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#88 《戦乙女の"超"級任務》

 

 年に一度に開催させるカルディア生誕際が今年も大成功に終わり、暫く経った頃。


 大陸中枢、王都――グランゼリア。

 この王都からも、生誕際が行われるカルディアを訪れた冒険者は多く存在した。

 生誕際の恒例行事として行われた、各冒険者訓練所による模擬戦の結果は――既に多くの冒険者に知れ渡っている。

 そして、今年の訓練生の中に、最近では『異常』と言える実力を持つ者が存在している。という話も、冒険者の話題に度々挙げられる。


 訓練生の癖に詠唱魔法を扱う"天才少女"。

 世にも珍しい歌唱魔法を使いこなす、"歌姫"を連想させる少女。

 一瞬にして、対象や空間までも凍り付けにしてしまう"絶世の美女"

 ひとりで複数の武器を瞬時に取り出し、持ち替えては、巧みに使いこなす――"戦乙女"を連想させる青年。と、様々な情報として冒険者の間を行き交った。


 そして――


 そんな訓練生達の戦いぶりを間近で観戦していた、冒険者組合支部長の一人、冒険者組合王都(グランゼリア)支部――支部長カイゼルは、模擬戦の結果――と言うよりはその()()に頭を悩ませた。

 頭を痛くさせる程に悩んだ結果、ある答にたどり着いていた。


「悪いな、わざわざ呼び出してしまって」


 自室である支部長室の椅子に座るカイゼルは、非常に申し訳なさそうな表情で話す。自らが呼び出した、対面に座る女性に向かって。


「やっぱりどう考えてもアンタ以外に適任がいねーんだよな。色々思う所もあるだろーが……なんとか頼めねぇか?」


 ――スッと、一枚の用紙を机の上に差し出すと、対面に座る女性は静かにそれを手に取った。


「期間は10日。冒険者組合支部長である俺からの、一応は指名依頼という形を取らせてもらうが……どうしても嫌なら、断ってもらって構わない」


 手に取った用紙へと静かに視線を落とす女性の顔色を窺いつつ、続きを口にした。


「難易度は……まぁ、"超"級といった所だ。なんなら報酬を上乗せしても良い。どうだ? ローゼの嬢ちゃん?」


 渡された依頼書に一通り目を通したローゼが顔を上げる。


「分かりました。指名依頼なら受けます。ですが、既に担当している冒険者には話は通っているんですか?」


「勿論だ。全て話はつけてある」


「分かりました……。この依頼、受けることにします」


「おおっ! 済まんな! 恩に切るぜ!」


 スックと立ち上がり、ローゼは支部長室を後にする。


 そんなローゼの背中を見送ったカイゼルは「はぁ……」と、心底胸を撫で下ろす。


 後は、"戦乙女"に任せればいい。

 あの"戦乙女"に頼んだのだ、訓練生同士の実力差は、それなりに少なくなる筈だ――と。


 ~


 王都に存在する冒険者訓練所のひとつである――王都第1訓練所。その教室には、今日も数多くの訓練生が冒険者になるための教練を受けるべく、朝早くから集まっている。


 しかし――


「ようベリル! お前いつまでここに通ってんだよ、この王都第1の恥さらしがっ!」


「あぁっ!?」


 訓練生のひとりから発せられた暴言を受け、眉を吊り上げながら相手をギロリと睨み付けたのは――同じく訓練生のベリルだ。


「カルディアの訓練生ひとりにボロクソに負けた挙げ句、その後の試合もビビって逃げ帰って来た癖に……よくもまぁ今日もノコノコと訓練所へとやって来れたなぁっ! って言ってんだよ糞がぁ!」


 浴びせられる罵声。

 そしてそれに同意するかのようないくつかの視線がベリル達へと向けられている。


 しかし、ベリルは軽く鼻で笑って見せる。


「はっ! テメー等より俺達の方が強かった。だから俺達が代表に選ばれたんだよ! その俺達が模擬戦でどんな試合をしようが勝手だろうがっ! 弱ぇ奴は黙ってろやっ!」


 カルディア生誕際にて行われた模擬戦以降、王都第1訓練所内での訓練生同士の対立が激化していた。


「馬鹿かっ! 黙るのは結局一度も勝てなかったお前らだろーがっ。っつーかライドよ、お前に至っては自分から降参したらしいじゃねーか、相手の魔力にビビっちまったらしいなぁっ!」


「――ッ!?」


 ビクリと、ベリルの隣に立っていたライドが肩を震わせる。


「はっ! お前らと同じ王都第1の訓練生だってことが、これ程恥ずかしいとは思わなかったぜ!」


「テメー、あんまり調子に乗ってんじゃ――」


 ベリルが目を見開き、その訓練生へと詰め寄ろうとした、その瞬間――


 ――バァン! と、教室の扉が勢いよく開け放たれた。


「……お前ら、騒いでないでさっさと席につけ」


 明らかに騒ぎが起きていた教室内の様子にため息を吐きながら入ってきたのは、王都第1訓練所の教官を任された冒険者だ。

 彼が姿を見せたおかげで、ベリル達訓練生の騒ぎも一旦の収束を見せる。


「チッ! 糞が……」


 悪態をつきながら、ベリルが自分の席へと向かうと、クロドやライド、その他の訓練生達もそれぞれ自分の席へと腰を下ろす。


 一応の落ち着きを取り戻した教室内を見回してから、教官はようやく口を開いた。


「教練を始める前に、お前らに話がある」


 そんないつもと違う教官の言葉に、ベリル達(訓練生)の意識が一斉に向けられた。


「既に先の模擬戦で自覚している者も多いとは思うが、王都第1、そして第2の訓練所は、カルディアとラデルタに比べて大きく実力が劣っている。いや、この2つの訓練所の実力が高過ぎる……と表現した方が自然か」


「チッ」


 教官の言葉に、ベリルがあからさまな舌打ちをする。

 それに気付きながらも、教官は更に言葉を続けた。


「そこで急遽、お前達の実力を飛躍的に上昇させるための特別教官が、まずはこの訓練所へとやって来てもらった。今日から10日間、私に代わりお前達を鍛えてくれることになっている」


「あぁ?」

「なんだそりゃ?」

「……」


 教官の予想外な言葉に、訓練生達の間でどよめきが走る。

 特別教官など、聞いたことがなかったからだ。事実、過去に前例が無い。


「はっ!? いったい今更誰が俺達を教えるってんだよ! 半端に強い奴に教えてもらった所で、大した意味はねーぞ!? なんたって王都第1(ウチ)の代表訓練生達だった奴等は、カルディアのたったひとりの訓練生にボコされて、降参した腑抜けなんだからなぁ!?」


 どこからともかく発せられた言葉に、教官はピクリと反応し、口角を僅かにつりあげた。


「半端に強い? それは残念だったな……いや、喜べ。今日来てもらった冒険者は紛れもなく"最強"だよ」


 教官がそう言いながら、廊下に立っているであろう人物へ向かって手招きをする。


 すると――


「――なっ!?」


 静かに、教室へと足を踏み入れた冒険者のその姿に、訓練生達は眉をひそめる。中には、絶句している者も僅かに存在していた。


 スラリと伸びる手足、女性としての魅力に満ちた――世の男性を魅了してしまいそうな体つき。

 歩く度にフワリと揺れる金色の髪に、美しい金色の瞳。

 そして彼女が着けている首輪には――五角形の紋章。


「冒険者を志す訓練生(お前たち)なら、一度くらいはその名を聞いたことがあるだろう?」


 静かに、教官は横に移動して、中央の立ち位置を女性に譲る。


「"絶"級冒険者。"戦乙女"の異名で知られる、ローゼ・アライオン殿だ」



「ローゼ・アライオンです。冒険者組合からの依頼で、今日から10日間、君達の特別教官を務めることになりました」


 スーっと、ローゼは訓練生達を眺める。


 そして――


「よろしくね」


 そう、口にしたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 王都の訓練生たち逃げてー(棒)
[一言] ローゼはどういう意図でこの依頼を受けたのだろうか。
[良い点] ローゼが指導するなんて…面白くなってキターーー [一言] 更新楽しみにしてます!
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