#47 幼女は勘弁だ
鳳凰の討伐成功の知らせから始まり、カルディア周辺に出現するようになった危険指定種の討伐――いや、掃討という任務が冒険者組合より依頼された。
そして、この場に集まった冒険者達すべての代表に選ばれたのが――"超"級冒険者のセイラ・フォレスだと、支部長コノエは言った。
大広場は大騒ぎとなってしまった。
鳳凰の討伐に歓喜しているのか、危険指定種の掃討という明らかに高難易度の依頼に戸惑っているのか、それとも――
チラリと、俺の近くに立つリーネへ視線を向けてみた。
「ね、姉さん……」
大広場の冒険者達よりも、一番驚いているのはリーネだな。
目を見開き固まってしまっている。
と言う俺も、十分驚いているのだが……。
『静かにしてっ!』
そんな声が、突如として響き渡った。
聞き覚えのある声に誘われて、一応の落ち着きを取り戻した大広場の奥の舞台に目を向けると、ソコに立っているのは勿論――セイラ・フォレスだ。
確か"上"級冒険者だった筈。しかし、支部長コノエは"超"級冒険者と彼女を紹介した。
――昇格したらしい。
玉藻前の一件で世話になったセイラの"超"級昇格。俺個人としても素直に喜ばしいと思える。
そのセイラが、どうやら今回の依頼についての詳しい説明を始めるようだ。
意識を集中し、耳を傾ける。
『依頼内容は、カルディア周辺に出現する危険指定種の掃討よ。特に、鳳凰の出現以降に現れるようになった危険指定種を優先的に討伐すること――』
よくもまぁ、こんな大勢の冒険者の前でああも堂々とした態度でいられる物だ。
訓練所のたかが自己紹介で緊張していた俺が恥ずかしいよ。
『"上"級の冒険者を中心とした臨時パーティーを編成して、カルディア周辺の各区域に向かってもらうわ。ただし――』
と、セイラはそこで一旦区切る。
そして皆から注目を浴びているのを確認してから再び話し出す。
『北東の高森林は立ち入り禁止よ。"絶"級冒険者ローゼの絶級特権により、現在冒険者の立ち入りが制限されているわ』
流石は我が姉だと思った。
まさか絶級特権で高森林を護ってくれていたとは。
更に――
『南の山脈地帯も、まだ危険指定区域に定められているわ。魔境化は治まったけど、念のために対象外とする』
北東の高森林と、南の山脈地帯が対象外となる。
どうやら、南の山脈地帯は後日改めてということらしい。
と言うかまだ危険指定区域だったのかよ。大丈夫か? 俺達の家は。
しかし、全ての危険指定種を討伐することなんて出来るのか? と思ったが、セイラの説明によるとそれは、あくまで目標らしい。
決められた期日までに、出来る限りの危険指定種を討伐する。
特に優先すべきは、本来ならカルディア周辺に生息していなかった危険指定種共だ。
それを皆が納得したのを確認してから、セイラが冒険者達のパーティー編成を開始した。
"上"級冒険者を集め、何やら忙しく指示を飛ばしている。
で、俺達は?
冒険者ですらない俺達は、いったいどんなパーティーで討伐に向かうんだ? それとも、訓練生全員がひとつのパーティーなのだろうか。
――どうするんだ?
という視線をユエル教官に向けると、やっと口を開いてくれた。
「貴方達には"超"級冒険者が一緒に付くわ。訓練生だもの、当然よ」
「おお……」
誰かがそんな声を漏らした。
流石にまだ冒険者ですらない俺達だけで、危険指定種と戦わせることはしないらしい。
だが"超"級冒険者か、いったい誰が――
「貴方達には私が付くわ」
ユエル教官だった。
「私も冒険者よ、この依頼に当然参加するわ。と言うより、貴方達は私のサポートよ」
そんな教官の言葉に、俺の頬が緩む。
教官の強さ。正直かなり興味があった。
玉藻前を助けに行こうとした時に一瞬見せた、教官の強さに。
「だけど、貴方達は二つのパーティーに分かれるわ。ひとつは私と。そしてもうひとつは――」
と、教官の視線が俺の背後へと向けられる。
「もうひとつは私よ」
そう俺達の背後から声をかけてきたのはまたしても、セイラだった。
冒険者達のパーティー編成を済ませたのだろう。俺達の所へとやって来たらしいが……。
「また会ったの。ローゼの弟よ」
セイラの隣に、幼女がいた。
いったいこの支部長コノエ様が何しに俺達のところまでやって来たのは知らないが、どうやら俺達訓練生は二つのパーティーに分かれるらしい。
そしてそれぞれ、"超"級冒険者のユエル教官とセイラが一緒に行動するということだ。
そのパーティー編成も既に決まっているらしく、手際よく分けられていく。
ユエル教官が直接に名を呼んで、訓練生達を二つのパーティーへと分けるのだが……。
「…………」
とうとう俺の名が呼ばれることは無かった。
ちなみにルエル、そしてミレリナさんの名前も呼ばれていない。
どういうこと?
俺達は?
「教官、俺達は――」
どっちのパーティーに?
そう訊こうとしたが、
「お主らは妾とじゃよ」
という透き通る声に、ギョッとした。
「なんじゃ? そんなに嬉しいのか? 喜ぶが良いぞ。お主らは妾の手伝いじゃ」
冗談だよな?
この幼女戦えんのか?
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