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魔女様、勇者を拾う  作者: ものもらい
ヤンデレ編
17/23

裏1.始まり



「ふふ、夕凪はよく食べるわねぇ」

「だって、久々のディアのご飯。……世界で一番、美味しい」

「あら、そんなことを言うと料理長が怒ってしまうわよ……ほら、口にソース付いてる」

「ん、」

「ゆっくり食べなさいな」



―――それは、だいぶ前にと遡ります。


異父妹をその手にかけてもケロっとしている彼は、上手に猫を被って彼女の庇護欲を揺さぶり、甘えて生きていたのです。


愛しい彼女は最近、仕事も多いみたいで。なかなか時間が取れないけれど、少ない休みを自分に使ってくれるから、とても嬉しいです。


「お嬢様、お手紙です」


………。

……お手紙。


夕凪の大嫌いな物です。…だって、彼女との時間を引き裂くんですもの。

しかも真面目な顔で読む彼女が、偶に笑うのを見てしまうと、胸がずきずきするのです。



「ディア、」

「―――っと、なあに、どうしたの甘えん坊さん?」


不安になって抱きつくと、クローディアは柔らかく抱き留めてくれます。


これは、永久に続くべきなのです。


永遠に、ずっとずっと…………




「―――まあ夕凪、背が伸びたわね!」

「………えっ」



自分のことのように喜ぶ彼女。

最初は、その歳に見合う程度に細すぎる身体がしっかりしていく事に喜んでいて、彼もまた嬉しかったのです。

けれど、背が伸びた―――鏡を見れば、幼さがもう少ししかない自分が映っていて。


慌てて彼女を見れば、"変わらない"彼女が手首の足りない布を弄っています。

そこで―――彼ははっきりと、現実を突きつけられたのです。



(俺は人間で、クローディアは魔族)


(魔族の時の流れはとても穏やかで、人間のそれは花火だ)


(俺が、お爺さんになったら。…その時も、ディアは一緒に居てくれる?可愛がってくれる?)


(彼女に本当に、相応しい、のは)



「でぃ、あ…」

「ん?」

「ずっと、……」

「?」

「ずっと、一緒、だよ、ね……」

「―――ええ、ずっと一緒よ?」



実は、彼女は彼が今更気付いた事実を、もっと早くに気付いていました。

そして出した答えが、「それでかまわない」です。不当に命を長らえさせ、またその魂を縛ることは、魂に酷い傷を与えることになるのですから。


彼女は、老いた彼の傍に、そっと在り続けようと決めていました―――だからこその、


「ずっと、ずっと一緒よ」


―――けれど、恥ずかしがってちゃんと伝えられなくて。

事態を悪化させる、引き金になってしまったのだけれど。











夕凪はたくさんの本を読みました。


幸い、ここは魔女の館。たくさんの本があります――そんな、籠りがちになった、ある日。



「ねえねえ、皆これ見て――!」



読み疲れて、ふと彼女に甘えたくなって。何冊かの本と一緒に、図書室を出ようとした時のことでした。


廊下の角、三人の侍女が掃除の手を止めて、きゃっきゃと新聞を広げています。



「んー?【次期魔界三代美女は!?】……あー!お嬢様の名前が載ってるー!」

「これは忙しくなるわねえ、きっとあっちこっちの夜会で御呼ばれされるわよ」

「でしょう?執事長に見せたら喜ぶわ―――」



箒を手に、侍女は遠ざかっていきます。


夕凪は、おしゃべりに夢中の侍女を見ながら、「だって、ディアは一番綺麗だもの」と呟きました―――が。



『きっと、あっちこっちの夜会で御呼ばれされるわよ』



その言葉の意味、は。


夕凪は急に床が脆くなって、揺れるような気さえします。

支えが欲しくて、彼はクローディアの元にフラフラと危うい足取りで、向かいました。



―――すると今度は彼女の部屋(執務室です)に続く廊下に、ニコニコ顔の執事長が手紙を手に侍女と話しておりました。


「いやはや、喜ばしいことだ。私はお嬢様の父君、母君に代わってお嬢様が幸せになられる御姿を見届けねばならぬゆえ。ここ暫くの手紙たちの誰かと早く結ばれて、安泰へと導いて欲しいものだ」


手紙。執事長の言葉では、つまり。

今まで来ていた手紙は、仕事の物ではなくて…………。


(ラブレターだったんだ)


思えば、彼の母も「仕事よ」と言ってずっと彼を放置して、そして捕まえてきたのが今の父親でした。

……その前にも連れ込んでいた男が来る度に、母は彼に「絶対出て来るな」と言い付けていました。

暑く狭い一室に、もしくは暖房も布団も無い部屋で、一日を過ごした事も―――もう、あんなこと、しなくていいと思っていたのに。



このままじゃあ、クローディアに「出て来るな」「邪魔をするな」と怒鳴られ閉じ込められ、愛しい人はどこぞの男と夫婦になって、……彼はまた、「いらない子」になるのでしょうか?


(ううん、ディアはとても、気高い人だから)


違う。絶対しない――自分を優先してくれる。愛してくれる。……そう思えども、募る不安。


「違う、もの……」






―――口に出した言葉とは裏腹に、気付くと彼は、壁を掘っていました。



「ディア、ディアは今何してるの。お仕事中?休憩中?それとも手紙を読んでいるの?ディア、ディア……」



ぱき、と。思いっきり突き刺したら、ひび割れて。


本棚と本棚の隙間に穴が開いたらしく、視野は狭い―――けれど、場所が良かったのでお目当ての彼女が見れました。


「……んぅ、……ふむ……」


穴の向こうでは、微かなひび割れの音に反応したものの、そのまま眠りに落ちてしまったクローディアが居ます。


机には地図や手帳などが連なっていて、どう見てもお仕事中です。



(やっぱり)


(ディアは、そんなことしないんだよ)


(よかった――――でも。)



「ディアの寝顔、可愛いなあ」



とても。とても。






真実編の始まり。


ちなみに参考+作業用BGMはマ/チ/ゲ/リ/ー/タP様の

「ロ/ッ/テ/ン/ガ/ー/ル/グ/ロ/テ/ス/ク/ロ/マ/ン/ス」でした。




補足:


ディアは恋人として夕凪に接していますが、使用人一同は現在魔女さんのヒモみたいになってる夕凪くんが伴侶に相応しくない―――と思っているのではなく、アレはアレでちゃんと旦那様連れて来るんでしょ?と思っているだけです。


魔界だと女主人は夫の他にも男性を囲っちゃうのは普通だったり……。


回答:


Q.悪寒がする…… ⇒ 覗かれてるんですよ奥さん!!


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