道中
【ログイン5日目】
痛ってー!!
思いっきり頭ぶつけたよ。
パラメータ100越えは伊達じゃないなー。
早く慣れたいと思うよ。
レベル上げをしている時も速くなってたと思うけど、パラメータ100越えした途端もっと速くなった気がする。
強くなったって事だから良い事なんだろうけど……。
はあ、これからパラメータがもっと高くなったら制御できる自信がないよ。
しばらくはこのままだから安心だけどさ。
じゃあ、エリアボスのところまで木にぶつかんないように走ってくか。
俺は森の最深部に向けて走る。
勿論、道行く間に発見したウルフは倒して、EPを稼ぐことも忘れない。
加減して走っているとはいえ、パラメータ100越えの速力は凄まじいものだ。
景色の移り変わりが速い。
まあ、木しか目に入らないがな。
前回行ったときよりも格段にペースは早い。
これならば、後30分程で着くと思う。
しかし。
このスピードで30分もかかるって、どんだけこの森は広いのだ……と疑問に思う。
実際のところ、直径何メートルくらいあるのだろうか?
……なんか前もこんなこと思った気がする。
俺ってこの森から出たことが無いんだよな。
いや……出られないと言った方が正しい。
前も言った通り、このゲームの初期エリアは草原と森に分かれている。
北側が森。
南側が草原だ。
そして、その中心に人種プレイヤーの街が存在している。
ここまでは元から俺も知っていた。
テレビで軽く説明していたのを聞いたからだ。
しかし、テレビで全ての情報が載っているわけもなく、俺が見落としている情報があった。
実はこの事を知ったのは昨日なのだ。
なんとなく、説明書をじっくり読んだ方が良い気がしたので読んでみた。
すると、様々な情報が載ってあったのだ。
例えばエリアだが……。
北が森、南が草原、その中心に街。
そして、この続きがあった。
森と草原の境界は山脈になっており、その真ん中に街が存在している形になっていた。
さらに森と草原はそれぞれ半円型になっており、その周りも山脈になっていたのだ。
街を通って草原に行くのは論外。
なので、草原エリアに行くには山脈を越える必要があるということだ。
行けない事は無いだろうけど、厳しいと思うのだ。
普通の人種プレイヤーなら、こんな問題に直面することも無いのだが……。
生憎、俺は魔物になってしまった。
そうすると、俺はもう草原に行ける可能性がほとんどないに等しい。
もしかすると、ずっと森暮らしかも…………。
そんな理由もあるので、ここのエリアボスに目をつけられる訳には行かないのだ。
もしそんな事になってしまったら。
アカウント作り直すことも考えないと……。
だって、アイツ強すぎるからな。
今の俺のステータスで戦ったとしても、勝てるかどうかは分からない。
というか、十中八九、負けるかもしれない。
それほど強かった。
流石エリアボスだな。
雷を操って攻撃とか反則でしょ?
しかも最後の攻撃だって知覚すら出来なかった。
単純なパラメータの差だけじゃなくて、スキルレベルでも大きな差がありそうだな。
俺が今、パラメータ100越えしているけど……エリアボスはどのくらいあるのだろう?
思い出すと、エリアボスと戦った時って雷を使って攻撃されてただけで、エリアボス本体は動いてなかったな。
実力を出すほどでもない……って事か。
雷の魔物とか見たことないけどな。
何かの称号で取得できるのかもしれない。
例えば、雷を身に受けるとか?
ハードだなー。
まあ、その条件ならエリアボスの雷攻撃を浴びていれば獲得出来そうだ。
それでも辛いけどね。
――そんな事を考えながら。
俺はだんだん上がった身体能力に慣れてきたので、スピードを上げていき加速する。
さらに景色の移り変わりが早くなる。
しかし、木に激突したりはしない。
森に無数に生えている木を華麗に避けているのだ。
自分の身体にちゃんと慣れた証拠だな。
うーん。
風が気持ちいいなー。
こういうレースゲーム的なのって俺好きかも。
一度もやったことないけどな。
森を駆けながら、時折り発見したウルフを一撃で倒す。
スコアアタックみたいな感じだ。
なかなか楽しい。
遊んでいると、警告が表示される場所へと辿り着いた。
ただの森と最深部の境目だ。
一度見た警告が表示される。
もちろん無視だ。
スピードは緩めずに。
むしろもっと速く……。
今の俺のステータスならば、ここのホワイトウルフ程度の敵を瞬殺できる。
アイツのHPなんて約75くらい。
それに比べて、俺の筋力は約130だ。
2倍ほどの差がある。
前に出会った時には、俺がステータスで負けていたかもしれないが、今は違う。
立場が逆転しているのだ。
今の俺なら、《潜伏》を使わなくともホワイトウルフを狩ることなど容易い。
それを証明してやる。
――俺はさらにスピードを上げた。
ホワイトウルフ目掛けて、一直線に駆ける。
体格ではホワイトウルフの方が遥かに大きい。
伊達に進化しているわけではない。
だが純粋なステータスでは俺が上。
負ける事はない。
俺の足音に気づいたのか、ホワイトウルフがこっちを向き、戦闘態勢を整えた。
……威圧感が凄い。
しかし、もうこのスピードは止められない。
腹を決めるしかないのだ。
俺は風の抵抗を少なくするため、最大限に姿勢を低くした。
ホワイトウルフに姿を見られないための意味もある。
その姿勢のまま。
目の前の茂みを突破し、ホワイトウルフ目掛けて突進する。
いきなり現れた俺に、ホワイトウルフは一瞬驚く。
しかし、直ぐに俺に高レベルの《爪撃》が乗った攻撃を繰り出してくる。
それが俺に当たる――――
――瞬間……俺は身を捻る。
そして。
それと同時に左の前足で、ホワイトウルフの喉元を掻っ切った。
ホワイトウルフの首が赤く染まる。
次の瞬間。
赤い液体……は飛び散らない。
代りに白いエフェクトが散った。
そのまま。
ホワイトウルフはゆっくりと倒れた。
……。
…………。
…………勝ったのだ。
やったね。
俺、頑張ったよね。
良かった良かった。
ま、勝てるって分かってたから。
ステータスに約2倍の差があるくらいだもん。
勝てて当然だよね。
《鑑定》を使ってステータスを確認してみた。
すると。
驚いた事に、EPが5も増えていたのだ。
一気に5もレベルアップしたという事だ。
そんな事、有り得るだろうか?
今までこんな事はなかった。
いくらレベル差があっても、ここまでレベルが急に上がる事は無かったのだ。
しかし。
思い出すとレベル差が高ければ高いほど、得られる経験値は多かった印象がある。
という事はだ。
魔物の基準でワンランク上の魔物を倒すと、その分の経験値が大きく増えるって事になる。
ちなみに今のホワイトウルフはレベル5だったのだ。
この森には、もっと高レベルのホワイトウルフは多く生息している。
という事は……。
ホワイトウルフ1匹で約5EP稼げる。
ホワイトウルフはこの最深部にウジャウジャいる。
進化に必要なEPは、あと85EP。
すると。
85(必要なEP) ÷ 5(1匹分のEP) = 17(匹)
なので。
あと17匹のホワイトウルフを狩れば、俺は無事に進化することが出来るのだ。
あれ?
以外とイージーだな。
EP100集めんのに何日かかるかなぁ。
……って思ってたけど。
やろうと思えば、今日だけで進化できちゃう。
そう思うと何だか、心が軽くなった気がした。
やっぱり、俺はこういう地味な作業に向いていない。
現実でもそうなのだ。
農業系のチマチマしたゲームより、プレイヤー本人の腕前が試されるFPSなどのジャンルの方が得意だった。
農業系のゲームを悪いと言っているわけじゃないのだが、どうにも苦手なのだ。
これはもう俺が死ぬまで変わらないものだと思う。
それぐらいの事だ。
なので、少しEP増やすのが面倒だと思っていたのだ。
まあ、ホワイトウルフを17匹狩るだけなら余裕だけど。
だが、今は残念ながらそんな余裕はない。
出来るだけ早くエリアボスの元へ行かなければならないのだ。
ただでさえ、2日間空けているのだ。
これ以上は許されないと思う。
何故なら。
俺が森で平穏にEP増やせるかどうかが決まるからな。
全力で接待しなければ。
俺がそう頭の中で決意をしている間にも、体は森の奥へと足を進めている。
もちろん全力疾走でな。
加えて、ホワイトウルフもついでに狩りたい。
しかし、全く見かけないのだ。
最初はあんなにいたのに……。
なので、残念なことにホワイトウルフは今のところ1匹しか狩れていない。
最初の1匹だけだ。
俺は少し落ち込んだ。
すると。
すぐさまフォローをしてくれた存在がいた。
エリアボス戦の警告を伝える表示が出たのだ。
ということは、エリアボスのいる場所までもう少しだ。
俺の心が一瞬にして晴れた。
俺は全力疾走のままエリアボスのいる場所へ向かった。
30秒ほど走った。
すると。
森が開けている場所が見えた。
やっと着いたのである。
約30分の移動だった。
前と比べると、かなり早くなっている。
なにせ、前はここに来るのに3時間は掛かっている。
随分な進歩だよなー。
俺、頑張った。
褒めて遣わす。
さて。
ここからが肝心だ。
エリアボスさん……。
怒ってるかな…………?
怒っていない事を願うのみだ。
俺は心の中で手を合わせて、そう天に祈ったのだった。




