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#21 どんな場所も、その時々によって違う姿を見せる

 

 カルディア高森林に、足を踏み入れた。


 外からでも、この森の異常な成長を遂げた木の高さは見て分かったが、中に入って見ると、その迫力は見た目以上だった。


 周囲に立ち並ぶ木を見上げてみると、まるで自分達が小人にでもなったかのような錯覚さえ覚える。

 空を覆い尽くす程の木の葉が、森の中への日の光の侵入を遮っている。


 カルディア高森林。その森の中は更に暗く、独特な雰囲気を演出している。


 これからこの森を調査するのだが、道と呼べる道が存在しない。

 あるのは、動物か魔獣もしくは魔物の通った跡と思われる獣道のみだ。


 仕方なく、俺達はその獣道を進むことにしたのだが、中々その最初の一歩を踏み出せない。

 足場が悪いということもその理由のひとつなのだが、森の中の薄暗さもあってか、かなり不気味だ。見通しが悪い、というのはこれ程までに人の心を不安にさせるものなのか……。


 とは言え、誰かが先陣を切らねば一向にこの調査任務は進展しない。


「よし。グラム、お前が先頭だ」


「ちょっ、はぁ!? 何で俺だし!?」


「……落ち着け」


 コイツ、本気で嫌がってんな。

 まぁ、見通しも悪く薄気味悪いこの森の中だ。その気持ちは分からなくもないが……。


「お前の武器は?」


「……大盾だが」


「だろ? ならやっぱり、お前が先頭を歩くのに相応しい。不意に前方から魔物に襲われても、その大盾で防げるだろ?」


「……ぐっ」


 これは至極真っ当な人選なのだ。

 見通しの悪いこの森の中だ、大盾という武具を操るグラムが先頭を行けば、このパーティーの安全性は確実に上がる筈だ。


 その筈なのだが……。


「ぐぬぬ……」


 コイツ、なかなか首を縦に振らないな。

 盾は振り回す癖に……。え。


 はっはーん。さてはコイツ。


「グラムお前もしかして……」


 肩にそっと手を乗せる。耳元に顔を近付けて、女連中には聞こえない程度に、呟く。


「びびってるな? 大丈夫だって、確かに薄気味悪い森だが安心しろ。今は真っ昼間だ、死霊系の類は出てこねーよ」


「なっ! びびってねーわ! おう良いよ? 俺が先頭を行ってやるさ! しっかりついてこいよ!」


 よし。決まりだな。


「じゃあ、グラムの次にツキミ、その後ろをミレリナさん。最後に俺の順番で森を進もう」


 せめてもの償いに、一番後ろは俺が担当することにした。



 ~



 探り探りではあるが、俺達は四人一列となり森の中を進む。


 やはり見通しは相当悪い。

 前後左右、どこを見ても木。そして雑草。

 もし仮に、今そこの木の陰から魔獣が飛び出してきたなら、俺達は対応することが出来るだろうか?

 見える範囲には、魔物や魔獣の姿は見当たらないが、隠れる場所はいくらでもある。


 ――俺達の視界には、魔物や魔獣の、その姿は写っていない。

 それが逆に、俺達の緊張を高めている。

 いっそのこと、姿を現してくれていた方がどれだけ楽か……。


 自然と俺達の会話は無くなっていた。

 当然だ、今の俺達に、楽しくお喋りしている余裕なんてありはしないのだから。



 ~



 細心の注意をはらいながら森を進む。

 たまに物音に反応して足を止めるが、その音はいつも風に揺れる木や、草の擦れる音だ。


 ――疲れる。

 森に入ってから、まだ一度も魔物や魔獣に遭遇していない。つまり、一度も戦闘になっていない。だと言うのに、俺達の疲労は蓄積されるばかり。

 おそらく、代わり映えのしない森の景色も、余計に疲れる原因になっているのだろう。


「ふぅ……」


 すっ、と息を吐く。


 ――その時だった。



「おかしい……です」


 俺の前を歩くミレリナさんが、そう呟いた。

 あまり大きな声量では無かったが、集中していたこともあってか、そのミレリナさんの声は皆の耳に届いているようだ。


 皆が足を止めた。


「ど、どうしたの? ミレリナさん。おかしいってなにが?」


 もっともな疑問だ。

 特におかしな所はないように思える。

 その証拠に、ここまで一度も魔物に遭遇することなく、順調に調査を進めて来れた……が、ピンと来た。


 ――確かに、おかしいかも知れない。


「おかしいんですっ。この森には、たくさんの魔物や魔獣が生息している……はず。なのに……ここまで何もいないなんて、その気配だって何も無いのは、おかしい……です」


 そうだ。

 俺達は、本来いない筈の魔物や魔獣が出現しないかの調査にばかり気を取られていた。

 しかし、その逆の現象に、今遭遇しているんじゃないのか?


 ――本来いるべき筈の魔物や魔獣がいない。

 これも十分、異常と言えるんじゃないか?


「ツキミ。教官から預かってるリストには何か書いていないのか? この森に生息している魔物や魔獣のこと」


「ちょ、ちょっと待ってね」


 ま、そもそもこの森には魔物や魔獣が存在していないのなら話は別だが、それは有り得ないだろうな。

 この森に入る前に、ミレリナさんも言っていたし。


「あった! カルディア北東『高森林』ね。うん、魔物や魔獣は生息してるみたい。ミレリナさんの言う通り、最高レベルは3ね」


 だよな。

 なら、まだ遭遇していないだけか? もう少し森を進めば魔物の姿があるのだろうか?


「とにかく、もう少し進んでみよう」


 現状、まだこの森の半分も進めていない。

 魔物や魔獣がその姿を消した。そう決めつけるのはまだ早い。


 俺達は再び、森の中を歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] というかリーナとミレリナの姉主人公の姉に呼び出されたヤツらですよね?繋がりが...ルエルの姉は教官なのかな?
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