悪役令嬢16 嵐の始まり
ゲームは一年生の時が準備段階で、二年生の時が本編でルートが決まり、三年生の時に隠しキャラが出て来たり後日談を楽しんだりする、という構成だった。
だからどこか、『三年になるまでは大丈夫』と思っていた節がある。
ゲームになかったことが起こるはずがない、と。
逆にゲームになかったことが起こったなら、……それはゲームを壊す『何者か』がいるということだ。
ヒロインはまず違う。そこまでの力はないだろうし、そんな行動はなかった。
私も違うと思う。主に国内に対してしか変化は及ぼしていない。ゲームの展開を壊す意図はあったけど、この国の貴族としてふさわしくない行動はしてないはずだ。
ニケ嬢は、……怪しい。
北で何かあっても、昨年の夏のように、『何もなかった』ことにされてしまう。私も北のことについては知らなかったぐらい、北は注目されていない。
東で何かあったことも知っているようだったし、何よりこういう転生をしているのにゲームを知らないのは不自然すぎる。
ニケ嬢がゲームのことを聞いたのはヒロインから。一年の初期のヒロインなら、騙されてしまう可能性は高い。
ゲームのことを知っていて、知らないふりをして騙し監視していたとしたら。あえて黒幕っぽく見せて一度疑わせた上で疑いを馬鹿らしいことで晴らし、疑う方が馬鹿、という状況に持って行っていたとしたら。
──私は遅すぎた。
もう駄目だ。今更気付いてももう遅い。
ディモス様とアレス様はどこまで取り込まれているかわからないし、ヒロインが国を捨ててセト皇子を選んでいたら協力は得られない。
宣戦布告を受けてしまった今では、クローデンス領を糾弾なんて、出来るわけがない。そんなことをしていたら、あの無敗の防壁が敵になる。それは、不味い。
ニケ嬢が領に帰る前に捕縛しても、領から抗議が来たら解放するしかない。というかそもそも、捕縛できるような証拠は一切ない。
戦争が始まる前なら手の打ちようはあったけど、戦争が始まってしまえば、駄目だ。
もう彼女の独壇場だ。
前線兵ではなく指揮官の彼女が単なる脳筋だと侮った、私の負けだ。いや、そう侮らせた、彼女の勝ちだ。
この国の貴族である以上、私も王都と運命を共にしよう。アポロン様や家族も同じ気持ちだろう。
東の小国たちを王都に侵入させる前に撃退出来ればいいけど、裏で手を引いているのはあのニケ嬢だ。簡単に終わるとは思いにくい。いっそ海から侵攻して背後から奇襲を、というのも考えられる。ヘルヘイムは冬は港が凍るからその可能性は除外出来ていただけで、クローデンス領からなら船は出せる。
ああ、本当に、詰んでしまった。
アメンティは友好国だし、うちが潰れたら次に危ない立場だから援軍を送ってくれるだろうけど、そうなったら今は臣籍に降下されている第一王女様ぐらい差し出さないといけないのかしら。友好国とはいえ同盟は結んでないから、ひょっとしたらアメンティもタルタロスに攻め込んでくるかもしれないわね。そうなったら、本当にもう逃げ道すらない。
そうして宣戦布告を聞いて絶望しているところで、
「我が国とて他人事ではないので、偵察に参りました」
ヘルヘイムの王子がやってきた。
え、これ、どうなってるの?




