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#48 この幼女、何を考えている

 

 カルディア周辺の各区域に冒険者パーティーが向かい出した。北大通り、東大通り、西大通り、南大通りへと、多くの冒険者パーティーが散っていく。


 セイラや教官の話によると、危険指定種と戦うのは"上"級冒険者と"中"級冒険者が主らしい。"初"級冒険者は彼等の支援が主な仕事だということだ。


 そんな多くの冒険者達が一斉に各大通りへと流れていく様は、正直言って物々しい。

 この大広場を遠目から観察していた街の人々も、いったい何事だと言わんばかりの表情だ。


「それじゃ私達は東の湿地帯へ向かうから」


「はい。お願いします、ユエルさん」


 セイラにそう言って、ユエル教官は訓練生を引き連れて東大通りへと向かって行く。

 途中、ロキとレーグが振り向いて手を振ってきた。


 あの二人なら大丈夫だと思うが、一応『気をつけろよー』という言葉を口の動きだけで送っておいた。


 すると、グッと親指を立てながら、レーグとロキは大通りの人の流れに溶け込んで行く。


 ――気楽な奴らだな。なんて考えていると。


「ちょ、姉さん! 超級になったことにも驚いたけど……そんなことよりもシファのパーティー編成の理由を教えて!」


「ちょ、リーネ!? そんなことってアンタねぇ」


 リーネのそんな抗議の言葉が耳に飛び込んできた。


 セイラも困り顔……というか困惑顔だな。


 リーネとの関係も、早くハッキリさせておかないとな。

 今回のこの教練が無事に終わったら、そのプロポーズの件の話をつけよう。

 リーネとセイラが何やら言い合いをしている様子を見ながら、俺はそう静かに心に誓った。


「え……プロポーズ? シファ君が? アンタに? ホントに本当っ?」


 そこでどうしてアンタまでそんな顔で俺を見る?


 赤くなった顔でチラチラと俺を見るセイラと、コクコクと何度も頷くリーネを見て――

 この二人、本当によく似た姉妹なんだなと思った。


「と、とにかく! 私達は北よ! 北の危険指定種を討伐するからっ!」


 と、リーネを引きずりながら歩くセイラに続き、残りの皆も北大通りへと消えていった。


 残されたのは俺達だけだ。

 さっきまでの騒々しさが嘘のように、大広場はいつもの風景を取り戻す。


「で? 支部長コノエ様? どうしてこのパーティー編成に?」


 リーネではないが、俺もこのパーティー編成の理由が知りたい。

 どうやらそれは、俺だけではなくルエルやミレリナさんも同様に感じている疑問らしい。というのが二人の表情から窺える。


「ふっ。別にお主らが気にする必要はない。そんなことよりさっさと向かうとしよう。妾達は西の大森林――その深層じゃ」


 そう言って、支部長コノエは西大通りへと歩いて行く。


 この幼女、ホントに何考えてんだ?

 俺達は互いに顔を見合わせる。


「あぅ……」


 ミレリナさんは、少し不安そうな表情だな。


 とにかく、決まってしまった以上はしょうがない。俺達も支部長コノエを追うことにした。


 ――カルディア周辺、危険指定種の掃討という冒険者組合からの依頼は、こうして始まったのだ。


 ~


「…………」


 ――テトテトテト。と、支部長が歩く姿を後ろから眺めつつ西大通りを進む。


 カルディア西側の門から街道に出て、いつかの教練と同じ道をたどり大森林へと到着した。



 なるほど、先行していた幾つかの冒険者パーティーは既に大森林内部で魔物の討伐を行っている様子だ。

 森の中から戦闘の音や声が、僅かに耳に届く。


「この大森林を担当する冒険者達には、深層への立ち入りを禁止しておる」


 ――?


 森の中の様子を窺っていたところで、突然支部長コノエがそんなことを言い出した。


「――? どういうことですか? 深層にこそ危険指定種が多く出現するようになったと聞いてましたが……」


 というルエルの質問に対して、支部長コノエは僅かに口元をつり上げる。


「勿論、大森林で発見された危険指定種は、殆どが深層で発見されたものじゃよ」


 凶悪な笑みを浮かべる支部長コノエのその言葉に、ルエルはますます首を傾げる。

 に対して、ミレリナさんの表情はみるみる青くなっていく。


 さっき支部長コノエは確かに、大森林の深層へ向かうと口にした。

 しかし他の冒険者達には深層への立ち入りを禁止したと言う。


 ――本当に大丈夫なんだろうか?


 そう思いつつ、支部長コノエの――


「この大森林の深層へ向かうのは妾とお主らの三人だけじゃ。つまり、深層の危険指定種共は――妾達だけで掃討する」


 という言葉を聞いていた。


 ~


 大森林へと足を踏み入れる。


 既に到着していた冒険者パーティーの活躍もあり、俺達は順調に森を進む。

 なるほどな、彼等が魔物の相手をしてくれているおかげで俺達は安全に深層へと向かうことができる訳か。


「この大森林で報告のあった危険指定種は――コカトリスに翼竜、そしてベヒーモスじゃな」


 支部長コノエの言ったこれらの危険指定種は、本来ならこの森に生息していない筈の魔物だ。

 優先的にコイツ等の討伐を行うのが今回の目的という訳だな。


 それにしても――

 この支部長コノエ。

 あんな動き難そうな格好をしていると言うのに、この森の中を余裕の表情で進んでいる。

 慣れた足取り――と言うのか?


 とは言っても幼女。

 俺達に比べて歩幅が狭い。

 森の中を慣れた足取りで、ゆっくりと進んでいる。



 そして次第に、周囲から冒険者達の気配が薄れていく。

 森の奥へ奥へと、俺達がやって来た証拠だ。


 ――カルディア大森林、その深層へと俺達は侵入した。


 そんな俺達を、どうやら歓迎してくれているらしい。


「はっ! 早速出よったぞ」


 と偉そうに笑いながら支部長コノエが言った視線の先に、蠢くモノ。


「危険指定レベル5――バジリスクじゃな。もともとこの深層に生息する魔物じゃが……」


 長細く、ウネウネとした気色の悪い動きで地面を這う魔物だ。

 似たような奴を昔、姉に連れられて行った場所で倒したことを覚えているな。


 危険指定レベル5か、危険指定種だが、今回最優先で討伐する対象ではない。が、奴は既に俺達の存在に気付いている。

 木の隙間を縫うように、素早い動きでこちらへ迫ってきているが……。


「ふむ。目障りじゃし、討伐するとしよう」


 流石に討伐するようだ。


 この支部長幼女の実力をこの目に焼き付けてやろう。


 ――そう思ったのだが。


「ローゼの弟よ、お主がやれ」


「ちょっ……はぁっ!?」


 あろうことか今にも襲いかかって来そうなバジリスクに対して背を向ける始末。

 そして案の定、そんな隙をこのバジリスクが見逃す筈もなく、大きく裂けた口を目一杯広げ、背を向けた支部長コノエに食らい付こうと勢いよく飛び出した。


 長細い針のような牙からは、紫色の液体が滴っている。

 ――おそらく噛まれたらただでは済まない、猛毒だろう。


 目を疑うような支部長コノエの行動に、ルエルもミレリナさんも唖然としている。

 ――対して支部長コノエは、笑っていた。その視線は俺に向けられている。


 何を考えてる? この幼女は。


 いや、今はそんな場合じゃないか。


 地面を蹴りつつ、収納魔法から聖剣(デュランダル)を取り出す。


 聖剣を取り出した勢いをそのままに腕を振るい、支部長コノエの背後に迫るバジリスクの首を――切り払ったのだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうして主人公は婚約を否定しない? 意外と満更でもないのかな
[気になる点] シファはリーネのことははっきり否定(拒否)しておかないと、元が高飛車だから引き伸ばせば引き伸ばす程断れなくなると思う。 [一言] リーネよりはルエルとくっついてほしいので、ルエルを応援…
[良い点] ここまで読み進みこの物語に興味は高まってきています。シファがちょっと自分の力量をわかっていないこと、戦闘になると力加減がわからなくなるようですが姉さんに冒険者としての心構え等は教えられてい…
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