悪役令嬢14 嵐の予兆
不穏だ。
ヒロインはルートをとことん避けていたが、何故かセト皇子と親しくなっていた。ヒロインは結構無礼なことを言ってるけど、セト皇子はそれを面白そうに笑っているし、たまに二人で笑い合ってるし、恋人っていうより友達みたいだ。
ニケ嬢とディモス様も相変わらず仲が続いている。しかも何が原因だったのか、アレス様の婚約者がゲームとは違う女性になっていた。
オルペウス様も、未だに婚約者はいないけれどあてがわれそうだとかで、アポロン様によく相談している。
さらに北はわからないが東は確実に何かが起こっている。
こう、嵐の前の静けさというか、これから何かが起こりそうな、そんな予感がする。
この世界はゲームとは違う。
ニケ嬢しかり、ヒロインしかり、攻略対象しかり。
何が起ころうとしてるのか。
転生者同士で話し合おうにも、ヒロインとは関わらないって決めてるし、ニケ嬢もあまり関わってこない。さりげなく、声をかける前に逃げられている。
必ず何かが起こるって確信出来たら、二人と話し合うことが出来るのに、この程度じゃ単なる相談でしかない。
「アルテミス様、何か心配ごとですか?」
うんうん唸っていたら、オルペウス様に心配させてしまった。
「何でもありませんわ。ただ、ほら、最近東のほうが騒がしいでしょう? それで何かあったらって思って」
「そうですね、もし戦争になったらアポロン様もお困りでしょうし……」
オルペウス様は相変わらずの親友中心なことを言って、「……そういえば」とふと考え込むようなしぐさをした。
「アルテミス様は確か、クローデンス辺境伯令嬢にご執心でしたね」
「え、ええ。そうですわね。アポロン様やあなたたちが、どうもご迷惑をかけたみたいですもの」
急に出てきた名前にどきりとしながら答える。オルペウス様は「僕たちも彼女の得体が知れなくて警戒していたんですよ」と苦笑して、
「珍しいことに、先日、彼女から話しかけられたんですよ。ええ、ニケ・クローデンス辺境伯令嬢から、直々に」
と言った。




