057 使役
テイムとは創作物で聞きなれた言葉だ。
魔物を従え一緒に戦ったり、人によってはペットのように扱うこともある。
もふもふ系といえば人気ジャンルの一つだろう。
当然、このノブレス・オブリージュでも、その言葉は存在するし、召喚魔法だってある。
ただそれはカルタの飛行魔法と同じで扱いが難しく、それでいて稀有だ。
弱い魔物を使役させるのですら集中力と才能がいる。
テイムするには色々な方法がある。
ノブレスでのオーソドックスな方法は、必要な手順の術式を詠唱、魔物に付与、それを魔法陣の上で行うことで心を通わせることができる。
もちろんこれには相応の魔力量が必要だ。
よしんば使役できたとしても魔物に命令し続けるのは従者の魔力を常に使っている状態になる。
よって弱い魔物をテイムしたところでデメリットのほうが多い。
癒しが欲しいだけなら可愛いペットはこの世界でも存在するし、戦わせるには魔力を分け与えなければ強くない。
下手すれば戦闘力が半分以下になってしまう諸刃の剣。
習得難易度は非常に高く、そもそも才能に依存することもあって後天的に覚えられないことが多い。
飛行魔法もそうだが、高難易度の魔法は脳がいくつも必要だと言われている。
使役なんて代表格だ。
手足が四本増えて、同時に別のことをしなければならない。
だがそれができる奴も存在する。
近しい人でいうと、それがこのオリンなのだが……。
「デュークくん、すごーい! ぱちぱち」
「うほっ! オリンの声を聞くと元気が出るぞお!」
シシツが凄まじい速度で腕立て伏せをしている。
オリンが拍手すると、頭の上のリスも同じように拍手しているが、これだけでも凄まじいことだ。
しかし現状のオリンはまだ弱い。
オリンは所謂覚醒キャラクターと呼ばれることが多い。
初めから最強ではなく、特殊なきっかけがあって才能が開花するということだ。
「デュークくんみたいになりたいなあ」
「へへへ! よせやい照れるぜ!」
俺は彼女が好きだった。
といっても、見た目の事じゃない。
最強種を何体も使役し、大勢の魔物を前に戦う姿は、多くのプレイヤーを魅了した。
しかし本当にオリンは最強になるのだろうか。
見た目は完全に女の子、二の腕も細い。
考えたことがある。
今まで改変は良い方向が多かった。
だが……もしかしたら、悪い方向に改変する場合もあるだろうと。
「なんだか見ていたらボクも汗かいてきたかも。上だけ脱ごうかな」
するとオリンは、おもむろにシャツに手を掛けた。
白いくびれが見えると共に、おへそがちらり。
俺、デューク、アレンの表情が同じように固まる。
オリンが服を脱ごうとする。その脱ぎ方は、女子そのものだ。
そして限界を超えたのか、シシツが爆発した。
「お、俺はここにいられねえ! うおおおおおおおおお」
「で、デューク、どこいくの!?」
上半身裸のままデュークは勢いよく扉をあけて、アレンは追いかけていく。
残された俺は――。
「んしょっ、んしょっ、あれ上着が取れないなあ。ヴァイスくん、ちょっと手を借りていい?」
「……俺も外に出る」
「え、え、なんで!? ど、どこいくの!? ねえ!?」
……危ないところだった。
俺はヴァイス・ファンセント。
オリンに惑わされるようなことはあってならない。
まあちょうどいい。屋敷の中でも見学するか。
原作で知りえなかった細部まで調べることができるのは、特権だよなァ。
その時、椅子に座って本を読んでいる奴がいた。
はっ、こんなところでもか。
「よお」
しかし気づかない。眼鏡をかけて真剣な表情で本を読む姿は、かなり綺麗だな。
「そうか……いや……でも……ああ、そうだ……」
『バトル・ユニバース』の本かと思っていたが、背表紙を見て笑った。
あァ、この世界の奴らはなんでこんないい奴ばかりなんだ?
「セシル」
「ん――あれ? ファンセントくん、いつのまに?」
「声はかけたけどな。夢中になりすぎだ」
「本を読むとそうなんだよね。ゲームをしている時もそうなんだけど」
俺は本をひょいと借りて、中をちらちらと読む。
随分とまあ小難しい事が死ぬほど書いてある。
タイトルは『騎子』。過去の偉人が記した兵法書で、分かりやすく説明すると孫子みたいなものだ。
厄災の後、セシルは負傷人が出たことにショックを受けていた。
死者0人だったが、それは魔族が手を出してこなかったから。
もちろんあのまま行けば俺たちが勝利していた可能性は高い。
だがそれは犠牲者の上で成り立つ勝利だ。ゲームと違って、それは許さないと、セシルは自分を責めていた。
俺はそんなことないと伝えた。彼女のおかげで大勢が救われたからだ。
だがそれでも、彼女は満足していないらしい。
「……ありがとな、セシル。けど、あんまり気負いすぎないでくれ、お前には感謝してる」
「……わかった。でも、次はもっと上手くやる」
セシルの目は、どこか主人公に似ている。
真っ直ぐで、前しか見てない目だ。
はっ、頼もしいな。
そんなことを話していると、廊下から下級生がワラワラと出てきた。
制服から着替えて、どいつもこいつもラフな格好をしている。
「デューク、上着ぐらい着たら?」
「どうせ後で脱ぐだろ!?」
どうやらシシツの気持ちも整理がついたらしい。
半裸のままだが、それよりも集合時間か。
てか、今気づいたが、セシルも制服じゃない。
足が長いと……ショートパンツも悪くないな。
「見惚れてるの?」
「ま、そうかもな」
「ふふふ、ハッキリ言うところは嫌いじゃないわ。でも、シンティアさんに怒られるから、またね」
あァ、セシルのこういう所は、いいところだよな。
俺も着替えるべく、部屋に戻った。
もう流石に大丈夫だろうと思い扉を開くと、そこに立っていたのはどうみても女子、どうみても女の子、いや、男の娘。
オリンは、姿見で自分の水着姿を見ていた。
どこで売ってるかわからない薄いラッシュガードのような上着。
なぜか萌え袖、そしてなにより肌がきめ細かくて染み一つない。
「わ、ヴァイス君!? ……ど、どうかな? 似合ってる?」
「……あァ、似合ってる」
気づけば俺は、口から素直な感想が出てしまっていた。
……クソ、目覚めたくねェ。
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