053 厄災
全てが終わり、授与式が始まった。
闘技場の上、俺たち優勝者のノブレス魔法学園、二位デュラン剣術魔法学校、三位メイソン王立魔法高等学校がそれぞれチームで並ぶ。
「シンティア、来年は私が必ずあなたを倒すわ!」
「ええ、お待ちしていますわよ」
ミリカとシンティアも微笑んでいた。
試合ってのはいい。会話よりも心を通わせることができる。
もちろん、仲間同士でも。
『では、優勝杯と優勝賞品が、ノブレス下級生に贈与されます!』
ギルス学園長がゆっくりと歩いてくる。
白い髭を蓄えた爺さんだが、身のこなしは軽やかな感じだ。
ああ、これでわかる。
掲示板で貼られていたSSが、本当かどうか――。
――――ジジ――――――――――――――
―――――――――――ジジ―――――――
その時、妙な音が上から聞こえた。
同時に世界が暗くなっていく。
空を見上げると、さっきまで明るかった太陽が隠れていた。
――ああ、クソが。
気づいたのは俺だけじゃなかった。
その場にいた全員だ。
ランダムでいつ起きるかわからないとされているが、このタイミングは見たことがない。
少なくとも夏が終わってからだ。遅いと中級生に上がってからというパターンもある。
この世界は改変こそあるものの、本筋は時系列で事が進んできた。
入学式、タッグトーナメント、サバイバル、そして剣魔杯。
そこは一度も変わっていない。
だがもちろんありえないことは起きる。
ほんの少しだけ、もしかしたらと考えていた。
だが実際に起きるとは。
俺の無常を嘆く心の叫びとは裏腹に、黒い闇が空を覆う。
空にいくつもの黒い円が出現し、脚が見える。
それは――魔物だ。少し見えただけでも巨大で、ありえないほど魔力に溢れている。
獰猛で狂気な、人間を虐殺をすることが大好きな選ばれし個体種たち。
「……クソが」
これが、これこそが――二回目の厄災のはじまりだ。
だが厄災にはフェーズがある。
いきなりクライマックス、なんてゲームのセオリーじゃない。
まずはゆっくりと、そして着実に恐れを抱いてもらうため、徐々にギアを上げていく。
といっても、プレイヤー側からすればスタートの時点で難易度はマックスだ。
恐ろしく強い魔物が最初に降り注ぐ。そのどれもが上級で大型ばかりだ。
研鑽を積み、更に何度も挑み、レベルはもちろん、プレイヤーの腕が上がったことでようやく制覇できる鬼仕様。
闘技場での戦いなんて俺は見たことはない。
そしてどのパターンでも大勢の犠牲者が出るので、焦りと恐怖が心から溢れてくる。
たとえ見知らぬ奴であっても誰かが血を流すのは、ゲームであっても悲しい出来事だ。
だがこれは現実。
そして今、それがまさに起ころうとしていた――。
「お、おいあれはなんだよ!?」
「ひ、ひぃ! ま、魔物じゃねえか!?」
「に、逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
観客の一人が悲鳴を上げる。恐怖が伝染していく。
最初に観客席に降り立とうとしていたのは、巨大なサイクロプスだ。数値がいじられているので、通常個体よりも遥かに強い。
俺は瞬時に剣を構える。
誰よりも早く魔物に駆けようと不自然な壁を詠唱し、空を登っていく。
俺は知っていたからこそ動けた。誰よりも早くこの現状を理解し、そして行動した。
アレンも、シャリーも、デュークも、シンティアも、ミハエルも動いていない。
だがそんな俺よりも早く動いた二人がいた。
ミルク・アビタス――そしてエヴァ・エイブリーだ。
二人は観客席に降り立とうとしているサイクロプスを、空中で切り刻んだ。
それも五体、閃光がなければ何も見えなかったであろうほどの速度で。
散り散りとなった血肉が観客席にボタボタと落ちるが、命は失われているので危険はない。
二人とも飛行魔法を習得しているのだろう。
といってもミルク先生はエヴァと違ってすぐに落ちていく。
それでも圧倒的な速さだった。
ありえない。さすがの二人でもあんなに速く動けないはずだ。
その時、ふとセシルを見た。
観察眼で確認すると、魔力を使っている。
――ああそうか、セシルがいち早く伝えたのか。
……感謝がいくつあっても足りねえ。
「これはいったい……」
「厄災だ。だがこれは始まりにすぎない。武器を構えろ、次が来るぞ」
シンティアが驚きながら声を漏らす。いくら数百年前とはいえ、厄災を知らない奴はこの世界でいない。
俺の言葉が伝達し、学生たちはすぐに戦闘態勢を取った。
流石鍛えられた連中だ。思考よりも体が動くらしい。
「セシル!」
俺が観客席に向かって叫ぶとほぼ同時に、セシルがこの場にいる全員に直接語り掛ける。
『これは厄災です。戦闘準備をお願いします。そして転移魔法を用意していました。非戦闘員、一般の方々を誘導するので、手伝ってください』
これは彼女の固有能力だ。
魔力の消費は大きいが、大勢に情報を伝達することができる。
セシルが指定すれば、対話も可能だったはず。
電話というシステムがないノブレスにおいて圧倒的な伝達力、いやそれよりも、転移魔法を用意?
セシルにも、もしかしたらと伝えていたが、今までのことを考えると有り得ないとは思っていた。
しかしまさかここまで用意周到にしてたとは――ああ……流石だな。
そしてセシルは、俺だけに語り掛けてきた。
『ファンセントくん、勝手ながら空に闇が見えた瞬間、エヴァ先輩とミルク先生に急いで厄災のことを伝えました』
セシルは更に、並列思考という能力を持っている。
これにより、俺に語り掛けおそらく誰かとも話しているのだろう。
これこそが彼女がバトル・ユニバースにおいて最強だと言われる所以。
彼女がいなければ、おそらく今この状況は既に大惨事だったはず。
空の闇はまだ広がっている。次の転移魔法から魔物が落ちてくるのは時間の問題だ。
何故すぐに降りてこないのか、おそらくサイクロプスが本来プレイヤーに駆逐されるであろう時間だけ猶予がある。
このあたりは如何にもゲームらしいが、貴重な時間だ。
とはいえ数分程度、この間に観客や一般人を避難させなければならない。
まずはカルタが高く飛び上がった。
セシルが伝達しているのだろう。カルタの指示通りに大勢が避難していく。
エヴァとミルク先生は空を見上げていた。
ダリウス、学園長、クロエもだ。
今ここにいるのは各国の下級生と、それを見にきている少人数の先輩たち、そして各国の権力者がいる。
戦える奴らが多いのはありがたいが、それでもこの状況は予想外だ。
数分後、遥か後方で転移魔法のエフェクトが展開し、多くの魔力が消えうせた。
どこに飛ばしたのかわからないが、安全圏だろう。
戦える人たちは残っている。まだ全員が転移したわけじゃない。
魔力が高い人ほど転移魔法は難しくなる。
例えばエヴァ一人を移動させるのは、一般人、千人分以上に値するだろう。
つまり強ければ強いほど、転移魔法は人数が限定される。
しかしいったいセシルはどうやってこの準備をしたのか。
生きて帰ったら、色々と教えてもらうぜ。
『みなさんこれからについてですが――』
そしてセシルが、質問を受け付けずに全員に能力を飛ばした。
必要最低限の情報、だが有力な情報。
俺の頭もまだこんがらがっている。
ありえないことが起きている。だが覚悟はできている。
剣を構えていると、また空に大きな穴が開いた。
それはいくつもの数で、数えきれないほどだ。
魔物はサイクロプスだけじゃなく、魔狼、魔鳥、とにかく数えきれない。
第二フェーズ、次は数が圧倒的に多くなる。
――一匹残らず、駆逐してやる。
ここからは更に乱戦になるだろうが、一般人が少なくなった分、やりようはある。
セシルが続けて指示を出そうとしているが、まだ疑心暗鬼というか、彼女の言葉を信じていいのか、そんな表情をみんなが浮かべている。
だが――。
『細かい指示は私が出します。そしてこれは――ノブレス学園長である、ギルスさんの言葉を代弁しています』
その瞬間、俺は、こんな状況にもかかわらず笑みを浮かべた。
おそらくこれはセシルが考えた咄嗟の方便だ。
だが学園長からだと言えば誰でも信じるし、決して疑わない。
更にセシル・アントワープが頭脳明晰だなんて周知の事実、これほどの安心感はないだろう。
はっ、さすがだな。
もしこれで責任問題になったら、俺も一緒に学園を辞めてやるよ、セシル。
いつのまにか俺の心から不安は消えていた。
あるのは高揚感。
俺は今、物語序盤の最高の展開の中心にいる。
……愉しめ。そうだよなァ、ヴァイス。
少し休んだおかげで、魔力も回復した。
俺なら、俺たちなら――勝てる。
「グォオオォオォオォオォオォオォオォオォォ」
大勢の魔物が闘技場に降り立とうとしていた。
――俺がこの技を編み出したのは、今この時の為だ。
【癒しの加護と破壊の衝動】
地面に手を置いて力を使おうとしたが、思っていたより魔力が足りないのか発動が遅い、クソ急がねえと――。
「ヴァイス、俺のを使え」
するとミハエルが、俺の肩に手を触れた。魔力譲渡は俺たちノブレス学生はまだ習得していない。
ああ――ありがてえ。
長期戦だ。魔力補給を第一に指定し、味方全員に魔物から吸収する術式を瞬時に展開した。
その場にいる大勢の身体が光り輝く。
「俺たちなら勝てる。――行くぞ」
全員の顔を見た。誰も言葉を発しないが、覚悟はこの短い時間で決まっているらしい。
厄災の事を伝えようと思っていたが、必要なかったかもな。
そして俺たちの、生死を懸けた戦闘が始まった。
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