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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
幕間 モブ子の楽しい日曜日
63/77

隣国の王子4 お出かけ

 夏、準備を整えてクローデンスに行って交渉して、僕は捕虜ということになった。完全にタルタロスに引き渡されるわけでなくクローデンスの庇護下にはおいてもらえるけど、かなり行動は制限されることになるし、状況によっては二度とヘルヘイムの地を踏むことはできないかもしれない。


 クローデンスに行く前に挨拶した時、女王である母は『クローデンスでひどい扱いは受けないでしょうが、……生きて帰ってくれることを望みます』と言ってくれたぐらいで、僕としてもクローデンスならともかくタルタロスの王都、全く知らない場所に敵として行くわけだから、死んでも良いように身辺整理してから来た。

 しかしその交渉の席で、ニケがニケジョークを炸裂、さすがに僕も読めず、侍女の叱責からニケのヘタレっぷりが発揮され、なんか毒が抜かれて逆にすんなりと交渉は終わった。

 そこで決まったことは、


1、ロキ・ヘルヘイムの扱いは捕虜

2、クローデンスはロキ・ヘルヘイムの命を守るよう出来る限り努力する

3、ロキ・ヘルヘイムはニケ・クローデンスの捕虜とし、一切をニケ・クローデンスの指示に従う

4、捕虜となっている間、ロキ・ヘルヘイムがヘルヘイムと接触することは禁じる。代わりに、クローデンスにはヘルヘイムに捕虜の状態などを報告する義務を課す

5、ニケ・クローデンスが必要と判断した場合、ロキ・ヘルヘイムを害することを認める


 おおむね、こういうことだ。

 これに関して『これだとニケっちの安全保障がないんじゃないかい?』とニケに聞けば、『うん。だから面倒になったらロキやんは、私を殺すなり重傷を負わせるなりして、逃げ出せばいいんだよ。ロキやんの命を守ろうとするのは「クローデンス」で、ロキやんに対して命令権と生殺与奪権を持ってるのは「ニケ・クローデンス」だからね』と言われた。

 からからと笑うような声で、『ロキやんがタルタロスの人間を殺すことも禁止してないし、私も死んでたら、さすがに罪は問われないでしょ。単なる「捕虜の監視がなってなかった馬鹿な娘」で終わるし、クローデンスにしても、北じゃないからノータッチを貫けるし』と言われた。

 勿論ニケだから、『まあ、ロキやんごときに殺されるほど弱っちくないけどさ』と付け加えていたが、……それを聞いたクローデンスの面々が苦々しい顔つきになっていたから、ニケは意外と愛されてるんだなあと思った。

 ついでにニケは、『私の捕虜である間は、安全の保障はするよ。私の所有物ってことは、領民と似たようなものだからね。──だから私の捕虜じゃなくなった瞬間、ロキやんの安全保障はなくなると思って』とも脅していた。

 そのあたりニケらしいというか、クローデンスは一貫してニケに僕のことを任せているんだから、信頼されるだけのことはあるんだろう。ニケだし。


 そうして王都に移って、ニケが通ってるっていう学園に到着した。

 監禁されても従うつもりだったけど、ニケは普通に僕のために一部屋用意してくれた。「ロキやんの扱いは基本的に私の従者ってことで通そうか。辺境伯令嬢って結構良い立場だから、用意されてた従者用の部屋も二部屋以上はあったし」とか朗らかに、何の裏もないように言って。

 侍女にいいのかと聞いたけど、侍女も「上げ膳据え膳のお世話をして差し上げられるほど暇ではありませんので」と了承していた。

 というわけで、僕は自室を手に入れてしまった。手かせ足かせも何もない。精々夜に部屋の鍵をかけられるぐらいで、行動を監視され続けているわけでもない。


 「逃げ出した場合、お嬢様から殺さない程度に殺す許可をいただいておりますので」

 「ロキやん、『いい子』でいてね?」


 でも、侍女とニケの脅しに、素直に大人しくしていた。

 プロ並みの暗殺者で、攻撃があてにならないニケを補うように攻撃的な侍女とか、怖すぎるんだけど。あと下手に破って『じゃあ条約違反ってことでー』とニケに攻撃する口実を、『害された』という認識を与えたら、『多分、地元のヘルヘイムに戻ってると思うんだよね』とヘルヘイム全土を焦土にされかねない。


 だから大人しく、『いい子』にしていた。

 夜はさっさと寝るし、さすがに校舎とか人気が多い場所は歩けないから、部屋の掃除とか、鈍らないように鍛錬とか、侍女に言いつけられた雑事とかをしていた。


 そうして時間は過ぎ──。


 「ロキやんロキやん、ちょっとこれ教えてくれない? 剣でさー、こう、ばってやるのがわかんなくて」

 「ああ、それはこうじゃないかな? こうやって、ここで手首を返して、こうして……」

 「そっか、なるほど。ありがとー」


 「ロキやんってお勉強得意? 課題手伝って欲しいんだけど」

 「あー、これは僕はやってないな。士官学校だったから。けど、こっちは出来るよ」

 「じゃあよろしくー。怠いんだよねー」


 「暇だし、明日街に遊びに行こうよ。こっちの食事って、北と違って面白いんだよねえ」

 「へえ、いいね。荷物持ちするよ」

 「そんなに買わないよ。せっかくタルタロス本国にいるんだから、観光したいだけだよ」

 「僕がしたいだろうから、じゃなくて、ニケっちがしたいのかい?」

 「ロキやんもしたいだろうけど、私もしたい。子供の時に数回来たことがあるかないかってぐらいだから」

 「北からは遠いからね。確かこっちまで、五日ぐらいかかったよね?」

 「あれはあれで寄り道してるから、実際はもうちょっと短いけどね」

 「僕はあそこに行きたいな。これ、本に載ってた」

 「あ、そこ私も行きたい! 行こう! テミスー、準備よろしくー!」

 「……いないみたいだけど」

 「最近テミス、忙しいからねえ。じゃあいいや、適当に行っとこうか」

 「じゃあルートとか練っておくよ」

 「任せた」


 「ニケっちニケっち! あれ買おう! すごい!」

 「うわっ、なにあれ! 買おう買おう!」

 「南ってすごいなあ! 家が全然違う!」

 「あ、ロキやん! あれ見てあれ!」

 「なにこれ!?」


 「あー、楽しかった。また行こう」

 「うん、今度はテミスも来てくれたらいいんだけどねえ。忙しいからねえ」

 「ああ、前も僕に手紙とかくれてたよ、彼女。だから顔は知らなかったけど、君の侍女ってのは知ってた」

 「へー、テミスは働き者だなあ。私も監視頼んだりするし、父上との折衝とかもしてもらってるし」


 僕は完全にタルタロスを満喫していた。

 逃亡資金になるからさすがにお金は持たせてくれないが、元々ニケは必要な物以外は買わない倹約家だったようで、『まあお金あるし、経済に貢献するとするよ』と、ポケットマネーで遊びに連れて行ってくれた。さすがニケっち格好良い!と褒めたたえたら、でしょでしょー?と無表情でテンション上げてた。ノリが良いのは良いことだ。


 そうして、街にもすっかりなじんだころ。

 例によって侍女はおらず、というかいないことが数度続いた後は、いかに侍女にばれないように抜け出すか、とか考え始めてたから、侍女には未だに気付かれていない。ニケは『普段なら絶対気付かれてたけど、今、忙しいから。私のお世話まで手が回らないみたい』と言っていた。普段は目を離すと色々しでかして帰るから、ばっちり監視されているそうだ。侍女も苦労してそうだ。


 そんなわけで二人で街を歩いていると、悲鳴が聞こえた。

 悲鳴の方向をみると、ナイフを持った男性が数人、路地裏から出てきていた。

 男性たちはある男性を捕まえ、ナイフを向けていた。悲鳴は、それを見た街の人間が発したもののようだ。


 うーん。


 「ニケっち、行くかい?」

 「まあ、行こうか」


 見殺しにするのも寝覚めが悪いので、ニケに許可をもらってから、そっちに駆け出した。

 多分人質の男性はニケが守るから、僕は「なんだてめえ!」と向かってきた男たちを倒すことにした。

 走りながら、まずは先頭の男のナイフを軽く避けて腹に一発、さらに次の男の顔面に一発。

 三人目が驚いてる間に首を刈り、人質を前に出してきたから路地の壁を蹴って空中で回転、背後に着地してうなじに一発。

 最後の一人がついに人質の喉にナイフを滑らせようとしたけど、無視して脇腹に一発。


 制圧完了!


 ニケは「さすが、強いねえ」とのほほんとこっちに歩いてくる。ニケもばっちり守ったようで、人質の男性は傷もなく、自分の首に手を当てて驚いている。

 合流してハイタッチして、男性を見る。


 「とりあえずやっつけたけど、君はどうしてこいつらに捕まってたんだい?」

 「……ヘルヘイム訛りがあるが、北の人間か?」


 おっと、質問で返された。

 ニケはのんびりと手を挙げる。


 「まあ、ここよりは北から来たよ。今はここに住んでるけどね。それで、どうして捕まってたの?」

 「……お前は同郷か? 争いになれているなら、クローデンスのほうの人間か?」

 「聞いてるのはこっちなんだけど、答えられないのかい?」

 「案外、ナイフがないと素直になれないだけかもよ」


 ニケがナイフを拾って投げて来た。適当な投げ方で、受け取るのが慣れてる人間じゃないと怪我してるところだ。

 まあ僕は慣れてるし、受け取ってそのまま男性の喉にナイフを添えたけど。


 「じゃあこれで素直になってくれるかな?」

 「多分ね。じゃあ改めて、どうしてなんですか?」


 ニケが男性の近くに来て言う。

 男性はやや黙って、


 「……綺麗な顔してるな、と、暗がりに連れ込まれそうになって逃げていたところだ」


 ぼそり、と言った。

 すぐにナイフを地面に投げ棄てて頭を下げた。


 「すみませんでした!」

 「逃げきれてよかったね。本当によかったね」


 ニケは鞄からキャンディを出して「ほら、お食べ」と渡していた。ニケは男同士の熱い友情が好きだと言うが、『妄想と現実は別』らしい。そのあたりの区別はついてるようで助かった。

 男性はものすごく不本意そうな顔をしていたけど、無精無精で受け取って口に放り込んでいた。不服そうにコロコロとキャンディを口内で転がす様子は子供っぽいが、僕と似たような歳に見えるからなあ。ニケは僕より年下だし、子供から子供扱いされたら、まあ嫌だよなあ。


 ともかく、話題でもそらそう。


 「ごめんね、手荒なことして。もし君が食い逃げでもしてたなら、君の方を警察に連れて行かないと行けなかったからさ」

 「お詫びに何か奢るよ。そろそろお昼時だし、ホットドックとか食べる? 美味しい店があるんだよ」

 「……行くが、お前らは……」


 男性のちらちらと見る視線に、『逢引中ではないのか』という遠慮が見えた。先ほどまで好奇心旺盛に質問していたのに、冷静になったようだ。いや、色々あって混乱してたから無遠慮に疑問をぶつけて来てたのかな?

 まあニケは『知らない相手に着いて行きたくない』という意味だと受け取ったようで、


 「ああ、ごめんね。こっちはロイキー、『ロマンチック・イミテーション・キー』で、ロイキーだよ」


 と言った。

 これは乗らないと。


 「よろしく。で、こっちは『偽物の 幸せな 結末』で、ニシーケ。ちょっと無表情だけど気にしないでやって」

 「……そうか」


 男性は遠い目になり、


 「私は『放浪する ロイヤルな まがい物』、ホーロマだ。よろしく頼む」


 乗って来た。

 仲間だ。

 僕はホーロマの肩に腕を回した。


 「よし、じゃあホーロマ、ここはさっきので目立ってるし、さっさと移動しよう。時間があるなら今日は僕らと遊ばないかい?」

 「は……、いや、お前らは……」

 「そうだね、ロイキーも気に入ったみたいだしねえ。でも先にホットドック食べたい」

 「わかってるよニシーケ。じゃあ行こう!」


 ホーロマを連れてホットドック屋に行き、わいわい騒ぎながら食べて、ホーロマが行きたいと言った店までの道中、


 「見たところ、兄妹ではないようだが、……どういう関係なんだ?」


 ホーロマが聞いてきた。

 さすがに、ここまでの会話で恋人とは思えなかったようだ。だよねえ。


 「隣人かな。気の合う同類だよ」

 「間違っちゃいないね」


 僕の答えにニケが頷き、ホーロマは「そうなのか……」と信じた。嘘は言ってないし、別に間違ってるわけでもないからからねえ。

 それからもわいのわいのと遊んで、そろそろ帰るかって時間になった。

 ホーロマは俯き、上目遣いで僕らを見る。

 今日一日、楽しそうだったからなあ。僕も、ホーロマと遊ぶの楽しかったしなあ。


 僕が勘定全てニケに任せてるから、「ヒモだな」とかホーロマが頷いてニケが「よくわかったね」とか乗って僕が慌てて否定したり。

 ニケがあまりに無表情だから「感情をなくした人形か」とかホーロマがツッコんで、そのツッコミがツボにはまった僕の笑いがしばらく止まらなくなったり。

 ホーロマが「あそこ行きたい。あれ食べたい」と子供のように僕らを連れまわして、「早く来い」と僕の服や腕を引いて催促してきたり。


 弟分が出来たみたいで、楽しかったなあ。


 と、ホーロマが顔を上げた。


 「今日は楽しかった。また会えたら声をかけてくれ」


 ああ、ホーロマはしばらく会えないみたいだ。

 残念だなあ、と思っていると、ニケが、


 「じゃあ、また来週」


 何でもなく、普通に言った。

 思わずニケを見たけど、ホーロマも凝視していた。


 「……ニシーケ、とても楽しかったが、私は来週は用事があって来ることが出来ないんだ」

 「あ、そうなんだ。じゃあ次の休みは? あ、でも平日は学校があるから会えないなあ」

 「……学校?」

 「うん。王都の学園に通ってるから」


 しかもさらっと、身元をばらした。

 え、え、ええええー!?

 ホーロマも驚いている。そりゃそうだ。だって今まで、ザ・庶民って感じだったし。僕はともかく、ニケはヘルヘイム訛りも少なくて、王都に住んでるけどヘルヘイム訛りのある僕につられて訛ってる、ってぐらいだったし。ホーロマも、平和で呑気って感じのニケじゃなくて、明らかに僕のほうをクローデンスの人間かもしれないって疑ってたし。

 お忍びなら僕で、ニケはここらの友達、下宿先が近いだけの庶民、って感じに思ってただろう。

 まさか、僕じゃなくてニケのほうが貴族階級のお忍びとは思わなかっただろう。


 「……じゃあ、ニシーケは、貴族、なのか?」

 「うん。で、ロイキーが私の従者。だから遊べるなら休日になっちゃうんだよ。ホーロマは休日暇? あ、東のことならそこまで気にしなくてもいいと思うよ」

 「──東の?」


 ホーロマの表情が固まった。

 やばい、やばいってニケ!

 僕は一応、『ここにいちゃいけない人間』なんだよ! ねえ! わかってるかい!?


 ニケは、呑気な声のままで、


 「ホーロマ、政治に携わってる、王族でしょ?」


 と、言った。


 すぐにホーロマを担いでニケの手を引いて、路地裏に走った。

 さすがにニケも『足がもつれるー!』とか言ってたけど、こけもせずばっちり走れていたから聞こえないふりをした。これでも僕、軍人なんだけどな。人を抱えてるとはいえ、軍人のダッシュなのにな。魔法適性はほぼないけど、それでも認められてるぐらい、身体能力には自信があったんだけどな。ニケは女で、僕より絶対足が遅いはずなのにな。


 ちょっと自信を打ち砕かれながら、路地裏でホーロマを降ろした。ホーロマは舌をかまないようにしてるだけで精いっぱいだったようだ。叫ばれなくてよかった。

 ホーロマを降ろして、ニケの両肩を掴む。


 「王、族? ニシーケ、どういうことなんだい? なんで、どうして」

 「あれ? ロイキーも気付いてたでしょ?」


 ニケはきょとん、と、ばてているホーロマを見て。


 「人さらいから逃げられないような子供は街では育てないし、この顔だよ? 幼い時から街にいたなら、今頃男娼になってるか、しっかり自衛できるようになってるかしかないよ。あと、こんなに信じやすいのも、街の子ならありえないでしょ。騙される方が悪い、の世界なんだし。最後に、私の渡した飴を食べたから、毒消しの魔法が使えるか、毒が効かないように体に慣らしてるか、いつも毒が効かないように魔法をかけてもらっているか。どれにしたって庶民じゃ無理だね。身のこなしから、暗殺者とか騎士とか、そういうわけでもなさそうだし」


 と言った。

 ニケって、見てないようで見てるようで、見てるようで見てないんだよなあ。

 いずれにしても、底知れない。

 だから僕らは、彼らに負けている。


 「学園に在籍してるなら、こんなに目立つ容姿なら顔ぐらい知ってるけど、知らない顔だし歳も歳だから、多分働いてる。きちんと出来ることやってる人特有の自信もあったしね。で、私たちが北、クローデンスの人間か気にしてたから、『触るな危険』のクローデンスを警戒してる、政治分野のお仕事。軍じゃないしね。この時期政治分野で忙しいといえば、ついでにクローデンスに過剰反応するってことは、戦い、東の問題。自衛策もないのに一人でとぼとぼ歩てるなんて、何かに行き詰ってるからでしょ? 例えば、東のやつらをどう撃退しよう、北から情報を得られないか、ついでにアメンティの皇太子がいるからアメンティが首を突っ込んで来たら面倒だ、とか?」


 かるーく話し、相変わらず飄々と明るいニケとは異なり、ホーロマは表情をなくし、じっとニケを見ている。


 「最後、こんな若さでそこまで思い詰めるほど政治に悩むなら、責任感が強いのか、責任のある地位にいるのかなって。若くても高官になれるといえば、コネと権力。もし責任感が強いなら、──偽名に『ロイヤルな』なんて、王家を示す意味を付加したりしないよね」


 だから、ホーロマは王族だよね?


 ニケの言葉のあと、沈黙が降りた。

 ニケはおや?と不思議そうにしているけど、……これは全部君のせいだから。

 君が空気読まなかったせいだから……!

 王族とはいえ軍官学校が長かった僕は、確かにそのあたりの見極めが甘かった。ホーロマが貴族で政治について考えてるってことまではわかったけど、王族とは思わなかった。頭は柔らかくて飲み込みも早いけど、若いし信じやすいから、てっきりただの貴族だと思ってた。


 というか、ヘルヘイムじゃ王族だってそんなコネはないからね!


 軍に入るなら、使い捨ては不味いってそれなりの地位からスタートさせてくれるけど、文官になるならそんなの一切ないからね!

 武官なら軍の地位でそれなりに補正が付くけど、文官は本当に実力勝負だよ! 次期女王候補の僕の姉だってまだ会議の席は手に入れてないし、僕の兄は文官だけど、まだまだ下働きだって笑ってたよ! 僕も去年の夏に会議に出席できたのは、軍でそれなりに功績上げて、対クローデンスの最前線の指揮官で、ニケとなんだかんだ仲良しだから、クローデンスのことが絡む会議に特例で出席出来ただけだし! 当事者だから発言権を与えられてただけだから! 僕まだ少佐だからね! 本当なら将にならないと会議には出席できないよ! ああ出世したい!


 まさか王族だから若いうちから政治に参加とか、そんなのってあるか。うちは女系王家だから、いざってときは優秀な男あてがって終了だよ。母さんとかは自分で指揮とれるぐらい努力されたんだよ。姉さんも頑張らないとそうはなれないよ。


 お国柄の違いで気付かなかったことに遠い目をしていると、ホーロマがつかつかとニケに歩み寄り、見下ろした。


 「──ならば、なんだ」


 重圧を感じさせる重い声は、為政者のもので。

 たまに、ニケが出すような威圧感と似たものを覚えた。

 たかが軍人の自分では軽すぎて、出ない重さだ。


 それを真正面から受け止めたニケは、


 「だから、次の休み、暇?」


 ふと見せる重さが嘘のように、羽のような軽さで言った。

 ふわり、ふわりと宙を舞いそうだ。

 軽すぎるよニシーケ!


 ホーロマも「……は?」と虚を突かれていた。

 しかしニケは僕らの反応に気付いてない。


 「東のほうは多少放っといても大丈夫だからさ、また遊ぼうよ。そんなに、また遊びたいけど遊べない、みたいな顔しなくってもさあ。ねえ、ロイキー」


 僕に話を振らないでくれ。


 「うん、そうだね。僕も楽しかったし、遊べるならまた遊びたいな」


 無難に返したらホーロマはちょっと黙った。


 「……私も、遊びたいが、……どうして東が大丈夫だと言える。クローデンスでは、やはり何か掴んでいるのか」

 「掴んでるっていうかさ」


 ホーロマに、ニケはかるーく、


 「あんな雑魚相手じゃないし、アメンティさえ出て来なければ問題ないでしょ」


 言い切った。


 まあ、君にとっては雑魚だろうね。クローデンスにとっては、常時ヘルヘイム相手に防戦してるクローデンスにとっては、大概の相手は雑魚だろうね。ヘルヘイムですら雑魚っていうもんな、君は。


 その言葉にホーロマは考えている。

 ああ、うん、考えるだけ無駄だって。

 相手、ニシーケだし。


 「最悪、アメンティぶっ飛ばすぐらいなら協力するから、気楽に遊んでいいんじゃない?」

 「……は?」


 ニケのぶっ飛んだ発言に問い返したホーロマに、ニケは「あれ? わかってたよね?」と言って、


 「クローデンス領の人間で学園に通うような貴族って、相手決まってるよね? クローデンス家の人間だよ?」

 「………………はあ?」


 ますますホーロマを凍り付かせた。

 とりあえず、本当に可哀想になってきたから、「時間あるし、また今度集まろうよ。ホーロマ、次の休みって暇?」と聞いて、「予定を空ける。次の休み、またここに来い。絶対に来い」とホーロマと約束をとりつけて、ニケを寮に連れ帰った。

 道中でニケに「どうしてあんなことをしたのか」と聞いたが、


 「だってロイキー、ホーロマのこと気に入ってたじゃん。私もホーロマ嫌いじゃないしさー。じゃあ、困ってたら手助けするよね?」


 そう言われて撃沈した。

 立場上絶対に敵で、ニケもそこは絶対に忘れないのに、こうやって仲良くしてくれるからさあ。

 直球で『好きだから助けただけ』って言える人、そうそういないんだからね!

 だから僕、敵でも君のこと好きだよ! これからも仲良くしてね!


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