ヒロイン12 未知の力
ひゃわーーーー!!
戦争だーーー!
朝起きて、動きやすい服に着替えさせられて、最後にセト皇子に手を振って、そのまま騎士団に放り込まれました!
で、そのままただっ広い平地に一人放置させられて、適当に植物を育てて目立つように言われてます!
作戦、ザルすぎ!
せめて悪役令嬢に一言相談したかったのに、悪役令嬢は商会のほうで忙しくて会えなかった。うう……悪役令嬢助けてぇ……。ていうか、食糧と水まで渡されたんだけど、どのぐらいここにいればいいの? まさか釣れるまでずっと?
いつ敵が来るか分からない戦地に、何もない平地に、一人取り残されて敵が来るまで目立ち続けろ?
非道すぎる……!
独りぼっちとか寂しい! 悪役令嬢来てよー! 悪役令嬢ー!
とか思っても、誰も来ない。
とりあえず『豊穣』の魔法を使って土地を肥えさせ、そこで渡された麦を撒いて小麦を生やす。
さらにリンゴの木とか遠くからでも見えそうな大木とか育てて、目立ってみる。
そうしてぼっちで過ごして、数時間後。
魔力切れの心配はしなくていいけど、とにかく一人で暇だった長い長い数時間が過ぎ、日が落ちかける時間。
「──お前、聖女か?」
「っひゃ!?」
急に背後から声をかけられて、驚いてすっ転んでしまった。
う、嘘でしょ? いくら植物を作ったっていってもここは何もない平地で、誰かが来たらすぐにわかるはずなのに、一応周りに湿地とか作って近づいたら引っかかるようにしてたのに、どうして気付かれずに背後に?
「驚かせたか。悪い」
背後の声から敵意は感じないけど、……味方、ではないっぽいよね?
恐る恐る振り返って見ると、私と同じか、少し年上ぐらいの青年が立っていた。
黒髪黒目でちょっとのっぺりしてる変わった顔立ち……ああ、日本人っぽい顔だ。こっちは西洋人っぽい顔立ちの人が多いから、なんか変わってるって感じるんだ。
「あ、あなたは……?」
「ん? 俺か? 俺はエンマ。お前は?」
「私……、私は、デメテルです。タルタロスの貴族で……」
あ、あれ? 自己紹介とか、結構平和? いいの?
私も、名前とか言ってよかったっけ? 駄目なの? タルタロスって言わない方がよかった? でも誘拐してもらうためにいるんだからいいの?
ぐるぐると混乱していると、「ああ、お前がメインヒロインか!」と言われた。
……メインヒロイン?
んん?
「そっか、どおりで飛びぬけて美人だと思った。でも、シナリオ通りならここにいるはずないんだけどなあ……」
シナリオ?
んんん?
「やっぱ先にラスボス倒しに行ったせいでバグったか? でも妙に強すぎたし、なんかおかしいことは確かだよな……」
ラスボス? バグ?
んんんんーー??
「……あの、すみません、今のヒロインとかって……」
「あ、気にしないで。独り言だから。えーと、とりあえず拠点まで連れて行くよ」
抱き上げられそうになったから、慌てて逃げた。なんか怖い。妙に友好的過ぎるし、何か裏があるのかもしれない。流されるまま連れて行かれたら戻って来られなさそう。それにこの人転生者っぽいし、拠点を暴くよりこの人の情報を持って帰る方が良い、と思う。
「あの! シナリオとか言ってましたけど、あなたも転生者なんですか!?」
駆け引きとか考えずに叫んだけど、これは正解だったみたい。
「……あなた『も』? 転生者って……お前も?」
青年は驚いて、隙が出来た。
今だ。
『呪縛! 拘束! 花火!』
「うわっ!?」
青年が逃げた時のために青年の居場所を感知できる呪いをかけ、抵抗したり詠唱できないように拘束し、味方に知らせるために花火を打ち上げた。
勝った、と思った。
でも、青年は「やっべ」と呟いて、魔法を無効化した。
え、と思ったときには、すでに視界が暗転していた。
私の意識は闇に落ちる。
──悪役令嬢、逃げて。この人、魔法が通じない……。
そんな叫びも、一緒に消えていった。




