表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/128

30日目。月次報告

 俺は家に帰った。そして絶句した。

 ワイズリエルも、ぎこちない笑みで固まった。



「……なんだこれは」

 俺の家は徹底的に掃除され、完璧に片付けられ、そして見事に整理整頓されていた。

 その結果、生活感がまるでなくなっていた。

 至るところが几帳面に整えられた俺の家は、まるでビジネスホテルのチェックイン直後のようで、一ヶ月生活していたとはとても思えなかった。


「もしかしたら、つまようじや綿棒の数まで数えてるかもしれないな……」

 そういった偏執的へんしつてきな几帳面さが、家の至るところから感じられたのだ。

 まあ、それは気のせいかもしれないが、少なくとも、はしやフォーク、ナイフなどは一度洗ってから、ぴしっとミリ単位でそろえられ、等間隔で並んでいた。


「これは手強いな……」

 俺たちは、感服しているのか呆れているのか、よく分からないため息をついた。

 すると、クーラとヨウジョラエルがやってきた。

 クーラは、爽やかな笑顔をしていた。

 ヨウジョラエルは、泣き出しそうな顔だった。

 そんなふたりの表情からは、家が綺麗になっていく過程が容易に想像することができた。ただただ、ヨウジョラエルを気の毒に思うほかなかった。……。





「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

「もっとゆっくりしてくればかったのに」

「うーん、あんま旅慣れてないんだよ」

「そうだったのですね」

 俺たちがソファーに座ると、クーラはひざを詰めた。

 そして微笑みながら、しかしりんとした声で言った。


「あの、カミサマさん。さっそくで申し訳ないのですけれど、お願いしたいことがあるのです」

「なに?」

「昨日、アダマヒア繁栄のためになにが必要なのかを、調べてみたのです」

「はァ」


「木です。アダマヒアには木が不足しているのです」

 そう言ってクーラは、微妙にドヤッ! って感じの顔をした。

 俺とワイズリエルは笑いをこらえつつも、しかし前のめりになった。

 興味深い指摘だと思ったからだ。




「カミサマさん。アダマヒアの近くには森が少ししかありません。ですから、気軽に家屋を建てることができませんし、それに木炭も作れないのです」

「なるほどッ☆」

 ワイズリエルが、ぽんと手を叩いた。

 クーラは、やわらかく頷いた。


「木炭が豊富にあれば、剣や農具がたくさん生産できます」

「ああ」

 と、ここで俺はようやく理解した。

 さっそくアダマヒアの南東に森を創った。



「ちょっ、ちょっとカミサマさん!」

「へっ?」

「そんな、いい加減に創らないでください!」

「あっ、ごめん。でも、もう創っちゃったよ」

「そんなポンポンと適当に創って……。すこしはアダマヒアの人たちの身にもなってください」

「はァ、はい」


「なんですかこれは。山が削れてるじゃないですか。不用意に創ったから山と重なってしまったではないですか」

「……すんません」

 泣き笑いの顔でワイズリエルを見たら、くすりと笑われた。


「もう、しっかりしてください」

 そう言ってクーラは、まるでお母さんのようなため息をついた。

「まったく。来月からはピシッとするのですよ?」

「……はい」

 頭をかくと、みんなに笑われた。

 しばらくすると、クーラは穏やかな笑みをして、そして言った。



「それと前々から気になっていたことがあるのですが――」

「ああ、言ってよ。そういうのどんどん言って」

「ありがとうございます。では、それを決めて来月から新たに創世をはじめませんか?」

「あー、いねー」

 と、俺がゆるーい感じで返事をすると、クーラは、たしなめるような目をした。

 そして言った。



「この家のある場所とアダマヒアのある場所に、名前をつけてください」

「え? それはすでに」

「言うたびに名前が違ってますよ」

「はァ」


「私たちも混乱しますからね、ここでハッキリと決めてください」

「じゃあ……」

 俺は泣き笑いの顔をした。

 それを見て、クーラが微笑んだ。

 ワイズリエルとヨウジョラエルは、ニヤニヤしながら見守った。

 だから俺は、めんどくせえな――と思いつつ、投げやりな感じで言った。



「ここは『天空界』で、あっちは『地上界』ね」



 するとクーラとヨウジョラエルが、ぱっと花の咲いたような笑みをした。

 ワイズリエルは、ほっと安堵のため息をついた。


「いえ、ご主人さまにしては無難なネーミングだったのでッ☆」

 俺が眉をひそめると、三人は大らかに笑った。

 そして、この日は大宴会となったのである。――






挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



――・――・――・――・――・――・――

■神となって30日目の創作活動■


 森を増やした。

 俺の家のあるところを『天空界』、アダマヒアのある惑星を『地上界』とした。



 ……クーラの神経の細やかさには先が思いやられる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ