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18日目。モンスター

 翌日。

 俺たちはさっそくモンスターの創造にとりかかった。



「まずはモンスターを配置して、教会を武装集団に『作り替える』のですッ☆ いえ、最小限の干渉で、後は自分たちで勝手に変わっていきますよッ☆」

「宗教団体から武装集団に『作り替える』か……」

「信仰は失いませんし、表向きは宗教団体のままですッ☆」


「団体の性質だけが変わるのだな?」

「はいッ☆ 乱暴な言いかたですが、ファッション・宗教団体にしてしまうのですッ☆ そしてこのことは、ご主人さまの創った集落・アダマヒアが、将来的には絶対王政的な国家になることを意味しますッ☆」



「絶対王政的な国家?」

「王の下に教会を所属させるのですッ☆ まるでアメリカ海兵隊が大統領の命令に絶対服従であるかのように、教会は王の命令に無条件で従う――そういうシステムに導くのですッ☆」

「はァ」


「実際の中世ヨーロッパでは、王と教皇の立場がほぼ対等でした。そして権力争いをしていたのですッ☆ ですが『中世ヨーロッパ風ファンタジー世界』を創った先人たちは、その歴史を知った上であえて『絶対王政的な国家』にしていますッ☆ きっと、時代に忠実であるよりも、そのほうがエンターテインメント的にはベストだと判断したのですッ☆ もっとも。政治をテーマにした場合は、また別ですがッ☆」


 なにやら小難しい話になりそうだ。

 そう思って苦笑いをしたら、かみつくようにキスされた。

 呆然としている俺に、ワイズリエルはイタズラで少し優越感に満ちた目を向けた。

 そして、ヨウジョラエルの肩を抱いた。

 彼女はモンスターのイラストを熱心に描いていた。




「まあ、ようするにだ。教会を国境警備隊のようなものに作り替える。そして王に従属させる。そうすれば戦争になることもない。そこまでは分かったよ。戦争を回避するために武力を持たせるという、いっけん矛盾にみえるこのやりかたの有効性は理解しているよ」


「はいッ☆ 近い将来、必ずや武装集団は現れます。ならば先手をうって作ったほうが管理しやすいですッ☆」

「そういう意味でも教会は武装させる集団に最適だろう。そして、その武力を向ける先としてモンスターが必要なのも分かるんだ。ここまでは理解できるよ」

「なにか問題ですかご主人さま?」

 イジワルな笑みのワイズリエル。

 俺は泣き笑いの顔で頭をかいた。

 と、そのとき。


「できたよ~」

 ヨウジョラエルが満面の笑みでイラストを差し出した。

 だから俺はそれを指さして言った。


「なんだ、このモンスターは」


 ヨウジョラエルが描いたイラスト、それは男根だった。

 黒く赤くテカテカと光り、血管のようなものを浮き上がらせ怒張した大男根。その先端は誇らしげに天を突く。

 それは、まるで樹齢数千年の大樹ように太くいびつにねじ曲がり、しかし堂々とした威厳ある大男根だった。

 そう。

 金髪幼女のヨウジョラエルは、大男根を鬼のような劇画タッチで精密描写していたのだ。



「キミたち。モンスターを描いていたんじゃなかったのか?」

「ヨウジョラエルは、ワイズリエルから受信したものをイラスト化しただけだよ~」

「じゃあ、原因はおまえか?」

「きゃはッ☆」

「きゃはっ――じゃなくて」

「だってえ」

 ワイズリエルは、にたあっと思いっきりスケベな笑みをした。

 その隣でヨウジョラエルも、にたあっとマネして笑った。

 そして。

「ご主人さまが、かまってくれないんだもんッ☆」

「くれれいんなもんっ」

 と、可愛らしくすねて立ち上がった。

 俺が眉をひそめると、彼女たちは言った。


「おおかみ少女だーッ☆」

「おおかみ幼女だ~」

 そう言って両手をあげて、可愛らしく八重歯をちらりと見せたのだ。



「ちょっとキミたち?」

「襲いかかれーッ☆」

「かかれ~」

「押し倒せーッ☆」

「たおせ~」

「ちょっ、ちょっとお?」

「ぱくぱくぱくーッ☆」

「ぱくぱくぱくぅ~」

 あっという間。

 俺はふたりに飛びつかれ、ソファーに押し倒された。

 そして、もみくちゃにされながら服を脱がされた。


「おおかみ少女だ噛みつけーッ☆」

「おおかみ幼女らかみつけ~」

「痛っ!?」

「今度はゾンビだはむはむしろーッ☆」

「はむはむぅ~」

「吸血鬼だちゅう」

「ちゅぱぱぱぱぁ」

 などと訳の分からないことを言いながら、ふたりは俺に吸いついた。

 ころころと笑いながら、ほんと楽しそうにふたりは俺に吸いついたのだ。

 ただし両手両足でしがみつき、俺から自由を奪っている。

 というか、太ももで顔面をはさまれ圧迫された俺は、呼吸困難で割と窮地に立たされている。

 いや、こんなでも。

 俺は神なのだけれども。……。


「ふごっ、ふごごっ!」

「きゃはッ☆ かまってくれなかったおしおきですッ☆」

「おしおきれすっ」

「吸いつけー」

「すいつえ~」

「キスマークいっぱい付けろー」

「ちゅちゅちゅうぅ~」

 いや、そこはキスマーク付かないだろ――ってところを、違う意味で吸われた。


「今度は夢魔だちゅうちゅうだーッ☆」

「むま~?」

「サキュバスッ☆ エッチな悪魔だーッ☆」

「えっちか~」

「エッチだァーッ☆」

 そして、その後は本能のおもむくままだった。――





 しばらくの後。

 すやすやと眠るヨウジョラエルの頭を撫でながら、ワイズリエルが言った。

「ご主人さまッ☆ モンスターのことなのですが……」

 俺の胸に頬を寄せている。

 甘えて丸くなっている。

 俺がぼんやり頷くと、ワイズリエルは言った。


「モンスター創造の注意点をひとつだけッ☆ それは、モンスターに感情や知性をいっさい与えないことですッ☆ 食卓を彩る家畜のように、退治されるのが当然――といった存在にしなければなりませんッ☆」

「それは……」

「そうしなければ、必ずや同情者が現れますッ☆ というより、ご主人さまがモンスターに同情してしまいますッ☆」

「………………」


「それではモンスターを創造する意味がありませんッ☆ 人間同士殺し合うこと、戦争することと変わりがないのですッ☆」

「たしかに」

 それでは本末転倒だ。


「だから、モンスターは感情移入できない姿が好ましいのですッ☆ 感情や知性を持たず、なにを考えているのか分からない。まったく感情移入できない同情できない迷惑な存在、そうしなければなりません。だから、モンスターは人間の姿からかけ離れているほどいのですッ☆」

「そっ、それは分かったが」

 だからといって幼女に男根のデッサンをさせることないだろう――そう思って口をとがらせたら、スケベな笑みで握られた。

 そして、うっとりとした瞳で見つめ、ワイズリエルは言った。



「ご主人さまは優しすぎますッ☆ そんなところが大好きですけど、でも、神をやるには優しすぎるのですッ☆」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって18日目の創作活動■


 教会を無害化する具体的な方針がまとまった。

 創造するモンスターの方向性が決まった。



 ……結構シビアな判断を下してる。うーん。当初は、ゆるーく創世するつもりだったんだけど……。ワイズリエルに相談してみるか。




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