#9 普通ではなかった姉
姉との特訓の日々の中で、冒険者についての知識もある程度は叩き込まれた。
冒険者等級という、冒険者としての実力と権威、実績に続き、更には信頼を表す等級がある。
初級から始まり、ある程度の年月と実績を重ねて中級となる。
そして更に経験を重ね、十分な実力と実績を認められた者は上級へと昇格する。
『上級冒険者』それは組合に認められた者のみが到達できる地位であり、各地に存在する冒険者組合から直接の要請、依頼をこなす場合もあり、有事の際には下位の冒険者をまとめる役回りを務める。
その上級の更に上が『超級冒険者』だ。
超級への昇格試験は基本的に存在しておらず、成ろうと思って成れるものではなく、年に一度の冒険者組合会議によって検討された後、選抜された者に通達され、唐突に『超級』へと至ることが出来る。
勿論、毎年必ず誰かが選ばれる。という訳でもなく、該当者無し。という場合も存在する。
そして『絶級冒険者』
冒険者としての頂点であり、『超級』の域に収まりきらない冒険者をそう呼ぶ。
あらゆる危険指定区域、ダンジョンを独自の判断で侵入することが可能であり、同様の判断で他の冒険者の侵入を許可することも可能。
自身は勿論、他者大勢の人命を護り切ることが出来ることの証明。
実力は未知数と言われている。
……だったっけ?
そう考えると、このユエル教官も十分に凄い冒険者なのだが、俺は教官の実力を知らないし、名前も聞いたことがないためにパッとしない。
というか、どの程度の実力が初級で、どこからが上級なのかも正直わからない。
ただ、どうやら俺の姉は普通ではなかったらしい。
「ろ……ローゼ……あらい……おん?」
「そ。貴女が散々侮辱していた彼のお姉さんは、大陸中の冒険者が憧れ、尊敬する、あの戦乙女ローゼなのよ?」
「うそ……嘘よ、そんな、だってコイツは……」
「うそ? 認めたくないのよね? 貴女、あれだけ自分の姉の名を使って威張ったのに、彼の姉はそんな貴女の姉を凌駕する『超級』の更に上。『絶級』だったのだから」
「…………」
ルエルのあまりにもな迫力に、高飛車女は勿論、俺達までも言葉を失ってしまう。
ユエル教官はどうやら静観の構えらしく、一歩引いた所から見守っていた。
そして更に、ルエルの言葉は続く。
「私ね、貴女みたいな女は嫌いなのよね。姉の力をさも自分の物みたいに。貴女はまだ冒険者ですらもないと言うのに」
正論過ぎた。
「気付いてた? わざわざ姉の名を口にしたの貴女だけよ? まぁ彼は自分の姉がどんな存在か知らなかったみたいだけど」
そこでまた、ルエルの青い瞳が俺を捉える。
目が合ったと思えば、魅力的な笑みを向けられて少し照れてしまう。
「ど……どうして」
「なに?」
「どうしてあんた、そこまでソイツを庇うのよ!」
俺に指を指しながら『ソイツ』呼ばわり。
不本意ではあるが、知らぬ間に蚊帳の外になってしまっていた俺を、元はと言えば俺達が始めた喧嘩がことの発端であることを思い出させてくれた。
「あ、あの――」
いい加減止めようか。
そう思って口を開きかけたのだが、
「庇う理由? 一番は貴女のことが生理的に嫌いなのと……」
また目が合う。
思わず俺は開いていた口を閉じる。
そして――
「は? え? ちょ、ちょちょ、えぇ!?」
ルエルが俺の腕を取り、爆弾を投下した。
「私と彼、お互いの姉が約束した婚約者なのよ。許嫁というやつよ」
――うふふ。と。
頬を赤くしながら言うルエルの、甘美な香りと柔らかい感触にクラクラしてしまう。
「「「えぇぇぇぇぇえええ!?」」」
これには流石に高飛車女もひっくり返る程に驚いていた。
勿論、一番驚いているのは俺だが……。
我が親愛なる姉は、いったい何を考えているのだろうか――




