081 功績
これにて第三部完結になります!
修学旅行から始まり、使役、大会、魔物侵攻と忙しすぎるノブレス・オブリージュ。
「ヴァイス・ファンセント、前へ」
大規模魔物侵攻から数日後、俺たちはブルーノ国王陛下からありがたいお言葉をもらう為、王城に訪れていた。
正装は持ってきていなかったので、急遽購入したが、どうにも気にくわない。
「――結構似合ってんじゃねえか」
「シッ、後で怒られるよ」
いかにも貴族様って感じの金の模様が入った黒服だ。
アレンとデュークの野郎がこそこそと話しているのには気づいてるので、後で殺す。
「さすがファンセント家だ。冒険者大会での優勝も素晴らしかった」
「ありがたく」
しちめんどくさいが、この程度は仕方がない。
そして次に呼ばれたのは、彼女だ。
「セシル・アントワープ、そなたの功績は素晴らしい。よって、B級冒険者に昇格する」
「感謝します」
セシルは一気にB級へ昇格。組合と直接関係のない国王直々に伝えるなんて前代未聞だろう。
おそらく将来、誰よりも上の地位に上がるはずだ。
もちろん、他の連中も呼ばれている。
俺たちは貴族でノブレス学生だ。国王にとってもそのくらいは当然だろう。
だが驚いたことに――。
「アレン」
平民のアレンも声を掛けられていた。もちろんこの場には当然呼ばれるとは思っていたが、平民が直々に称賛されるなんてこの世界ではありえない。
普通なら手紙で賛辞が送られてくるくらいだ。
ノブレス学生ということもあるだろうが、アレンの強い意思が招いた状況でもある。
「よくぞブルーノを守ってくれた」
「……いえ、こちらこそ嬉しいです」
アレンにとっては複雑で、そして同時に嬉しいのだろう。
平民の身分で苦しいことは多々あったはず。孤児院だというだけでも差別される世界だ。
あいつにとっては、かなり大きな一歩には違いない。
そしてアレンは、かなり身体が辛そうだった。足を引きずり、魔力がまだ完全に回復していないとのことだ。
それが、奴の能力の副作用。
属性度外視の完全模倣なんて普通じゃないと思っていたが、諸刃の剣ということだ。
俺は独自の術式と闇と光属性のおかげで改良を加えているので根本から違う。
まあそれを考えても、十分におつりがくるとは思うが。
ちなみにエヴァの姿はない。
単身で大型魔物を駆逐、その功績は計り知れないが、彼女は『めんどうね』の一言で拒否した。
王から直々の呼び出しを断るなんて、おそらく世界で唯一彼女だけだ。
だがエヴァは有名だ。特に権力者の中では敵に回したい奴なんていない。
エヴァがブルーノを守った、ただそれだけでも名誉は上がるはず。
この国はさらに巨大になるだろう。
シンティアやほかのノブレス学生が呼ばれた後、冒険者たちも呼ばれていた。
「よくぞ守ってくれた」
「ありがたき幸せ!」
ボルディックもその一人だ。
しかしこの場にいるべき猫耳雨女、ネルの姿はない。
彼女は消えた。
理由はわからない。国王からの称賛と褒美、一冒険者が断る理由なんてない。
だが考えても仕方がない。たとえ何かあったとしても、人に言えない秘密なんて、誰だって抱えている。
すべてが終わって俺たちは城の外へ出ると、驚きの光景が待っていた。
「ありがとう、ありがとうございます!」
「ああ、ありがとう」
「お姉ちゃんお兄ちゃん、ありがとう」
兵士に止められながらも感謝を伝えてくれたのは、俺たちが守ったであろう貧困層の家族たちだ。
正直、俺たちが参加しなければ絶望的だっただろう。
魔物もそうだが、魔族もどきについては俺とアレン以外では討伐が不可能だった。
それは兵士たちもわかっていたらしく、俺の名はかなり浸透していた。目的は完璧すぎるほど達成した。
俺たちの中で誰よりも嬉しそうだったのはシャリーだ。
彼女は今まで見たことがないほど笑顔だった。アレンと同様に平等社会を作ろうとしている彼女にとって、こんなに嬉しいことはないのだろう。
俺も悪い気はしなかったが、何とも言えぬ感情が渦巻いていた。
みんなが強くなっている。みんなが前に進んでいる。
それはつまり、本筋が順調に進行しているということだ。
その最たる例が、魔族もどきだろう。
原作のノブレス・オブリージュは最高に面白い。
最高に死にゲーで、最高の泣きゲーとも言われている。
俺は同学年たちに視線を向けた。
原作ではゲームクリアするまでに大勢が死ぬ。それはゲームの進行上、仕方ないほどに相手が強いからだ。
コミュニティサイトでも、あいつを助けてもこっちが死ぬ、こっちを助けてもあいつが死ぬ、なんてみんなで言い合って情報交換をしていた。だから誰が死ぬかなんてわからない。
それが、ノブレスでの現実だ。
だが……そんな未来はぶっ壊してやる。
俺は、やはりこのゲームが好きなのだろう。
いや、こいつらが、好きになっているのかもしれない。
……ま、そんなことは死んでも口に出さねえが。
しかし爆発野郎で思ったが、ノブレスは一筋縄ではいかない。
希望を絶望に落としてくるゲーム。
これから先何が起こるかわからない。
それでも、前に進むしかないが。
アレンたちは、また集まって打ち上げをしようと話し合っていた。
ったく、学生ってのは集まるのが好きだな。
だが俺は早々にその場を去る。
シンティアとリリスも着いてきた。
もうすぐ休学は終わりだ。ノブレスに戻ればまた新しい日々がはじまる。
それまでに、少しでも強くなりたい。
「西の魔物に強い魔物がいたはずだ。少し休んでから向かうが、どうする?」
俺の問いかけに、二人は笑みを浮かべる。
「ヴァイス様とならば、どこへでも」
「付いて行きますわ」
ああ、俺はこれから先、何があっても二人を守る。
それだけは、絶対だ。
――――
――
―
ブルーノ、巨大時計台。
国の中心に建てられたブルーノを象徴する一つ。
その高さはどの国よりの建物よりも凄まじく、時計の直径の大きさは巨大な魔物に匹敵する。
そのてっぺんで、猫耳の少女が、国を見下ろしていた。
「人間は変わらにゃいねー。こんな綺麗に見える国でも、腐ってるにゃん」
そしてもう一人、ガタイがよく、短い髪に、吊り上がった眼をしている男が、人間たちを見下ろしていた。
「だな。下から上に搾取する屑ばかりだ。つうか、お前、いつまでその姿でいるんだ? 後その口調、やめろよ」
「可愛くないゃーい?」
「全然、元の姿のがいいぞ」
「褒めてくれるなら戻ろうかにゃー」
「褒めてないが」
ネルは変身魔法を解くと、元の姿に戻っていく。
白髪のストレートヘア、透けるような乳白色の肌、西洋の人形を思わせる端正な顔つきに。
「ふう、どう? 綺麗かしら?」
「見慣れた顔って感じだ」
「ふふふ、ありがとう。間近で見てみ思ったけど、やっぱり特異点は面白かったわ」
「どうして殺さないんだ? 今すぐオレが殺ってこようか?」
「あら、自信たっぷりね。でもあの子、かなり強いわよ?」
「はっ、人間なんかに負けるかよ」
「あなたも元人間でしょ」
「そうだったかァ?」
「いまはまだ戦わない。私たちは強くなるのよ。もう二度と負けないように」
二人の目はとても優しい瞳をしていた。
だが同時に、激しい憎悪を感じさせる闇の目をしている。
「でも、どうするんだ? もしあいつが敵になったら。――戦うのか? 久しぶりに見たが、すげえ強くなってたぞ」
「……そんなことには絶対にならない。あの子はこの世界がどれだけ腐ってるのか知ってるもの。私たちと同じでね。準備が整ったら迎えに行くわ。私の言葉なら、聞いてくれるはずよ」
「……そうだな。で、魔族もどきはどうするんだ? もっと作るのか?」
「ええ。自我が無くなるのは使い勝手が悪いわ。随分と過去の魔族魔法みたいだし、もっと改良しましょう」
そして二人は、とんでもない魔力を漲らせる。
かつての想いを馳せながら、ふわりと足が地面から離れると、カルタ以上のよどみのない魔力操作で空を飛んだ。
「じゃあ行こうかしら、傲慢のキングさん」
「ああ。――てか、知ってるか? あいつ、俺たちの名前を名乗ってるみたいだぜ。――エヴァ」
「……健気で可愛いわよね。でも、その名は捨てたの。私のことはネルって呼んで」
「七禍罪の怠惰だから寝る、それでネルは安直すぎるだろ……」
「そう? 可愛いでしょ。あの子なら分かってくれると思うのになー」
「はっ、かもな。それじゃあ行くか。お前の言う通りなら、俺たちも努力して強くならなきゃな」
「そうね。この腐った世界を、より良くするために」
そして二人は愛情に満ちた笑顔で、その場を去っていく――。
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