のボアでも、三人で連携をとって立ち回れば安定して倒すことができている。
さらに、ランキングが出たことで俺たちの実力に自信も持てるようになった。
俺も、口では文句を言ったが本音では十分に戦えると思っていた。
街中を雑談をしながら歩く。
草原エリアへと出る門と反対方向に向かって。
「だから大丈夫だって! 俺らのレベルもめっちゃ上がったからさ! リベンジだよ! 行こーぜ!」
「でもなぁ。掲示板でも危ないって書いてあったし…………」
「レベル上がったって言っても、19だぜ? まだ早いんじゃ無いの? 辞めといた方が……」
「大丈夫、大丈夫! 3人なら余裕だって!」
「前もそう言ってやられたんじゃん」
「そうだよ! ヤバイって!」
「いや、ここまで来たんだからやろうぜ! な?」
「はぁ。もし、やられたらお前の所為だからな」
「ほんとだよ!」
森を出てからは周りに気を使いながら、楽しく雑談を交えていた。
一応、警戒はしていたのだ。
しかし、まだ森を出て少しのところだったので、自然と油断していた部分もあるかもしれない。
そして。
それが命取りになった。
気づいたら、俺たちは地面に倒れていた。
何の前触れもない、突然の出来事だった。
それも三人同時に襲われたらしかった。
視界が真っ黒に染まる瞬間、視界の端に何かが映った。
それは確実にウルフだった。
しかし。他のウルフとは明らかな違いがあった。
まずは大きさ。
俺たちが最初にやられたウルフの数倍は超える体格。
次に足音。
まるでそこに存在しないほどの足音の無さ。無音。
そして毛並み。
前に見たウルフは全身グレーだったが、このウルフはグレーに加えて銀色の毛も混じっていた。
誰がどう見ても、上位個体だ。
少し経つと、ゲームの仕様で自動的にリスポーンした。
プレイヤーがゲームを始めた最初に現れる、初期地点にリスポーンした。
リスポーンはしたが、まだ状況が把握しきれてなかったため、三人とも無言。何も言えなかった。
…………
…………
「化けもんだな……」
「あれは無理。勝てる気がしないや」
「また……地道に頑張ろう…………」
それぞれのコメントを残して、俺たちは草原エリアへと続く道を、真っ直ぐに歩いて行くのだった。




