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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
承 変化!いつだって諸行無常!
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侍女5 立食会を終えて

 お嬢様がディモス様に誘われ、立食会に参加されました。

 これで、お嬢様がディモス様に色恋的な意味で興味を持って、と考える方もいらっしゃるでしょう。

 ですが、甘うございます。


 「なんとか魔術のコツとか教えてもらいたいよねー」


 お嬢様は領のことしか頭にない、脳筋なんですよ!


 「お嬢様、さすがに年頃ですから……」

 「年頃である以前に嫡子だし。この前の北での騒動もあるし、ちょっとねー」


 この前の北での騒動?

 お嬢様が単騎で乗り込んだのち、単独で敵を撃破して、悠々と土産を抱えて帰って来た、あの話ですか?


 あれは本当に拍子抜けする結末でしたが、お嬢様ががっつり恩を持って帰ったのも事実。いえ、お嬢様にその認識はないんでしょうけど。『場を和ませる』ために『軽くジョーク』を言っただけ、という認識なんでしょうけど。

 私、お嬢様って外見で得してるところも多いと思います。思慮深く見えますから。本当は本当に何も考えてないときも、意味ありげで全て見透かしてるように見えますから。

 北のことにしても、これ以上ヘルヘイムから変に頼られないように牽制したのは意識してやったことでしょうが、『次期領主をほぼ対価なしで戦地に送り込んだ上に全て解決させた』という恩を売りつけたつもりはないのでしょう。これだからお嬢様は……。


 とにかく、行ったのがお嬢様だったからという部分も大きいでしょうが、何事もなく終わった一件です。案じていた旦那様と奥様、弟君様と妹君様が馬鹿を見ただけでした。まあ、それに関しては『クローデンス領随一』の結界魔法の使い手であるお嬢様を甘く見過ぎている、としか言えませんが。家族の情や次期領主としての命の重さもあるでしょうが、お嬢様が無事に帰って来ない、という状況の方がレアです。心配するだけ無駄です。どうせそんな主ですから。


 「これ以上パワーアップする必要があるんですか? 詠唱速度も、お嬢様は本来ミーア公爵令嬢のように一言で済ませてしまうでしょう」

 「詠唱速度だけじゃないけど、パワーアップは必要だって。魔法具を持った連中とミーア公爵令嬢とアフロディーテ男爵令嬢とタルタロス軍とヘルヘイム軍が一緒に攻めて来た時、死傷者が確実に出ちゃうからね。いかなる状況からでも守れるように、鍛錬は必要だよ」

 「その『もしも』は地獄絵図ですわ。そんなときはお嬢様の自爆攻撃魔法でもお見舞いすれば良いでしょう」


 お嬢様は回復、防御魔法には力をかけているものの、攻撃魔法などにはまるで手をかけていません。そんなものを練習する時間があれば回復、防御を磨くと言い張って、ずっとそうしています。

 結果、お嬢様が使えるのは『攻撃魔法』とは呼べないような、ちょっと火を灯したりちょっと水を出したりするごく初歩的な魔法しかありません。

 攻撃魔法は使えません。……被害度外視で威力が強すぎて術者たる自分すらまきこまれてしまうという、恐ろしい攻撃魔法に使われるぐらいは出来ますが。

 専守防衛の我が領としては、あんな凶悪魔法など、使うかどうかの審議にかけるまでもなく不採用です。追い詰められていよいよ、という時の、本当に最後の最後の切り札で自爆覚悟の特攻です。あのとんでもない魔法に対抗できる防御というのもお嬢様の魔法しかなく、そもそも魔法の使い手であり唯一対抗手段を有しているお嬢様ですら制御不能なのです。

 満場一致でお蔵入りです。お嬢様も「だから攻撃魔法は磨かないんだよ」とうんざり言うほどに使えません。


 私たちは世界征服とか、ヘルヘイム征服とか、タルタロス乗っ取りとか、したいわけではないのです。

 このクローデンスの地を守り、のんびりヘルヘイムと遊びながら面倒事を避けて暮らしていたいだけなのです。


 下手にあんな凶悪魔法を放てば、徹底開戦の流れは回避不可能。ヘルヘイムやタルタロスに攻められて、どちらかを落としてしまっても安定が失われてしまいますし、下手をすれば世界を巻き込んだ大戦に繋がりかねません。

 今回は、相手が魔法具など持ちだしていたために跡形もなく破壊する必要があり、ヘルヘイム軍の手に魔法具が渡る可能性を出来る限り潰しておかねばならず、また仮にヘルヘイムが魔法具を手に入れても本気で本当の戦争を仕掛けて来ないように、あえてあのような凶悪魔法に『使われた』のです。

 お嬢様は後方支援特化なので、使えるのは攻撃魔法とは呼べないような代物のみ。また、その場にいたのはヘルヘイム軍の人間しかおらず、制圧を彼らに任せると魔法具が流出してしまう恐れがあったために、お嬢様自身が消滅させられる方法として、あの凶悪魔法に使われるしか手段が残っていなかったのです。

 おかげで南にも気づかれましたし、東もさらに警戒を深めるでしょうが、仕方ありません。あの場ではあれが最良の選択でした。


 ロキ少佐は「あれが知られてもいいなんて、さすがクローデンス、底知れないね」と笑っていましたが、違います。

 あんなもの、牽制ぐらいにしか使えない、実用に耐えない粗悪品なんです……!

 あれが切り札? ありえません。あんなもの、使えるというだけで攻め込まれかねない、ただのトラブルメーカーです。

 ヘルヘイムが賢く、『魔術師ヘル』をクローデンスの人間だと知っているのがヘルヘイム上層部のみで、さらに本当は『クローデンス領次期領主』であることを知ることができているのがロキ少佐とヘルヘイムの女王だけだからなんとかなっているだけです。正確にはロキ少佐の部下や、引退した前の指揮官もお嬢様だとわかっているでしょうが、公式に知っているのはロキ少佐と女王だけですので。さらに非公式に知っている方々にしても、対クローデンス侵略戦の前線にいただけに、どれほどクローデンス領が固く、ヘルヘイムに攻め込む意思もなければ防衛以外する気もないのを実体験として知っていますから。

 首の皮一枚つながった、という感じです。

 そうやって私や旦那様方が胸をなでおろしているのに、お嬢様ときたら、


 『大丈夫大丈夫、私、前線に出てるから。問題視するならクローデンス領全部を敵に回すより、私個人を殺す方が楽でしょ。たとえ私を殺したとしても、戦争で兵が死んだってだけだし、クローデンス領は専守防衛だから報復で攻めこんだりしないしさ。現場の指揮官がどーでもいい実行犯を拘束して差し出して謝罪、で終わりじゃない?』


 と、


 『逆に、功績で出世したりもしてるかもねー。何しろ戦時中だし。敵の指揮官殺したなんて、大手柄じゃん』


 と、のんきに楽しげに言っていました。

 確かに恩を売ったのは『ニケ・クローデンス個人』で、凶悪魔法を使えるのは『ニケ・クローデンスのみ』なんですから、お嬢様を始末すれば解決しますね。それに対して報復なんて、専守防衛のクローデンス領は出来ませんし、抗議しようにも『戦時下』のことなので、とっくに交渉とかそういう流れをすっ飛ばしてますし。

 仮にヘルヘイムが穏便に済まさず、本格的に侵攻する方針を取ったとしても、お嬢様が厄介なことは変わりませんから。まず始末するのは強力な魔法が使え、戦場に出ていて狙いやすいお嬢様でしょう。

 だから、ヘルヘイムからの殺意は全てお嬢様個人に向くから、クローデンス領は大丈夫、と。


 旦那様はまるで親友の死体を見た時のような顔をしていましたし、お嬢様と付き合いの長い私も、意味が理解できませんでした。

 その場にいた旦那様の護衛役の方も、知らない言語で話されたように、理解を放棄していました。


 お嬢様は、結局、そういう方なのです。

 だから、旦那様や奥様から嫌われ、弟君様と妹君様から敬遠され、私しか従者がいないのです。

 勿論お嬢様としては自分や領の防御力に自信を持っており、それゆえめったなことでは自分が殺されることはないとわかっているから、あんなことを言ったのでしょう。

 そして、もしものときは自分が犠牲になって領を守ればいいと考えているから、そんなことを思ったのでしょう。


 お嬢様はそうだから────クローデンス領次期領主なのでしょう。


 「……折角王都にいるんですから、少しは遊んだらどうですか。男性同士の熱い友情などと言っていないで、伴侶でも探されたらどうでしょう」


 答えがわかりきっている問いを投げた。

 主人は無表情で笑った。


 「急にどうしたの? テミスも、わかってるでしょ?」


 ──私は、クローデンス領次期領主だよ?


 ええ、わかってるわ。

 だから私は、もうあなたの心配をしないのよ。


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