#79 カルディア生誕祭 3日目 ~訓練生~
歓声が響き渡る中で、俺達は広場を後にするべく歩き出す。
ふと立ち止まり、振り返ってみると……さっきまで戦っていた王都第1のライドが、未だソコに座り込んだままだった。
唖然とした表情でコチラ――と言うよりは、俺を見つめている。
格下だと思っていた俺達に成す術なく敗北してしまったことに、相当ショックを受けているようだ。
奴等がこれまでどんな訓練、特訓を行ってきたのかは知らないが、俺達の実力が奴等を大きく上回っていた。ただ、それだけのことだ。
修行してどれだけ強くなったとしても……更に強い奴なんて、いくらでも存在する。
訓練生でも、冒険者でも……それは変わらない。
奴等も……少しはそれが分かったことだろう。
これで、コイツらが今後カルディアのことを馬鹿にすることは失くなる筈だ。
ライドから視線を外して、再び歩き出す。
俺の横に並ぶ形で、ルエルとミレリナさんもついてくる。
とにかく、俺達の勝ちだ。
この大広場に響き渡る歓声が、何よりの証拠。
と、そこに――
「ま、待ってくれ……」
必死に絞り出したかのような声が、耳に届いてきた。
声のする方に視線を向けてみる。
――クロドだ。
模擬戦が始まってすぐに、俺が聖剣で奴の槍ごと凪ぎ払い、ずっと気を失っていたようだが……ようやく意識を取り戻したらしい。
「お前はいったい……何者だ。そんな実力、どうやって……」
捻り出した力で必死に顔を起こしながら、訴えかけてくる。
――そんな実力を、どうやって。か。
そう言われて思い浮かぶのは……訓練生になってからの教練も勿論そうだが、やはり姉との特訓の日々だ。
初めは冒険者になりたい。ただそれだけだった。
しかし次第に、姉に追いつきたい、姉に勝ちたい。そんなことを思いながらも特訓に明け暮れるようになっていた。その日々の結果、今の俺の実力がある。
「俺はカルディアの訓練生のシファだ。冒険者になって、どうしても追いつきたい人がいるんだよ」
そして俺は、姉に恩返しがしたいのだ。
「…………」
俺の返答が予想していた物と違ったのか、クロドはそれ以上何も話さない。
俺達は今後こそ、教官の待つ西側へ向けて歩きだす。
「シファ、追いつきたい人って……ロゼさんのことよね?」
歩きながら、隣のルエルがぼそりと……
「私は、応援してるわよ」
そんなことを言っていた。
「はわわわっ。わ、私も応援してますっ」
逆隣のミレリナさんにも感謝しつつ、俺達は円形広場を後にした。
~
「お疲れ様」
大広場西側の休憩所へと帰って来た俺達を、ユエル教官が笑顔で出迎えてくれた。
「見事ね。見て、ここに集まった全ての人達……冒険者組合の支部長達までが、今の模擬戦を見て驚いているみたいよ。相当注目されているわよ」
円形広場を囲む観客達の更に奥に設けられた一角。各支部長の集まるその休憩所に目を向ける教官の顔は、心なしか嬉しそうに見える。
そして、俺もそちらへと視線を向けてみる。
教官の言うとおり、ソコではちょっとした騒ぎになっているように見える。
支部長同士で何やら話し合っていたり、ジッとこちらに視線を向けてくる支部長など、模擬戦が始まる前とは明らかに違った雰囲気に包まれているのが分かった。
どうやら、かなり目立ってしまったらしいが……これで良い。
俺達は強い。それを証明してやりたいからな。
大広場に集まった観客の反応と、支部長達の驚きぶりから察するに……今の王都第1訓練所との戦闘で、充分それを見せ付けることは出来たと思う。
遠くに見える幼女コノエの満面のドヤ顔もその証拠だが、俺は満足していない。
残る2つの訓練所との模擬戦も、全力で勝ちにいく。
俺達は勿論、最初からそのつもりだ。
なんて一人で意気込んでいる俺を見て、教官は少し笑っていた。
そんな時――
『それではこれより、"王都第2訓練所"と"ラデルタ訓練所"の模擬戦を執り行います。代表訓練生は、中央の円形広場へ入場して下さい。繰り返します――』
次の模擬戦を行う訓練生を呼ぶ声が、響き渡った。
自然と……俺達の視線は、さっきまで実際に立っていた円形広場へと吸い寄せられる。
王都第2訓練所。昨日会った3人だ。その内の1人、ララティナとは少し話したな。綺麗で、礼儀の通っている印象の女性だった。
残りの2人も、言葉を交わすことはしなかったが、ララティナに負けず劣らずの美女だった。
その"王都第2訓練所"の代表訓練生3人が今、大広場南側から姿を現した。
美しい女性3人というだけあって、大広場はより一層の盛り上がりを見せている。
先頭に立つのはやはりララティナだ。
そして大広場東側からも、新たに訓練生が姿を見せる。
まず現れたのは、茶髪の爽やかなイケメンだ。
そのイケメンに続くように、筋骨逞しい偉丈夫……バーゼが登場した。
"ラデルタ訓練所"の代表訓練生達だ。
そして最後に、男2人の後を追うようにして、女性が円形広場に入場した――のだが。
この女性、どこかで見たような気がする。
いや、生誕祭が始まる前と、露店の腕相撲大会で見ているんだが……そことはまた別の場所で会っているような、そんな気がする。
なんだ? 腕相撲大会で見た時にはそんなこと少しも思わなかったんだが……。
そう怪訝に思いつつ、女性の姿を注意深く観察してみた。
じっくり見てみれば、何か思い出すかも知れないしな。
綺麗な黒髪を肩まで伸ばす可愛らしい女性。非常に整った顔立ちをしている。
雰囲気は……ツキミに似ているが、勿論別人だ。
……うん。駄目だ。何も思い出せない。
気のせい、かも知れないな。
スッキリしないが、分からないものは仕方がない。
この後で、俺達は"王都第2訓練所"と"ラデルタ訓練所"とも戦うんだ。この模擬戦はしっかり見ておいた方がいいだろう。
余計なことを考えるのはやめた。
彼等が戦っている間、俺達は大人しく休憩でもしていよう。あまり疲れてはいないが……。
なんて思いながら視線を広場に向けて見ると、少し気になる物が目に入った。
広場の奥、組合の支部長達が集まっている場所だ。ソコでまたしても、ちょっとした騒ぎが起こっているようだ。
そして俺が気になった理由は、支部長達に交じって、よく見慣れた金色の髪を見つけたからだ。
――姉が来てる。
その姉と、何やら口論している女性がいるが……。
あれは多分、昨日この大広場で歌っていた女性、"絶"級冒険者のエヴァ・オウロラだ。
あの2人、知り合いなのか?
と言う所で――
『"王都第2訓練所"対"ラデルタ訓練所"――開始してくださいっ!』
模擬戦開始の合図が響き渡った。
大変お待たせしてしまっています。ごめんなさい。
それでもどうか、あなたのその評価を、お願いします。




