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#76 カルディア生誕祭 3日目 ~集結の大広場~

 

 俺達は教官と共に訓練所を後にした。


 西大通りを進み、このカルディアの中心であり広大な大広場を目指して歩いていく。

 生誕祭3日目、最終日だけあって大通りの賑わいはこれまで以上だ。数多く存在する露店と、ソコに集まる多くの人達を横目に俺達は進む。


 今日の、いや……生誕祭最大の催し物(イベント)は、大広場で開催される。

 この大通りの人の流れも、どうやら大広場を目指している物らしく、やはり模擬戦は多くの人間が見物に訪れるようだ。


 いつも以上に騒がしい大通りを抜けて、俺達は大広場へとやって来た。


「はわわっ、すごい人……」


 たしかに凄い数の人が集まっている。ミレリナさんがそう気後れするのも無理はない。


 ただ……注意深く大広場に集まっている人達を観察してみると、その中には冒険者の装いの者から、騎士団と思える集団の姿がある。街の警備に従事している騎士団とはどうやら違うようだが……。


「これから行われる模擬戦は、冒険者や騎士団にも注目されているのよ。基本的に各訓練所の代表――つまりは、実力のある訓練生が出場する模擬戦だしね、冒険者は固定パーティーに、騎士団は王国騎士に、実力次第では引き込もうとしているのよ」


 冒険者や騎士団の姿に首を捻っていた俺を見て、教官がそう説明してくれたが……少し驚いた。


 冒険者になるために訓練生になった俺達の今の実力を、現役の冒険者が見物しにくるのは分かる。

 訓練所を出て、無事に冒険者になってから固定パーティーへと勧誘するためなのだろう。


 だがしかし、騎士団が見に来るのはどういうことだ?


 そんな俺の疑問にも、教官はしっかりと答えてくれた。


「騎士団も、才能と実力のある若者が欲しいのよ。もし見込まれれば、それに見合うだけの待遇と立場を保証してくれるでしょうね」


「……なるほど」


 冒険者を志す訓練生を騎士団へと勧誘するためなら、それだけの条件は用意している。ということか。


 たしかに、あそこに集まっている騎士団の集団……見るからに偉い立場にいるような雰囲気の人達だもんな。街でたまに見かける騎士とは少し違って見える。

 単に模擬戦を楽しく見物しようと集まった人達とは、明らかに異なった雰囲気だ。


 ま、俺には一切関係のない話だ。

 俺が目指す所は――冒険者であり、姉の横だ。仮に騎士団に勧誘されたとしても、受け入れることは有り得ない。


「それに冒険者や騎士団だけじゃないわ。今この大広場には、いくつかの冒険者組合の支部長も集まっている筈よ」


 そう言って教官が視線を向ける先は、大広場の奥だ。

 実際に模擬戦が行われる大広場中央の更に奥。そこに設けられた一角に、これまた独特な雰囲気の人達の姿がある。

 中でも1番目立っているのは銀髪幼女だ。冒険者組合カルディア支部、支部長コノエ様。

 大人達に交じりながらも堂々とした態度の幼女はかなり目立つ。

 他にも、幼女に負けず劣らずの個性的そうな大人達がそこに集まっているようだ。


 ――あれ全部が支部長かよ……。


 なんて眺めている内に、大広場に集まってきた人達に遮られてその場所の様子は見えなくなってしまった。


 更に人が増えた大広場だが、中央の円形広場への立ち入りは許されていない。

 普段なら自由に人が行き交っている場所だが、今日そこに足を踏み入れることができる者は……模擬戦の代表に選ばれている訓練生と、その関係者だけだ。


「さてと、それじゃ私達は西大通り側で待機よ。出番が来るまでね」


 西大通りから出た所の、すぐ近くに設けられた休憩所で俺達は待機することになった。

 3人並んで、そこの椅子に腰を下ろす。


 模擬戦を見物しにやって来た者達に、冒険者。そして騎士団。更に冒険者組合の支部長達。そんな多くの人達の熱気と、様々な視線の向けられた大広場の様子は、昨日までの生誕祭とはまた違った雰囲気を俺に見せる。

 心なしか、心臓の鼓動が僅かに早くなっているようだ。緊張してしまっているらしい。


「もしかしてシファ、緊張してる?」


「え? いや、そんなことは無いけど……」


 コイツ(ルエル)は何で、そう俺のことをお見通しなのか、いつも疑問に思う。

 対して、ルエルはいつも通り涼しい表情だ。

 その涼しげな顔を見て、俺も少しだけ落ち着いてしまうのが少し悔しい。


「は、はわわわわわっ!」


「み、ミレリナさん落ち着いてっ! まだ模擬戦始まってないからなっ!?」


 いくら成長したとは言え、こうも人が多いと流石に気が動転してしまうようだな、ミレリナさんは。


『あ、あー。コホン』


 そこに、覚えのある声が響き渡った。魔法によって反響させている声だ。


 自然と、俺達の意識はそちらに向いた。

 大広場に集まった者の全ての意識と視線も、俺達と同じく広場中央へと向けられているのが分かる。


『本日は、我等冒険者組合主催による、冒険者訓練所代表生による模擬戦のために、このカルディア大広場を提供してくれたこの街と、また集まってくれた多くの者達にまず……関係者代表として感謝する』


 広場中央に立ち、見回すようにしながら堂々とそう話すのは、支部長コノエだ。


 無数の視線を一身に浴びながらも、これっぽっちも気後れすることなく話し続ける。


『今年も、未来の冒険者を牽引する者達(訓練生)の鍛練の成果……そしてその実力を、模擬戦という形で存分に発揮してもらえることを嬉しく思う』


 支部長コノエのその言葉を、俺達は静かに聞いていた。


 おかしいな……。

 さっきまではたしかに緊張していたんだが、今の支部長の言葉を聞いていると、『早く戦いたい。自分の実力を試したい』そう思ってしまっている。

 最早、緊張なんてどこにも存在していなかった。


『これより、4つの冒険者訓練所。その代表訓練生による模擬戦を開催するっ!』


 支部長がそう高らかに宣言すると、大広場から歓声と拍手が巻き起こる。

 その賑やかな雰囲気の中、支部長コノエは堂々と退場していった。


 そして、支部長とは別の、若い女性の声が大広場に響き渡る。


『それでは、これより半時後に"王都第一訓練所"対"カルディア訓練所"による模擬戦を執り行います。繰り返します――』


 どうやら、いきなり俺達の出番のようだ。

 しかも相手は"王都第一訓練所"。昨日出会ったあの3人だ。

 今日の模擬戦は、それぞれが全ての訓練所と戦うことになると聞かされていたし、いずれ戦うことになるのは分かっていたが、まさか初戦とは……運が良いのか悪いのか。


 とは言え、まだ少し時間がある。

 この間に準備でもしておけ。ということなのだと思うが……特にこれと言った準備はない。


 精神統一でもしておこうか。


「すぅー、はぁ。すぅー、はぁ」


 と、何度も深呼吸を繰り返すミレリナさんを見ながら思った。


 ~


『時間になりました。"王都第一訓練所"そして"カルディア訓練所"の代表訓練生は、中央円形広場まで入場して下さい。繰り返します――』


 呼ばれた。


「さて、行くか」


 そう言いながら俺が立ち上がると、ルエルとミレリナさんも続いて立ち上がった。

 ミレリナさんにとっては、この半時という時間は大いに重要な役目を果たしたらしく、今となってはすっかり落ち着きを取り戻していた。


 視線を前に向ける。


 広場を取り囲むようにして大勢の人達が集まっているが、各大通りから中央の広場へ伸びる"道"は、侵入出来ないように規制されている。

 そこを通り、俺達は広場へと向かうのだ。


 進むべく、一歩を踏み出そうとした時――


「貴方たち」


 背後に立っていた教官が、俺達の背中に話しかけてきた。


「私にも、貴方たちの実力を見せて。……全力で戦って来なさいな」


 俺達は、振り返らずにそのまま足を前に出した。


 大勢の人達の歓声を聞きながら、俺達は進む。

「応援してんぞ! カルディア訓練所!」

「今年こそ、カルディアが勝つところを見せてくれよな!」

「熱い戦い期待してんぞぉ!!」

「うわっ、この姉ちゃんめちゃくちゃ美人じゃねーか!」

 という色々な応援が飛び交う中、俺達は中央の広場までやって来た。


 すると――


「はっ! 弱小訓練所だが、人気だけはあるようだなぁ! ま、ここはカルディアなんだから、それも当然だけどなぁ!」


 ソコには既に、3人の訓練生の姿があった。


「ベリル……止めておけ。いきなり俺達と戦うことになってしまったコイツ等の気持ちも考えてやれ」


「はっはっ! それもそうだ。お前……シファとか言ったか? 祭は楽しめたかよ?」


 相変わらずよく喋る奴だ。

 そして馴れ馴れしい。


「もしかしてシファの知り合いなの?」


 案の定だ。

 ルエルがかなり引き気味にそう言ってきた。

 綺麗なその顔に、若干の軽蔑が込められているのを俺は見逃さない。


「ちょ、ちょっと昨日な……色々あったんだよ」


「……シファ、友達は選んだ方がいいわよ」


「……俺もそう思う」


 大きくため息を吐かれてしまった。

 模擬戦が終わってから、昨日あった出来事を話しておこう。

 と、俺も大きくため息を吐きながら思う。



「はっ! 知ってるぜ俺は! お前らの訓練所、今日の模擬戦の結果次第じゃぁ無くなっちまうかも知れねーんだよなぁ?」



 ふいに飛び出てきた、ベリルという男のそんな言葉に、俺達の意識は持って行かれてしまった。


「弱小訓練所じゃぁ、しょうがねぇよなあ! "無駄"って物だよ、お前らの訓練所は」


「ベリル、その辺にしておけ。カルディア訓練所の現状は、コイツ等の責任という訳ではない。これまでの訓練生と"教官"が無能だっただけだ」


 そう勝手に盛り上がっている王都第一の訓練生を前に、俺達は特に何も言うことはない。

 これから戦うんだ。別に、今何かを言う必要性を感じなかった。ただそれだけだ。


 しかし気付いた時には、俺は――


「ルエル、ミレリナさん。今回は、俺1人にやらせてくれ」


 そんなことを口走っていた。


「テメェ……何言ってんだ?」


「実力の差。分からせてくれるんだろ?」


 何も言わず、一切表情を変化させないルエルとミレリナさんとは対照的な、不機嫌そうな表情を見せるコイツ等に、俺はそう返していた。


 そんな俺達のやり取りを知ってか知らずか――


『それではこれより、"王都第一訓練所"対"カルディア訓練所"の模擬戦を開始します――』


 大広場にそんな声が響き渡ったのだった。


あなたのその評価が、実は大切なんですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです!! やりすぎなハーレムでもないし男友達も出てくるからバランス良しです!戦いが楽しみですー!
[一言] 次の話も楽しみにしてます!
[一言] このシスコンが(笑) 姉の横に居たら、絶級の仕事が押し付けられるだろうに。 そして、姉は眺めるだけで、仕事しない。 そして、第1チームの前座感(笑) 女の子いないからなぁ、仕方ない(ぁ …
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