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防衛特化無表情腐女子モブ子の楽しい青春  作者: 一九三
承 変化!いつだって諸行無常!
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ヒロイン9 進級後

 ゲーム通り、三年にセトが編入してきた。

 ゲーム通りに出会わないように逃げてたのに、何故か、本当に何故か、セトに気に入られてしまった。


 多分、私が『豊穣』の魔法を使えるからだと思う。

 セトの国は砂漠が多く、水不足だったり土壌が痩せていたりして、あまり作物が育たない。だから私が欲しいんだろう。

 面倒だったから、「あの、私はそちらに行って農業を手伝うことはありませんから」と断ったら、……断られたのが新鮮とかで、さらにアプローチを受けた。


 あなた、悪役令嬢に惚れてたんじゃないの?


 惚れてたと言えば、ディモスもニケさんと仲良くしてるみたいだし、アレスも本来なら婚約者が出来るはずなのに出来てない。

 変なの。

 でもセトルートは嫌なんだよね。私、農家になりたいから。


 ハデスさんに振られてから考えたけど、私に出来る最大のことって、この『豊穣』の魔法を使うことだと思うんだ。

 私は貧乏貴族だし、周りの領民たちも貧しかった。でも貧しい中でも笑っていられたのは、食べ物があったからだと思う。

 飢え死にすることはないから、貧乏だ貧乏だって笑いながら日々を楽しく過ごせていた。

 じゃあ私はその食べ物を生産する人になりたい。勿論農業なんてやったことはないし出来ないだろうけど、『豊穣』の魔法を使って凶作を最小限に治めるとか、不毛な土地を豊かにするとか、そういうことをやっていきたい。

 だからアメンティには行けない。私が笑顔にしたいのはこの土地だから。この国の人たちを飢えることがないようにしたいから。


 まだまだこの『豊穣』の魔法を使いこなせてないと思う。日本の現代農業の技術だって知らない。

 でも農業のことや土地のこと、『豊穣』の魔法のことを学んで、飢えることがなくなれば。

 ……きっと、ハデスさんも幸せになってくれる。いろいろ教えてくれた、きっぱりフッてくれた恩返しができる。


 「おい、デメテル」


 ……なのに、なーんで邪魔してくるかなあ?

 あんたはおよびじゃないってーの!


 「……なんでしょうか、セト皇子」

 「嫁に来い」

 「謹んでお断り申し上げます」

 「何故だ」

 「身分が違いすぎますし、私はこの国を愛しているので」

 「案ずるな、我が国も良いところだ」

 「…………」


 全然話聞いてくれない。どうしよう。

 だーかーらー、こういうのいらないんだって!

 ルートは回避、フラグは折れ!

 あー! 悪役令嬢に懐いてればいいのに! あの人、すっごい鈍感だからこういうストレスなさそうだしさー! もー! うっざい!


 「嫌ですってば!」

 「何故だ?」

 「何故じゃないです! なんででも、です!」

 「なんででも、か。はははっ、じゃあ俺もなんででも、だ」

 「うっざ! ……あ」


 やばい、ついうざいとか言っちゃった。

 青ざめて口を押えるけど、セトはそんな私に笑って、額を突いた。


 「威勢がいいな。俺は正直者は好きだぞ」

 「……無礼をお詫び申し上げます。貧乏貴族だから、育ちも悪いし口も悪いんです。王族に嫁ぐなんて無理です。諦めてください」

 「ふむ、では友でどうだ? 俺はお前のことが好きだが、今のところは友で我慢してやろう」

 「我慢ってなんですか! ……言っときますけど、私の理想は高いですよ」

 「ほう?」

 「格好良くて、男前で、優しくて、でも甘やかしたりしないで、厳しくて、……隣に立ちたいって、思える人です」


 ──ハデスさんみたいに。

 セトは、私の高い理想を聞いて苦笑した。


 「昔の恋人か?」

 「いいえ、好きだった人です。いつか、フッたことを後悔させる人です」

 「……なるほど、これは手ごわいな」


 セトは笑って、「だが諦めんから、覚悟しろ」と言った。

 「ミーア公爵令嬢がお好きなんでしょう?」と私が返すと、「ああ、好きだったな。だがきっぱりフラれている。同じ失恋仲間だ」と言うので思わず笑って、「負け犬同盟でも組みますか?」なんて言っちゃった。


 今は、付き合うとか結婚とか、考えられない。

 でも、同じ傷をなめ合う仲間なら、いてもいいかもしれない、なんて思った。


 「いいな、では俺たちは負け犬同盟の仲間だ」と笑うセト皇子に、「ええ、仲間です」と笑顔を返した。


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