ヒロイン11 話し合いを終えて
うわあああああ!
私、囮だよ! 殺されることはないと思うけどって、囮だよ! 囮になっちゃったよ!
悪役令嬢が考えてなんとか出してくれた案だから、こうするのが一番だろうからって従ったけど、囮なんて怖いよ!
ていうか、私以外の転生者が優秀すぎて辛い!
ニケさんしれっと逃げて楽しんで好き勝手言ってるし! その要領の良さを分けて!
悪役令嬢は王子に信頼されて国のためにって作戦出して、頭良すぎでしょ!
私なんて『豊穣』の魔法が使えるってことぐらいしか価値ないじゃん! ニケさんの言葉につられてうっかり素が出たし! てゆーか、ニケさんと絡んだら感情的になって素を引っ張り出されてる気がする! もうあのボケ満載の言葉が悪い! ツッコミ入れなきゃってなるから!
それに比べて、悪役令嬢大人すぎる! こう、『ええと、それで本当にいいの? 一度落ち着いて? ね?』って生暖かい目を向けられてる気がする! ニケさんのせいでぽかーん状態になった話し合いも悪役令嬢が進行してくれてたし、精神年齢高いよ絶対……!
悪役令嬢、ホントいい人……。醜態をさらして電波っぽい印象を与えることになったって意味では、ニケさんのほうが悪役令嬢だよね……。あの人が敵とか、勝てる気がしないんだけど。絶対ふざけ倒して『それじゃ』って逃げられる気しかしない。
てか、ヘルヘイムって何!? 王子ってなに!? なんで逆ハールート達成しないと出てこないはずのホロメスが出て来てるの!?
あっれー!? 私、実はヒロインじゃなかった!? 悪役令嬢がヒロインでニケさんが悪役令嬢で私がモブだった!? ホントどういうことなのこれ!
「光栄です(キリッ」なんて格好つけてたけど、内心は「良く分からないから賢い人に従います」だよ! ニケさんが「狙われるなら『豊穣』の魔法の使い手じゃない?」とか言い出したあたりからもう理解放棄してるよ!
ヘルヘイムとかゲームでは出てなかった国出てくるし、その王子とか知らないし、セト皇子脅して私も脅して怖いし、ニケさん魔法やばすぎだし、ホロメスのキャラ違うし、わけわかんない!
頼りになるのはもう、悪役令嬢だけだよ! 悪役令嬢しか信じられない! セト皇子からは『俺は他国の皇子だから、信じるな』って言われたし、やっぱり悪役令嬢盲信しかないよね! 頼りにしてるから何とかしてください悪役令嬢様ー!
お偉いさんの前で話して、準備のためって一旦元の部屋に戻された。
元の部屋では、なんかごちゃごちゃ話してるけど、私がタルタロスの東部にある平地で土壌を耕して植物を急成長させて目立って、インフェルノが私を狙いに来たところで倒すつもりらしい。
……あのぉ、それって私、危なくないですか?
囮作戦で囮ごと攻撃なんて、しないよね? どうあがいても私、戦争の中心地にいることになるんだけど、どうなの? あの、私のことは誰かが守ってくれるんだよね……!?
悪役令嬢は「発案者の私が守りますわ」って言ってくれたけど、アポロンが「アルテミスは重要人物だから、むしろ守られていて欲しい」って却下してた。悪役令嬢、商会とか経営してたもんね。ミーア公爵家の唯一の子供だもんね。当然だよね。でもいて欲しかったよー! 悪役令嬢、マジ天使だから! 安心感半端ないから!
セト皇子からは「悪い」と頭を下げられた。わかってますわかってますとも! 王族だもんね、しかも他国の戦争だもんね。一緒に戦場に出て、なんて無理に決まってる。好きな男の子に守られて、なんて、乙女ゲームの中だけの話でしたうわーん!
ハデスさんは魔法が使えないから戦う力がなくて無理。目で謝られた。ううう、相変わらず格好良いお兄ちゃんだ……。
アレスが父親の騎士団長に話してくれたけど、並みの騎士では無理だろうって却下されてた。一人ならともかく、守りながら戦うってのは一人だとまず無理だし、油断させるために護衛は最小限でないといけないから、騎士より魔術師を選んだ方が良いって。
魔術師ってことでディモスの名前が上がったけど、ディモスは一応家長で代わりがいないから無理らしい。後方から魔法を使ったりはするらしいけど、前線に出ることはないそうだ。まあ、そもそも魔術師は前衛に出ないし、戦争経験のない若造が前に出ても邪魔になるだろうって尤もなことを言われた。
じゃあ別の魔術師をってオルペウスや悪役令嬢が探してくれたけど、相手はかなり魔法が得意だし、それに一人で対応しつつ私を守れて前衛に出てもビビらない人って、普通にいなかった。いや、いたけどかなり地位が高くて死んだら困るから無理って。
結局、単なる男爵令嬢を一人犠牲にするしかないって感じに話は流れた。私が自衛できる程度に魔法が使えたことも大きかったようだ。
誰か一人ぐらいいて欲しいけど、いたほうが返って足手まといになるし損害も大きくなるって言われたら、諦めるしかなかった。
「ニシーケ、これ美味しいから半分こしない?」
「するするー。じゃあこれも半分あげるー」
…………いや、正確には、いるんだけど。
一人でも余裕で守れて、弟がいるから万が一があっても大丈夫で、戦場慣れしてて、見た目で油断が誘えて、私と一緒に連れていかれても平気で情報持って帰れそうな人、いるんだけど。
そこで子供みたいに仲良くお菓子を半分こして食べてるんだけど。
でもその人、ニケさんは『北の防衛以外しない』って不干渉を貫いてるし、捕虜の王子の監視もしないといけないから駄目らしい。
誰も話題に上げないし、大人たちもちらちら見るだけで頼んだりしない。
ニケさんたちと仲が良さそうなホロメスも無視してる。
「お腹いっぱいになると眠くなるねえ」
「僕もちょっと眠いや。でも寝ちゃ駄目だよ」
ニケさんたちは寝ないようにお互いをぺちぺち叩きながらあくびをしていた。平和だなあ。なんであそこはあんなに平和なんだろう。
あ、寝そうだからか、さすがにホロメスが周りの偉い人から言われて渋々二人に近づいて、「あー、ホーロマー」「やあ、食べるかい?」とそれぞれ片手を挙げた二人の頭をぺしっと叩いた。
「ロイキー、一応敵国だから気を抜きすぎるな。ニシーケ、いつもの猫かぶりはどうした」
「非常時だから知りませーん。それより、ホーロマこれ食べなよー」
「むぐ!?」
「敵国でも、ニシーケの庇護下だから仕方ないだろ。まあ座ったら?」
「おわ!?」
ホロメスはニケさんから口にお菓子を突っ込まれ、高速で咀嚼して文句を言おうとした矢先にもう一人の人に足を払われて、持ってきてた椅子に座らされてた。
で、立ち上がって文句を言おうとしてまたお菓子をねじ込まれ、後ろから肩を抑えられ、お茶を手渡され、頭を撫でられ、膝にナプキンを敷かれ、お菓子を渡され、肩を揉まれ、暖かいおしぼりを目に当てられ、お茶のおかわりを渡された。
ホロメスは「あー……」とリラックスした声を出して、目のおしぼりを退けた。
ニケさんたちみたいな、平和な雰囲気になってた。
「これ、王都で流行っている菓子だな。美味い」
「へえ、王都で流行りなんだ。庶民じゃ手の届かない値段だから知らなかったねえ」
「うん、見かけなかったなあ。ホーロマはこのお茶も好きかい?」
「これも同じ商会のだな。好きだ」
「良かったねえ。あ、これも美味しいよ」
「食べかすが落ちてるよ、ホーロマ。疲れてるのかい?」
「誰のせいだと思ってるんだ。王太子だからって、敵国の王子を客人扱いにして城に入れたりするなんて簡単に出来るわけないだろう。ニシーケの監視下でも手回しが必要だったし、お前たちはいつもそうだ」
「うん、ごめんねえ。ホーロマのおかげだねえ。えらいえらい」
「ありがとう、お疲れ様、ホーロマ。いい子いい子」
「子供扱いするな。特にニシーケ」
ホロメスは二人から頭を撫でられて、嫌そうに手を払った。でも二人は嬉々としてホロメスのお世話をしているようで、明らかに末っ子扱いされてた。
ホロメスはぶちぶち愚痴を吐いて、二人に文句を言って、八つ当たりで王子のほうに軽くパンチして、頭を撫でられて、ニケさんを睨んだ。
「だから、クローデンスに来いとは言わないが、いっそお前が出ればいいんだ。お前が出れば問題の大半が解決するだろう」
そして今まで誰も言わなかったことを言った。
え、それって言ってよかったの?
「うーん、ホーロマは賢い子だからわかってるよねえ。我儘言わないの」
ニケさんは困ったような声でホロメスを宥めていた。言って良かったみたい。なんでか悪役令嬢とかお偉いさんとか驚いてるけど、ニケさん怒らないし、そんなもんじゃないの?
「お前が行けば、囮も安全だし、敵も捕まるし、囮を気にしないで攻撃出来るし、人質にされる心配もいらないんだ。囮に魔法をかけるだけでいいから何とかしろ」
「駄目だよ、ホーロマ。立場とかあるから。ね、ホーロマはいい子だからわかるよね?」
「ロイキーが、ニシーケはそう言うだけで面倒くさがってるだけだと言っていた。ニシーケは私のお願いを聞いてくれないのか?」
ぷりぷりと怒るホロメスと、困り切ってるニケさん。
王子のほうは、困ったようにニケさんに「ねえ、少しぐらいならいいじゃないか」と話しかけていた。
てか、この会話の結果で私の護衛が決まるの?
こんな、子供とその兄と姉みたいな会話で?
我儘な末っ子と自由な真ん中っ子をなんとか宥めてる長子みたいな会話の結果で?
……これで護衛なしになって死んだら化けて出ても許されるレベルだと思う。
てゆーか、ニケさん、王太子の命令無視してるよ。これ、許されるの? いくらなんでもアウトじゃない?
「でもねえ、厳しいことは言いたくないけど、いくら言われても、『個人的な行動』の範疇を出ることは出来ないんだよ」
「厳しいことを言いたくないなら、言うな。こっそりやればいいんだ」
「ニシーケ、ホーロマもこう言ってるしさ、ほら、権力に負けたとかで、なんとかならない? 囮の令嬢とは学友だから、とかでさ」
「うーん、駄目なものは駄目なんだよねえ。私の自発的な行動ならともかく、ホーロマに言われてっていうのは駄目なんだよ」
「だから、こっそりやればいいんだ。自発的に行動しろと言ってるんだ」
「ホーロマ、それは自発的行動じゃないから。ニシーケも、僕の時はなんとかしてくれただろう? どうしてホーロマは駄目なんだい?」
「ロイキーだけずるい。私のお願いも聞け」
「うん、ニシーケ、駄目かな?」
二人から頼まれて、ニケさんは、やっぱり困ったような雰囲気をしている。
「ホーロマ、いい子だからわかってくれないかな? 厳しいことは言いたくないんだよ。ロイキーも、お国事情だから、引き下がって欲しいな」
「お国事情? こっそりって言ってるのに公の場で言ってるってことかい?」
「それは気にしないかな。知らぬ存ぜぬで押し通せるだけの力はあるし」
「じゃあどうしてロイキーはよくて私は駄目なんだ。ずるい」
「ホーロマ、他国のロイキーはわからなくても、ホーロマはわかるでしょ? ──ね? 厳しいことは、言いたくないんだって」
ニケさんは本当に困っているような声で言った。
王子のほうは、それで「……ホーロマ、ニシーケがここまで言ってるからさ」と引き下がったけど、ホロメスは拗ねたような顔でニケさんを見て、
「なんで駄目なんだ」
と、なおも言った。
「囮の令嬢も我が国の国民だ。私には守れるように最大限努力する義務がある。魔法をかける程度ならニシーケにも害はないだろう。それでも出来ないと言うのならば理由を説明してもらいたい。国民の命がかかっているのに、理由も分からず引き下がるわけにはいかない」
お、おお……。
ホロメス、逆ハールート後にやっと出てくる高難易度キャラだけあって、出来た人だ! いい人だ!
そうだよね、私だって、国を守る貴族である以前に国民だよね。平民を貴族が守るなら、貴族は王族が守ってくれるんだよね。
これは危ない思いをしなくても済むかも、とホロメスを内心応援していたら、
「それが我らに何の関係がある」
ニケさんの、冷ややかな声で固まった。
氷水を頭からかけられたみたいな気持ちになった。
「我らはクローデンス。北の地を守護する者。ここは北ではない。何故、我らが力を貸さねばならぬ」
「……だが、ニシーケの個人的な行動なら、いいだろう」
ホロメスもニケさんを睨んで言い返してくれたけど、ニケさんの冷え冷えとした目のほうが強い。
「私は『ニケ・クローデンス』個人である以前に『クローデンス家の娘』だ。殿下も、『ホロメス』である以前に『王族』であるはずだ。──王族から協力を要請されて、我らが動いたことが一度でもあったか」
まるで王族を憎んでいるような台詞で、この国を憎悪してるような声で、殺意さえ感じる雰囲気だった。
顔は、いつもの無表情だったけど。
「国民を守る義務がある、結構。良い心がけだ。ではご自分で守られよ。我らの知るところではない。──地位も権力も富も名声も女もいらん。貴殿らには何も求めん。ただ、我らの邪魔だけはするな」
何も寄越さないくせに、求めるな。
と、そう言っているような目だった。
そして、先ほどまでののんびりとした雰囲気に戻った。
「とか、言いたくないからさー。王家とクローデンスは折り合いが悪いんだから、気を付けて欲しいなあ」
のんびりとした、平和そうな声と雰囲気だけど、その目は脅しているように見えた。
今回は警告で済ませてやったが次はない、と脅しているようだった。
ホロメスもさすがにすぐ反応できなかったようだ。
代わりに、王子のほうがニケさんに話しかけた。
「仲、悪いのかい? そっちの人間を散々殺し続けて土地を狙い続けてるうちより、嫌ってるみたいだったけど」
王子のほうは言いながら、ホロメスを撫でていた。すごいお兄ちゃんっぽい。
ニケさんは「んー、私は別にどっちも嫌いじゃないけど」とのんびり前置いて、
「昔、いろいろあったからねえ。しいて言えば、ヘルヘイムのほうはヘルヘイムの人間を殺し続けてるからお互いさまっぽいところがあるけど、タルタロスの人間は少ししか殺してないから、その分じゃないかな? ヘルヘイムに関すれば、高官も王族も殺してるけど、タルタロスは兵はともかく、高官とか王族はまだ一人も殺してないからねえ」
と朗らかに答えた。
……うわーお、この人、本当に戦争で頭がいかれちゃったのかな? 本当に元日本人なの? 嘘でしょ?
さすがの王子のほうも顔を引きつらせてるのに、ニケさんはうんうんと頷く。
「ヘルヘイムからは『殺す』って言われて戦争してるけど、王家からは『死ね』って言われて迫害されたからね。でもほら、争いは何も生まないからさ。ヘルヘイムには『殺されてたまるか』って防衛戦して、王家には『死んだものとして扱ってくれ』って基本的に干渉しないことで反撃してるんだよ。やっぱり平和が一番だからねえ」
のんびり、穏やかに話してるけど、……怖いよ。
全然平和じゃないし争ってるよ!
脳筋過ぎる! 悪役令嬢、なんでこの人の闇を晴らしてくれなかったの!? ついでにニケさんも救っといてよ! 転生悪役令嬢なら関係者全員の問題解決しておいてよ!
ていうか、よく考えたら、つまり今のニケさんの状況って、敵二人と仲良くしてるってこと? それで友達ごっこしてたの!? 心臓強すぎ! あ、ずっと友達って言わないのも、『敵』と『一応味方』って言ってたのも、そういう意味!?
──こっわー……!
なんか一気にぞっとした! うん、こんなニケさんについて来てもらうぐらいなら、私、一人で良い! 一人の方が安全っぽい! ニケさん怖すぎ!
「あ、あの……」
あ、悪役令嬢が声かけた! すごい! 本当に私が信じられるのは悪役令嬢だけだよ!
「つまり、……ええと、三つ巴、なのかしら? それで、一応仲良くしている、ような……?」
「三角関係だよ」
「三角関係!?」
あ、思わず声に出しちゃった。
でもニケさんは気にせず、むしろ楽しそうな雰囲気を出している。
「うん。ホーロマがロイキーのこと好きでー、ロイキーが私のこと好きでー、私がホーロマ好きなんだよ。でも最近はロイキーがホーロマを気になり始めてるから、私は身を引いてるんだよー」
のほほんボイスで言われたけど、王子のほうは全力で首を横に振ってるし、ホロメスは怪訝そうにしてる。
「ニシーケ、どういうことだ? 三角関係ならば、私とロイキーが一応女性のニシーケに思いを寄せなければならないのではないか?」
「ホーロマ、君はそのまま、何も分からないままでいてくれ。ニシーケ、ホーロマに変なことを教えないでくれ。僕たちの間にあるのは全部友情だろう」
「うんうん、大事なホーロマに変な入れ知恵をしないで、唆さないで欲しくって、今は友情だと思っているんだね。わかったよロイキー、ゆっくり仲を育んでるなら、邪魔はしないよ」
「ニシーケ、やめてくれ。もしくは死んでくれ」
「ロイキーがニシーケに思いを寄せて、私もニシーケに思いを寄せたら、ただの政治的なものにならないか? それも三角関係でいいのか?」
「ホーロマ、黙ってて。今その話してないから」
「そういえば、寮でご飯でないかもしれないから、ご飯一緒に食べない? ホーロマの奢りで」
「ああ、いいぞ。監視も必要だからな」
「わーい、食べ放題だー」
「ホーロマ、酒は? 酒はつくのかい?」
「ああ、いいぞ。葡萄酒がいいか? 麦酒か?」
「葡萄酒はあんまり飲まないから、それ飲みたいな」
「あらかじめ言っとくけど、私はいらないからね。お酒ってあんまり好きじゃないんだよねえ」
「やーい、お子ちゃまー」
「酒に弱いのか? ニシーケの女性らしいところを初めてみた気がするな」
「あれ? いつも年下女子的なポジションにいなかったっけ?」
「「それはない」」
「えー?」
三人はわいわいと話している。
……これはこれで怖いけど、きっと政治の世界って言うのはこういうのなんだろう。
怖いから私は絶対関わりたくない。悪役令嬢に一任したい。
ホロメスもまだ話し合いがあるからって二人に待ち合わせ場所と時間を伝えて立ち去ろうとして、
「今はタルタロス国内の、王都にいるんだからな。──忘れるなよ」
と二人を睨んだ。
王子のほうはにこやかに、
「ホーロマこそ、東の相手もいいけど、僕がいることを──忘れないでくれよ?」
表情だけ笑った。
ニケさんはちょっとだけ困ったような雰囲気で、
「私は個人としてここにいるし、ていうかただのロイキーのお守り役だし、忘れてくれてもいいんだよねえ──邪魔さえしなければ」
冷たく言った。
…………うん。
やっぱり、悪役令嬢に一任したいです。




