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#64 練習相手

 

「3人パーティーとしての連携を高める特訓がしたい……ね」


 いつもと変わらない、朝食後の時間。

 珈琲の注がれたカップを手に持った教官が、そう言いながら俺の対面に腰を下ろした。

 俺のすぐ目の前にもカップは置かれている。


 ――昨日、生誕祭で行われる模擬戦の代表に選ばれたのが俺達だと、教官は皆の前で発表した。

 その中にミレリナさんが含まれていたことに混乱した者も多かったが、基本的には応援してくれている。……きっと、ミレリナさんの詠唱魔法を見たら、皆驚くだろうな。


 そして昨日も、俺達3人は街の外に出た。

 ミレリナさんの詠唱魔法の練習が終わり、その次の練習――パーティーとして戦うための練習だ。

 だがやはり、低レベルの魔物相手では練習にはならない。それは既に分かっていたので、なら数を集めてみよう。と、魔物の集団ばかり狙ってみたのだが、結果は同じだった。


 ――もっと強い練習相手が必要だ。俺達3人がかりでも、勝てるかどうか分からない相手。

 我が親愛なる姉がいれば良かったのだが、王都へ行くと言ったきり、まだ帰って来ていない。

 いったい何をしてるんだよ……。たまには帰って来て欲しいんだが。


 まぁ、いない姉を求めてもしょうがない。

 そこで俺達が目を付けたのが――


「ごめんなさいシファ。私も、貴方達の力になってあげたいし、貴方が模擬戦に出ると決めてくれて……本当に感謝しているわ。でも、教官という立場上、特定の訓練生だけを特別に鍛えることは出来ないのよ」


 カップを口から離し、コトリと机に置いてからそう言った。

 本当に申し訳なさそうな顔をしている。


 俺達の身近にいて、確実に強い人。

 ユエル教官なら、俺達の練習相手にピッタリだ。そう思ったのだが、どうやら断られたようだ。

 その理由は、今教官が口にした通り。言われてみれば当たり前だった。


「そっか……」


 はぁ。と、思わずため息が溢れた。

 相変わらず教官のいれてくれた珈琲は美味しいが、正直、ユエル教官はあてにしていた。それだけに少しショックは大きい。


 8日後には生誕祭が始まるっていうのに、このままじゃ、まともにパーティーとしての練習をすることが出来ない。


 ……どうしたものか。


 そう思いながら、俺は再びカップを口に運ぶ。


 すると――


「お詫び、という訳ではないけど、貴方達の練習相手にピッタリな者に心当たりがあるわ」


 教官がそんなことを言い出した。


「その顔、本当に気付いていないみたいね。――そうね、おそらく、もう殆ど傷は癒えてるんじゃないの?」


「え? 傷? 誰のことを言ってるんだ?」


「それは――」



 ~



 教練を終えた俺達は、カルディア高森林へとやって来た。

 今日も、組合員が街道に立っていたが、問題なく通してくれた。

 森の中を迷いなく進み、いつもの場所へとやって来る。

 ミレリナさんの練習の合間に、よく俺はここへ足を運んでいた――ボッとどこからともなく現れた青い炎。その中から姿を見せる可憐な少女。いや、妖獣玉藻前の話し相手になるために。


「おぉ! 待っておったぞシファ……なんじゃ、今日は連れがおるのか――」


 俺と目が合い、満面の笑みを見せたかと思えば、隣のルエルとミレリナさんの存在に気付き、表情を固まらせる。

 ジッ――と、玉藻前は2人を観察する。そして―――


「おぉ! お主らは、いつぞやの者じゃな!」


 と、再び顔をこれでもかと綻ばせた。


 うん。2人のことを覚えてくれていたみたいだな。

 ミレリナさんは調査任務の時。ルエルは玉藻前を冒険者から護った時。それぞれ会っている。


 と言うか、玉藻前の尻尾が心に忠実過ぎる……。

 大きな尻尾達が、これでもかと暴れてやがるぜ。


「はわわわっ! 玉藻前……ちょっと大人になってる。めちゃめちゃかわいいっ」

「くっ……まさか、あの狐少女がこれほどまでの素質を持っていたなんて……」


 分かる。

 もとから美少女には変わりなかったが、少し成長するだけで、こうも女性としての魅力が際立ってくると誰が想像できたのか。

 ちなみに今の玉藻前は、前回会った時よりももう少し成長した姿となっている。見た目的には、俺達と同じ歳くらいか。


 それはそうと――


「聖火の傷の調子はどうだ?」


 質問しながら、俺は玉藻前の様子を確かめる。


 うん。相変わらず美しい銀髪に、健康的で瑞々(みずみず)しい白い肌。身に纏う着物には一切の汚れ無し。

 かなり調子は良さそうだ。


 さっきの教官の言葉を思い出す。


『玉藻前よ。聖火の傷、もう殆ど回復している頃の筈よ。全快とは言わなくても、十分な力を取り戻しているでしょうね。その気になれば、イナリへ帰ることも出来るんじゃない? その玉藻前に、練習相手になってもらえばいいわ』


 そう言っていた。


「うむ。かなりよくなっておる。全快にはもう少し時間が必要じゃが、力も十分取り戻したと言える」


 良かった。教官の言っていた通りだ。


 俺達3人は互いに顔を合わせ、頷いた。


 危険指定レベル18。妖獣――玉藻前。

 全快ではないにしても、かなりの力を取り戻したと言っている。

 玉藻前の強さは正確には分からないが、危険指定レベル18だ。

 "超"級冒険者を複数含むパーティーで対処する必要のある危険度に相当するレベル。たしか――教練で教わった内容では、それくらいのレベルだ。


 ――俺達は、理由を話した上で、玉藻前に練習相手になって欲しい。そう伝えた。


 すると玉藻前は――


「うむ。我に出来ることなら何でも協力するぞっ」


 尻尾を揺らしながら、快く引き受けてくれた。



あなたのその評価で、頑張れております。

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