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【書籍化&コミカライズ】怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった  作者: 菊池 快晴@書籍化決定


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025 サプライズ

 朝はミルク先生と特訓、午後はファンセント家の事業、夕方は自主錬、夜は、まあ、たまにはこういうのもいいか、をしてから就寝。

 貴重な休暇だが、エヴァとアレンのことを考えると居ても立っても居られなかった。


 魔力が底をつきかけていたとはいえ、現状の俺では、エヴァ(あいつ)に勝てないだろう。

 プログラマーがやりすぎた(・・・・・)と明言しているくらいだ。

 勝つこと自体がおこがましい考えだということも理解している。


 だが、それでも諦める気になれない。


 それにアレンは、俺の知らない力を持っている。

 原作ではなかった何か(・・)をあいつは見つけたのだろう。


 それが努力か、技術か、魔法か、俺にはわからない。


 シンティアとリリスに訊ねてみたが、ただ素直に負けてしまっただけだという。


 愉快に思える一方、怖くもある。


 なぜなら俺の運命が破滅に近づいている気がするからだ。


 そういえば、ゼビスが戻ってきた。


 古い弟子と会ったらしいが、随分と強くなっていて感慨深かったらしい。


 心がざわめく、これが嫉妬ジェラシーなのかもしれない。


 おじさんに抱いているのは複雑だが……。


 それと……。


『ヴァイス、武器を増やせ』


 俺は、ミルク先生の言葉を思い返していた。


 自身のステータスを確認し、スキル(・・)確認する。


 まだ、残っている。


 かなり気に食わないが……。


「好き嫌いはいってられないな」


 嫌悪感を丸出しにしながら、捨てるタイミングを失っていた物を棚から取り出した。


 ▽


 夕日が落ちるのを眺めながら、俺は満身創痍だった。

 気づけば四時間以上も無我夢中に訓練していたらしい。


 だが、やはりスキルのおかげか手に馴染んでいる。


 驚いたのは、意外に応用力があったことだ。


 特に俺の『闇』と相性がいい。


 ……複雑な気持ちは変わらないが。


 その時、門の前に馬車が止まった。

 ミルク先生もシンティアも既に帰ったはず。

 迎えの馬車でもないとすると、来訪者か?

 

 そして降りてきたのは、驚きの人物だった。


「久しぶりだな、ヴァイス」

「……あれ、父上!? 仕事はどうされたんですか?」


 なんだか恥ずかしかったので、武器をさっと背中に隠す。

 なんでだろう、やっぱり親には見られたくないものだ。


「それはいい。それより、お前の事業案、素晴らしいぞ。去年と比べて収益が二倍になった。だが一体、どこで経営学を学んだ?」


 学校の授業やネットで、とはさすがに言えない。


「父さんの仕事を見ていたからですよ」

「ははっ、こいつめ」


 しかし不思議だ。

 俺自身は、父上、アゲートとの思い出はほとんどない。


 ただ原作で存在は知っているし、心の奥底にある記憶を辿れば、こんなことがあったと思い出す。


 それなのになぜか、実の父親のように暖かい感情を感じる。


 ……やっぱり、俺はヴァイスでもあるみたいだ。


 ちょうど夕食の時間だったので父を誘ってみたが、少しだけ待ってほしいと言われた。

 とはいえ俺も隠したいものがある。


 一旦部屋に戻り、汗を流し、食堂で集合することにした。


 全ての準備を終えて扉を開くと、俺はこの世界に来てから一番驚く光景を見た。


「おめでとう、ヴァイス」

「おめでとうございます、ヴァイス様!」


 テーブルには、俺の好きな食べ物ばかりが並べられている。

 今日帰ったはずのシンティア、そういえば一日ずっと見かけなかったリリス。


「おめでとうヴァイス、来てやったぞ」

「おめでとうございます。ヴァイス様」


 その隣には、ミルク先生。てか、戦闘服じゃない普通の女の子っぽい服を着てる……そんなの持ってたんだ。

 そして、いつもの黒服姿のゼビス。


 最後に――


「おめでとう、我が息子、ヴァイスよ」


 父、アゲート。

 

 その瞬間、俺は思い出す。


 そうか、俺、今日――誕生日だ。



 そのとき、俺の目から何かが零れた。


 ――涙だ。


 あれ、なんでだ……俺はただ破滅を回避したいだけだった……ただ、それだけだったのに……。


 なんで、なんでこんなに……嬉しいんだ……。


「ヴァイス!? どうしたのですか?」


 シンティアが駆け寄ってきて、ハンカチで涙を拭いてくれる。


「いや……嬉しかったんだ。みんなが……こうやって来てくれたことが……」

「……ヴァイス、みんなあなたが好きだからです」

「私もお前のことは嫌いじゃない。生徒としてじゃなく、人として」

「もう少し素直な言い方でもいいと思いますよ、ミルク。ヴァイス様、私もです」

「ヴァイス様、これからも私は、あなたのお傍でメイドとしてお仕えしたいです」


 ああ……そうか、俺は……破滅だけじゃない。


 この生活を、守りたいんだ。


「息子よ、今日は馳走を用意した! みんなで宴だ! みんな泊まっていけ! 酒もたっぷり、部屋も用意している!」


「ほう、ゼビス。私と飲み比べ対決だ」

「……望むところです。ミルク」


 ああ、幸せだ。


 でも、だからこそ――。


 俺は……もっと強くなる。


 新しい武器、【鞭】と【縛りプレイ】【ボンレスハムの達人】で――。


 ▽


 同時刻――オストラバ王国の宿屋。

 

 その一室で、男たちが貴族屋敷の見取り図を眺めていた。


「よくこんなもの手に入れたな」

「屋敷を作ってる家屋から入手したんだ。他にもリビトン家、アーリスト家もあるぜ」

「ははっ、世の中は屑ばっかりだなァ」


 身なりは汚く、小汚い黒装束を着ている。無精髭、顔に傷がある男たち。

 腰の剣だけはやけに輝いていた。


「今夜の狙いはファンセント家、狙いは長男のヴァイスだ。最近ノブレス学園に入学したが、数日前から屋敷に戻ってきてる」

「……おいおい聞いてないぞ。ノブレス学園ってヤバい学生集団だろ? 今回は簡単な仕事じゃなかったのか?」

「安心しろ。怠惰の屑貴族だって話だ。まあ、ありがちな権力をもった馬鹿息子だろう。入学できたのもどうせコネだ。だが油断するな、腐っても貴族屋敷、護衛もいるだろう」

「ははっ、そうか。楽な仕事はありがたいぜ。今まで貴族の護衛なんて大した奴らなんていなかったから歯ごたえがあるやつがいいなァ。ちなみに、皆殺しにしていいのか?」

「……構わない。だが最低限だ。前みたいに殺しを楽しむことはするなよ。――黒犬ブラックウルフ

「はいはい、わかったぜ。、待ちきれねぇなァ! 弱者をいたぶるのは愉快だよなァ、それが権力者なら最高だァ」

「……そろそろ時間だ。現地で別の隊と落ち合う。誰がヴァイスを殺すか、競争でもするか?」

「はっ、お前も楽しんでんじゃねえか」


 男たちはニヤリと笑って。冒険宿を後にした。

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