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#83 カルディア生誕祭 3日目 ~歌声~

 

『ぜっ――たいに、負けないからっ!』


 ラデルタ訓練所の代表訓練生でもあり、"絶"級冒険者の"エヴァ・オウロラ"の妹だと言う――ユヴァ・オウロラの言葉を思い出していた。

 彼女(ユヴァ)の黒い瞳の奥には、カイルの言うような『対抗心』みたいな物がメラメラと燃えているように見えた。


 しかし初対面だと言うのに、そこまでの対抗心を持たれてしまうとは……いったいどういうことなのか。


「教官、"絶"級冒険者のエヴァ・オウロラってどんな人なんですか? 俺の姉との関係とか、知ってたりします?」


 なので教官に訊いてみることにした。

 休憩も残り僅かだが、少し話す程度の時間は残されているだろう。

 ちなみに、ルエルとミレリナさんもいる手前、俺は『訓練生』として教官に接している。


「2人の関係? ……そうね」


 我が姉が攻撃技能(スキル)を突き詰めた冒険者だとしたら、"歌姫"は支援技能(スキル)を突き詰めた冒険者。という話は既に聞いている。

 俺が知りたいのは、また違う意味でのエヴァ・オウロラという冒険者について。特に、我が姉との関係だ。


 教官は、(あご)に軽く手を添えて、複雑そうな顔をしている。

 すぐに答えてくれないあたり、2人の仲はやはり、あまりよろしくないんだろうか……。


 すると教官は、少しだけ考えてから――


「良く言えば――仲が良すぎる……ように見えなくもないし、悪く言えば――最悪の仲。と言ったところかしらね」


 と、苦笑い混じりに答えた。


 うん。なんとなく分かった気が……しないでもない。

 気の知れた仲ではある。と言ったところか?


 そして更に、教官は興味深いことを口にする。


「ただひとつ言えるのは、貴方のお姉さんと"歌姫"が仮に、編成(パーティー)を組んで真面目に協力し合えば……」


 そこまで言った所で、教官はジッと俺を見つめて来た。


「え……協力し合えば、どうなるんですか?」


 その続きは?

 誰もが口を揃えて最強と言う我が姉と、支援技能に特化した"歌姫"が組めば……どうなるんだよ?


 俺は、教官が続きを話してくれるのを待った。


 そして聞こえてきた言葉は――


『時間になりました。これより、本日最後となる"カルディア訓練所"対"ラデルタ訓練所"の模擬戦を執り行います。代表訓練生は中央円形広場まで入場して下さい。繰り返します――』


 模擬戦の開始を知らせる声だった。


「さぁ、最後の模擬戦よ。頑張ってらっしゃい」


 少しだけ気にはなるが、今は模擬戦の方が大切だ。気持ちを切り替えていこう。


「ふぅ」と軽く息を吐いてから椅子から立ち上がる。

 俺に続くようにして、ルエルとミレリナさんも立ち上がったのが見えた。


「ここまで来たんだから、どうせなら全勝してちょうだいね」


 意外にも、教官も「勝ち」に拘っているようだ。

 勿論、俺達も同じ気持ちだし、最初から全勝するつもりでいる。


 背後の教官にしっかりと頷いて見せてから――俺達は広場へと向かった。


 今日最後の模擬戦というだけあって、大広場は最高潮に盛り上がっている。

 俺達へ向けての声援は勿論。向こう(ラデルタ)へ向けての声援も凄まじい。


 そんな中――俺達はカルディア大広場の中央、円形広場への入場を果たした。


 ほぼ同時に、俺達と対面する形でラデルタの代表訓練生――カイル達も入場し、互いに向かい合う。


「…………」

「…………」


 特に話すことはない。


 俺はただ、集中して、腰を落とし、構える。

 視界の端で、ルエルも意識を集中させているのが分かった。おそらく、背後のミレリナさんも同様だろう。


 対面する形で立つカイル達も、それぞれ構えている。

 長剣を持つカイルに対して、バーゼは手ぶら。そしてユヴァは――2人の少し後方に位置取り、彼女の鋭い視線は真っ直ぐ俺に向けられていた。

 出来るだけ、目を合わせないようにしよう。


 互いの準備が整ったところで少しだけ――大広場の歓声が静かになった気がした。


 そんな瞬間に合わせるようにして――


『"カルディア訓練所"対"ラデルタ訓練所"――』


 模擬戦の開始を告げる声が――


『開始してくださいっ!』


 響き渡る。


 その声を聞いた瞬間――俺は踏ん張る足腰に力を込め、魔力を伝わらせ、地面を蹴ろうと踏み出した。


 しかし――


 一気に相手の懐に入り込むべく動き出した俺の視界に入ったのは、()()俺の懐へと入り込んでいた――バーゼの姿だった。


「――っ!?」


 予想外の光景に、俺の体は一瞬硬直する。

 それを好機と見て、姿勢を低くしたバーゼは腰を回しながら右腕を力いっぱい振り抜いた。


「はぁっ!」


 バーゼの声と共に俺の腹に伝わってくる重たい衝撃に、一瞬体が宙に浮き、僅かに後ろに吹き飛ばされる。


 強烈な攻撃。

 ただの"力任せ"という訳ではなさそうだ。


 なんとか体勢を立て直し、着地する。


「流石だな。"王都第2"の時は今の攻撃で戦闘不能に追いやれたんだが……」


 鈍い痛みが腹に残る。

 このバーゼの攻撃を何度も喰らうのは、流石にヤバそうだ。


「やってくれたな。正直驚いたよ」


 まさか、先制を取られてしまうとは思ってもいなかった。

 見た目の割に、かなりの身のこなしだ。


 とにかく、やられたらやり返す。


 キッとバーゼを睨みつけ、足に魔力を込める。そして俺から間合いを詰めるべく動くために、僅かに姿勢を低くするが――


「させんっ!」


 またしても一瞬にして懐に飛び込んで来たバーゼが、それをさせまいと攻撃を繰り出してくる。

 鋭い角度で突き出される右拳に、更には回し蹴りと、まさに嵐のような攻撃の数々だが――よく見て、集中すれば躱すことは可能だ。


 そんな中――


「武器も取り出させん。収納魔法を行使する余裕は与えんっ!」


 それが狙いか。


 王都第1と俺との試合は見ていたのだろう。

 強力な武器を取り出す前に倒してしまおうということだ。収納魔法の行使には、かなりの集中力を必要とするのは常識だ。

 この激しい攻防の中では、流石にそれは不可能だろうと思っているらしい。

 少し、勘違いしているようだ。


 バーゼの攻撃を、俺は体を回転させながら躱し続ける。


「バーゼ。俺が一番得意な魔法は収納魔法だ」


「――っ!?」


 バーゼが怪訝な表情を見せる。


「俺より収納魔法を使いこなす人間は、姉ただひとりだと……そう信じてる」


「――なっ!?」


 冷たくそう言い放った俺の両の腕に装備された籠手――炎帝(イフリート)を視界に捉えたバーゼの表情は驚愕に染められていた。


 バーゼの攻撃を回避するついでに蓄積された運動量は既に、火力として……炎帝に蓄積されている。


 その光景に驚き硬直したバーゼの隙を、今度は俺が見逃さない。


 腰をひねり、左足を踏ん張りながら右腕を振り抜く。


 確実に命中する。そう確信した俺の耳に――



「――――」



 "歌"が、聞こえてきた。



気付けば1000万PVを突破していました。

本当に感謝しております。

どうか引き続き、皆様の応援とその評価……お願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1000万PVおめでとうございます! 毎話楽しく読ませて貰ってます
[一言] 3ターン後に死ぬ歌…?
[一言] ここ数日どんどん更新されていて嬉しいです。
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