表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女様、勇者を拾う  作者: ものもらい
ヤンデレ編
19/23

3.終わり



※R-17G注意






手紙を受け取ったアールですが、笑みを浮かべて封を開けて数秒もしないうちに顔が歪んでいきます。


「どういうことだ―――」


贈り物の中身が、鳥の惨殺死体?


彼が贈ったのは、昔のお茶会で彼女が美味しいと言っていたパイです。

使いにやった道中でちょっとした事件に巻き込まれ、夜中に届けられたそれですが……金銀宝石よりも、これなら素直に受け取ってくれるだろうと思ったのに―――。


(まさか、下僕が…?)


人魚の長の妾の子、でありながら、彼は父こと長に認められた方なのです。

それゆえに他の兄弟からは良く思われていませんし、隙あらば蹴落とそうともしてきます。だからこそ、彼は世界で唯一の魔女(見習い)であるクローディアに近づき、地位固めをしたかったのですが……。


それを嫌って、兄弟のうち誰かがお金などで彼の下僕を誑かした―――ああ、ありえそうです。


「最悪だ……何と言えばいい」


言うことを聞かないやんちゃな下僕がいるんです?醜い骨肉の争いです?……いいえ、そんなことを言えばクローディアは余計去っていくでしょう。去らないにしろ、絶対に距離を置かれます。


―――そう、この時点で彼は詰んでいる。……いいえ、最初から詰んでいた?いやはや…。


「……とにかく、弁解しなければ」


これ以上印象を悪くしない為にも。


アールは手紙を握り締めたまま、馬車を出せと―――いや、


「……信用出来るものかッ」


舌打ちをすると、彼は一人で水底から上がって行きます。


ばしゃん、とはしたなく音を立てて、彼は岩に上がると尾をぺちぺちと動かして水滴を払いました。

そして人の足に戻そうとして―――岩の陰に、美しく咲く花を見つけて。


(ああ、この前贈った……こんな所にも咲いているのか)


喜んで、くれるだろうか。


手を伸ばし―――た瞬間、彼の尾の付け根に、熱い何かが貫通しました。


妾の子といえども矜持はある。…悲鳴を噛み殺して振り返れば、そこに居たのは……。



「お、の、れぇぇぇぇぇぇ、勇者め!!」



人魚の形態であるせいか、彼の声は魔力を伴って発せられます。


普通の人間であれば恐れ後退するものを、憎らしいことに勇者は平然と―――ずるっと、剣を抜きました。


ああ、ちなみにその剣は勇者専用武器ではありません。専用武器は魔王陛下が取り上げているのです。

ゆえに、彼が今手にしているのは、恐らくクローディアが魔法をかけた、ある種の魔剣です。


「貴様、もしや貴様が僕の計画を台無しにしたのか…?」

「………」

「ディアと話している時もさんざん睨みつけて邪魔してきたものなあ。そして今度は呼び出して殺そうとするか?愚か者めええええええええええええええええええ!!!」



その叫びに惹かれるように、同調するように。

湖は激しく渦を巻き、あちこちに波を起こします。まるで槍のように突き刺しにくるものも。―――夕凪は冷静に波を切り裂きながら、男に近寄りました。


「あアああ亞嗚呼あ阿ああアアアア吾吾ああアあアア!!!」


人魚の絶叫は、時に人を死に誘います。


けれど夕凪の顔色はなんら変わらず、あろうことか岩場からアールを蹴り落としました。


「ぐっ」


叩きつけられたアールですが、先程の絶叫で魔力を伴った高い波が夕凪を飲み込むのを見てせせら笑います。

―――この湖の水を少しでも飲めば、彼の支配も上手く行き渡るのですから。




けれどもやはりというか、彼は難無く波を切り裂いてみせるのです。


流石に剣は折れましたが―――夕凪は、水浸しの大地を歩くと、力の差に怯えるアールの元へ、ゆっくりと近づき、


「ま、待て、僕を殺せばお前を飼っているクローディアにもその罰は行くんだぞ?だ、黙っててやるからその剣を離せ、近づくな、近づく……」


脇腹を、突き刺されました。


まるで鋸で板を切ろうとするように。ぎこぎこと。

長方形型に切ると、夕凪はぐったりしている(人魚の姿で長時間外に居るのはキツ過ぎます)アールにかまわず、傷口に指を突っ込んで、人間とは思えない力でアールの肉を剥いだのです。


「ぐががががががっががががががっ」


目が飛び出そうな程に見開いて、痙攣しているアールの肉を片手に持った夕凪は、やっぱり無言でアールの尾を引き摺り、元の住処へと帰してあげました……。



「―――ふう、」


やっと口を開いたと思ったらこれです。

特に何の思い入れもない夕凪は、赤が纏わりつきながら水底に沈むアールを見つめながら、耳に指を突っ込みました。


ころん、と掌に転がるのは―――耳栓です。

それをポイ捨てすると、夕凪は肉を千切って、……口に、含みました。


もう手どころか腕まで真っ赤で爪にまで肉が食い込んでいるのに、彼は気にせずただ食べ続けます。むしゃむしゃ、むしゃむしゃと。



(―――ディアが、読んでくれたんだ)


人魚姫の話。

アールに会う前のことで、彼は無邪気に彼女に「存在するの?」と聞きました。

彼女はそんな彼に微笑んで、「もちろん」と頷いたのです。


『でもね、彼らの肉を一欠片でも喰らえば不老となる。昔はそのせいで人間に狙われ、今はもう数が少ないの』


『だから人間界にはいないわ。みんな魔界に逃げてきたの』


『とても綺麗な子たちよ。水底に屋敷があるの……』



―――じゃあ、これで"ずっと一緒"だね……?



彼はうっとりと微笑みます。

これでずっとずっと、彼女の傍で甘えていられるのです。

彼女を独占して良いのは自分だけ、例え来世の自分であろうが何だろうが、譲る気は無いのですから。



彼はふらふらと帰ろうとして、足下に流され無残な状態の、なんとか花弁が付いている花を見つけます。


歩いて行けば行くほど見つかって、彼はその度に、アールが贈った花を毟りとりました。



「好き、嫌い、好き………」











「嫌い、好き、嫌い―――好き。」



両手を縛られたクローディアは、夕凪によって風呂場に連れて行かれ、猫足の浴槽に埋もれかかっています。


シャワー口からは冷たい水。濡れたナイトドレスは彼女の足に絡まって、薄ら肌色に透けるそれは、まさに。


「人魚姫だ」


彼は今まで千切ってきた花弁たちを、はらはらと彼女に降らせます。


人魚の血がこびり付いた花は水に触れると赤が滲み、水を汚していきました。


「ディア、起きて」

「………ぅ、」


体温が低下して意識も曖昧なクローディアに覆いかぶさるように、浴槽に彼もまた身体を沈めて。


願いが叶って高揚した彼は、夢見る眼差しで、彼女に口付けるのです。



「これで、"ずっと一緒"だよ………?」






約束したんだもの。嬉しいよね。ね?





補足(その後の三人):



*クローディア


・冷水風呂の刑のせいで肺炎になって死にかける。しばらく生死の境を彷徨っていたら流石の夕凪も反省してたので回復後、鞭打ったり叱って叱って叱りまくります。


・山と化した書類と謝罪しに頭を下げてあっちこっちに行って夕凪を危険分子と見なされて殺されないよう頼みに奔走してたら肺炎悪化。


・ベッドの上で休み休み仕事をこなすことになっている……。



*夕凪


・実はクローディアの「肺炎になるまで酷いことをした」ことに関して反省してるだけ。色々ヤバいことしてたけどクローディア限定でワンコ。

いつも愛されて強請ればその通りにしてくれるので、今回のように独占欲とかそういうのが表に出てくるのは少ない。


・鞭打ちの刑にもなったがクローディアに打たれても嫌がらないどころかちょっと嬉しそう。本人曰く「罪悪感に駆られながら鞭を振るう顔がイイ」らしい。しかしMではない。

ドン引きしたクローディアが「美女型奴隷製造マシーン」こと陽乃様に「再教育」頼んだ結果、ちゃんと躾けられました。…ちなみに、この話を書こうか現在悩み中。


・念願の不老になれてルンルンしてる。この後はきっと魔女さんにべったり張り付いて忠犬してると思われる。魔女さんの役に立つことが喜び。だけど魔女さんを困らせるのも楽しい。



*アール


・当て馬お疲れ様でした。そして一応生きてます。生命力が高いのも人魚の良い所。


・トラウマ過ぎてもうあの馬鹿ップルには関わりたくない+本家の人に馬鹿にされたりこれを機に引きずり落とされそうになっててそれどころじゃない。

なあなあで済ませたのもお家でめんどくさい争いが発生したため。


・地位固めに求婚したとはいえ、一応好きだったんだよ……あ、すいませんこっち見ないで下さい。 が、彼の今のところの本音。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ