055 それぞれの想い
【大事なお願い】
これにて第二部完結になります!
面白いweb小説が無数にある中でここまで見てくださり感謝しかありません(^^)/
二回目の厄災事件の噂は、世界に瞬く間に広がった。
だがその場に居合わせた優秀な学生たちのおかげもあって、負傷者は多数だったが、死者はゼロ人だった。
原作を知っている俺からすれば、魔族が参加していないとはいえ、凄まじい偉業だ。
その立役者は他でもない、セシル・アントワープで間違いないだろう。
彼女は咄嗟の判断で、ギルス学園長の言葉を代弁したと宣言していたが、驚いた事にあの後、呼び出しすらなかったらしい。
何ともまあ驚いたが、変わった人だとは知っていたので納得もした。
とはいえ表向きはギルス学園長の指示になっている。セシルもホッとしていたが、本当は俺が一番胸を撫でおろしていた。
転移魔法については、クロエ先生が尽力をしてくれていたらしい。
といっても、近辺の魔物だったり、戦争が起こる可能性を示唆して説得したらしいが、何ともまぁその塩梅がセシルの地頭の良さだろう。
そしてあの後、父はずっと俺の心配をしていた。痛い所はないか、怪我はないかと。
無事を確認してからは、自分も鍛えなおさないといけないと言っていた。十分強かったと思うが、昔はもっと凄かったらしい。
そのあたりの設定は知らないので、いつか根掘り葉掘り聞いてみようと思う。
そしてエヴァは本当に嬉しそうだった。
ご機嫌すぎて笑い声が数日間も校内も響き渡っていたとか。そのあたりは中級生の棟なので、真実はわからないが。貸しについてはまだ何も言われていない。
反対にミルク先生は不満そうだった。被害を恐れて魔族に手を出さなかった自分が不甲斐ないと言っていた。
昔の自分なら、あの場で魔族を八つ裂きにしていたと。
でも……俺は良かったんじゃないかと思う。ミルク先生もまた、変わっているのだろう。
そして残念なことに、衝撃的な事実が見つかった。
転移魔法は、本来マークが必要だ。
それは魔族も例外ではなく、一度目の厄災の時にも協力者がいたのだろうと言われていた。
これは原作でも明かされていない。
そしてこのノブレス剣魔杯にも、その痕跡が見つかった。
各国の代表がその場にいたこともあって、誰が敵なのかと騒ぐのも無理はなく、同盟国であっても信用できない最悪な世界に突入しようとしていた。
そして七禍罪と名乗ったビーファが俺に囁いた言葉――。
俺は破滅を回避しようとしていた。
順調だったはずだ。
だがその闇に首を掴まれた気分だった――。
「ヴァイス、それだけでいいのですか?」
「ああ、フルーツだけで十分だ」
俺たちが優勝した翌日、大事をとって中級生と上級生の試合は見送られた。
あの日から既に一週間が経過している。
ノブレス学園も三日ほど休みだったが、四日目には再開。
今後は対策魔法の専門家を先生に迎えるとの話もあった。
原作にはない分岐点だ。
ノブレス校内は、既に笑顔で溢れている。
魔物という凶悪な生物がいる世界なので当たり前かもしれないが、誰しもが適応能力に長けている。
むしろ、全員がやる気になっていた。
今度は絶対、俺がやる――と。
そして一番落ち込んでいたのは、なんとリリスだった。
大会の面子に選ばれなかったこと、それもあって、厄災でもみんなの足手まといだったんじゃないかと。
とはいえリリスの本業はメイドだ。十二分に頑張っていると思うが、それでも納得がいかないらしい。
だったら主人である俺が、手本を見せなきゃ駄目だよなァ。
「やっぱり……食うか。リリス、お前も食べろ。今できることは、次なにがあっても対応できる強さを持つことだ。違うか?」
リリスは俯いていたが前を向き、立ち上がる。
そして――。
「……食べます! 日替わり定食二つ、持ってきます!」
いつも通りの声量で叫ぶと、ドシドシと歩いていく。
いや、俺は別のが良かったんだが……まあいいか。
「ヴァイス、ずっと聞きたかったことがあります」
「なんだ?」
シンティアと話すのは久しぶりだった。
彼女の家はそれなりに過保護で、もう少しでノブレスを自主退学するかどうかの話もあったらしい。
原作にはないが、何事にも例外はある。だがシンティアの意志は固かった。
おそらく……俺の為だろうな。
言いづらそうにした後、真っ直ぐに俺の目を見た。
「あの……ビーファという魔族に何を言われたんでしょうか?」
「……気づいてたのか」
「はい」
あの時、俺はあいつの言葉で身体が固まった。
他の奴らにも、何言われたんだ? と聞かれたが、気のせいだと返していた。
ミルク先生にもだ。
それは――。
『――他人の身体は楽しいですか?』
今思い出しても訳がわからない。
俺はあいつと初対面、一度も会話を交わしていない。
なのになぜ、確信めいたことを言われたのか。
……わからない。
「……シンティア、お前に嘘はつきたくない。だから言えない――今はまだ……」
申し訳なかった。俺の為に色々としてくれているというのに、真実は何も話せていない。
難易度の高いノブレスでは、分岐点の一つで人の死が確定する。
未来を話せば、引き金になるのかもしれない。
いや……もしかしたら俺は単純に怖いのかもしれない。
信じてもらえないかもしれない、拒絶されるかもしれない――と。
だがシンティアは笑みを浮かべた。
「今はまだ、ですね。安心しました。ヴァイスがそう思ってくださっているのであれば、いつでもお待ちしています」
ああ……ほんと、俺には勿体ないくらいの女性だ。
「……ありがとな」
「はい」
「ただいまぁです!」
そして、白米モリモリ、唐揚げモリモリの定食を二つ、リリスがテーブルにドサっと置く。
サラダもたくさん、フルーツの追加もたくさんだ。
……多すぎだろ。
「まだまだこれからですよね! 次に魔族がきたら、とっちめてやりましょう!」
「ああ……そうだな。食うか」
リリスの言う通りだ。俺たちは下級生、物語はこれからだ。
序章で躓いてたら、ゲームを制覇なんてできない。
「それにヴァイス様もシンティアさんも凄いですよ! 大会を優勝して、厄災も払いのけて!」
「そうですわ。特にヴァイスは、下級生首位、そしてポイントも過去最高、今大会での戦いも既に伝説になっていますよ」
シンティアの言葉通り、俺の名前は各国に認知されていった。
今までの悪評が消えることはないだろうが、おかげで屋敷襲撃事件のような脅威は減るだろう。
誰も優勝できなかった大会に優勝し、賞品まで頂いた。
厄災をも乗り越えた。
結果だけみれば最高得点か。
もうすぐ合宿が始まる。
笑いあり、涙あり、地獄あり、とコンセプトで書かれていた文言を思い出す。
実際に体験するとは思わなかったが、今では少し楽しみだ。
久しぶりに退学者が出るだろう。
俺も気合を入れなきゃないけない。
「そういえば、優勝賞品いいですねえ。私も欲しかった……」
「来年はリリスさんも一緒に出ましょうね」
「はい!」
授与式こそ途中で終わったが、後日賞品はキチンと頂いた。
そしてそれは、掲示板で貼られていたSSと同じだった。
正直、マジかよ、と声が漏れ出たほどだ。
俺は、右腰に納刀している剣に手を触れた。
魔力の性質に合わせて形で変化する古代魔法具、それが優勝賞品だった。
それを五人分、アレンたちのがどんなのかは知らないが、ある意味で厄介度が上がったとも言える。
学生の大会にしちゃいささかご褒美がすぎるが、これがノブレス・オブリージュの良さだ。
ま、俺が強けりゃそれでいいか。
これからよろしくな――【エターナルデュアルソード (Eternal Dual) - 闇と光の二つの力を併せ持つ魔法剣】。
従者の属性魔法を何倍も増幅させる。魔力消費は著しく低い。
▽
「ハァッ、ふぅ……ハアアッ!」
「おっと、アレン! 流石にその隙は見逃さねえッゼッ!」
あの大会後、僕がどれだけ剣を振っても、デュークは全てを回避する。
身体強化しているとはいえ、とんでもないほど強くなっていた。
更に今は遠距離でも攻撃を仕掛けてくる。
体力は僕なんかよりもあるし、ああ……まだまだだ!
「ハァアッ!」
「いいねえアレン、いい鋭さだゼッ!」
その時、聞きなれた優しい声が後ろから聞こえた。
「まーた訓練室だと思った。二人ともご飯ぐらい食べなさいよ」
シャリーだ。その手には、大きなお弁当を二つ持っていた。
ノブレス魔法学園の食堂は無料で、種類が豊富だ。更に頼めばお弁当も作ってくれる。
ということは――。
「ヌォオォオォオォォ、飯か!? 神か!? シャリーお前は神か!?」
デュークは手を止めてよそ見をした。
僕は――その隙を見逃さない。
「今だ! えいっ――やった、一本!」
見事に一撃、額に一撃、だがデュークは微動だにしない。
「ずりぃぞ……」
「真剣勝負だからね」
「はっ、まそうだな。いやでも、飯食おうぜ! 腹減った!」
「ああ、そうだね。――シャリーありがとう」
手を止めて剣を置き、シャリーの下へ近づくと、お礼を言った。
「はいはい、でもシャワーぐらい浴びてから……って、もう食べてるし」
「うめぇ……唐揚げうめぇ……」
二回目の厄災の後、僕は自分の情けなさに腹が立った。
最後に炎の玉が放たれた時、誰よりも早く駆けたのはヴァイスだった。
綻びを見つけ、術式を破壊し、大勢の命を救った。
噂によると、セシルさんはヴァイスと仲が良く、何があってもいいように転移魔法も予め準備していたらしい。
……僕はダメだ。
何もできなかった。何もしなかった。ただ、自分の事ばかり考えていた。
エヴァ先輩とミルク先生なんて、あり得ない動きをしていた。
デュランのミハエルは、僕だけなら絶対に勝てないと思える動きだった。
……もっと、強くならなきゃ。
「アレン、早く食べないとデュークがあなたの分を食べるわよ」
「え? あ、あああああああ! 何してんだよ!」
「唐揚げ一個だけ! な!?」
「嫌だ! そうやっていつも全部食べるじゃん!」
「どうせ無料なんだから後でもらいに行けばいいじゃん!」
「じゃあ自分で行ってきなよ!」
だけどそう考えてるのは、僕だけじゃなかった。
ご飯を食べ終わった後、シャリーとデュークが――。
「俺たち、もっと強くならねえとな」
「そうね……大会で負けたのは私だけだし、足手まといを実感したわ」
まったく同じことを考えていた。
ああ、もっと、頑張らないとな……。
ここで止まると、ヴァイスに追いつけなくなる。
「よし! ――デューク、シャリー。二人同時に相手してくれない?」
「はあ? 流石にそれは舐めすぎだろ!?」
「そうよ。それは言い過ぎ――もしかして……能力を使うつもり?」
僕は今まで、副作用を気にしすぎていた。
だから肝心な時に使いこなせていなかった。
でもこれからは違う。
もっと、未来を見据えている。
そのためには、犠牲を払ってでも。
「ああ。身体が数日間、動かなくなるかもしれないけど……それを繰り返すしかない。自分以外の能力を使う練習もしなきゃ、実戦で使えないと実感した」
「……はっ、わかった。じゃあ俺の身体強化と戦えるってことか。それは楽しみだな」
「無理しないでね。くれぐれも異変を感じたら使わないでよ」
「わかった」
僕の能力、それは――他人の能力を模倣することができる。
だがそのデメリットは甚だ大きい。
使用後は魔力に応じて身体が動かなくなるし、限界を超えれば気を失う。
そしてそれは、僕ですらいつ回復するかわからない。
能力の使用は一定時間の制限があって、そして再使用時間が設けられている。
更に能力を模倣できるようにするためには、いくつかの条件をクリアしなきゃいけない。
竜討伐後、僕は一週間以上眠っていた。
ヴァイスや、他の人には言わないようにしてもらっていたけれど、ギルス学園長だけは知っている。
弱みを見せたくなかったのと、シャリーの言う通り、あまり褒められた能力ではないからだ。
そして大きな理由は、能力は魔法ではなく、魔族固有能力に似ているから。
だけどそんな事はもう言ってられない。
僕は、強くなるんだ。
「それに気づいたんだ。限界を超えるたび、使用時間が延びてるってことに」
「……マジかよ。じゃあなおさらやらなきゃな!」
「でも、みんなにバレないようにしなさいよ。人の能力を使ってるとこがバレたら、きっと怒る人もいるわ」
シャリーは優しく言ってくれるが、ちゃんとわかってる。ただでさえ僕を快く思っていない人は多い上に、僕は平民だ。そんな僕が貴族たちの能力を使ってるだなんて噂になれば、かなり矛先を向けられる。
それとは別に、僕は、まだ二人にも話していないことがある。
能力の……二段階目のことだ。
……いつか、言わないと。
「じゃあ、身体強化とシャリーの魔法付与、それと……シンティアさんの氷魔法の組み合わせを練習しようかな」
「お、いいねえ! 俺たちもありがたいぜ!」
「わかったわ。でも、負けないからね」
それからデュークは、嬉しそうに僕たちの目を見た。
「てか、みんな古代魔法具は何になった? 俺のはすげえぜ!」
「デュークには教えなーい」
「僕もまだ秘密かな」
「ちぇっ、ずりいなあ! まあでも、それも楽しみだな」
――僕が、みんなを守るんだ。
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